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第4章 女装男子とラブラブに
5 嫉妬
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目の前には色々と高すぎるマンションがあった。
「おい、これ…まじで、絽紀が住んでんの…?」
俺が思わず出した声に秋桐が同意するように頷く。朔弥は何度か来たことがあるようで欠伸しながら俺達を見た。
「あぁー、さっさとはいろーぜ。」
「え、ちょ、まじなの?!」
「ほら、あっきーあんなの置いて行こーぜ」
「え、ぁ、はぁ」
「ま、まじなのかぁーーー!!!」
事の発端は、昨日の夕方。いつもの4人で夕飯を食べていた時のことだ。
「ひとり暮らししたいなぁ…」
ぼそっと、秋桐が呟いた。なんでも、親戚のお姉さん達が家に来ているのだと言う。
「大変だな、片岡も…そういや…真琴と絽紀は、ひとり暮らししてるよなぁ…」
「ぇ、絽紀、ひとり暮らししてんの?!」
「えぇ、真琴さんひとり暮らしなんですか?!」
俺と秋桐が同時に呟く。
「あ、れ?秋桐に言ってなかったっけ?」
「聞いてないです!」
「あ、と、ごめん、こ、今度…寄ってく?」
「は、はい…」
「…おふたりさん、いちゃいちゃしてるところ悪いですけど、俺の家の話はどうなった。」
「あ、そうだ、てか本当に一人暮らし?」
呆れながら俺達を見る絽紀に、首を傾げながら聞く。
「いや、一人暮らしってか…実質1人暮らしみたいなもん…みたいな…」
「そういや、絽紀の家は映画の宝庫だよなぁ」
「え?!本当ですか?!」
「え、ぁ、あぁ」
朔弥の言葉に秋桐は目を輝かせて絽紀を見た。それから、秋桐の質問タイムが始まり…絽紀は家に俺達を呼ぶ事となった。
そして、今に戻る。
「え、た、高っ」
エレベーターに乗ったはいいものの、ボタンが4列ありましたよ。4列…。窓から外を見ると地上が遠くに…。
「絽紀、お前…どんだけ金持ちなんだよ!」
「真琴煩いよ、前に家に来たでしょ!あれで知ってるでしょ!」
「そうだけどー!」
「…真琴さん…絽紀君の家に行った事あるんだ…」
「あぁ…そうみたいだな。」
絽紀の部屋に着くと窓から見える景色に驚く。
「高い、凄い、綺麗…」
「…ほんとなぁ…」
「す、凄いです。」
絽紀を除く3人は窓にくっついて景色を眺めた。その間に絽紀は台所で何かをしていた。
「ほい、あっきーが見たがってた映画と、オレンジジュースな」
「うわぁぁぁーーー“神様の斜め後ろ”じゃないですかぁ?!」
「ジュース、サンキュ。んで、秋桐その映画なんなんだ…?」
興奮気味な秋桐に聞くと目をキラキラさせながら映画の説明をしてくれた。
ピンポーン
話の中盤程でチャイムがなった。
「あ、悪い出てくる。」
「ん」「はい」「いってらー」
それぞれ返事をしてから絽紀を見送る。
「ぇっ?!…さん!?」
絽紀の声が玄関から聞こえた。それと同時に絽紀を少し大人っぽく可愛くした感じの男性が部屋に入ってきた。
「あれぇ?絽紀くんの…お友達?」
「あ、はい。華宮真琴です」
「えっと、片岡秋桐です。」
「如月朔弥です。」
「そっかぁ…絽紀くんに…友達かぁ…あ、僕は絽紀くんの兄の奏多 絽衣です。よろしくね」
優しい笑顔で絽衣さんが自己紹介してくれた。絽紀はその間に絽衣さんの分の飲み物を注いで持ってきた。
「兄さん、お茶です。あと今日は帰ってこないって言ってませんでしたか?」
「あ、ありがとう、絽紀くん。あと、今日は、ね…抜けれないとおもったんだけど、頑張ってお仕事終わらせてきてね…その、どうしても…絽紀くんを1人にできないなぁって…心配で…」
