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第四章 ならず者たちの挽歌

第二百十三話 赤い光線

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 そしてサイクロプスは目を見開いた。

「みんなよけろ!」

 そうジャンが叫んだ瞬間、サイクロプスの瞳から赤い光線が一直線に放たれる。と同時に四人は跳びよけ、なんとか光線をかわした。光線はピシャッ!という衝撃音とともに床を大きくへこませた。光線が当たった箇所は真っ黒になった。

 ジャンたち四人も、遠巻きから見ていたハリルたちも、隅に避難していたセオドアたちも一様に息をのんだ。こんな攻撃を食らったら間違いなく死ぬ。誰もがそう思った。

「みんな集中しろ!」

 ジャンは沈黙を破り、喝を入れる。

「ハリルさんたちも! でかいおっさんたちも! よけねーとマジで死ぬぜ!」

 彼はハリルやセオドアたちを気にかけた。

 隅にいたセオドアとロナルドは腰を低く構えてよける準備をした。

「セオドアのおっさん。ドワイトに脈はねぇ。死んでる。こっちに光線が飛んで来たら俺はよけるぜ」
「ああ。しかたあるまい」

 セオドアもロナルドも、仲間の遺体が焼かれるのは心苦しい。しかしドワイトの遺体を担ぎながら光線をよけるなどまず不可能。二人は、ドワイトのことはもう見捨てるしかないと自分に言い聞かせた。

 サイクロプスは再び魔力を目に集中させた。そしてまた赤い瞳が光る。その瞬間、ジャンたちは大きく跳びよける。光線は再び地面をえぐった。

 ジャンたちを撃ち損じてもなお、サイクロプスは魔力を溜める。余力はまだまだあるようだ。

 ジャンはここまで大きな傷こそ負っていないものの、体力はかなり消耗していた。

(まずいぜ。しんどくなってきた。最初の攻撃をまともに受け止めたのがいまになって……)

 タフなジャンも、サイクロプスの棍棒を防いだときのダメージと激しい攻防のため、疲労が限界に近付いていた。

 彼はアレックスの様子を横目でうかがった。アレックスも肩で息をしはじめている。

(アレックスの奴も呼吸が乱れてんな。スタミナはそんなにないのかな。こりゃマジでまずいぜ)

 もちろん魔術師であるニコラもそう長くはもたない。まだ余力が残っているのは途中から加わったシェリーぐらいだった。

 サイクロプスはお構いなしに光線を照射した。ジャンたちはまたそれをよける。攻撃の間隔は短くはないが、まともに反撃できるほどの余裕はない。

 ニコラとシェリーも、この絶望的な状況に心が折れかかっていた。

(だめだ! 身体強化の魔法が切れる前に決着なんて無理だ! このままじゃここにいる全員、サイクロプスに焼き殺されてしまう!)
(打撃じゃあんな怪物に致命傷を与えることなんてできない! ジャンたちの攻撃だってそんなに効いてない! 母さん、ごめん。あたし、ここで死ぬ)

 シェリーは女手一つで自分をここまで育ててくれた母の顔を思い浮かべた。もう勝ち目はない。万事休す。みな内心諦めかけていた。

 そのときだった。サイクロプスは自分の優勢を悟って慢心したのか、余裕の笑みを浮かべて辺りを見回した。そして隅で構えているセオドアとロナルドを見た。

「なっ! 待て!」

 それを見たアレックスは一気に取り乱した。味方を狙われたら冷静でいられないだろうという洞察が、サイクロプスにあったかどうかは定かではない。だがいずれにせよ、アレックスにとってセオドアとロナルドは大切な仲間。ドワイトもそうだ。

 アレックスは全速力でセオドアたちのほうへ走りだした。

「おい! アレックス!」

 ジャンは彼を呼び止めようとした。しかしその声は届かない。

 サイクロプスは魔力を瞳に集中させる。

「お頭! 来るな!」

 セオドアが叫んだ。しかしアレックスは止まらない。

「ドワイトは動けない! 俺が助ける! おまえたちはよけることに集中しろ!」
「お頭! ドワイトはもう死んでんだ! 助けたって意味ねぇよ!」

 ロナルドも声を上げる。しかしアレックスはそれを無視した。ドワイトが死んでいることを認めないかのように。

 そしてついに彼はセオドアたちのところまで到達した。

「やめろ! お頭! あんたでも大人の死体を担いであの光線をよけることはできない!」

 セオドアは再度アレックスを止めた。

「ドワイトは死んでなどいない!」

 それでもアレックスは聞く耳を持たず、渾身の力でドワイトの死体を担ぎ上げた。

「来るぞ! よけることに集中しろ!」

 アレックスは叫んだ。ちょうど同じとき、サイクロプスの赤い瞳が彼らをとらえた。

 そして光線が照射される。セオドアとロナルドは一瞬早く横へ跳んだ。アレックスもセオドアと同じ方向に跳びよけた。

 しかしドワイトの体重で大きく速度を落としたアレックスは、あと一歩のところで光線をよけきれなかった。

「ぐわあぁっ!」

 光線は彼の両足を消し飛ばした。
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