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俺は君のヒーローだ。

18 絡まる蔦

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 虎に彼女がいるかもしれない。

重くて暗いものが心に落ちた。

「優翔?大丈夫?」

「え、あ……はい。平気です。えっと、俺もそろそろ帰ります。」

「そっか……送ってこうか?」

「いや、大丈夫です。ありがとうございます。それじゃあ。」


ゲームセンターを出て、俺は真っ直ぐ家に向かった。

とにかく、1人になりたかった。

(……まだ、本当に彼女かなんてわからないだろ……もしかしたら、ただのクラスメイトとか、道を案内していただけとか……。)

家に帰るまでは、心を落ち着かせようと暗い感情を見て見ないふりするように考える。

(……そうだ、道案内してたんだろう。虎は優しいからな。そうだ。そうに違いない。)

だが、その考えも一瞬で砕け散った。

「……虎?」

家まであと5分程度の距離だった。

人通りが少し多い道。同じ制服の男女。楽しそうに2人は笑っていた。

(……なんだ。本当だ。)

俺は早歩きだったのを走りに変えて家に帰った。

何も考えたくなかった。

だって、思ってしまった。

“もう、ダメだ”と。

入学式の日に虎が彼女に振られた話されてから、俺が虎の恋愛対象じゃないことは明白で……。でも、彼女より俺を選んでくれた虎に少し希望を抱いてしまった。

だが、それも終わらせないといけない日が来たのかもしれない。

「彼女がいるのに、男の俺から好きだなんて言われたって……気持ち悪いだけだ。」

俺の好きは、虎には迷惑になるだろう。

「……隣に居られるだけ、良いじゃないか。」

暗い感情を押し込めて自分に言い聞かせる。

「俺は、虎のヒーローだ。ヒーローだろう?」

頬に雫が流れたのに気がついてそれを雑に拭う。

「俺はヒーローだ。」

きっと、そう言った俺の顔は歪んでいただろう。

でも、もういいだろう。

虎のヒーローは俺だけだ。その事実があるだけで……。

「……そうだ。どうせ、特別の先には行けない。お前の隣には……俺は……」


暗い部屋。月明かりは俺の部屋には届かなかった。




ーーーside伊藤智也



ゲームセンターで偶然優翔にあって、話をして気が付いた。

(……優翔は、あの子が好きなんだな。)

幼馴染と言った時の優しい目。女の子といたと聞いた時の悲しそうな辛そうな顔。
そして、思い出す。
僕が好きだと言った時、
「気持ち悪くなんてない」
と言った優翔の事。

(……優翔、失恋したのかな。……でもそれにしては……)

優翔は、どこか元から諦めていた様にも思えた。

(まるで、初めから、叶わないと知っていたような……。)

そう思って、何かが心に引っかかった。

(……どうして、あいつのことを思い出すんだ?)

脳裏に笑顔のあいつが浮かんですぐにあいつと違う声の言葉が降ってきた。

『お前なんていらない。』『あんたなんか、いなきゃよかったのに。』

(あぁ、そうだ。恋なんて下らない。)

人を好きになるなんて虚しいだけだ。

声は、まだ止まることなく降ってくる。

『なんで、お前生きてんの?』『どうして、お前、死なないの?』

(そうだ…僕は…。でも、僕だって生きていたいよ……。)

記憶の中を走って、生きてていい理由を必死に探した。

『……お前が産まれてきてくれて、よかったって……俺は思うけど?』

『でも、僕はいらないって……。』

『俺は、お前がいなかったらきっとこんなに楽しくなかったよ。』


誕生日の時の記憶だった。屋上で金網を恨めしく思っていた時、そいつは急に現れて俺に言ったんだ。

『智也、今日誕生日だろ。産まれてきてくれて、ありがとうな。』


(……そうだ。まだ、僕は生きてていいんだ。)


そう思っても、僕はまだ生きていていい理由を探してる。


運命なんて信じない。恋なんてしない。嫌いな言葉は、「好き」とか「愛してる」。

でも、誰かに愛されたかった。

誰かに、生きてていいって言われたかった。

だけど、僕は唯一 僕が生きていることを喜んでくれる人に嫌われたいと思っている。

そのために、全部を壊してやるんだ。

誰が傷付いたって構わない。

たとえその傷が、自分に付いたとしても。

「教え子を、滅茶苦茶にされたら……お前は、どんな風に思うのかな。」

首を絞める縄は、僕自身が持っていた。
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