「…兄さん、心配してくれるのは嬉しいけど、無理したら駄目ですからね。」
2人の会話を聞きながらなんとなく絽衣さんが過保護なんだって事だけはわかった。それから、俺達も会話に混ざり打ち解けてきた時に絽衣さんの携帯が鳴った。
「あ、ごめんね、ちょっとでてくる。」
そう言って、絽衣さんはベランダに出た。聞くつもりはないけれど、絽衣さんの声が聞こえてくる。
「…うん、うん、えっ?!いや、でも、え?!…くんも来るの?…あっ、と…って、君はいつも、そうじゃないか…いつも最低でも前日には知らせてって言ってるでしょ。あーもう、行かないとは言ってないでしょ?…ぇ、いや、でも、はぁ?!っ、もう、本当に、君はぁ…」
電話が終わったらしく絽衣さんはベランダから出てきた。それからジャケットを羽織りコップに少し残っていたお茶を飲み干した。
「ごめんね、予定が入ったみたいで…」
そう言ってチラッと絽紀を見た。
「…ろ、絽紀くん…今日、やっぱり帰れないかもしれない…」
「ぇ…あ、はい。無理しないでくださいね。」
「う、うん…ごめんね…」
ピンポーン
「ぁ、迎えが来ちゃった…」
「…兄さん。」
「…い、行かなきゃダメかなぁ…」
「兄さん!いってらっしゃい!」
「…う、うん。いって来ます。」
悲しそうに絽紀を見ながら絽衣さんは玄関から出ていった。
そのあとは、ダラダラ喋って気が付いたら夕飯の時間になっていた。
「あ、やば、もう帰んないとだわ。」
「あ!僕もです。」
「俺は、平気だけど…秋桐が帰るなら帰るわ。」
「あー、じゃあ下まで送るかなぁ。」
それから、みんなは帰り支度をした。
「あ、あっきー結局見れなかったからこれ貸すよ」
「え、いいんですか!…ぁ、と…でも、これブルーレイですよね…僕の家ブルーレイのレコーダないんですよ…」
「ぇえ、そうなのー、じゃあ…今度おいで、鑑賞会しよ!」
「はい!」
マンションのエントランスについて絽紀と別れた。朔弥は、用事があったらしくて俺達とは別の方向に行ってしまった。
「…なぁ、秋桐…」
「なんですか、真琴さん。」
「今度、デートしないか…?」
「…ぇ?!い、いいんですか!?」
「あ、ぁあ。ちゃんと紹介したい人がいるんだ。」
ずっと前から考えていた。お兄さんに、きちんと秋桐を紹介したい。本当はもう少し先でもいいと思ったけれど、絽衣さんと絽紀を見ていたらきちんと紹介しなくちゃいけないって思った。
「だから、デートの途中に寄って行きたいんだけど…いいかな」
「はい。真琴さんのお願いは珍しいですからね。絶対、行きます!」
秋桐は、躊躇うことなくそう言ってニコッと笑ってくれた。
だけど、今回はそれだけじゃない。お兄さんに会うということは女装ができないし、したくない。だから、初めて男の姿でデートする事になる。
(怖いけど…でも、いつまでも女装できるわけじゃない。いつか…いつか、やめなきゃいけない日が絶対くる。)
俺にとって、その日のデートは今後の事を考えた大切な時間になるはずだった。だけど、それは俺だけの考えだったようだ。
デートの前日、秋桐は約束していた絽紀との映画鑑賞会をした。そして、その映画が終わった時絽紀の家に誰かが来た。
「ぼ、僕!大ファンなんですよ!」
秋桐の目の前には有名俳優の姿があった。絽紀曰く、絽衣さんとその人が高校時代から大学生まで一緒で今も月一で会うほどの仲らしい。
前日にそんなスペシャル体験をしたせいか、秋桐は珍しくデートに遅れて来た。
「す、すみま、せ…はぁはぁ」
息を切らしながら、謝る秋桐に俺は平気って声を掛けて今日のプランを話した。
「今日は、街を散策して面白そうな映画あったらそれ見て昼ご飯たべにいってあとは自由にみたいな感じな。」
