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一話完結

側にいてくれるだけで、本当によかったの?

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君が笑えばいいと思った。

涙を流さず、傷付かなければいいと願った。

けれど、なによりも、君の隣にいられればいいと思った。

だけど、だけど、だから…。

欲しくなった。こんな僕が君を望むなんて、なんて烏滸がましいんだろう。

そして、なんて果報者なんだろう。

望んだ幸福が手に入ってしまった。もう、もう、これ以上、何も望まない。ただ、側にいられることが幸せだから。これ以上、何も望んではいけない。僕はもう十分幸せだから。

だから、だから…?

君がいないだけで耐えられない。君がいない未来は考えたくない。離したくない。離れたくない。

けれど、きっとそうしたら君が消えてしまう。
この気持ちは見せてはいけない。考えてはいけない。
君の世界を望んではいけない…。
君を望めない。

隠さなきゃ。隠さなきゃ。隠さなきゃ。

そうして、何かが崩れた。

君への願望は、奥底に仕舞われた。
そうしたら、ちゃんと君の隣に立てるようになった。

けれど、君の顔が見れなくなった。
ただ、側にいることだけしか分からなくなった。

君がどこを向いているかも、何を見ているかも知らず。君の体だけが側にいる。

君が笑わなくても、泣いていても、傷付いても。

僕は知らずに、分からずに、分かろうとせずに、蓋をした。

僕の隣に君がいれば、そうすれば、心が満たされていたから。

だから、気が付かないことにした。
君が、誰をどう思おうと、僕をどう扱おうと。

…誰を好きだろうと。

けれど、そうだ。

そんな僕の隣に、君が一生いてくれるとは限らないんだ。

人間は世界に溢れていて、君を見る人は沢山いて…。

だから、果報者だと思ったのに。
君を見ない日々が、幸せを遠ざけた。
そうして、君はどこかへ行ってしまった。

忙しない日々で全てを忘れるしか生きる術が分からなくなった。

忘れようとした頃、君は現れ、僕に笑いかけた。

淡い期待を思わせるような笑みの隣には、絶望的な現実がいた。

僕の幸せはもう、叶わなくなった。

けれどもう、君が笑えればいいと思った。
今度こそ、君が幸せであればいい、そう強く願った。

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