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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

お前は誰も愛せないsideお兄さん

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「私のこと、好き?」

僕は知っている。
この言葉に、どう対応すればいいのか。自分がどう、いいのか。

「うん、好きだよ。」

優しく頬を撫でて、微笑めばその人たちは顔を赤らめて目を閉じる。

果たして、この行為に何の意味があるというのだろうか。
人は何を、求めているのだろうか。

「好き、好きなの!もっと、もっと、愛して!私を貴方でいっぱいにして!」

これが”愛する”ということなのだろうか。こんなにも簡単に”愛”は作れるものなのだろうか。
いや、きっと何か違うのだろう。何かが、自分には欠けているんだ。
だから、知りたい。

「お前は、誰も愛せない」

憎しみに満ちた瞳が目に焼き付いて離れない。

仮にその人をAとしよう。
いつも元気で、楽しそうにしている人だった。周囲の人間もそれが心地よかったのか、Aの周りにはいつも誰かがいた。
そのうち、その誰かの中に自分が入っていることに気が付いた。それが、とても興味深くて、僕はもっと観察してみることにした。

そして、ふと、思った。あれを真似すれば、自分はもっと人間らしくなれるのではないか、と。
そうして、表情の変化や会話の返答パターン、声のトーンなど、様々な動作を研究した。

「最近よく目が合うね。」

目の前で観察できるチャンスだと思った。

「ばれちゃったか~、迷惑だった?」
申し訳なさそうに笑ってみた。

「あ、ごめん、迷惑じゃないよ。ただ、気になって。」

「なら、よかった~。君といると心地がいいから、どうしてなのかなって気になって、気が付いたら目で追ってたんだ。」

「......えっ!?そ、そぉぅかぁ~、へ~なるほどね~。えへへ、心地いいのか~」

顔を赤らめて、照れたように笑っている。
(なるほど、そういう反応の仕方もあるのか。興味深いな。)

「うん、だからこれからも、目で追うかもしれない。......いい?」

この日から、その視線は始まった。同時に、僕の周囲の反応も緩やかに変化していった。

数ヶ月が経つと、僕はAと変わらないくらい慕われる様になった。

僕はもう、「誰か」ではなくなった。
それでも、興味は尽きなかった。あんなに優しいAは、特別誰かに優しくしたりするんだろうか。もしするならば、今以上の優しさとはなんだろうか。
疑問は次々に頭の中を埋め尽くす。

そして、その時が来た。

「あの、さ…君の事、好きなんだけど。付き合わない?」

恥ずかしさからか、Aにしては不器用な告白だった。

(面白いな。こうやるのか。)

Aのおかげで疑問だったことが解消されていった。
解消されるにつれて、Aの行動が自分の中で想像に容易くなったことに気がついた。

「あのさ」

(「私のこと、好き?」そう言って、恥ずかしそうに見るんだろうな。)

「私のこと、好き?」

「うん。好きだよ。」

そう言って微笑めば、Aは嬉しそうに背を向けて歩き出す。

(もう、いらないな。)

自分の中で、Aの価値が決まった。
それと同時に、また気になった。

(君は、どんな反応をするんだろう。)

チャンスは一度だけだ。どんな風に君を裏切ればいいのか、どの選択が自分の中に欲しいか。慎重に考える。

「あのさ、話があるんだ。」

その日は、なんて事のないように始めた。
じっくりとAの顔を見る。

「もう、やめにしたいんだ。」

「君に興味がなくなったんだ。」

「だから、もう、飽きてしまったんだよ。」

Aは、とても豊かな感情を僕にくれた。

そして最後に、表情が無くなったAが僕を見た。

「君はきっと、だれのことも愛せないのかもしれないね。」
「うんん、愛するつもりがないんだね。」
「愛を、知らないんだね。」

“知らない“

その言葉が僕の心に小さな破片となって残った。

“愛を知らない”

愛が、なんだって言うんだ。

Aとはそれきり、話すことも顔を合わせることもなかった。その別れにはなんの後悔もなかった。

けれど、その日からなんだ。

髪の長い女の人だった。
彼女を見上げていると、両手が僕の首元に伸びる。

「いらない…お前なんかいらない」

首元を固く掴んだ手はどれだけ抵抗しても離れてくれない。この人から目を逸らしたいのに、逃げることも、目を閉じることさえもできない。

「お前は、誰も愛せない」

涙が自然と流れた。
世界がなくなったみたいに、真っ暗になって、そうして目が覚める。

起きれば、あの人の憎しみに満ちた瞳とあの言葉だけが自分に残る。

毎日、毎日、同じ夢を見るんだ。

「僕は、誰も愛せない。」

そう言った自分に笑ってしまう。

だから、知らないといけないんだ。そして知ったら、確かめないといけない。

そのために、可哀相な君で試させてもらおう。
僕の“愛”が正しいものなのか。
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