「はい、わかりました。」
未だ地面を見て息を整えながら秋桐が返事をする。本当に全速力で走って来たんだろう。俺の姿に気が付いていない。
(…今日は、持ってる男の服引っ張り出して結構お洒落して来たんだけど、まだ気が付かねぇのかなぁ…)
息が整ってきたのか最後にふぅーと息を吐いて上を見た。そして、俺を振り返ろうとした瞬間に秋桐の携帯が鳴った。
「あ、すいません。メールが…」
「あぁ、急ぎだったらあれだから早く確認しとけ」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってポケットから携帯を取り出した。その間にも目は合わない。なぜか、嫌な予感がした。
「っ!!んんんーーーー!!」
「ど、どうした?」
「軌良さんから、メールが来たんです!は!昨日の写真も付いてるー!!!」
「き、きらって?」
「影坂 軌良ですよ!僕、大好きなんです!!昨日、絽紀くんの家で映画鑑賞会してたら軌良さんが来たんですよ!軌良さんと絽衣さんが同級生の友達らしくって!よく遊びにくるんですって!!それで、大ファンです!って言ったら写真撮らせてもらえて!」
街を散策がてら話を聞く。秋桐は、楽しそうだけど…俺といて、というわけでは無さそうだった。
「それで、なんでメール?」
「それがですね!帰りに、写真送るからって言ってメアド交換したんですよぉ!」
「ふーん、よかったね…あ、あそこの店いいな。入ってもいいか?」
その店は、秋桐の好きそうな服が売っていた。だけど、秋桐は、店の事を見ないですぐに返事をした。
「はい、いいですよ。あ、で!そしたら、家に着くぐらいにメールが来て、映画の話とか教えてくれたんですよ!」
「そう、なんだ。じゃあ、店やめてもう映画行こうか。」
「え、あ、はい。映画といえば今軌良さんが出てる映画があるんですよ!そういえば、昨日はその映画の事話してたんですけど楽しくて夜までメールしちゃったんですよねぇ」
興奮しながら嬉しそうに秋桐が話す中、俺は心臓が冷たくなるのを感じた。
「だから、今日遅刻したんだ。」
「あ、そうなんです。本当にすみませんでした。…て、あれ?真琴さ」
「でも、よかったね。大好きな人に会えて、夜中までメールしあって。仲良くなれて。」
「ぇ、あの、真琴さん?」
「でもさ、なんで…今?今日は、俺にとって結構勇気が必要な日で、大切な日で…。なんで、お前はここにいるの?俺となにしにきたの?紹介したい人がいるって言ったのに、なんで遅刻できんの?しかも、他の奴と夜中まで話しててって、なんなの?」
我慢できなくなって思ってる事全部吐き出したら、泣きそうな顔で秋桐が俺を見た。
「ち、ちがうんです。そうじゃ、なくて…」
「もぅ、うるせぇよ。」
「っ…真、琴さ、痛い」
俺は、考えるのがもう怠くなって秋桐の腕を掴んで家まで歩き出した。俺の家までは、5分で着く距離にあった。その5分間を無言でただ歩き続けた。
「…っ、い、たい…です…」
秋桐の言葉を全て無視して家のドアを開ける。
「…こ、こは?」
秋桐を中に入れてドアを閉めた。腕を離さず乱暴に靴を脱いで部屋に入れる。
「っ、あ、待って!」
ギリギリのところで靴を脱いだ秋桐は不安そうな声を出す。
部屋に着くとソファに秋桐を倒した。
「ったぁ…ま…こ、と…さん?」
覆い被さるようにして秋桐を見る。
「なぁ、いつになったら俺を見る?」
「ぇ…?」
「俺は男で、お前も男だろ?」
「…うん。」
「俺は!…俺は、お前が望むならいつ別れてもいいと思ってた。」
「…ぇ?」
「でも、駄目だ!ぜってぇ、離さねぇ!」
「秋桐、他の奴の話すんな!他を見んな!俺だけを見ろ!じゃねぇと、俺はお前を滅茶苦茶に奪うからな!他を見れねぇくらい俺に夢中にさせて、俺しかみれねぇ様にしてやる!」
