亡国の系譜と神の婚約者

仁藤欣太郎

文字の大きさ
上 下
124 / 283
第三章 亡国の系譜

第百二十四話 幼馴染の面影

しおりを挟む
 レストランを出て適当に寄り道をしたあと、ジャンたちはその日の宿を探した。夕方、三人は旅行者向け格安ホテルを見つけ、そこに宿泊することにした。第一区の宿代は第三区よりも一段高かったが、ギルドの依頼で十分な資金を得たおかげで余裕を持って宿泊できた。

「あー、疲れた。今日は半日でけっこういろいろ見れたわね」

 シェリーは疲れもさることながら、都会の街並みを見て回れたことにご満悦だった。

「明日からはどうするよ? 例の研究所のセミナーは週明けだろ?」

 ジャンはニコラとシェリーに意見を求めた。

「そうだな、とりあえず別行動で街を見て回るのはどうかな?」
「いいわね。個人で使っていい金額も決めたことだし、あたしもニコラの意見に賛成!」
「んじゃ、日曜までは自由行動ってことでいいな。ヒルダさんの情報はその合間に集めるってことで」

 三人は月曜からはじまるフィロス学術研究所のセミナーまで、各自で自由行動をすることにした。


 同じころ、ネヴィール第一区役所に併設された国賓向け高級ホテルの廊下でのこと。

「所長……所長!」
「え!? ああ、ごめんなさい」

 フィロス学術研究所の所長ソフィ・ド・ラ・ギャルデは、研究員の男性と四階のスイートルームに向かっていた。

「どうされたのですか? 今日は昼ごろからずっとうわの空というか、所長らしくないというか……」
「わたしでもぼうっとうわの空になることぐらいあるわ」
「それは失礼いたしました」

 そのまま部屋へ向かう二人。途中でソフィはぼそっと呟くように言った。

「幼馴染にそっくりな青年を見たのよ」
「え?」

 研究員は一瞬なんの話だかわからなかった。

「今日のお昼にたまたますれ違ったの。本当にそっくりだったわ」
「それは、追放された旧アナヴァン帝国の……」
「そうよ」
「では、もしかするとその方のご子息では?」
「そうかもしれないわね」

 そこで二人は部屋の前に着いた。

「所長のご要望とあらば、フェーブル側も快く捜索を引き受けると思いますが」

 ソフィはちょっと思案するような素振りを見せたが、すぐ思い直したように言った。

「いえ、その必要はないわ。もう済んだ話よ」
「そうですか」
「いまの話は忘れて。わたしはもうクーラン帝国の人間よ。叛意はんいありと誤解されたら研究所のみんなに迷惑がかかるわ」

 そう言って彼女は部屋のドアを開けて中に入った。そして部屋のすべての灯りに魔法で同時に火を灯すと、振り返って研究員に言った。

「部屋まで護衛ありがとう」
「はは、またご冗談を。私は所長が部屋に戻られたことを確認するためについてきただけですよ。そもそも所長は護衛などなくともご自身の魔法でどんな危機でも乗り切れるでしょう?」
「滅多なことを言うものじゃないわ。わたしはもう必要なとき以外では極力魔法を使わないようにしてるのよ。平和な世の中に過大な魔力は不要よ」
「そうですか。それは失礼いたしました」

 研究員は軽く頭を下げた。

「明日も早いわ。あなたも早く寝なさい」

 ソフィは研究員に優しく微笑んだ。

「それではお言葉に甘えて。おやすみなさいませ、所長」
「おやすみなさい」

 挨拶を交わしたあと、研究員は自分の部屋のほうへ去って行った。部屋のドアを閉めたソフィはクローゼットに上着と帽子をかけ、そのまま奥の部屋へ向かい、キングサイズのベッドにうつ伏せに倒れた。

(ジェラールと姉さんの子……なのかしら……。わたしは……)

 ソフィはひとり空虚なスイートルームで、昼間すれ違ったジャンの顔を思い浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...