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後ろの熊君

後ろの熊君 下

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俺には、大切な友人がいる。でも、俺は…その友人のことを友人以上に見てしまっている。

(小崎は優しい奴だ。きっと、その事を俺が告げたら……)

そう考えて、首を振る。

(そうだ。告げなくていいじゃないか……。友達としてでも、一緒に居られるなら……。)



 だが、最近小崎の様子が変だ。

 昼飯の時は、いつも隣に座って話しながらゆったりとしているのに、何故だか会話が続かず気まずい空気が流れたり、いつも下校は一緒だったのに最近小崎は先に帰ってしまう……。

(……友達ですら、無くなったのか……?)

 モヤモヤしながら、家を出て学校へ向かった。

 教室の扉を開くと自分の席に誰かが座っていた。

(……誰だ?)

 よく見ると、前の席の小崎と何かを話している。

イラッ

(……いや、イラッってなんだ、俺……。小崎にだって、俺以外友達がいたっておかしく…おかしくないだろ。)

 その時、嫌な考えが浮かんだ。

 最近一緒に帰れないのは、コイツと一緒に帰っていたからかもしれない。昼飯の時に、気まずいのは本当は俺とじゃなくてコイツと食べたかったからかもしれない……。

(……なんて……何、考えてるんだ……。)

 自嘲気味に笑って、自分の席に近付くと会話が耳に入ってきた。

「ねぇ~、さきちゃんいいじゃん、でーとしよぉや~」


ピクッ

(でーと?)

 きっと、今の俺は般若のような顔をしていたんだろう。

「…嫌だって言ってるだろ…あ!熊、谷…?」

 小崎が、驚いた顔で俺を見た。

「え、熊谷ってここの席の…人、だよねぇ、ごめん、ごめんて、そんなに怒らんといて」

 そう言って、谷崎と呼ばれていたやつは俺の席から離れた。

「……怒ってない。……気分が悪いだけだ。」

 谷崎を睨みながら言う。

「いや、それ変わらんと違う……。」

「え、熊谷大丈夫?保健室行く?」

(あぁ……小崎は天使なのか……。)

「…もう、大丈夫だ。」

 小崎の笑顔は、俺の心を一瞬で明るくした。


 きっと、もう友達には戻れない。

 心の底で気が付いた気持ちを今だけは閉じ込めておきたかった。


 それから少し、ギクシャクした空気のまま昼休みになった。

 購買に寄って昼を購入して、小崎の待つ屋上へ向かった。

 ドアを開けようとして声が薄っすら聞こえた。


「あんな、怖いやつやめとけば?」

(……小崎の声じゃない。)
 
 けれど、どこかで聞いたことのある声だった。

「怖くないよ!良い人だよ…」

(ん?小崎も居るのか。)

「…ふーん、そっか。でも、友達なんでしょ?」


「うん。」

「なら、俺の恋人にならない?」

「は?」

「俺、崎ちゃんに一目惚れしたの」

「えっ、と…?」

「好きだよ。」


全身の血が引いていくようだった。
小崎の返事を聞きたくなくて逃げた。



それから、俺はしばらく小崎を避けた。

それでも、小崎は前の席だ。どうしても視界に入ってしまう。声をかけられれば無視できない。

だから、最低限の会話だけで済ましていた。


その間に小崎は、谷崎と仲良くしていた。

「なぁ、崎ちゃん」

ふと、谷崎の声が頭の中で重なった。

『俺、崎ちゃんに一目惚れしたの。』

(……あの時の声は……谷崎……?)

屋上の声は訛りのはいったような喋り方では無かったため気が付かなかったが確かに声は谷崎のものだった。

(……告白した後でも仲がいいと言うことは……この2人は……)

そこまで思って考えるのをやめた。


小崎を避けて何日も経った。

廊下を歩いていると突然手を掴まれて空き教室に引きずり込まれた。

「っ、小崎……!」

咄嗟に部屋を出ようとすると小崎が涙交じりに声を荒げた。

「熊谷!!なんで、僕を避けるんだよ!!」

悲しそうな音に足が止まった。

「なんで……。熊谷は……僕のこと、嫌いになったの?」

雫が頬を伝って落ちた。

「…違う…俺は…嫌いになんて、なれない。」

たとえ、お前と同じ好きじゃなかったとしても。

「じゃあ、なんで避けるの!」

「…れは…小崎が谷崎と…」

付き合っているから。


「谷崎?谷崎がなんで今出てくるの…?」

「だって、告白されていただろう?!」

「え、き、聞いてたの!!?」

「あぁ、たまたま通りかかって…」

「…断ったよ。」

「え?」

「好きな人が、いるからって。」

ハッとして、小崎の顔を見た。

「その、好きな人って……」


「おまえだよ、馬鹿。」


小崎は、真っ赤な顔に涙を落としながら俺を見た。

ちょっとした特別が、一生の大切に変わった。
俺は、君の全てに感謝した。
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