秋桐の顔がだんだんぼやけて見えた。秋桐は、今どんな顔をしてるのか、なにを思っているのか涙でぼやけてわからなかった。
「なぁ、だから、簡単に…俺以外のやつの事好きとか、言うなよ…」
ポタポタと零れ落ちた涙を秋桐は悲しそうに見た。それから、背中に手を回して俺を抱きしめた。
「うん。ごめんなさい。もう、言わないから。だから、泣かないで。…ま、こと。」
「っ、な、あ、きひさ、いま、真琴って、」
初めて呼び捨てにされてそれだけでさっきのモヤモヤが吹き飛んだ。
「うん。…これから、そう呼んでいい?」
俺を大切なものでも見る様に見ながら言う。
「ーん。可愛すぎるってぇー」
「駄目なの?」
「い、いいよ!」
その後、秋桐は今日どうして軌良さんの話ばかりしたのか、理由を教えてくれた。
「僕に、勇気をくれた人なんだ。真琴に告白行けたのもその人がバイだって言っていたニュースを見てからなんだ。だから、会えたことが嬉しくて…その嬉しいまま、真琴さんに会えるのも嬉しくて…。でも、真琴さんになにも言ってなかったし…真琴さんの姿だって見てなかった。本当にごめんなさい。」
そう言って秋桐は、深々と頭を下げた。
「…別に…少し妬いたけど。でも、そのひとのおかげっていうのがすこし、気になるけど。でも…今ここに秋桐といれるのはその人のおかげなんだし…感謝、しなきゃいけねぇのはわかるし、秋桐が喜ぶのもわかるから今日は許す。」
「はい。」
「…あと俺も悪かった。」
「ぇ?」
「腕…痛かったろ?」
そう言ってから秋桐の腕を見ると俺が掴んだ部分が赤くなっていた。
「痛いですけど、でも、真琴さんが僕に妬いてくれた愛の証なので!これはいいんです。」
「秋桐…ありがと。」
「はい。」
「秋桐…大好き。」
俺がそう言うと真っ赤になった秋桐が小さく僕もですと言って、チラッと俺を見て唇を奪っていった。
お兄さんに紹介するのは今度になりそうだけど、今日は今日で、いい日だと思った。
「おい、これ…まじで、絽紀が住んでんの…?」
俺が思わず出した声に秋桐が同意するように頷く。朔弥は何度か来たことがあるようで欠伸しながら俺達を見た。
「あぁー、さっさとはいろーぜ。」
「え、ちょ、まじなの?!」
「ほら、あっきーあんなの置いて行こーぜ」
「え、ぁ、はぁ」
「ま、まじなのかぁーーー!!!」
事の発端は、昨日の夕方。いつもの4人で夕飯を食べていた時のことだ。
「ひとり暮らししたいなぁ…」
ぼそっと、秋桐が呟いた。なんでも、親戚のお姉さん達が家に来ているのだと言う。
「大変だな、片岡も…そういや…真琴と絽紀は、ひとり暮らししてるよなぁ…」
「ぇ、絽紀、ひとり暮らししてんの?!」
「えぇ、真琴さんひとり暮らしなんですか?!」
俺と秋桐が同時に呟く。
「あ、れ?秋桐に言ってなかったっけ?」
「聞いてないです!」
「あ、と、ごめん、こ、今度…寄ってく?」
「は、はい…」
「…おふたりさん、いちゃいちゃしてるところ悪いですけど、俺の家の話はどうなった。」
「あ、そうだ、てか本当に一人暮らし?」
呆れながら俺達を見る絽紀に、首を傾げながら聞く。
「いや、一人暮らしってか…実質1人暮らしみたいなもん…みたいな…」
「そういや、絽紀の家は映画の宝庫だよなぁ」
「え?!本当ですか?!」
「え、ぁ、あぁ」
朔弥の言葉に秋桐は目を輝かせて絽紀を見た。それから、秋桐の質問タイムが始まり…絽紀は家に俺達を呼ぶ事となった。
そして、今に戻る。
「え、た、高っ」
エレベーターに乗ったはいいものの、ボタンが4列ありましたよ。4列…。窓から外を見ると地上が遠くに…。
