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強者の祭典
夢と手合わせ
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それはとても小さな存在だった。小さく、戦おうという気すら起こらないほど弱い存在であり、彼の同種はそれを嘆くほどの知性すら持ち合わせていなかった。
しかし彼は違った。彼の持ち得た知性はその境遇では不幸というほかなく、また偶然持ち得た力も、彼には本来手に余るものだった。
***
目が覚めるとそこは暗闇だった。
「ここは……精神世界か。てことはまだ起きてはねぇな」
「全くの意識が無い状態からとすれば、今も覚めたといえるのでは無いか?」
後ろからの声に振り返ると、ドラグニールがジッと見下ろしていた。
「…………」
「どうした、そんなに見おって。確かにこうして顔を合わせるのは久しいかもしれんが、それほど珍しいと言うほどでもあるまい」
「いや……どう見ても小さくも弱くも無いよなって」
「なんだ。馬鹿にしとるのか」
「いんや、こっちの話だ。気にすんな」
軽く手を払い、その場に座る。
「しっかしどうするか。これだけ意識はっきりしてても好きに起きられるわけじゃ無いんだよな……あ、そうだ。お前、ガルシオと戦ったのどうだった?」
「どうといってもな。我本来の力であれば取るに足らん。ただまあ……そうだな。人という基準で考えれば、Sランクなどと称されるだけはあるだろうな。他の連中とは違い、奴はなにか目立った技を使うでも無く武器すら持たない。だというのにあの力……まだ全てを出し切って無いだろうが、それでもあの段階で何かが発揮されていただろうな」
「だよなー。単純に言えば身体強化とかその辺なんだろうけど、魔法の気配は無かったんだよな」
「魔法と言えば、貴様のあの魔法はなんだ。またなんぞ新しい魔法を生み出しよったな?」
ずいっとのぞき込むように近づけたその顔と声音は楽しげな様子だった。
「ああ、あれな。実はお前と別れた後にな──」
俺はかいつまんで教会跡での出来事を話すと、ドラグニールは興味深げに唸った。
「我の焔を貴様のものとし、自在に纏うか。確かに原理は通っておるし、実のところ以前貴様があの魔法を発現させた時からいずれこの魔法もと思っておったが……話を聞く限りそのニーアという小娘がきっかけ……いや、発現させたといっても過言では無いな。前々からあやつには何か気になるものがあったが……何者だ?」
「正直さっぱり。漫画とかじゃ実は凄い力を持ってたりーとかあるけど、フィクションじゃ流石に参考にならないしな」
「何を言っておるか分からんが、まあ不明と言うことか。ならば今は考えるだけ無駄だろう。それよりも、今後のことを考えるべきだ」
「今後って……なんかあったっけ?」
俺の疑問に、こいつ正気かというあからさまに馬鹿にした表情を浮かべた。
「貴様正気か」
「あ、てめ言いやがったな」
「本戦の前に言われとっただろうが、強さと優しさを証明しろと。負けたとなれば強さの証明とはならんのでは無いか?」
「あー……直前にいろいろあって忘れてたわ。まあ正確には純粋に強さというよりは役張りを果たせるかって話だし、決勝までいったのは十分証明になってないか?」
「まあ少なくとも一人はSランクも倒しておるしな。もう一方も問題なかろう」
「優しさも? なんでそう思うんだよ」
「人間の視点では、自身に不利な状況が降りかからんとしても構わず他者を助けるために動くのは優しさというのであろう?」
「……まさかお前から人間視点のちゃんとした考えを聞かされるとはな。じゃあまあ、そんなお前を信用して焦らずのんびり目を覚ますか」
「いいのか? 今のはあくまで可能性だ。最悪という事態も十分あるぞ」
「そん時はそん時だ。今の俺なら空だって飛べるんだぜ? お前空から見る景色の良さ知ってるか?」
「ハハッ、竜にそれを問うか。どれ、折角の機会だ。久々に訓練でもつけてやろう」
「お、そういやお前と戦うのも久々だな。じゃあお言葉に甘えて──」
俺が立ち上がり如月に手をかけるや否や、ドラグニールの吐いた焔が辺り一面を灼き尽くした。
「──全力で行かせてもらおうか!」
装擬の焔で高速飛行しドラグニールの背後に回ると、如月と不知火の二刀で斬りかかる。
「ほう。我もようやく加減を緩められるか」
