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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]
きっかけside智也
しおりを挟む誰もいない。
真っ暗な世界。
そこは怖くて、寂しくて…。
上から射す光や優しい言葉は、真っ暗な空間を少しだけ明るくするだけだった。
けれど、その明るさは、ただ、寂しさを増やす材料にしかならなかった。
だから、そんなものいらない。
助けてなんて、誰にも言わない。
寄り添ってほしいなんて望まない。
そんなものより、口先だけってわかる言葉とか、自分を欲しがる熱のほうが心地よかった。
舞台の上は明るくて、上手に演技をすれば自分を欲する声が上がる。
僕は、もっと、もっと、必要だって言われたかった。
ずっとじゃなくていい、舞台にいる間だけでいい。
誰かに生きることを許してもらいたかった。
たとえそれが、大切な人を傷付ける行為だとしても…。
どうせ、もう、君を手に入れることなんて、できないのだから。
僕は、恋愛が怖かった。
それでも、僕はテンテンに惹かれていた。本当は、彼のことを友達としてなんて見ていなかった。
「智也、あの、俺な、ずっと黙ってたんだけど…男が、好きなんだ。」
だから、その言葉を嬉しく思ったんだ。
「でも、安心してくれ、智也のことをそういう目で見てるとかじゃなくて、その、彼氏が、できたんだ。」
けれど、そうだ。僕は恋愛が怖かった。
だから…だから、僕は安心したんだ。
息ができなくなるくらい、涙が出そうになるくらい、とっても、安心したんだ。
それから、なにも考えられなくて、夜の道を1人で歩いていた。
家に帰るのも、このまま1人でいるのも寂しくて、人の多い道を歩いた。
「大丈夫?」
声をかけてくれたのは、眼鏡をかけたスーツ姿の優しげな男だった。
“大丈夫”その言葉が、僕の何かを壊した。
「え、あの、どこか痛いの?救急車とか、呼んだほうがいい?」
男は急に慌て出して、その姿がテンテンに重なった。
けれど、男がスマホを取り出して、僕は我に帰った。
「救急車とかは、大丈夫です。」
「え、でも君、苦しそうだし、泣いてるじゃないか。」
そう言われて、僕は自分が泣いてることを知った。
「…僕は苦しそう、ですか?」
脳裏にはずっとテンテンが浮かんでいる。
男は、僕の問いに悲しそうに頷いて、ファミレスに僕を連れて行った。
「連れてきた僕が言うのもなんだけど、知らない人について行ったら危ないんだよ?まぁ、連れて行く方が悪いんだけどさ。ってことで、急にごめんね。」
そう言って、彼は僕を連れてきたことを謝った。
それから唐突に「お腹空いてる?」と、尋ねてきた。
「お腹いっぱいになったら、悲しいことを考える場所がなくなるかもしれないよ?」
彼はそう言って僕に笑顔を見せた。
それから、僕はお腹いっぱいになるまでご飯を食べることになった。
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