「絽紀、お前…どんだけ金持ちなんだよ!」
「真琴煩いよ、前に家に来たでしょ!あれで知ってるでしょ!」
「そうだけどー!」
「…真琴さん…絽紀君の家に行った事あるんだ…」
「あぁ…そうみたいだな。」
絽紀の部屋に着くと窓から見える景色に驚く。
「高い、凄い、綺麗…」
「…ほんとなぁ…」
「す、凄いです。」
絽紀を除く3人は窓にくっついて景色を眺めた。その間に絽紀は台所で何かをしていた。
「ほい、あっきーが見たがってた映画と、オレンジジュースな」
「うわぁぁぁーーー“神様の斜め後ろ”じゃないですかぁ?!」
「ジュース、サンキュ。んで、秋桐その映画なんなんだ…?」
興奮気味な秋桐に聞くと目をキラキラさせながら映画の説明をしてくれた。
ピンポーン
話の中盤程でチャイムがなった。
「あ、悪い出てくる。」
「ん」「はい」「いってらー」
それぞれ返事をしてから絽紀を見送る。
「ぇっ?!…さん!?」
絽紀の声が玄関から聞こえた。それと同時に絽紀を少し大人っぽく可愛くした感じの男性が部屋に入ってきた。
「あれぇ?絽紀くんの…お友達?」
「あ、はい。華宮真琴です」
「えっと、片岡秋桐です。」
「如月朔弥です。」
「そっかぁ…絽紀くんに…友達かぁ…あ、僕は絽紀くんの兄の奏多 絽衣です。よろしくね」
優しい笑顔で絽衣さんが自己紹介してくれた。絽紀はその間に絽衣さんの分の飲み物を注いで持ってきた。
「兄さん、お茶です。あと今日は帰ってこないって言ってませんでしたか?」
「あ、ありがとう、絽紀くん。あと、今日は、ね…抜けれないとおもったんだけど、頑張ってお仕事終わらせてきてね…その、どうしても…絽紀くんを1人にできないなぁって…心配で…」
「…兄さん、心配してくれるのは嬉しいけど、無理したら駄目ですからね。」
2人の会話を聞きながらなんとなく絽衣さんが過保護なんだって事だけはわかった。それから、俺達も会話に混ざり打ち解けてきた時に絽衣さんの携帯が鳴った。
「あ、ごめんね、ちょっとでてくる。」
そう言って、絽衣さんはベランダに出た。聞くつもりはないけれど、絽衣さんの声が聞こえてくる。
「…うん、うん、えっ?!いや、でも、え?!…くんも来るの?…あっ、と…って、君はいつも、そうじゃないか…いつも最低でも前日には知らせてって言ってるでしょ。あーもう、行かないとは言ってないでしょ?…ぇ、いや、でも、はぁ?!っ、もう、本当に、君はぁ…」
電話が終わったらしく絽衣さんはベランダから出てきた。それからジャケットを羽織りコップに少し残っていたお茶を飲み干した。
「ごめんね、予定が入ったみたいで…」
そう言ってチラッと絽紀を見た。
「…ろ、絽紀くん…今日、やっぱり帰れないかもしれない…」
「ぇ…あ、はい。無理しないでくださいね。」
「う、うん…ごめんね…」
ピンポーン
「ぁ、迎えが来ちゃった…」
「…兄さん。」
「…い、行かなきゃダメかなぁ…」
「兄さん!いってらっしゃい!」
「…う、うん。いって来ます。」
悲しそうに絽紀を見ながら絽衣さんは玄関から出ていった。
そのあとは、ダラダラ喋って気が付いたら夕飯の時間になっていた。
「あ、やば、もう帰んないとだわ。」
「あ!僕もです。」
「俺は、平気だけど…秋桐が帰るなら帰るわ。」
「あー、じゃあ下まで送るかなぁ。」
それから、みんなは帰り支度をした。
「あ、あっきー結局見れなかったからこれ貸すよ」
「え、いいんですか!…ぁ、と…でも、これブルーレイですよね…僕の家ブルーレイのレコーダないんですよ…」
「ぇえ、そうなのー、じゃあ…今度おいで、鑑賞会しよ!」
「はい!」
マンションのエントランスについて絽紀と別れた。朔弥は、用事があったらしくて俺達とは別の方向に行ってしまった。
