上 下
14 / 45
璃悠

友達と恋人

しおりを挟む
 璃翔あきとに友達でいいと言われてその場で呆然とする。

(…違う…そうじゃ、ないんだ…。俺は、俺は…そういう意味で友達に戻ろうって言ったわけじゃないんだ。)

 ただ、少し距離を置きたかっただけ…。

 だって、璃翔は知らないから。なにも、分かってないから。

 高校の入学式で璃翔あきと一目惚れして、でも叶わないだろうなと思って1年間ずっと片想いして…2年になって告白されて、俺がどんなに嬉しかったか…。

 大学だって、璃翔あきとが好きそうな学科がある所ばっか探して、一緒に行けるように考えて…。

それなのに、璃翔あきとは女子にモテるから…不安がいっぱいあって…。

ただでさえ、俺が男だって事で不安なのに。

大学のサークルの後輩は、俺に璃翔あきとの情報を貰うために休日平日御構い無しに近づいてくる。

「璃翔先輩って……彼女とか、いるんですかね……。」

「彼女?…居ないと思うよ……」

(彼女なんて、居てたまるかよ。)

ムカムカしながらもそれを抑えて、その場を終えたのに…。

「今日何してた?」

その質問に、咄嗟に嘘をついてしまった。

(だって…後輩といたなんて言ったら、何してたんだって聞かれる…。俺の口からそんな事言いたくない。)

 その嘘が、恋人という関係を壊すなんて…。

(璃翔……)

 どうしてだろう。

 こんなに好きなのに、好きだって気持ちは変わらないのに……。

 不安が沢山あって、怖いことが増えて行く。


(駄目じゃん、俺……)

 何よりも怖いのは、君を失う事なのに。

 君を失うのが怖くて、不安で…。


 なのに、怖さと不安に押しつぶされて、自分だけ好きみたいなのが悲しくて……。

 少し、離れてちゃんとみて欲しかっただけなのに…。


 水が地面と出会った。

 俺の顔に落ちた雫は、涙だったのか雨だったのかわからない。

 自己嫌悪だけが自分の中に溢れていた。


ポツポツと落ちる雫は大粒の涙に変わり、周りの音をかき消して居た。



「っ!に、してんだよ!」

 遠くで、聞き慣れた声がした。

ゆう…ずぶ濡れじゃん…。」

 傘に弾かれた雨の音。

 俺は、重くなった体で璃翔に抱きついた。

「…ごめん。ごめん。お願い。璃翔。行かないで。俺の隣に、ずっと、居て…璃翔……」

「悠…?悠!悠!!」


 気がつくと見慣れた天井があった。

 そして、直ぐそばに温もりを感じた。


 スースーと、寝息を立てる璃翔の目の周りは少し赤みを帯びていた。

「璃翔、大好きだよ…」

 目を閉じてもう一眠りしようとすると、隣で微かな音がした。

「……俺も、大好き。」

 目を開けると、顔を赤くした璃翔が俺をみた。

「でも、もう嘘はやだからな。」

「起きてたのかよ。」

「まぁ…それで、なんで嘘付いたんだよ。」

「っ、言わないと駄目?」

「だめ!」


 俺は、璃翔の目に手を当てた。

「ちょ、なにすんの!」

「お前を好きだっていう後輩から相談受けてたの!」

「……へ?俺?」

「お前以外誰がいんだよ…」

「悠だって、モテるじゃん…俺、てっきり…」

「俺なわけないだろ…。まぁ、お前はそうだと思ったよ…。だから、少し距離を置こうって意味で友達に戻ろうって言ったのに突っ走るし。……このまま、戻ってこないかと思った。」

 璃翔は、目を覆っていた俺の手を握ってずらした。それから、俺の目をみた。

「悠は、言葉が足りないんだよ。……でも、俺そんなお前も好きだったって、いっぱい思い出して。そしたら、雨が降ってきて…。」

「……迎えにきてくれたの?」

「っ、そうだよ!感謝しろよな!」

「うん。ありがとう。…璃翔、俺の恋人になってくれる?」

「っ、たり前だろ!つか、言われなくたって…俺は、お前が好きなんだよ!誰から告白したと思ってんだ!」

「あは、璃翔からだったね。」

 それから、俺たちはベッドの中でアラームが鳴るまで話し続けた。

 友達としてじゃなく、恋人として君の隣にいられる幸せを感じながら。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【本編完結】記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...