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第5章 女装男子と永遠に
12 本当side朔弥
しおりを挟む自分の名前が、大嫌いだった。
俺を捨てた父親が付けた名前だから。
俺を嫌いな母親がいつも言うから。
「アンタは、いつも幸せを奪うんだ。だから、あの人もそれを分かったからアンタを捨てたんだ。だから、あの人はアンタにそう名付けたんだ。」
俺は、新月だ。美しい物を、幸福を奪う疫病神。
だけど、少しだけ……
夢を見るんだ。父親の夢を。
あの人は、俺の頭を優しく撫でて言うんだ。
『朔弥って名前はな、新月からとったんだ。』
優しく、俺を慈しみながら微笑むあの人が本当に、酷い意味で俺の名前を付けたのか不思議に思うんだ。
「朔弥。俺ずっと言えなかったんだけど…言っていいか?」
道を歩きながら梓暮が言う。
「なにを?」
「んーと、俺さ…時々考えるんだ。新月はもしかしたら優しいカーテンなんじゃ無いかって。」
舞台の美しい光景の裏には沢山の努力がある。
満月は、大舞台だ。
沢山の痛みと涙の結晶だ。
カーテンが閉まるのはその舞台を、努力をやりきった証だ。
美しい物に、頑張ったなってよくやったって言わせるための暖かいものだ。
新月は、そんなカーテンなんだ。
梓暮はそう言ってから、俺を見て優しく笑う。
「月にはさ、沢山の傷があるだろ。でも、それを隠して輝いてる。新月は、俺達見てる側からすればそれを隠す闇かもしれない。でも、月からしたら違うのかもしれないぞ?」
梓暮に言われて夢の続きを思い出す。
記憶の扉が優しく開く。
『朔弥…うん。いい名前だ。新月はな、月の休みなんだ。綺麗な月にも休みが必要だろう?朔弥には、肩肘張ったり、頑張り過ぎてる人を大丈夫だって、もういいんだぞって言ってやれるような人になって欲しいなぁ』
そう言った父親は、幼い俺に目を合わせて俺の頭を乱暴に…でも、優しく撫でたんだ。
「俺は、それがずっと言いたかったんだ。…って、朔弥?!な、なんで、泣いて!?」
「っるせぇ、泣いてねぇ…」
思い出す。優しかった父親の言葉。
優しい言葉が流れる。
(……俺は、いらない奴じゃ…なかった)
目の前には、珍しく慌てふためく梓暮が俺を見ていた。
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