俺はヒーローなんかじゃない

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俺は君のヒーローだ。

22 光side虎之助

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「真木ちゃんは、ヒーロー。でも、真木ちゃんが・・・結婚?」

ついさっきまで隣にいた影を見つめる。

(真木ちゃんが、誰かと?)

ヒーローなら、一緒に居られると思っていた。
彼女ができても、何も変わらないと思っていた。

だけど、何故?

真木ちゃんは、進んでしまった。僕の隣からいなくなってしまった。

(早く、僕も進まないと。早く!)

焦りが体中を駆け巡った。

「原ちゃん?」

松山の声にハッと我に帰る。

「なに?」

「いや、ぼーっとしてたし。俺、原ちゃんが全開にして開かなくなったロッカーに靴入ってるんだよね。」

「あぁ、ごめん。」

謝ってロッカーの扉を閉じると驚いたように松山が僕をみた。

「何?」

「いや、素直な原ちゃん初めてだなって。」

「僕はいつも素直だよ。」

「・・・原ちゃん、どうしたの。」

「どうって?」

「元気ない。」

松山が困ったような顔をして俺をみた。

「そう?」

「うん。いつもは、もっとこう、キャピキャピ?キャハキャハ?してるのに今はこう、ずーん。って感じ。」

「・・・はっ、なんだそれ。」

変な擬音に吹き出すと松山はニッコリ笑った。

「うん。やっぱ原ちゃんは笑ってたほうがいいや。」

松山は一人で頷いて靴を取り出した。

「原ちゃんぼっちなら一緒帰ろうぜ。」

「なんでお前と帰らないといけないんだよ。」

「どうせ、道一緒だろ。それとも、彼女様と帰る?」

「彼女様って。今日は部活だって。」

(そうだ。だから、真木ちゃんと一緒に帰れると思ったのに。)

「ふーん。なんの部活?」

「え、知らない。」

仕方なく靴を取り出して松山の方へ行く。

「は?彼女なのに?」

「うん。興味ないし。」

「・・・彼女、なのに?」

口をあんぐりと開けて松山は停止した。

「なんで、付き合ってるの?」

「付き合ってって言われたから。」

問いに即答しただけで、松山は一人で歩き出した。

「なんなんだよ。」

僕はそれを追いかけた。

「原ちゃんは、優翔が好きじゃなかったの?」

「は?真木ちゃんは僕のヒーローだけど?」

「じゃあ、優翔に恋人ができてもヒーローだから原ちゃんには関係ないってこと?」

心臓が冷えた。

「真木ちゃんは、ヒーローだからね。」

「優翔が、原ちゃんより恋人を大切にしても?」

「えっ・・・。」


考えたくないことがある。
考えたら壊れそうで怖いから。

いつもそこだけ真っ黒に塗り潰して、見えないように隠してきた。

だから、今も。

今も、そうしないと。

見えないように。

考えないように。


「あれ?優翔?」

声にハッとして松山の視線の先を追う。


手を繋いでいた。
真木ちゃんは笑っていた。


「優翔にお兄さんって居たっけ?」

(お兄さん?)

一瞬溢れそうになった想いに蓋をした。

そうだ、誰が見たっては見えない。

なのに、どうして?

(あれ・・・?あの人どこかで。)

「あ、もしかして親戚の人かな。」

(最近、見た。誰だ?)

顔がよく見えなかった。
けれど、後ろ姿が誰かに重なった。

「仲良いんだなぁ。」

松山のその言葉に、唇を噛んだ。

(真木ちゃんの隣。僕以外の隣。)

「・・・原ちゃん。」

「何?」

「俺、来月の体育祭で優翔に話すよ。」

脈絡のない言葉に思考が停止する。

「俺は、進むよ。」

消えていた焦りが喉元で言葉を止めた。

「原ちゃんは、今優翔のどこにいるの?」

暗い。暗いんだ。
そんな中、真木ちゃんだけが光で……。
光なのに。
光はどうして眩しいんだろう。

「優翔の隣?前?それとも、後ろ?」

「隣だよ。ずっと。これから先も、ずっと。」

僕の言葉に松山は悲しそうな顔をしていた。

わかってる。
僕だってわかってる。
でも、それを知ってしまったら戻れないから。
もうきっと、絶対、光の先へは行けないから。
今は黒く、黒く塗るんだ。
いや、この先もずっと黒く、黒く、暗いままで。
他の光なんていらないから。

この真っ暗な世界で、君さえ輝いていればいいんだ。
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