ドラグニールは大きく翼をはためかせ俺の移動を阻害すると、自身も飛行し無数の火竜と共に襲い掛かってきた。
「緩めすぎだろ……」
しかし彼は違った。彼の持ち得た知性はその境遇では不幸というほかなく、また偶然持ち得た力も、彼には本来手に余るものだった。
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目が覚めるとそこは暗闇だった。
「ここは……精神世界か。てことはまだ起きてはねぇな」
「全くの意識が無い状態からとすれば、今も覚めたといえるのでは無いか?」
後ろからの声に振り返ると、ドラグニールがジッと見下ろしていた。
「…………」
「どうした、そんなに見おって。確かにこうして顔を合わせるのは久しいかもしれんが、それほど珍しいと言うほどでもあるまい」
「いや……どう見ても小さくも弱くも無いよなって」
「なんだ。馬鹿にしとるのか」
「いんや、こっちの話だ。気にすんな」
軽く手を払い、その場に座る。
「しっかしどうするか。これだけ意識はっきりしてても好きに起きられるわけじゃ無いんだよな……あ、そうだ。お前、ガルシオと戦ったのどうだった?」
「どうといってもな。我本来の力であれば取るに足らん。ただまあ……そうだな。人という基準で考えれば、Sランクなどと称されるだけはあるだろうな。他の連中とは違い、奴はなにか目立った技を使うでも無く武器すら持たない。だというのにあの力……まだ全てを出し切って無いだろうが、それでもあの段階で何かが発揮されていただろうな」
「だよなー。単純に言えば身体強化とかその辺なんだろうけど、魔法の気配は無かったんだよな」
「魔法と言えば、貴様のあの魔法はなんだ。またなんぞ新しい魔法を生み出しよったな?」
ずいっとのぞき込むように近づけたその顔と声音は楽しげな様子だった。
「ああ、あれな。実はお前と別れた後にな──」
俺はかいつまんで教会跡での出来事を話すと、ドラグニールは興味深げに唸った。
「我の焔を貴様のものとし、自在に纏うか。確かに原理は通っておるし、実のところ以前貴様があの魔法を発現させた時からいずれこの魔法もと思っておったが……話を聞く限りそのニーアという小娘がきっかけ……いや、発現させたといっても過言では無いな。前々からあやつには何か気になるものがあったが……何者だ?」
「正直さっぱり。漫画とかじゃ実は凄い力を持ってたりーとかあるけど、フィクションじゃ流石に参考にならないしな」
「何を言っておるか分からんが、まあ不明と言うことか。ならば今は考えるだけ無駄だろう。それよりも、今後のことを考えるべきだ」
「今後って……なんかあったっけ?」
俺の疑問に、こいつ正気かというあからさまに馬鹿にした表情を浮かべた。
「貴様正気か」
「あ、てめ言いやがったな」
「本戦の前に言われとっただろうが、強さと優しさを証明しろと。負けたとなれば強さの証明とはならんのでは無いか?」
「あー……直前にいろいろあって忘れてたわ。まあ正確には純粋に強さというよりは役張りを果たせるかって話だし、決勝までいったのは十分証明になってないか?」
「まあ少なくとも一人はSランクも倒しておるしな。もう一方も問題なかろう」
「優しさも? なんでそう思うんだよ」
「人間の視点では、自身に不利な状況が降りかからんとしても構わず他者を助けるために動くのは優しさというのであろう?」
「……まさかお前から人間視点のちゃんとした考えを聞かされるとはな。じゃあまあ、そんなお前を信用して焦らずのんびり目を覚ますか」
「いいのか? 今のはあくまで可能性だ。最悪という事態も十分あるぞ」
「そん時はそん時だ。今の俺なら空だって飛べるんだぜ? お前空から見る景色の良さ知ってるか?」
「ハハッ、竜にそれを問うか。どれ、折角の機会だ。久々に訓練でもつけてやろう」
「お、そういやお前と戦うのも久々だな。じゃあお言葉に甘えて──」
俺が立ち上がり如月に手をかけるや否や、ドラグニールの吐いた焔が辺り一面を灼き尽くした。
「──全力で行かせてもらおうか!」
装擬の焔で高速飛行しドラグニールの背後に回ると、如月と不知火の二刀で斬りかかる。
「ほう。我もようやく加減を緩められるか」
ドラグニールは大きく翼をはためかせ俺の移動を阻害すると、自身も飛行し無数の火竜と共に襲い掛かってきた。
「緩めすぎだろ……」
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