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強者の祭典
三回戦・クラガ(前半)
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「ったく。Sランクってのはどいつもこいつも容赦が無さ過ぎんだろ。エリシアもそうだけど、さっきのおっさん、ありゃあトラウマもんだぜ? ただ気絶するまで殴られ続けるとか。しかもテメェの斧は一切当たらねぇ。おー怖ぇ怖ぇ」
「……確かにガルシオの奴は普段から素行不良だからな。今更聞かんだろうが、後で私から言っておこう」
三回戦。第三試合。
肩を落とすクラガに銀髪のエルフ──シーナも同様に肩を落とし溜息をつく。
「つーか、容赦の無さでいったらあんたも相当だっての。なんだよあの予選のやつ。今からアレに一人でやるのかと思ったら鳥肌もんだぞ」
「ああ、君は私の担当だったか。道理で見覚えがあると思った。アレは所謂一対多で有用な魔法だ。一対一では寧ろ効率が悪い」
「ってことは一人相手用のアレクラスの魔法があるんだよな。嫌になるな」
クラガは深い溜息をつき、両脇に置いていた腕全体を優に覆う巨大な銀の籠手を装着する。
「……そうは言いながら、その落ち着きはなんだ? 少なくとも緊張や怯えなどは無さそうだ。その籠手だって、私相手に重量物の装備で速度を落とすのは愚策とは分かっているだろう」
「あー……まあな。少なくとも怯えは無ぇな。もっとヤバいやつとやり合ったことはあるし、今回は少なくとも死ぬこたぁ無ぇからな。ただまぁ……つーかお前もどうせ分かってんだろ? さっきの女エルフと俺がパーティで、ついでにアリアっつうガキともってのは」
「……そうか。知っていたか」
「ああ。一瞬目を覚ましたエリシアからな。丁度アリアは居なかったから俺等が知ってるって事は知らねぇよ」
「そうか。それできみはどうする? 彼女と同様私一人でも戦力を減らしてみるかい?」
「あ? しねぇよそんなん面倒くせぇ」
「……え?」
予想外の返事に、シーナは思わず呆けた表情を浮かべた。
「あの竜の事は物語程度にしか知らねぇが、それでも相当ヤバいってのは分かってる。なら潰すなら直ぐだろ。こんな一国の祭りより世界の平和だろうからな。でもそうしねぇって事は何かの判断待ちなんだろ。そんでもってそうならそれはアリアの行動次第でどうなるか……って辺りだろ。なら俺がすることなんざ何もねぇよ」
「驚いたな。君たちの参謀はあのエルフだと聞いていたのだが、間違っていたようだ」
「俺だってそんな大したもんじゃねぇさ。ただアリアはたまに変なところはあるけど基本は見た目通りのガキで、エリシアはちょっと前まで箱入りのお嬢サマだから融通がきかねぇ。だからたまに損な役回りが回ってくんだよ。おら、もういいだろ。そろそろ始めようぜ」
「ああ、そうだな。思わず話しすぎてしまった」
話を切り上げ、二人は所定の位置に着く。クラガは籠手の魔具の発動準備をし、シーナは弓に矢を番える。
『どうやら話はついたようだ! 待たせたなお前等! 三回戦第三試合、おっぱじめるぞ!!』
オルガンの言葉に呼応する観客の声は、疲弊するどころか更に増している。
『まずは挑戦者! アルガーン出身ハイドワーフ、自ら編み出した魔具で戦う魔工戦士!クラガァ!』
「エリシアのに比べて随分適当じゃねぇか?」
『受けて立つはヴォクシーラギルドの森の精霊! その弓から繰り出されるは全てを貫く万の矢! 一弓万矢シーナ・クリューシア!』
「無駄にちゃんと言われる方も然程嬉しくはないさ……」
『両者用意は良いか!? それじゃあ試合……開始ぃ!!』
先に動いたのはクラガだった。右の籠手から炎を噴出させブースターとし、距離を一気に詰める。その一瞬の間に打ち出したシーナの矢は一瞬の間に三本に分裂した。しかしクラガは慌てることなく左籠手を前に出し吹雪のような冷気を噴出し、矢を凍らせ落とす。そしてそのまま振りかぶった右籠手でブースターの勢いそのままシーナに殴りかかるが、シーナも冷静に後ろに飛びそれを躱す。
