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第三章 亡国の系譜

第百六十六話 持ち直し

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 夕方に差し掛かるころ、部屋の鍵が開く音がした。

「ソフィさんたち、帰ってきたみたい」
「そうみたいだな」

 ジャンとシェリーは、あまり得意ではない熱系魔法で、なんとか部屋の灯りをつけ終わったところだった。もっとも、ほとんどの作業は冷気系の適正しかないシェリーがやり、熱系に適性があるはずのジャンは踏み台を支える役だった。

「にしてもあんた、ほんとに熱系の適正あんの? あたしよりできないじゃない」
「魔法は苦手なんだよ。詠唱文なんてほとんど覚えてねぇし」
「ほんと、あたしがついてなきゃダメね」
「面目ねぇ」

 ジャンはそう言いながらも、シェリーに普段の減らず口が戻りつつあることが、内心嬉しかった。

「ただいま。シェリー、具合はどう?」

 ソフィは部屋に入るとすぐに、リビングに向かい、シェリーの様子をうかがった。

「うん、もう落ち着いた」
「そう、それならよかったわ」

 ソフィは胸をなでおろすようにそう言った。続いてニコラも彼女に声をかける。

「シェリー、ひとまず今日はゆっくり休むといい」
「うん、ありがとう、ニコラ。みんな、心配かけてごめんなさい」

 いつもよりしおらしい態度のシェリー。その背中をジャンが軽く触れる。

「気にすんなよ。昔から一緒だったんだしよー」

 そう言って微笑む彼に、彼女はうんとうなずいた。

「あなたたちの夕飯はこの部屋に直接持ってくるようフロントに伝えておいたから、今夜はここで待ってて。わたしは同僚と一緒に食べなきゃならないから、少し席を外すわね」

 三人の様子を見て安心したソフィは、ジャンたちにそう伝えたあと、一階の食堂へと向かった。それから十五分ほどして、ソフィの言葉通り、ホテルの給仕が夕飯を持って部屋にやってきた。三人は運ばれてきた食事をテーブルに並べ、食べ始めた。いつものような楽しい雰囲気の食事ではないが、暗さはもう残っていない。三人はときどき言葉を交わしながら、黙々と夕飯を食べた。

 それからソフィが部屋に戻り、ホテルの給仕がジャンたちの食べ終えた皿を回収し終えると、四人はソファに座って休憩することにした。

「ニコラから話は聞いているわ。本当に残念だったわね」

 ソフィは無理に別の話題を探すのではなく、率直にヴァレーズ家の一件について話しを始めた。ジャンたちは浮かない顔だったが、もう気持ちの整理はついていた。一番ショックを受けたシェリーが、まっ先に自分の気持ちを語りはじめた。

「すごく残念だけど、もう仕方ないって思うことにしたの。済んだことだし。それにヒルダさんは、まだ生きてる気がするんです」
「そう。じゃああなたちは、これからもその人のことを探すのね」
「「はい」」

 三人は口を揃えてそう答えた。

「大変そうだけど、がんばってね。わたしも東の大陸に戻ったら調査してみるわ。同盟国とはいえ内政干渉はできないから、わたし個人としてやるしかないけど」
「「ありがとうございます」」

 フェーブル王国の国内犯罪に、クーラン帝国の人間であるソフィが公的に介入することはできない。しかし断続的にとはいえ似たような誘拐事件が同盟国で起こっていたということに対し、まったく無関心でいるわけにもいかない。ソフィはただ甥っ子たちの手助けがしたいという私的な理由だけで、そう申し出たわけではなかった。

「ところでおばさん、今日の講義は聞きに行けなかったけどさ、どんな話をしたの?」

 話の切りがよいところで、ジャンがソフィに尋ねた。

「今日の講義? 午後のよね? それならニコラも聞きにきてくれたから、代わりに説明してもらおうかしら」

 彼女は自分の弟子の実力を試す師匠のように、ニコラに説明を投げた。

「え!? 僕が説明するんですか?」
「そうよ。要約してね」
「まいったなぁ……。それじゃあ、うまく説明できるかわかりませんけど」

 彼はソフィの指示では断れまいと、説明をはじめた。
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