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第四章 ならず者たちの挽歌
第百七十三話 ソフィのもてなし
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午後一時半。三人は大教室の中ほどの席で、セミナーの閉会式に参加していた。閉会式は開会式より簡素なもので、フェーブル王国の要人――国王は閉会式には出ないようだ――、フェーブル海洋大学院大学の学長、フィロス学術研究所の研究員が短い話をしたあと、ソフィが閉会の辞を述べる流れとなっていた。
ジャンは食後ということもあってうとうとしていたが、彼が落ちそうになるたびにシェリーが肘で彼の脇腹をつついたので、なんとか寝ずにいられた。ニコラは眠くならないように食べる量を調整していたため普段通りだった。
閉会式はこれといった山場もなく淡々と進み、午後二時過ぎに終了した。会場を後にする人々はみな満足気で、来年もまた来ようと口々に話していた。ジャンたちはソフィに挨拶するため、他の受講者たちが大教室を出て行ってからロビーへ向かった。
受講者が帰ったあと、ロビーでは研究所の職員とフェーブル王国の要人が、互いに笑顔で言葉を交わしていた。ジャンたちはその中にソフィを見つけた。
「おばさん、取込み中みたいだな」
「そうだな、少しここで待とう」
ニコラの提案で、三人はその場で待つことにした。しばらくして、会話を終えて振り返ったソフィは、ジャンたちの存在に気付き、彼らのほうへ歩いてきた。
「ごめんなさい、待たせたかしら」
「ううん、そんなことないよ」
「そう、よかった。それじゃあ三人ともこっちへ来て」
「「はい」」
彼女は三人を奥の待合室へ連れて行った。
「どうぞ、中に入って、そこのソファに座って」
三人は言われた通り、待合室のソファに腰かけた。ソフィはドアを閉めると、戸棚から皿とビスケットを取り出して盛り付け、次にティーポット、カップ、紅茶、瓶入りの水を取り出した。
「ちょっと待ってね。すぐに紅茶を入れるから」
「ソフィさん、僕たちも手伝います」
ニコラがそう言うと、彼女は首を横に振った。
「いいのよ。今日はわたしがあなたたちをもてなすわ。そこに座ってて」
「はぁ……なんだか、すみません」
「わたし、すごく嬉しいのよ。かわいい甥っ子に会うことができて、おまけに素敵なお友達を二人も連れてきてくれて。今回のセミナーはいい思い出になったわ。あなたたちのおかげで」
そう言いながら、ソフィはティーポットに入れた水を熱系魔法で温めた。ジャンたちは、彼女の言葉を聞いて少し照れ臭そうにした。
「そんなに喜ばれたら、俺もなんだか嬉しいぜ」
「あたしも、ソフィさんと知り合えてよかった」
「ふふふ、ありがとう、シェリー。さ、用意できたわよ」
ソフィは皿とカップをお盆にのせてテーブルに運び、三人の前に配膳した。それからティーポットを手に取って全員のカップに紅茶を注ぎ、最後に角砂糖の入った入れ物をテーブルの脇に置いた。
「おまちどうさま。どうぞ召し上がれ」
「「いただきます」」
ジャンとシェリーは角砂糖を一個ずつ入れてスプーンでかき混ぜ、ニコラはなにも入れずに香りを確かめた。
「この紅茶、セミナーのチケットを譲ってくださった方の家でいただいたものと同じですね」
その紅茶とビスケットは、ミレーヌがニコラに出したものと同じだった。
「そうなの? それはまた奇遇ね。これ、わたしのお気に入りでね、毎年この町に来るたびに買っていくの」
「そうなんですね。美味しいですもんね」
二人がそんな話をしていると、そこにシェリーが茶々を入れる。
「へぇー、じゃあこの紅茶、ニコラがカ、ノ、ジョ、にごちそうしてもらったものなんだー」
「そ、それは、そのー」
ニコラは赤面した。別に恥ずかしがるようなことではないが、シェリーがいかにもいやらしい言い方をするものだから、彼は変に意識してしまった。
「ニコラの彼女の話はあとでゆっくり聞くとして、さあ、冷める前に飲みましょう」
「僕の話はもういいですよー、ソフィさん」
「あら、ごめんなさい」
それから四人は同時に紅茶に口をつけ、二口ほど飲んだあと、カップをソーサーの上に置いた。
「美味しい。イールじゃ飲んだことない味ね。さすが、ニコラの彼女がおすすめするだけあるわー」
「もういいだろ、その話は」
シェリーは紅茶の味をかみしめながら、しつこくニコラをいじった。ジャンはあまり違いがわからないのか、早々にビスケットのほうに手を伸ばし、一枚とって口に入れた。
「……お! うまいなこれ!」
「よかったわ。まだまだあるから、どんどん食べて」
「ありがとう、おばさん」
彼はまだ昼に食べたものを消化しきっていないにもかかわらず、矢継ぎ早にビスケットを口に入れていった。ニコラとシェリーもビスケットを口にした。
