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第四章 ならず者たちの挽歌

第百七十四話 知的なものへの関心

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「ところであなたたち、このあとどうするの?」

 ソフィは三人に尋ねた。それにジャンが答える。

「宿を探して、それから考えようと思ってる。それから明日、三人で記念撮影をしようって」
「それはいいわね。せっかく旅に出たんだから、記念撮影のひとつもしないとね。撮影所の手配はしてるの?」
「まだだけど、場所はニコラが下調べしたって言うから、宿探しのついでに予約するつもりだぜ」

 ジャンはニコラを横目に見ながらそう言った。

「さすが、準備がいいわね」
「そんな、僕はただ、先々のことが気になる性分なだけで……」

 ソフィはもうニコラがどういう人物か理解していたが、当の本人は相変わらず謙遜するばかりだった。

 それから彼女は、すぐ横にあった柱時計に目を向けた。

「撮影所に寄ってそれから宿を探すなら、そんなにゆっくりはしていられないわね。それじゃあ、紅茶を飲み終えて一服したらお開きにしましょうか」
「うん」

 四人は紅茶の残りを飲みながらしばらく雑談を続け、時計の針が三時を回ったところでしまいにした。ジャンたち三人はソフィと一緒にロビーに戻り、セミナー中に関わった研究員と軽く別れの挨拶をした。

「ノーマン、また今度、東の大陸で会いましょ」
「うん、そうだね。約束するよ」

 シェリーは最後にノーマンに声をかけ、彼もそれに答えた。それを見たジャンは、食って掛かりこそしなかったが、少しむくれた顔で二人の会話に割って入った。

「シェリー、そろそろ行くぜ」
「あ、うん。それじゃあまたね、ノーマン」
「またね、シェリー」

 シェリーはなんとなく嬉しかった。それはジャンがノーマンに対して、ちょっと妬いているように見えたからだ。

(こいつもやっとこのシェリーさんの魅力に気付いてきたってわけね。ノーマンに感謝しなくちゃ)

 彼女はにこにこしながらジャンのほうを見た。

「な、なんだよにやにやして、気持ち悪ぃーな」
「あー、そういうこと言っちゃう? レディに対して」
「それは、その……」

 今日の彼はシェリーに強く当たれない。彼女もその優しさを理解していた。

「いいわよ、今日のところは許してあげる。さあ、それじゃあもう一度ソフィさんに挨拶したら行きましょ。宿が取れなくて野宿なんて、あたし嫌よ」
「そうだな。そうすっか」

 三人は最後にもう一度ソフィに挨拶をすることにした。

「おばさん、いろいろよくしてくれてありがとう」
「いいえ、わたしのほうこそ、あなたたちに会えて本当に良かったわ。ありがとう。もし研究所の近くに立ち寄ることがあれば、ぜひ寄って行ってちょうだい」
「うん、絶対行くよ」

 二人は軽くハグをした。

「ソフィさん、絶対会いに行くから、また一緒にお風呂入ろ」
「ええ、いいわよ、シェリー」
「ソフィさん、今回は本当にいろいろとお世話になりました。貸していただいた本、隅々まで読みます」
「ええ、ニコラ、あなたならきっとマスターできるわ」

 ニコラは彼女から本を借りていたようだ。それを聞いて、ジャンが彼に尋ねる。

「おいニコラ、貸してもらった本ってなんだ?」
「魔法に関する理論書だよ。昨日の講義のあと、理解を深めるためにって、ソフィさんが貸してくださったんだ」
「ふーん」

 ジャンはそれが魔法に関する理論書だと聞いて、自分には無理だと思った。しかし以前なら、本になど少しの関心すら示さなかっただろう。彼はほんの少しだけ、知的なものに関心を抱くようになっていた。ソフィに出会ってからこの数日の間、彼はそれまで考えもしなかったことについてたくさん考えた。自分が由緒ある家系の人間だと知ったことも影響したのかもしれない。

「ねぇおばさん、俺もこれから真面目に本でも読もうかなって思ってるんだけど、なにから入ったらいい?」

 彼はここぞとばかり、ソフィに意見を求めた。

「そうねぇ。まずはいろいろな本を手に取ってみて、面白そうだと感じたものから入るのがいいんじゃないかしら。興味のない分野から入るのはなかなか苦痛よ。最初のうちは自分自身に努力を強いることよりも、自分の興味や関心に従うのがいいと思うわ」
「興味や関心、ね。ありがとう、おばさん。とりあえず探してみるよ、そういうの。……じゃあ、そろそろ行くよ」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい。ニコラとシェリーも、元気でね」
「「はい、ありがとうございます」」

 ソフィはまるで自分の息子とその友人に対するような態度でジャンたちを見送った。三人は正面玄関を出て、撮影所に向かうことにした。
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