206 / 283
第四章 ならず者たちの挽歌
第二百六話 ならず者の頭と仲間
しおりを挟む
一同、驚きとともにサイクロプスを見上げる。
サイクロプスは目覚めて間もないためか、大きな一つ目であたりをキョロキョロ見回した。その様子、仕草から、少なくとも高い知能を備えているわけでないことだけはわかった。
しかし彼は、自らの使命については、その身にすでに刻み込まれていたようだ。彼はジャンたちのほうを見るとすべてを理解したのか、まるで蟻をいたぶる子どものように無邪気な顔で向かってきた。
サイクロプスは少しずつ近寄りながら、誰を最初に始末するか物色しているようだった。ジャン、ニコラ、シェリーの他に、ハリル一行が三名、アレックスら鋼鉄のならず者の残党が四名の合計十名。誰からおもちゃにするか、よりどりみどりというわけだ。その不気味な無邪気さを見て、真っ先に浮足立ったのはドワイトだった。
「ヤバいッスよ、お頭! 俺はもう、意地でも逃げますよ!」
彼はアレックスにそう言い放つと、攻撃の当たりにくい部屋の隅に向かって走り出した。
しかしそれが裏目に出た。みながどうしたらいいかわからず動けない状況で、ドワイト一人だけが動き出したのだ。標的を誰にするか迷っていたサイクロプスにとって、これほどわかりやすいマトもない。
「ドワイト! 敵の動きを見ろ! やられるぞ!」
アレックスはドワイトに大声で注意を促した。だがサイクロプスはすでに攻撃のモーションに入っていた。彼は右手に持った大きな棍棒で、地面に落ちていたメロンほどの大きさの岩を思い切り叩いた。
岩はドワイトのほうへ、地面すれすれを一直線に飛んで行った。そしてドワイトがアレックスの声に反応し振り返った、まさにその瞬間、岩がドワイトの右足の脛に命中した。
「いぎゃあああ!」
ドワイトの右足はちぎれこそしなかったものの、あらぬ方向に折れ曲がり、脛骨と腓骨がむき出しになっていた。
「ドワイト!」
アレックスは目の色を変えて彼のほうへ走り出す。
「「お頭!」」
それを見たセオドアとロナルドも後に続く。
だが仲間を助けようと走る三人の気持ちを裏切るかのように、ドワイトの右足から夥しい量の血が吹き出す。運悪く動脈が切れたのだ。
それを見て、今度はジャンが無言でドワイトのほうへ走り出した。
「ジャン! なんで!?」
「シェリー! おまえはニコラと一緒に逃げてろ!」
「そんな!」
シェリーはジャンのことが心配でならなかった。しかしニコラが声を上げる。
「シェリー! ジャンを信じるんだ! 反対の壁に逃げるぞ!」
「でも! でも!」
ニコラはうろたえるシェリーの腕を握り、無理やり引っ張った。
それを見たハリルも声を上げる。
「俺たちもだ! 壁際に退避するぞ!」
ハリルが走り出すと、マフムードとサルマーンも急いで近くの壁に向かって走った。
その間、アレックス、セオドア、ロナルドの三人はドワイトの近くまで来ていた。
「お頭ぁ! 痛ぇよぉ!」
「ドワイト! いま助けてやるぞ!」
アレックスは口ではそう言ったものの、内心この状況が絶望的であることを理解していた。
(すぐに止血してもおそらくドワイトは助からない。だが……だが……)
彼はドワイトが助からないことを頭で理解しながら、助けずにはいられなかった。
「お頭! ドワイトはもう助からねぇ! 逃げろ!」
ロナルドが叫んでも、アレックスは耳を貸さない。彼は素早く上着を脱いで引きちぎり、その布でドワイトの右足を止血しようとした。
サイクロプスはそんなことはお構いなしに、のそのそと近付いて来る。そして棍棒を大きく振りかぶり、アレックスたちめがけて勢いよく振り下ろした。
サイクロプスは目覚めて間もないためか、大きな一つ目であたりをキョロキョロ見回した。その様子、仕草から、少なくとも高い知能を備えているわけでないことだけはわかった。
しかし彼は、自らの使命については、その身にすでに刻み込まれていたようだ。彼はジャンたちのほうを見るとすべてを理解したのか、まるで蟻をいたぶる子どものように無邪気な顔で向かってきた。