「うーん、素朴でほんのりとした甘さ。このビスケットもすっごく美味しいわね」
「そうだな。甘すぎないから紅茶との相性もいい」
ソフィのもてなしに、ジャンたちは大満足の様子だった。
ジャンは食後ということもあってうとうとしていたが、彼が落ちそうになるたびにシェリーが肘で彼の脇腹をつついたので、なんとか寝ずにいられた。ニコラは眠くならないように食べる量を調整していたため普段通りだった。
閉会式はこれといった山場もなく淡々と進み、午後二時過ぎに終了した。会場を後にする人々はみな満足気で、来年もまた来ようと口々に話していた。ジャンたちはソフィに挨拶するため、他の受講者たちが大教室を出て行ってからロビーへ向かった。
受講者が帰ったあと、ロビーでは研究所の職員とフェーブル王国の要人が、互いに笑顔で言葉を交わしていた。ジャンたちはその中にソフィを見つけた。
「おばさん、取込み中みたいだな」
「そうだな、少しここで待とう」
ニコラの提案で、三人はその場で待つことにした。しばらくして、会話を終えて振り返ったソフィは、ジャンたちの存在に気付き、彼らのほうへ歩いてきた。
「ごめんなさい、待たせたかしら」
「ううん、そんなことないよ」
「そう、よかった。それじゃあ三人ともこっちへ来て」
「「はい」」
彼女は三人を奥の待合室へ連れて行った。
「どうぞ、中に入って、そこのソファに座って」
三人は言われた通り、待合室のソファに腰かけた。ソフィはドアを閉めると、戸棚から皿とビスケットを取り出して盛り付け、次にティーポット、カップ、紅茶、瓶入りの水を取り出した。
「ちょっと待ってね。すぐに紅茶を入れるから」
「ソフィさん、僕たちも手伝います」
ニコラがそう言うと、彼女は首を横に振った。
「いいのよ。今日はわたしがあなたたちをもてなすわ。そこに座ってて」
「はぁ……なんだか、すみません」
「わたし、すごく嬉しいのよ。かわいい甥っ子に会うことができて、おまけに素敵なお友達を二人も連れてきてくれて。今回のセミナーはいい思い出になったわ。あなたたちのおかげで」
そう言いながら、ソフィはティーポットに入れた水を熱系魔法で温めた。ジャンたちは、彼女の言葉を聞いて少し照れ臭そうにした。
「そんなに喜ばれたら、俺もなんだか嬉しいぜ」
「あたしも、ソフィさんと知り合えてよかった」
「ふふふ、ありがとう、シェリー。さ、用意できたわよ」
ソフィは皿とカップをお盆にのせてテーブルに運び、三人の前に配膳した。それからティーポットを手に取って全員のカップに紅茶を注ぎ、最後に角砂糖の入った入れ物をテーブルの脇に置いた。
「おまちどうさま。どうぞ召し上がれ」
「「いただきます」」
ジャンとシェリーは角砂糖を一個ずつ入れてスプーンでかき混ぜ、ニコラはなにも入れずに香りを確かめた。
「この紅茶、セミナーのチケットを譲ってくださった方の家でいただいたものと同じですね」
その紅茶とビスケットは、ミレーヌがニコラに出したものと同じだった。
「そうなの? それはまた奇遇ね。これ、わたしのお気に入りでね、毎年この町に来るたびに買っていくの」
「そうなんですね。美味しいですもんね」
二人がそんな話をしていると、そこにシェリーが茶々を入れる。
「へぇー、じゃあこの紅茶、ニコラがカ、ノ、ジョ、にごちそうしてもらったものなんだー」
「そ、それは、そのー」
ニコラは赤面した。別に恥ずかしがるようなことではないが、シェリーがいかにもいやらしい言い方をするものだから、彼は変に意識してしまった。
「ニコラの彼女の話はあとでゆっくり聞くとして、さあ、冷める前に飲みましょう」
「僕の話はもういいですよー、ソフィさん」
「あら、ごめんなさい」
それから四人は同時に紅茶に口をつけ、二口ほど飲んだあと、カップをソーサーの上に置いた。
「美味しい。イールじゃ飲んだことない味ね。さすが、ニコラの彼女がおすすめするだけあるわー」
「もういいだろ、その話は」
シェリーは紅茶の味をかみしめながら、しつこくニコラをいじった。ジャンはあまり違いがわからないのか、早々にビスケットのほうに手を伸ばし、一枚とって口に入れた。
「……お! うまいなこれ!」
「よかったわ。まだまだあるから、どんどん食べて」
「ありがとう、おばさん」
彼はまだ昼に食べたものを消化しきっていないにもかかわらず、矢継ぎ早にビスケットを口に入れていった。ニコラとシェリーもビスケットを口にした。
「うーん、素朴でほんのりとした甘さ。このビスケットもすっごく美味しいわね」
「そうだな。甘すぎないから紅茶との相性もいい」
ソフィのもてなしに、ジャンたちは大満足の様子だった。
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