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向日葵
見ないフリ
しおりを挟む咲真は、高校で出会った友達だ。咲真の両親は再婚していて血の繋がらない父と妹がいると言う。それを知ったのは俺が高校3年生になった時だった。なんとなく仲がいいくらいだった関係がその時変わった。
「俺は、父親が嫌いなんだ。あいつはクズだし…。妹は父親の血が強いらしくて傲慢なんだよ…でも、まぁ、妹は可愛いよ。あいつに比べたらなん100倍も…。」
俺は、母親が嫌いだった。再婚とかじゃないし、反抗期だからみたいな一時的で優しいものじゃなくて…血も繋がってるけど、嫌悪感しか抱けない。それくらい嫌いだった。だけど、そんな事…誰にも言えなくて。咲真が初めてだった。
「…っれも…俺も、母親が嫌いなんだ。だから、早く家を出たい。」
俺がそういうと、咲真は少し驚いたような顔をしてから優しく笑って「俺も!」って言った。
俺の中で、初めて許された気がした。
(…嫌いでもいいんだ…)
それと同時に、何かが胸の中で芽生えた。
その日から、俺は咲真とよく一緒にいるようになった。
でも、そもそも咲真は3年になるまでもずっと同じクラスだ。それなのに、どうして今までそこまで仲良くなかったのか。
それは、咲真の噂にあった。
「咲真のやつ、また先輩といたんだってよ」「校内でイチャつくとかないわぁ」「正直、部活の邪魔だよな」
咲真が、部活先輩と付き合っているという噂は、入学してからすぐに流れた。そして、しばらくしてから、よくない噂ばかり流れるようになった。通学路の道でイチャついたり、部活中でベタベタしたり…。2年の時には、先輩の悪い噂が流れた。後輩の1年にやたらベタベタしたり、咲真と同じ部活で、帰りが同じはずなのにわざわざ後輩に駅まで送る事を頼んだり…。
それでも、咲真は噂に関して何も言わなかった。だから、誰もなんで付き合ってるのかと聞けなかった。先輩の悪口にも少し困った顔をしながら「あー言う人なんだよ」と言うだけだった。
(なんで…別れないんだよ。)
それを聞きながら、そんなことを思ったのを覚えている。
今思えば、咲真は愛されたがりだったんだろう…。誰でもいいから愛して欲しくて、自分の存在を肯定して欲しかったんだろう。その上で、自分に興味がなかったんだ。
「俺さ、写真嫌いなんだ。記憶はいつか消えるけど、写真は残るだろ…。俺が生きてることなんて、誰も覚えていなくていいのに…。」
俺は、ポツリと零すように言ったその言葉に少しの驚きと嬉しさと共感と…深い悲しさを覚えた。
「俺も、同じこと思うよ…でも…。でも、俺は咲真の事忘れてやらねぇ…。咲真が俺より先に死んでも、俺はぜってぇ、忘れてやらねぇ。」
「えー、ひでぇなぁ…忘れろよー」
いじけたみたいにそう言った咲真に、俺はきっと「俺も忘れてやらねー」って、言って欲しかったんだろう。咲真の中に少しでも、自分を置いておきたかったんだろう。
咲真の友達をやっていて、ふと思う。
俺は、咲真をどう思っているんだろう。
3年になって、先輩は卒業して…校内では咲真の恋愛についての噂は消えた。それに、何故か安心している自分と、まだ付き合っているのかともどかしく思ってしまう自分。
(これは、友達としての感情なのか?…友達に対して、こんな…こんな、黒い感情持つのか?)
時々、俺以外の友達の所へ行ってしまう咲真の後ろ姿に手を伸ばしたくなる。俺の隣にいてほしいと思ってしまう。
俺は、咲真をどう思っているんだろう。
考えれば考えるほど分からなくなって、俺は考えるのをやめた。
(…気のせいだ…。きっと、俺に友達が少ないから、そんなことを考えてしまうんだ。…きっと、そうだ。)
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