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第四章 ならず者たちの挽歌

第百九十六話 撃退

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 火吐き鼠のうちの一匹が毛を逆立て、火球を吐く準備をする。それに合わせてニコラは炎の壁を目の前に作った。あたりは一気に暑くなった。

 そして火球が放たれると、ボンッという音が鳴った。火球が炎の壁で相殺された音だ。同じ属性の魔法は互いに打ち消し合うため、衝突すると弱いほうの魔法は打ち消される。すなわちニコラの炎の壁は火吐き鼠の火球より強い。

 火球が相殺されると同時に、マフムードは氷の矢を火吐き鼠に向かって五本撃ち込んだ。視界は炎の壁に遮られていたが、彼は敵の魔力から位置をある程度察知することができる。

「「ギャピィ!」」

 矢が炎の壁を貫通した直後、三匹の悲痛な鳴き声が響いた。

「すっげぇ! 三匹ともやっつけちまった!」

 ジャンが声を上げた。しかしそう簡単にはいかなかった。

「いえ、やっつけてはいませんよ。もう一撃いきましょう。せいっ!」

 マフムードは残りの矢を一斉に放った。

「「ギイィッ!」」

 今度も三匹の鳴き声が聞こえた。そしてすぐに敵の魔力が消えた。どうやら息絶えたようだ。

「なかなかタフですねぇ。弱点を突いているにもかかわらず一撃では死なない。しかも後続まで到着したようですねぇ」

 そう言ってマフムードは再び詠唱を始め、氷の矢を補充しだした。

「「キイッ! キイッ!」」

 炎の壁でさえぎられて見えないが、向こう側には残りの数匹が集結しているようだ。

「マフムード、無理はするな! 壁を越えてきた敵は俺たちが処理する! ジャン! シェリー! おまえたちはニコラの援護に回れ!」
「「はい!」」
「サルマーン! おまえはその場で待機しろ」
「うす」

 ハリルは冷静に指示を飛ばした。

 炎の壁がボンッ! ボンッ! と音を立てる。火吐き鼠が次々に火球を飛ばしてきているようだ。

 その間すでに氷の矢を十本生成していたマフムードは、それを次々に敵の方へ放った。炎の壁を貫通した矢は何匹かの敵に命中したのか、複数の悲鳴が聞こえてきた。しかしわずかに外れたのか、活きのいい鳴き声も聞こえてきた。

「撃ち損じましたねぇ」

 マフムードはまるで他人事のようにそう言うと、また淡々と詠唱を始めた。

 そしてその直後、三匹の火吐き鼠が炎の壁を通り抜けて襲いかかってきた。

 ハリルはそのうちの一匹を間合いにとらえ即座に斬り払い、それでもまだ息があったためさらに二撃、追い打ちをかけた。敵はそこで息絶えた。

 ジャンとシェリーのほうにも二匹、飛びかかってきた。

「俺は右の奴をやるぜ!」
「わかったわ!」

 ジャンは巨大蜘蛛を倒したときと同じように、飛びかかってきた火吐き鼠の腹を一瞬で十字に斬りつけ、ひるんだところに突きをお見舞いした。

 その間、シェリーはもう一匹の正中線に強烈な前蹴りを叩きこんだ。敵は吹っ飛び、炎の壁を突き破って向こう側の壁に背中を強打した。

「やったか!?」

 ジャンは剣先に刺さった敵を振り払いながら言った。

「ううん! 浅いわ! ダメージはあるけど、致命傷じゃない!」

 敵は弱点の冷気系魔法もそれなりに耐えられるタフネスを備えている。シェリーがいくら強いといえど、打撃では分が悪い。

「あとは私がやりますよ」

 そこで詠唱を終えたマフムードが前に出た。彼は新たに生成した氷の矢を敵に向かって発射した。

 また何匹かの叫び声が聞こえ、今度こそ敵の魔力と殺気が消えた。とりあえず目の前の敵は処理できたようだ。

「ニコラ、もういいぞ」
「はい」

 ハリルは敵の殺気が消滅したのを確認し、ニコラに魔法を解除するよう指示した。炎の壁を消し去ったニコラは少し汗をかいていたが、魔力はまだ十分余っているのか、その表情には余裕が見られた。

 蓋を開けてみれば結局、みな十分に余力を残して敵を撃退することができた。しかしひとつだけ問題があった。

「どうやら難を逃れた敵がいるみたいですねぇ」

 マフムードはその場から離れていく弱い魔力をひとつ感知した。撃ち損じた敵が、傷を負ったままその場から逃げていたのだ。

「追撃できそうか?」
「いえ、追撃するには少々遠いようですねぇ」
「そうか。仕方がない。じきにやつらの仲間が追いかけてくる。急ぐぞ」

 ハリルは状況を把握すると、冷静かつ速やかに次の行動に出た。
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