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第5章 女装男子と永遠に
30 嘘つき
しおりを挟む可愛いものが好きだ。
初めは父親への反抗心からだった。
でも、今は心からそう思ってるんだ。
「真琴さん。」
目の前にいる人は、俺の目を見て名前を呼んだ。
「私、橘真弘って言います。」
「橘・・・。そうか、じゃあ、父さんの・・・。」
橘は、俺の昔の苗字だった。
「はい。真琴さんの話は父から聞いていて・・・。あの、お願いします。父と会ってください。」
真弘さんはそう言って頭を下げた。
「・・・どうして?」
声が震えた。
「父さんは、俺になんて会いたくないはずだよ?」
自分で言って、悲しくなった。
(そうだ、父さんは俺になんか会いたくないんだよ。)
「違います。そんなこと、ありません。」
真っ直ぐ俺を見る瞳は、純粋で真っ黒な恐怖と混ざって混乱した。
「父は、ずっと後悔してたって。幼いあなたを置いて家を出た日のこと。ずっと……。」
真弘さんは、そう言って拳を握りしめた。
拳を……。
(……?……なんか、手がゴツい?)
そう思って、真弘さんをよく見る。
肩には、薄いピンクのショール。
首元はハイネックのせいで見えない。
スカートは膝丈で下にはストッキング。
いや、うん。
可愛い。
(……気のせいか?)
「だから、真琴さん。いえ、義兄さん!父と、会ってください。」
「え、は、はい。……え?!」
急に現実に戻されうっかり返事をしてしまった。
「やったー!じゃあ、行きましょう!義兄さん!」
逃げない様にか、真弘さんは俺の腕をガッチリとホールドし、半ば無理矢理俺を店まで連れて行った。
(……あれ?やっぱり、力強いよ!?)
店に着く頃、俺の腕は感覚を手放そうとしていた。
(痛い。ねぇ、もう、強いよ!ホールド!)
「っ真琴!」
腕の痛みに集中しかけていると、名前を呼ばれ背筋が伸びた。
「っ、」
(帰りたい。帰りたい。帰りたい。)
背後にあるはずの扉を見ると、笑顔で圧をかけてくる真弘さんがいた。
(オワタ。)
そう思って地面を見る。
ヒソッ「真琴。」
秋桐から名前を呼ばれてハッとする。
秋桐は優しく笑っていた。
ヒソッ「大丈夫だよ。」
俺は一気に脱力して、しゃがみ込んだ。
「はぁ……っ、わかったよ。観念するよ。」
「……あー、なんだ。真弘、真琴とお友達を家へ案内してくれ。俺は、店を閉めておく。」
「はぁい、父さん。」
俺と秋桐は真弘さんに店の奥へと案内された。
一瞬すれ違った時の父さんとは目が合わなかった。
「はーい、ここが父さんの部屋でーす。」
父さんの部屋は、昔の記憶している部屋と似ていた。
書斎の様に扉を開けた両サイドの壁は本棚で、窓側に机、中央にローテーブルとクッションが置いてあった。
「ちなみに、ここの棚の1番上にあるアルバムは義兄さんのなんですよー!」
真弘さんは、ある本棚の一角を指差して笑った。
「え、僕みたいです!」
それにすぐ秋桐が食いついた。
俺はこの部屋に懐かしさを覚えていた。
優しい空間だ。
とても、優しい。それなのに記憶の断片が冷たくさせる。
(……嫌い。嫌いだ。)
そう思うたびに、涙が出そうになるんだ。
でも、それしか頭に浮かばない。
(大嫌いだよ……。)
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