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第三章 亡国の系譜
第百二十四話 幼馴染の面影
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レストランを出て適当に寄り道をしたあと、ジャンたちはその日の宿を探した。夕方、三人は旅行者向け格安ホテルを見つけ、そこに宿泊することにした。第一区の宿代は第三区よりも一段高かったが、ギルドの依頼で十分な資金を得たおかげで余裕を持って宿泊できた。
「あー、疲れた。今日は半日でけっこういろいろ見れたわね」
シェリーは疲れもさることながら、都会の街並みを見て回れたことにご満悦だった。
「明日からはどうするよ? 例の研究所のセミナーは週明けだろ?」
ジャンはニコラとシェリーに意見を求めた。
「そうだな、とりあえず別行動で街を見て回るのはどうかな?」
「いいわね。個人で使っていい金額も決めたことだし、あたしもニコラの意見に賛成!」
「んじゃ、日曜までは自由行動ってことでいいな。ヒルダさんの情報はその合間に集めるってことで」
三人は月曜からはじまるフィロス学術研究所のセミナーまで、各自で自由行動をすることにした。
同じころ、ネヴィール第一区役所に併設された国賓向け高級ホテルの廊下でのこと。
「所長……所長!」
「え!? ああ、ごめんなさい」
フィロス学術研究所の所長ソフィ・ド・ラ・ギャルデは、研究員の男性と四階のスイートルームに向かっていた。
「どうされたのですか? 今日は昼ごろからずっとうわの空というか、所長らしくないというか……」
「わたしでもぼうっとうわの空になることぐらいあるわ」
「それは失礼いたしました」
そのまま部屋へ向かう二人。途中でソフィはぼそっと呟くように言った。
「幼馴染にそっくりな青年を見たのよ」
「え?」
研究員は一瞬なんの話だかわからなかった。
「今日のお昼にたまたますれ違ったの。本当にそっくりだったわ」
「それは、追放された旧アナヴァン帝国の……」
「そうよ」
「では、もしかするとその方のご子息では?」
「そうかもしれないわね」
そこで二人は部屋の前に着いた。
「所長のご要望とあらば、フェーブル側も快く捜索を引き受けると思いますが」
ソフィはちょっと思案するような素振りを見せたが、すぐ思い直したように言った。
「いえ、その必要はないわ。もう済んだ話よ」
「そうですか」
「いまの話は忘れて。わたしはもうクーラン帝国の人間よ。叛意ありと誤解されたら研究所のみんなに迷惑がかかるわ」
そう言って彼女は部屋のドアを開けて中に入った。そして部屋のすべての灯りに魔法で同時に火を灯すと、振り返って研究員に言った。
「部屋まで護衛ありがとう」
「はは、またご冗談を。私は所長が部屋に戻られたことを確認するためについてきただけですよ。そもそも所長は護衛などなくともご自身の魔法でどんな危機でも乗り切れるでしょう?」
「滅多なことを言うものじゃないわ。わたしはもう必要なとき以外では極力魔法を使わないようにしてるのよ。平和な世の中に過大な魔力は不要よ」
「そうですか。それは失礼いたしました」
研究員は軽く頭を下げた。
「明日も早いわ。あなたも早く寝なさい」
ソフィは研究員に優しく微笑んだ。
「それではお言葉に甘えて。おやすみなさいませ、所長」
「おやすみなさい」
挨拶を交わしたあと、研究員は自分の部屋のほうへ去って行った。部屋のドアを閉めたソフィはクローゼットに上着と帽子をかけ、そのまま奥の部屋へ向かい、キングサイズのベッドにうつ伏せに倒れた。
(ジェラールと姉さんの子……なのかしら……。わたしは……)
ソフィはひとり空虚なスイートルームで、昼間すれ違ったジャンの顔を思い浮かべていた。
「あー、疲れた。今日は半日でけっこういろいろ見れたわね」
シェリーは疲れもさることながら、都会の街並みを見て回れたことにご満悦だった。
「明日からはどうするよ? 例の研究所のセミナーは週明けだろ?」
ジャンはニコラとシェリーに意見を求めた。
「そうだな、とりあえず別行動で街を見て回るのはどうかな?」
「いいわね。個人で使っていい金額も決めたことだし、あたしもニコラの意見に賛成!」
「んじゃ、日曜までは自由行動ってことでいいな。ヒルダさんの情報はその合間に集めるってことで」
三人は月曜からはじまるフィロス学術研究所のセミナーまで、各自で自由行動をすることにした。
同じころ、ネヴィール第一区役所に併設された国賓向け高級ホテルの廊下でのこと。
「所長……所長!」
「え!? ああ、ごめんなさい」
フィロス学術研究所の所長ソフィ・ド・ラ・ギャルデは、研究員の男性と四階のスイートルームに向かっていた。
「どうされたのですか? 今日は昼ごろからずっとうわの空というか、所長らしくないというか……」
「わたしでもぼうっとうわの空になることぐらいあるわ」
「それは失礼いたしました」
そのまま部屋へ向かう二人。途中でソフィはぼそっと呟くように言った。
「幼馴染にそっくりな青年を見たのよ」
「え?」
研究員は一瞬なんの話だかわからなかった。
「今日のお昼にたまたますれ違ったの。本当にそっくりだったわ」
「それは、追放された旧アナヴァン帝国の……」
「そうよ」
「では、もしかするとその方のご子息では?」
「そうかもしれないわね」
そこで二人は部屋の前に着いた。
「所長のご要望とあらば、フェーブル側も快く捜索を引き受けると思いますが」
ソフィはちょっと思案するような素振りを見せたが、すぐ思い直したように言った。
「いえ、その必要はないわ。もう済んだ話よ」
「そうですか」
「いまの話は忘れて。わたしはもうクーラン帝国の人間よ。叛意ありと誤解されたら研究所のみんなに迷惑がかかるわ」
そう言って彼女は部屋のドアを開けて中に入った。そして部屋のすべての灯りに魔法で同時に火を灯すと、振り返って研究員に言った。
「部屋まで護衛ありがとう」
「はは、またご冗談を。私は所長が部屋に戻られたことを確認するためについてきただけですよ。そもそも所長は護衛などなくともご自身の魔法でどんな危機でも乗り切れるでしょう?」
「滅多なことを言うものじゃないわ。わたしはもう必要なとき以外では極力魔法を使わないようにしてるのよ。平和な世の中に過大な魔力は不要よ」
「そうですか。それは失礼いたしました」
研究員は軽く頭を下げた。
「明日も早いわ。あなたも早く寝なさい」
ソフィは研究員に優しく微笑んだ。
「それではお言葉に甘えて。おやすみなさいませ、所長」
「おやすみなさい」
挨拶を交わしたあと、研究員は自分の部屋のほうへ去って行った。部屋のドアを閉めたソフィはクローゼットに上着と帽子をかけ、そのまま奥の部屋へ向かい、キングサイズのベッドにうつ伏せに倒れた。
(ジェラールと姉さんの子……なのかしら……。わたしは……)
ソフィはひとり空虚なスイートルームで、昼間すれ違ったジャンの顔を思い浮かべていた。
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