「…なぁ、秋桐…」
「なんですか、真琴さん。」
「今度、デートしないか…?」
「…ぇ?!い、いいんですか!?」
「あ、ぁあ。ちゃんと紹介したい人がいるんだ。」
ずっと前から考えていた。お兄さんに、きちんと秋桐を紹介したい。本当はもう少し先でもいいと思ったけれど、絽衣さんと絽紀を見ていたらきちんと紹介しなくちゃいけないって思った。
「だから、デートの途中に寄って行きたいんだけど…いいかな」
「はい。真琴さんのお願いは珍しいですからね。絶対、行きます!」
秋桐は、躊躇うことなくそう言ってニコッと笑ってくれた。
だけど、今回はそれだけじゃない。お兄さんに会うということは女装ができないし、したくない。だから、初めて男の姿でデートする事になる。
(怖いけど…でも、いつまでも女装できるわけじゃない。いつか…いつか、やめなきゃいけない日が絶対くる。)
俺にとって、その日のデートは今後の事を考えた大切な時間になるはずだった。だけど、それは俺だけの考えだったようだ。
デートの前日、秋桐は約束していた絽紀との映画鑑賞会をした。そして、その映画が終わった時絽紀の家に誰かが来た。
「ぼ、僕!大ファンなんですよ!」
秋桐の目の前には有名俳優の姿があった。絽紀曰く、絽衣さんとその人が高校時代から大学生まで一緒で今も月一で会うほどの仲らしい。
前日にそんなスペシャル体験をしたせいか、秋桐は珍しくデートに遅れて来た。
「す、すみま、せ…はぁはぁ」
息を切らしながら、謝る秋桐に俺は平気って声を掛けて今日のプランを話した。
「今日は、街を散策して面白そうな映画あったらそれ見て昼ご飯たべにいってあとは自由にみたいな感じな。」
「はい、わかりました。」
未だ地面を見て息を整えながら秋桐が返事をする。本当に全速力で走って来たんだろう。俺の姿に気が付いていない。
(…今日は、持ってる男の服引っ張り出して結構お洒落して来たんだけど、まだ気が付かねぇのかなぁ…)
息が整ってきたのか最後にふぅーと息を吐いて上を見た。そして、俺を振り返ろうとした瞬間に秋桐の携帯が鳴った。
「あ、すいません。メールが…」
「あぁ、急ぎだったらあれだから早く確認しとけ」
「はい、ありがとうございます。」
そう言ってポケットから携帯を取り出した。その間にも目は合わない。なぜか、嫌な予感がした。
「っ!!んんんーーーー!!」
「ど、どうした?」
「軌良さんから、メールが来たんです!は!昨日の写真も付いてるー!!!」
「き、きらって?」
「影坂 軌良ですよ!僕、大好きなんです!!昨日、絽紀くんの家で映画鑑賞会してたら軌良さんが来たんですよ!軌良さんと絽衣さんが同級生の友達らしくって!よく遊びにくるんですって!!それで、大ファンです!って言ったら写真撮らせてもらえて!」
街を散策がてら話を聞く。秋桐は、楽しそうだけど…俺といて、というわけでは無さそうだった。
「それで、なんでメール?」
「それがですね!帰りに、写真送るからって言ってメアド交換したんですよぉ!」
「ふーん、よかったね…あ、あそこの店いいな。入ってもいいか?」
その店は、秋桐の好きそうな服が売っていた。だけど、秋桐は、店の事を見ないですぐに返事をした。
「はい、いいですよ。あ、で!そしたら、家に着くぐらいにメールが来て、映画の話とか教えてくれたんですよ!」
「そう、なんだ。じゃあ、店やめてもう映画行こうか。」
「え、あ、はい。映画といえば今軌良さんが出てる映画があるんですよ!そういえば、昨日はその映画の事話してたんですけど楽しくて夜までメールしちゃったんですよねぇ」
興奮しながら嬉しそうに秋桐が話す中、俺は心臓が冷たくなるのを感じた。
「だから、今日遅刻したんだ。」
