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俺は君のヒーローだ。
34 過去の話
しおりを挟む約束の放課後、俺は鞄を持って教室を飛び出し、智也さんの待つ校門に向かった。
「智也さん!」
「あ、優翔、早いね」
「早く会いたかったんで……」
「ははっ、嬉しいなぁ。」
そう言って、笑った智也さんの顔は少し疲れたみたいだった。
「智也さん、なんか元気ない?」
俺がそう聞くと、智也さんは「元気だよ?」と笑う。それでも、その笑みはどことなく悲しそうだった。
心配に思って言葉を探していると智也さんは、俺の手を掴んだ。
「ほら、デートしよ。ここ目立つし。」
ニコッと後ろをみた智也さんにつられて後ろを向くと、人が徐々に昇降口から出てくるのが見えた。
それから、2人で駅の近くにあるショッピングモールへ行き、服やら雑貨を見て回った。
「あー、楽しかったなぁ」
「はい。物みるだけでこんなに楽しいとは思わなかったです。」
俺の言葉を聞いて、智也さんは嬉しそうに俺の頭を撫でた。
「ちょ、智也さん?」
わしゃわしゃ撫でられる俺の頭。その手を止めず、智也さんはしばらくニコニコしていた。
「よし、そろそろ帰ろうか。」
「あ、はい。……って、俺着替えとか持ってないんですけど……。」
そう言った俺を見て、智也さんは思い付いたように口を開いた。
「着替えなら、僕の服貸してあげるよ。それとも、1回帰りたい?」
いつもと同じ声なのに、なにかを試すように聞こえた。
「あー、えっと、じゃあ、服借りていいですか?」
『帰りたい』そう言ってしまったら、いけない気がしたんだ。
それから、帰らない 選択をした俺を見てニコッと笑った智也さんに安心した。
「ねぇ、優翔。絶対に勝てない人って、どんな人だと思う?」
智也さんの家に着いて、しばらくして智也さんは静かにそう聞いた。
「絶対に、勝てない人ですか……?」
質問の意図も、正しい答えもわからない。けど、今日の智也さんはどこかに消えてしまいそうなくらい悲しく笑っている。
「好きな、人とか……?」
「っ……うん、そうだね。」
苦しそうに、俯いて、それでも笑顔のままでいる。
どうすればこの人の苦しみを解放できる?
どうすればこの悲しい笑顔を壊せる?
俺は気が付いたら、智也さんの顔に触れていた。
頬に触れ、涙袋をなぞる。
「優翔?」
「泣いてもいいんですよ。俺しか、いないです。」
智也さんは線が切れたみたいにポロポロポロポロ、綺麗な涙を流した。
涙と共に、智也さんは心を落としてくれた。
「僕は、弱い。だから、みんな、傷付けて、傷付けて……でも、やっぱり、誰よりも、僕は傷付けないと、だめだから……僕は、傷付かないと、だめなのに……僕は、僕も……ちゃんと、生きたいのに。生きなきゃ、だめなのに……」
智也さんは優しい人だ。優しくて、強いのにどこか危うい。
「優翔、ごめん。ごめんね。」
智也さんの謝罪の意味も分からず、俺はただ謝る智也さんを抱きしめていた。
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