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俺は君のヒーローだ。
25 咲く花の名前[S]
しおりを挟む智也さんと智也さんの家で・・・俺はいわゆる賭けってやつにに負けた。
「ふふ、優翔可愛い。」
「……はぁ、はぁ……ケホッ、ケホッ」
息が切れて喉が渇いた。
「はい、水。僕の手でちゃんとできたね。」
水を受け取ってゆっくり口内に流した。
「ありがとう、ございます。」
「うん。あと、優翔今日から僕の恋人ってことでいいよね?」
ニコッと笑って智也さんに聞かれる。
頭がふわふわした。
ふわふわして、でも、心はぐちゃぐちゃになったみたいだった。
「優翔……好きだよ。優翔も僕に言ってみて。好きって。言ってるうちに本当になるかもしれないよ。」
俺は回らない頭で優翔さんの言葉に頷いた。
「好き。」
「うん。誰の事が好きなんだっけ?」
「と・・・」
『真木ちゃん』
頬にソレが流れた。
「と、もやさんが好き。」
俺は智也さんに抱きしめられていた。
「うん。ごめん。ごめんね。ちゃんと、大事にするから。ずっと、僕が側にいるから。」
智也さんの声はなんだか震えていて、俺はそれが不思議だった。
「送るよ。」
「いや、でも。」
「恋人として、送らせて。」
智也さんはどこか悲しそうに俺をみた。
「わかり、ました。」
外は思いの外真っ暗で電灯の光が眩しかった。
「手、繋いでいい?」
糸みたいに智也さんが声を出した。
こんな智也さん初めてだった。
俺は無言で智也さんの手を握った。
「ありがとう。」
どうしても、智也さんの声が悲しそうに聴こえて俺は手を強く握った。
「……優翔、僕……。」
智也さんの声が途切れた。
チラッと智也さんをみると悲しそうに笑った。
「優翔は、僕を利用するとかそういうことできなさそうだよね。」
その言葉の意図がわからなくて首を傾げた。
「ねぇ、優翔。僕はね、とても、良い人とは掛け離れた存在なんだ。だから、だからね、僕といて苦しくなったら迷わなくて良いよ。僕のことでつらい思いをしなくて良いんだよ。」
繋いだ手が少し震えていた。
(この手を離したら……智也さんは消えてしまいそうだ。)
「……俺の中の智也さんは良い人です。」
そう言ったら智也さんは困ったように笑った。
「到着。だよね。」
家の前に着いて智也さんが手を離した。
「ありがとう、ございました。」
「……そんなに、悲しそうな顔しないでよ。」
智也さんの手が俺の頬に触れた。
俺は無意識に智也さんの手に自分の手を重ねていた。
「優翔?」
心配そうに俺をみる瞳に泣きたくなった。
俺はきっと・・・
「智也、さん……」
「うん。」
優しい智也さんの声が俺の言葉を待ってくれるみたいだった。
だけど、その先を口にするのが難しくて重ねた手を握りしめた。
「……困ったな。優翔がそんな顔するから帰れないや。」
「っ!」
俺は咄嗟に手を離した。
けれど、その手をすぐに智也さんが捕まえた。
「優翔、少し家にお邪魔しても良い?」
瞳が優しく俺を捕まえる。
「はい。」
智也さんは握った俺の手を恋人繋ぎに変えて強く握りしめてくれた。
俺は空いてる手で扉を開けた。
暗いはずの家。目の前にある階段の上から光が漏れていた。
「優翔?」
俺の後ろで智也さんが呼んだ。
俺は、視線を下に落とした。
虎の靴だ。
咄嗟に智也さんの方を向いて抱きしめた。
「え?!ゆ、優翔?」
「……わ、ぃ……。」
『真木ちゃん』
頭の中で虎の声が反響する。
「……優翔?」
「……怖いよ。」
どうしてか、わからない。けれど、心の中が恐怖で一杯だった。
虎に会いたくない。虎の記憶に触れたくない。
きっと、好きが壊れすぎたんだ。
「大丈夫。大丈夫だよ。」
智也さんの体温が俺を安心させる。
ずっと、ここにいたい。
ガチャ
2階から扉の開いた音がした。
体が強張った。
「真木ちゃん?」
ペタペタ
「……もしかして、虎君がいるの?」
小声で智也さんが俺に聞く。
俺は智也さんの腕の中で頷いた。
「優翔、最後に聞くよ。虎君を好きになるのやめたい?」
「真木ちゃん、帰ってきたの~?」
「……やめ、たい。」
「わかった。」
智也さんは素早く俺を一瞬離して一緒に玄関に入ると扉を閉めてもう一度俺を抱きしめた。それと同時に虎が階段を降りる音がした。
「真木、ちゃん……?……誰だ。」
虎の声が冷たくなった。
「君こそ、誰なの?」
俺を抱きしめたまま、智也さんは虎に言った。
「僕は、真木ちゃんの幼馴染だよ。」
少し怒ったような虎の声が近付いてくる。
「ふーん。なんだ、ただの幼馴染か。」
智也さんは少し挑発するような声で言った。
「っ、で、誰なんだよ。あと、真木ちゃん離せよ。」
虎の手が俺の背中にある智也さんの腕を掴んだ。
「嫌だよ。離さない。」
「っ!なん!……真木ちゃんから離れろよ!」
バンッ パチッ
虎の手が壁を叩いた。
その拍子で玄関の灯りがついた。
「え……なんで?」
暗闇のせいで虎には智也さんが無理に俺を抱きしめていると見えていたんだろう。
灯りによって俺が智也さんに抱きついているのが分かると虎は後退りをしながらそう呟いた。
「なんでって……そんなの、見れば分かるでしょ?」
智也さんは俯いている俺の顎を掴んで唇を指でなぞった。
「優翔、あーんだよ。」
小声で言われて俺はその通りに口を開ける。
「ん、っ、んっ…ふぁ、ん、んぁ、」
「……だ……や、だ……いや、だ。」
虎の声が後ろから聞こえる。けれど、その声を塞ぐように智也さんの手が耳に触れる。
耳と口の中が熱くなって、ピリピリした。
「んっぁ、と、もやさっ、んっ、……はぁ、はぁ」
「あぁ、ごめん優翔口弱いのについ一杯しちゃった。」
そう言ってから、俺の頭を撫でてニコッと笑うと虎の方に視線を向けた。
「これで分かるよね?僕と優翔は恋人なんだよ。だから、抱きしめた優翔を離さないし、キスだってするよ。ま、そういうことだから……ただの幼馴染君は帰ってくれるかな?」
「……真木ちゃん……嘘、だよね。」
虎の声が俺に刺さる。でも、その瞬間抱きしめられた腕に力がこもった。智也さんの温もりが俺を守ってくれるみたいだった。
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