「あ、そうなんです。本当にすみませんでした。…て、あれ?真琴さ」
「でも、よかったね。大好きな人に会えて、夜中までメールしあって。仲良くなれて。」
「ぇ、あの、真琴さん?」
「でもさ、なんで…今?今日は、俺にとって結構勇気が必要な日で、大切な日で…。なんで、お前はここにいるの?俺となにしにきたの?紹介したい人がいるって言ったのに、なんで遅刻できんの?しかも、他の奴と夜中まで話しててって、なんなの?」
我慢できなくなって思ってる事全部吐き出したら、泣きそうな顔で秋桐が俺を見た。
「ち、ちがうんです。そうじゃ、なくて…」
「もぅ、うるせぇよ。」
「っ…真、琴さ、痛い」
俺は、考えるのがもう怠くなって秋桐の腕を掴んで家まで歩き出した。俺の家までは、5分で着く距離にあった。その5分間を無言でただ歩き続けた。
「…っ、い、たい…です…」
秋桐の言葉を全て無視して家のドアを開ける。
「…こ、こは?」
秋桐を中に入れてドアを閉めた。腕を離さず乱暴に靴を脱いで部屋に入れる。
「っ、あ、待って!」
ギリギリのところで靴を脱いだ秋桐は不安そうな声を出す。
部屋に着くとソファに秋桐を倒した。
「ったぁ…ま…こ、と…さん?」
覆い被さるようにして秋桐を見る。
「なぁ、いつになったら俺を見る?」
「ぇ…?」
「俺は男で、お前も男だろ?」
「…うん。」
「俺は!…俺は、お前が望むならいつ別れてもいいと思ってた。」
「…ぇ?」
「でも、駄目だ!ぜってぇ、離さねぇ!」
「秋桐、他の奴の話すんな!他を見んな!俺だけを見ろ!じゃねぇと、俺はお前を滅茶苦茶に奪うからな!他を見れねぇくらい俺に夢中にさせて、俺しかみれねぇ様にしてやる!」
秋桐の顔がだんだんぼやけて見えた。秋桐は、今どんな顔をしてるのか、なにを思っているのか涙でぼやけてわからなかった。
「なぁ、だから、簡単に…俺以外のやつの事好きとか、言うなよ…」
ポタポタと零れ落ちた涙を秋桐は悲しそうに見た。それから、背中に手を回して俺を抱きしめた。
「うん。ごめんなさい。もう、言わないから。だから、泣かないで。…ま、こと。」
「っ、な、あ、きひさ、いま、真琴って、」
初めて呼び捨てにされてそれだけでさっきのモヤモヤが吹き飛んだ。
「うん。…これから、そう呼んでいい?」
俺を大切なものでも見る様に見ながら言う。
「ーん。可愛すぎるってぇー」
「駄目なの?」
「い、いいよ!」
その後、秋桐は今日どうして軌良さんの話ばかりしたのか、理由を教えてくれた。
「僕に、勇気をくれた人なんだ。真琴に告白行けたのもその人がバイだって言っていたニュースを見てからなんだ。だから、会えたことが嬉しくて…その嬉しいまま、真琴さんに会えるのも嬉しくて…。でも、真琴さんになにも言ってなかったし…真琴さんの姿だって見てなかった。本当にごめんなさい。」
そう言って秋桐は、深々と頭を下げた。
「…別に…少し妬いたけど。でも、そのひとのおかげっていうのがすこし、気になるけど。でも…今ここに秋桐といれるのはその人のおかげなんだし…感謝、しなきゃいけねぇのはわかるし、秋桐が喜ぶのもわかるから今日は許す。」
「はい。」
「…あと俺も悪かった。」
「ぇ?」
「腕…痛かったろ?」
そう言ってから秋桐の腕を見ると俺が掴んだ部分が赤くなっていた。
「痛いですけど、でも、真琴さんが僕に妬いてくれた愛の証なので!これはいいんです。」
「秋桐…ありがと。」
「はい。」
「秋桐…大好き。」
俺がそう言うと真っ赤になった秋桐が小さく僕もですと言って、チラッと俺を見て唇を奪っていった。
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