「なるほど、この程度なら処理しますか。それにその魔具。見た目より応用性もありますね」
「そりゃどう、も!」
続けざまに両籠手によるブースターで先程よりも更に早く跳び、それに合わせシーナも同様に後ろに跳躍。しかしクラガは火力を上げ追うことはせず逆に右籠手の炎を停止。それによりクラガの体は急速に左回転し、突き出した右籠手から広範囲に氷弾を連射する。
「そういう手も出来ますか。では」
対するシーナは迫り来る氷弾から自身に当たるものを判別し三本の矢を同時に番える。そして打ち出された矢はそれぞれ氷弾を打ち抜いても止まらず更に方向を変え次々と打ち落とし、シーナはその場から動くことなく無数の氷弾を躱した。
「この程度の点攻撃じゃあものともしねぇか。しかもその矢。常識外れもいいとこだな」
「おや、意趣返しですか? 言っておきますが、私の弓術はこの程度ではありませんよ」
「お互い様だ。矢で打ち落とせない制圧攻撃してやるぜ」
開始早々の激しい攻防に会場は大いに沸き立っている。しかしその中にいるアリアは不安げな表情を浮かべていた。
怪我の心配の無い安全な試合とはいえ、エリシアの後だと流石に心配せずにはいられなかった。
「アリア見つけた」
「あ、レイさん」
はらはらしながら試合を見守っていると、声をかけられ振り返るとレイが立ってた。
「レイさんも今日は観戦ですか?」
「うん。昨日はみんなはしゃいでたから、今日は宿の中でゆっくりしてる。それでもみんな楽しんでたけど」
そう言いながら、レイはアリアの隣に座った。
「あれ、アリアのパーティの人だっけ」
「はい。私の刀とか防具を作ってくれてるんです。今使ってるあの籠手もお手製の魔具です」
「相手はシーナか。相性は単純に悪そう」
「さっきみたいな小さい物理攻撃だったら防がれてましたけど、例えば炎とか雷とかの無形の攻撃魔法とか、それこそ巨大な氷で押し潰すレベルの事をすれば……」
「シーナが今のままレベルでなら防げないと思うけど、単純に躱されると思う。今はまだ使って無いけど、本来の戦い方なら矢切れも狙えないし、あの機動力程度じゃどうやっても避けきれない」
「じゃあレイさんから見て、どうすればクラガに勝ちが見えると思いますか?」
アリアの質問に、レイは二人の試合の様子を観察し答える。
「さっきも言ったけど、あの籠手を使った移動。考えは良いいど、初速が遅いし、一番速くなってもそこまでの速さじゃない。それにあの大きさ。盾としても使えるし、重さに任せた攻撃はそれなりのものになると思うけど、その重さが弱点。そのせいで取り回しも悪いし、跳躍してもバランスに気を遣って他が疎かになる。例えば出力箇所を分散さたり、軽量化すればだけどそれは今更だし……ごめん。勝ち筋見えないや」
「……レイさんのその正直なところ、良いと思います。機動力と重量の軽減か……」
思い返すように呟くアリアと本人にも気づかれないほどスムーズにアリアを膝に乗せるレイ。そんな二人を余所に試合は更に進んでいた。
二本番え放たれた矢は瞬く間に四本、八本と増え、うねる蛇のような軌道で襲い掛かる。クラガは右籠手から炎を噴射し、更に左籠手から強風を発生させ炎の威力、範囲を増大させ対処する。しかし二本の矢がその炎を掻い潜り、一本は右肩をかすめ、もう一本は左脇に突き刺さった。
「ガッ……!」
「ようやく当たった。凄いな君、十本しか持ってきてなかったとはいえ、全矢打ち尽くしてしまった」
「とことん手ぇ抜いといてよく言う……なっ!」
シーナの言葉に、クラガは突き刺さった矢を無理矢理引き抜いてへし折り、叩き付けた。
「……直ぐ治るとはいえ些か強引じゃないかい?」
「黙ってろ。んで、こっからはどうなるんだ? いくら矢が増えるとはいえ元が無けりゃどうしようもないだろ」
「ああ、そうだね。ここまで耐えた君への誠意だ。せめて最初くらいは避けてくれ」
そう言ってシーナは弓を構える。何も持っていない右手で、何も番えていないはずの弦を引き、放す。
その瞬間、何かがクラガの頬を掠めた。
「……弓使いが矢を使わないとか、反則も良いところだろ」
「魔法が存在している時点で今更だろう」
クラガの引きつった笑みに、シーナはやや自嘲気味な笑みで返す。
「安心してくれ。痛みも感じる暇も無いし、これなら君の評価も落ちることはないさ」
シーナはそう言い、不可視の矢を空へ向かって放つ。一瞬の間を置き、クラガの周囲に四つの光る魔方陣が現れる。それらは線で繋がり円となり、次の瞬間四つの陣から無数の光る矢が射出された。それらは空中で方向を変え一斉にクラガに向かって襲い掛かった。
クラガは籠手で防ぐ事も出来ず、周囲は土煙に覆われた。
「これはもうどうしようもないかな」
矢が現れる直前。レイは冷静にそう呟く。そんなレイに撫でられているアリアはレイにある質問をした。
「さっきの話ですけど、まずクラガに今以上の機動力と魔具の軽量化……というか取り回しの良さがあればって話ですよね」
「そうだね。少なくともそこまでしたら最低ラインに立てるってくらいだけど」
「なら、そのラインにはクラガは立ってると思いますよ」
「……正直君にここまで使うとは思ってなかったよ。十分誇って良いことだ。これを糧にし、更に励むが言い。……聞こえてないだろうがね」
「──十分聞こえてんだよ。上から目線で物言いやがって」
予想だにしていなかった土煙の中からの返答に、シーナが試合初めての驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿な! 威力こそ弱めたが無事でいられるはずが……それに反撃をした気配すら」
「おう、反撃はしてねぇよ。全部躱して、受け止めた。そんだけさ。さっき言ったろうが、お互い様って」
土煙から突き出たのは黒い、機械のような腕。そして現れたソレに、会場はどよめき、シーナは眉をひそめ、アリア一人だけが目を輝かせていた。
シルエットだけで言えば巨大な籠手とは違いクラガ自身と殆ど変わりが無い。しかしソレがクラガ本人だと認識出来たものは殆ど居なかった。
近いもので言えば全身を覆うプルプレートの鎧。しかし全身を隙間無く覆っているにも関わらず特有の重厚さは無く、黒を基調にしたどこか竜を想起させるデザインは寧ろ疾走感を与える程だ。
「さあ、お互い次の手を出したって事で、第二ラウンドと行こうぜ」
「やっぱり変身ヒーローはかっこいいなあ!」
「変……身?」
「……確かにガルシオの奴は普段から素行不良だからな。今更聞かんだろうが、後で私から言っておこう」
三回戦。第三試合。
肩を落とすクラガに銀髪のエルフ──シーナも同様に肩を落とし溜息をつく。
「つーか、容赦の無さでいったらあんたも相当だっての。なんだよあの予選のやつ。今からアレに一人でやるのかと思ったら鳥肌もんだぞ」
「ああ、君は私の担当だったか。道理で見覚えがあると思った。アレは所謂一対多で有用な魔法だ。一対一では寧ろ効率が悪い」
「ってことは一人相手用のアレクラスの魔法があるんだよな。嫌になるな」
クラガは深い溜息をつき、両脇に置いていた腕全体を優に覆う巨大な銀の籠手を装着する。
「……そうは言いながら、その落ち着きはなんだ? 少なくとも緊張や怯えなどは無さそうだ。その籠手だって、私相手に重量物の装備で速度を落とすのは愚策とは分かっているだろう」
「あー……まあな。少なくとも怯えは無ぇな。もっとヤバいやつとやり合ったことはあるし、今回は少なくとも死ぬこたぁ無ぇからな。ただまぁ……つーかお前もどうせ分かってんだろ? さっきの女エルフと俺がパーティで、ついでにアリアっつうガキともってのは」
「……そうか。知っていたか」
「ああ。一瞬目を覚ましたエリシアからな。丁度アリアは居なかったから俺等が知ってるって事は知らねぇよ」
「そうか。それできみはどうする? 彼女と同様私一人でも戦力を減らしてみるかい?」
「あ? しねぇよそんなん面倒くせぇ」
「……え?」
予想外の返事に、シーナは思わず呆けた表情を浮かべた。
「あの竜の事は物語程度にしか知らねぇが、それでも相当ヤバいってのは分かってる。なら潰すなら直ぐだろ。こんな一国の祭りより世界の平和だろうからな。でもそうしねぇって事は何かの判断待ちなんだろ。そんでもってそうならそれはアリアの行動次第でどうなるか……って辺りだろ。なら俺がすることなんざ何もねぇよ」
「驚いたな。君たちの参謀はあのエルフだと聞いていたのだが、間違っていたようだ」
「俺だってそんな大したもんじゃねぇさ。ただアリアはたまに変なところはあるけど基本は見た目通りのガキで、エリシアはちょっと前まで箱入りのお嬢サマだから融通がきかねぇ。だからたまに損な役回りが回ってくんだよ。おら、もういいだろ。そろそろ始めようぜ」
「ああ、そうだな。思わず話しすぎてしまった」
話を切り上げ、二人は所定の位置に着く。クラガは籠手の魔具の発動準備をし、シーナは弓に矢を番える。
『どうやら話はついたようだ! 待たせたなお前等! 三回戦第三試合、おっぱじめるぞ!!』
オルガンの言葉に呼応する観客の声は、疲弊するどころか更に増している。
『まずは挑戦者! アルガーン出身ハイドワーフ、自ら編み出した魔具で戦う魔工戦士!クラガァ!』
「エリシアのに比べて随分適当じゃねぇか?」
『受けて立つはヴォクシーラギルドの森の精霊! その弓から繰り出されるは全てを貫く万の矢! 一弓万矢シーナ・クリューシア!』
「無駄にちゃんと言われる方も然程嬉しくはないさ……」
『両者用意は良いか!? それじゃあ試合……開始ぃ!!』
先に動いたのはクラガだった。右の籠手から炎を噴出させブースターとし、距離を一気に詰める。その一瞬の間に打ち出したシーナの矢は一瞬の間に三本に分裂した。しかしクラガは慌てることなく左籠手を前に出し吹雪のような冷気を噴出し、矢を凍らせ落とす。そしてそのまま振りかぶった右籠手でブースターの勢いそのままシーナに殴りかかるが、シーナも冷静に後ろに飛びそれを躱す。
「なるほど、この程度なら処理しますか。それにその魔具。見た目より応用性もありますね」
「そりゃどう、も!」
続けざまに両籠手によるブースターで先程よりも更に早く跳び、それに合わせシーナも同様に後ろに跳躍。しかしクラガは火力を上げ追うことはせず逆に右籠手の炎を停止。それによりクラガの体は急速に左回転し、突き出した右籠手から広範囲に氷弾を連射する。
「そういう手も出来ますか。では」
対するシーナは迫り来る氷弾から自身に当たるものを判別し三本の矢を同時に番える。そして打ち出された矢はそれぞれ氷弾を打ち抜いても止まらず更に方向を変え次々と打ち落とし、シーナはその場から動くことなく無数の氷弾を躱した。
「この程度の点攻撃じゃあものともしねぇか。しかもその矢。常識外れもいいとこだな」
「おや、意趣返しですか? 言っておきますが、私の弓術はこの程度ではありませんよ」
「お互い様だ。矢で打ち落とせない制圧攻撃してやるぜ」
開始早々の激しい攻防に会場は大いに沸き立っている。しかしその中にいるアリアは不安げな表情を浮かべていた。
怪我の心配の無い安全な試合とはいえ、エリシアの後だと流石に心配せずにはいられなかった。
「アリア見つけた」
「あ、レイさん」
はらはらしながら試合を見守っていると、声をかけられ振り返るとレイが立ってた。
「レイさんも今日は観戦ですか?」
「うん。昨日はみんなはしゃいでたから、今日は宿の中でゆっくりしてる。それでもみんな楽しんでたけど」
そう言いながら、レイはアリアの隣に座った。
「あれ、アリアのパーティの人だっけ」
「はい。私の刀とか防具を作ってくれてるんです。今使ってるあの籠手もお手製の魔具です」
「相手はシーナか。相性は単純に悪そう」
「さっきみたいな小さい物理攻撃だったら防がれてましたけど、例えば炎とか雷とかの無形の攻撃魔法とか、それこそ巨大な氷で押し潰すレベルの事をすれば……」
「シーナが今のままレベルでなら防げないと思うけど、単純に躱されると思う。今はまだ使って無いけど、本来の戦い方なら矢切れも狙えないし、あの機動力程度じゃどうやっても避けきれない」
「じゃあレイさんから見て、どうすればクラガに勝ちが見えると思いますか?」
アリアの質問に、レイは二人の試合の様子を観察し答える。
「さっきも言ったけど、あの籠手を使った移動。考えは良いいど、初速が遅いし、一番速くなってもそこまでの速さじゃない。それにあの大きさ。盾としても使えるし、重さに任せた攻撃はそれなりのものになると思うけど、その重さが弱点。そのせいで取り回しも悪いし、跳躍してもバランスに気を遣って他が疎かになる。例えば出力箇所を分散さたり、軽量化すればだけどそれは今更だし……ごめん。勝ち筋見えないや」
「……レイさんのその正直なところ、良いと思います。機動力と重量の軽減か……」
思い返すように呟くアリアと本人にも気づかれないほどスムーズにアリアを膝に乗せるレイ。そんな二人を余所に試合は更に進んでいた。
二本番え放たれた矢は瞬く間に四本、八本と増え、うねる蛇のような軌道で襲い掛かる。クラガは右籠手から炎を噴射し、更に左籠手から強風を発生させ炎の威力、範囲を増大させ対処する。しかし二本の矢がその炎を掻い潜り、一本は右肩をかすめ、もう一本は左脇に突き刺さった。
「ガッ……!」
「ようやく当たった。凄いな君、十本しか持ってきてなかったとはいえ、全矢打ち尽くしてしまった」
「とことん手ぇ抜いといてよく言う……なっ!」
シーナの言葉に、クラガは突き刺さった矢を無理矢理引き抜いてへし折り、叩き付けた。
「……直ぐ治るとはいえ些か強引じゃないかい?」
「黙ってろ。んで、こっからはどうなるんだ? いくら矢が増えるとはいえ元が無けりゃどうしようもないだろ」
「ああ、そうだね。ここまで耐えた君への誠意だ。せめて最初くらいは避けてくれ」
そう言ってシーナは弓を構える。何も持っていない右手で、何も番えていないはずの弦を引き、放す。
その瞬間、何かがクラガの頬を掠めた。
「……弓使いが矢を使わないとか、反則も良いところだろ」
「魔法が存在している時点で今更だろう」
クラガの引きつった笑みに、シーナはやや自嘲気味な笑みで返す。
「安心してくれ。痛みも感じる暇も無いし、これなら君の評価も落ちることはないさ」
シーナはそう言い、不可視の矢を空へ向かって放つ。一瞬の間を置き、クラガの周囲に四つの光る魔方陣が現れる。それらは線で繋がり円となり、次の瞬間四つの陣から無数の光る矢が射出された。それらは空中で方向を変え一斉にクラガに向かって襲い掛かった。
クラガは籠手で防ぐ事も出来ず、周囲は土煙に覆われた。
「これはもうどうしようもないかな」
矢が現れる直前。レイは冷静にそう呟く。そんなレイに撫でられているアリアはレイにある質問をした。
「さっきの話ですけど、まずクラガに今以上の機動力と魔具の軽量化……というか取り回しの良さがあればって話ですよね」
「そうだね。少なくともそこまでしたら最低ラインに立てるってくらいだけど」
「なら、そのラインにはクラガは立ってると思いますよ」
「……正直君にここまで使うとは思ってなかったよ。十分誇って良いことだ。これを糧にし、更に励むが言い。……聞こえてないだろうがね」
「──十分聞こえてんだよ。上から目線で物言いやがって」
予想だにしていなかった土煙の中からの返答に、シーナが試合初めての驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿な! 威力こそ弱めたが無事でいられるはずが……それに反撃をした気配すら」
「おう、反撃はしてねぇよ。全部躱して、受け止めた。そんだけさ。さっき言ったろうが、お互い様って」
土煙から突き出たのは黒い、機械のような腕。そして現れたソレに、会場はどよめき、シーナは眉をひそめ、アリア一人だけが目を輝かせていた。
シルエットだけで言えば巨大な籠手とは違いクラガ自身と殆ど変わりが無い。しかしソレがクラガ本人だと認識出来たものは殆ど居なかった。
近いもので言えば全身を覆うプルプレートの鎧。しかし全身を隙間無く覆っているにも関わらず特有の重厚さは無く、黒を基調にしたどこか竜を想起させるデザインは寧ろ疾走感を与える程だ。
「さあ、お互い次の手を出したって事で、第二ラウンドと行こうぜ」
「やっぱり変身ヒーローはかっこいいなあ!」
「変……身?」
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