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俺はヒーローになりたかった[大人組過去編]

高校生・出会いside太狼

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この世で1番愛してる人と聞かれたら、俺は迷わず彼の名前を言うだろう。

出会いは高校の入学式。教室の決められた席を探して座ってた。生憎、智也はまだ来ていない。

(また、どっかで油売ってるんだろうなぁ……。)

俺は話す相手が居なくて、暇で暇で仕方なかった。
とりあえずスマホをいじってはみるものの、すぐに飽きた。

(こんな日に限って、本は置いてくるし、早く来すぎるし……)

教室には数人いるものの、知り合いがお互いに居ないため教室は静かだった。彼が来るまでは。

「おはようございまーす」

ガラガラと扉を開けて、ニコニコした顔が入ってきた。俺は驚いて彼を見たものの、返事のない教室に彼は何も思わなかったようで、そのまま座席の貼ってある黒板に向かっていた。
俺は、ただ呆然と彼を目で追っていた。
気が付くと、彼と目があった。

「ん?あ、おはよう。俺、木嶋きじまりゅう。席替え無けりゃ、隣の席だからよろしく。」
「おは、よう。え、と、俺は田中たなか……太狼たろう……よろしく。」

自分の名前を言って思い出したが、俺は自己紹介が嫌いだった。この名前で何人の人に笑われたか。そんなもん、指があっても足りない。
けど、木嶋龍の反応は予想外だった。

「おー、よろしく。って、あれか、あの狼くんか!名前に狼って、凄いかっこいいよね。ま、俺の龍には及ばないけどさ!」

自分の名前をかっこいいと呼ばれたことなんてなかった。だから、戸惑って言葉が詰まった。

「って、そこは張り合って狼のがかっこいいって言ってくれないと!俺ナルシストみたいじゃん!」

笑いながらそう言った彼は、俺の返事を待つことなく携帯だけ持って教室から出て行った。

こんなことが始まりだったせいもあって、初めはおちゃらけた奴だなぁくらいにしか思っていなかった。その後、木嶋龍はそのノリの良さとコミュ力からクラスの中心的男になっていった。

だから、俺には殆ど関わりのない人だと思ったんだ。ただ、席が隣なだけの男。そのポジションでいいと思ってたんだ。

けど、1学期も終わろうとしていたある日。

いつも一緒に帰っていた智也には学校に用事があると言われ、その他の友達も部活で遅くなると断られ、1人寂しく放課後を過ごしていた時だった。

教室はもぬけの殻で、だけど何故か帰りたくなくて、俺は屋上へ向かった。

扉を開けると誰もいなくて、俺はなぜか安心した。
多分、この頃の俺は自分の恋愛対象の事で悩んでいて1人になりたかったから安心したんだと思う。

初恋は、小学校の担任の先生。眼鏡をかけていて優しい雰囲気の。でも、先生ということもあって好きだと言うことは誰にも言わなかった。次に好きになったのは、中学の文芸部の先輩。笑った顔が泣きそうに見える、後輩の俺にまで敬語で大人な

俺は1度も女を恋愛的に好きになったことがなかった。それが、俺の普通だった。

でも、中学生にもなれば自分の異質さが浮き彫りになった。

保健の授業が嫌いだった。
教科書は、俺が異質だと追い詰めるから。

友達との会話が苦手になった。
普通のことが、俺には話せなかったから。

俺の普通がみんなにバレちゃいけないものだと思った。
それでも、何度か智也にだけは言おうと思った。でも、できなかった。智也はこんなことで軽蔑しないだろうし、嫌いにもならないだろう。けど、怖かった。だから、自分の中にしまってた。

「女を好きになれれば、楽になるのかなぁ……」

そう、迂闊に吐いた言葉が俺の世界を変えた。
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