サイクロプスは少しずつ近寄りながら、誰を最初に始末するか物色しているようだった。ジャン、ニコラ、シェリーの他に、ハリル一行が三名、アレックスら鋼鉄のならず者の残党が四名の合計十名。誰からおもちゃにするか、よりどりみどりというわけだ。その不気味な無邪気さを見て、真っ先に浮足立ったのはドワイトだった。
「ヤバいッスよ、お頭! 俺はもう、意地でも逃げますよ!」
彼はアレックスにそう言い放つと、攻撃の当たりにくい部屋の隅に向かって走り出した。
しかしそれが裏目に出た。みながどうしたらいいかわからず動けない状況で、ドワイト一人だけが動き出したのだ。標的を誰にするか迷っていたサイクロプスにとって、これほどわかりやすいマトもない。
「ドワイト! 敵の動きを見ろ! やられるぞ!」
アレックスはドワイトに大声で注意を促した。だがサイクロプスはすでに攻撃のモーションに入っていた。彼は右手に持った大きな棍棒で、地面に落ちていたメロンほどの大きさの岩を思い切り叩いた。
岩はドワイトのほうへ、地面すれすれを一直線に飛んで行った。そしてドワイトがアレックスの声に反応し振り返った、まさにその瞬間、岩がドワイトの右足の脛に命中した。
「いぎゃあああ!」
ドワイトの右足はちぎれこそしなかったものの、あらぬ方向に折れ曲がり、脛骨と腓骨がむき出しになっていた。
「ドワイト!」
アレックスは目の色を変えて彼のほうへ走り出す。
「「お頭!」」
それを見たセオドアとロナルドも後に続く。
だが仲間を助けようと走る三人の気持ちを裏切るかのように、ドワイトの右足から夥しい量の血が吹き出す。運悪く動脈が切れたのだ。
それを見て、今度はジャンが無言でドワイトのほうへ走り出した。
「ジャン! なんで!?」
「シェリー! おまえはニコラと一緒に逃げてろ!」
「そんな!」
シェリーはジャンのことが心配でならなかった。しかしニコラが声を上げる。
「シェリー! ジャンを信じるんだ! 反対の壁に逃げるぞ!」
「でも! でも!」
ニコラはうろたえるシェリーの腕を握り、無理やり引っ張った。
それを見たハリルも声を上げる。
「俺たちもだ! 壁際に退避するぞ!」
ハリルが走り出すと、マフムードとサルマーンも急いで近くの壁に向かって走った。
その間、アレックス、セオドア、ロナルドの三人はドワイトの近くまで来ていた。
「お頭ぁ! 痛ぇよぉ!」
「ドワイト! いま助けてやるぞ!」
アレックスは口ではそう言ったものの、内心この状況が絶望的であることを理解していた。
(すぐに止血してもおそらくドワイトは助からない。だが……だが……)
彼はドワイトが助からないことを頭で理解しながら、助けずにはいられなかった。
「お頭! ドワイトはもう助からねぇ! 逃げろ!」
ロナルドが叫んでも、アレックスは耳を貸さない。彼は素早く上着を脱いで引きちぎり、その布でドワイトの右足を止血しようとした。
サイクロプスはそんなことはお構いなしに、のそのそと近付いて来る。そして棍棒を大きく振りかぶり、アレックスたちめがけて勢いよく振り下ろした。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説


地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜
ミコガミヒデカズ
ファンタジー
気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。
以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。
とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、
「儂の味方になれば世界の半分をやろう」
そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。
瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる