上 下
68 / 126
強者の祭典

本戦前夜

しおりを挟む
「だぁっ、クソ! 全く手も足も出なかった!」
「同じくです……」

 夜。
 大通りにある酒場でクラガは肉の塊に食らいつきながらやけくそ気味に、エリシアはサラダを少しずつつまみながら溜息を漏らしていた。

「で、でも二人とも最後まで残ったんですよね?」
「まあな。でもありゃあ、残ったと言うよりは残らされたって感じだな」
「えぇ。最後まで残れば本戦出場。つまり多すぎれば間延びし、少なければ盛り上がりに欠ける。一定以上の強さを持つものを丁度いい人数選別するためのものだったのでしょう」
 
 え、俺のとこたしか三人くらいしか残って無かったんだけど。なんなら全滅もあったんだけど。

「残った人数は確か……四十人くらいでしたっけ? 三日のトーナメントって考えたらちょっと多くないですか?」
「いや……下手したら少ないくらいだろうよ」
「ええ。何人本当に出るか分かりませんもの」
「あー……確かに」

 今回それぞれが戦った相手は、トーナメントで勝ち進めばいずれ相対する相手でもある。予選みたいな一対多や、直接戦わない形式であれば別だが、今回は何のひねりもない一対一。全く勝てるビジョンが浮かばない。
 要するに出るだけ無駄なのである。

「一勝するごとに何かあるっていうなら別だけどよ、優勝しなきゃってなるとなぁ。元々腕試しで来てんだからこんなこというのもなんだけどよ」
「ん? 何だお前等、聞いてなかったのか? あるぞ、一勝ごとの得点」

 椅子ごと後ろに傾いて愚痴を溢すクラガを覆うように、ラウドが顔を出した。

「ぅおわっ!」
「っと、危ない。驚きすぎだろう」

 流石に予想外すぎる人物の不意の登場にバランスを崩したクラガを、ラウドが椅子を掴み支えた。

「い、いやいや。驚きますって……」
「ギルドマスター、さっきの得点というのは?」
「ん? ああ、辞退を申し込んできた者達に説明していたのだがな、今回は一戦ごとに観客達に賭けをさせる予定でな。運営に入る金額の半額をその試合の勝者に送る予定だ。……あまり褒められたものではないがな」

 豪快に笑うラウドに、一番食いついたのはクラガだった。

「……なあ、大体賭け金ってどのくらい入るんだ?」
「ん? そうだな……。試合の組み合わせや観客の気前の良さ、大番狂わせなどの要素の組み合わせ次第だが……一戦当たり五十万は堅いんじゃないか?」
「ごじゅうまっ!?」

 その数字にクラガは勢いよく立ち上がりラウドの両肩を掴んだ。

「ちょっ、ギルマス、それマジか!?」
「う、うむ。多少の前後はあるだろうが、大きく外れていることはないだろう」
「よし、出るぞ! 俺は出るぞ二人とも!」

 賞金の金額が間違いでないと確信すると、さっきとはうって変わってやる気に満ちあふれてるクラガ。エリシアはそんなクラガに深い溜息を漏らしている。

 ……多分、前に言ってたエリシアの木刀の調達費だろうなあ。それにこの様子だとエリシアには結局言ってないみたいだし、今俺達に頼まない辺り、クラガの根の良さが見えるよなぁ。
 仕方ない。俺も賞金はクラガに譲ってあげよう。

「所で、君たちは皆違う相手と戦っていたな。どうだった?」
 
 いつの間にか注文していた麦酒を呷ると、機嫌が良さそうにラウドが問いかけてきた。

「俺ぁエルフの女だったな。弓使いだったから全員距離を空けず詰めたんだが、どの方向からも一定以上詰められなかった。矢切れを狙ってもみたが、あれは自分の魔力を矢に変換してるんだろうな。一切の隙が無かった」
「ふむ。エリシアはどうだった?」
「私はドワーフの男性でした。身の丈ほどの斧を振り回していたのですが、こちらも衝撃波でまともに近づくことも出来ませんでした」
「ははっ、なるほどな。アリアはどうだ?」
「こっちはヒューマンの男の人でした。格闘主体だったんですが、全員が全く歯が立たず、私も全く太刀打ちできませんでした」
「ほう、君がか。具体的にどう思った?」

 ラウドの興味深そうな問いに、俺は少し考えた。

「えっと……相手は武器無しの格闘、私は刀に魔法と相手の間合いにさえ入らなければ有利に戦える状況でした。でも結果はずっと相手の間合いで、それになんというか、攻撃と攻撃の間隔が殆ど無くて、一度防御に回ると中々反撃に転じられない……って感じでした」
「そうかそうか」

 俺の感想を聞いて、ラウドは何故か楽しげな表情を浮かべていた。

「結構結構。確かに彼らは私の知る中でもトップクラスの実力者だからな。それに最初に言っていたとおり、あれは確かに本戦の出場者を選別するものだったが、それでも残ったということは自信に持って良いぞ」

 その言葉に俺達はどこか歯がゆい気持ちになってしまった。

「そ、そういえばギルドマスターは何故こちらに?」
「ああ、そうだった。すっかり忘れていた」

 恥ずかしさを誤魔化そうとしたエリシアの問いに、ラウドは一枚の紙をテーブルに出した。

「昨夜は余程豪遊したようだな。いやなに、それとこれとは特に関係ないのだがね。皆気合いを入れて本戦頑張ってくれたまえ」

「「「……………………はい」」」

 三人の本戦出場が決定した瞬間だった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...