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強者の祭典
本戦前夜
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「だぁっ、クソ! 全く手も足も出なかった!」
「同じくです……」
夜。
大通りにある酒場でクラガは肉の塊に食らいつきながらやけくそ気味に、エリシアはサラダを少しずつつまみながら溜息を漏らしていた。
「で、でも二人とも最後まで残ったんですよね?」
「まあな。でもありゃあ、残ったと言うよりは残らされたって感じだな」
「えぇ。最後まで残れば本戦出場。つまり多すぎれば間延びし、少なければ盛り上がりに欠ける。一定以上の強さを持つものを丁度いい人数選別するためのものだったのでしょう」
え、俺のとこたしか三人くらいしか残って無かったんだけど。なんなら全滅もあったんだけど。
「残った人数は確か……四十人くらいでしたっけ? 三日のトーナメントって考えたらちょっと多くないですか?」
「いや……下手したら少ないくらいだろうよ」
「ええ。何人本当に出るか分かりませんもの」
「あー……確かに」
今回それぞれが戦った相手は、トーナメントで勝ち進めばいずれ相対する相手でもある。予選みたいな一対多や、直接戦わない形式であれば別だが、今回は何のひねりもない一対一。全く勝てるビジョンが浮かばない。
要するに出るだけ無駄なのである。
「一勝するごとに何かあるっていうなら別だけどよ、優勝しなきゃってなるとなぁ。元々腕試しで来てんだからこんなこというのもなんだけどよ」
「ん? 何だお前等、聞いてなかったのか? あるぞ、一勝ごとの得点」
椅子ごと後ろに傾いて愚痴を溢すクラガを覆うように、ラウドが顔を出した。
「ぅおわっ!」
「っと、危ない。驚きすぎだろう」
流石に予想外すぎる人物の不意の登場にバランスを崩したクラガを、ラウドが椅子を掴み支えた。
「い、いやいや。驚きますって……」
「ギルドマスター、さっきの得点というのは?」
「ん? ああ、辞退を申し込んできた者達に説明していたのだがな、今回は一戦ごとに観客達に賭けをさせる予定でな。運営に入る金額の半額をその試合の勝者に送る予定だ。……あまり褒められたものではないがな」
豪快に笑うラウドに、一番食いついたのはクラガだった。
「……なあ、大体賭け金ってどのくらい入るんだ?」
「ん? そうだな……。試合の組み合わせや観客の気前の良さ、大番狂わせなどの要素の組み合わせ次第だが……一戦当たり五十万は堅いんじゃないか?」
「ごじゅうまっ!?」
その数字にクラガは勢いよく立ち上がりラウドの両肩を掴んだ。
「ちょっ、ギルマス、それマジか!?」
「う、うむ。多少の前後はあるだろうが、大きく外れていることはないだろう」
「よし、出るぞ! 俺は出るぞ二人とも!」
賞金の金額が間違いでないと確信すると、さっきとはうって変わってやる気に満ちあふれてるクラガ。エリシアはそんなクラガに深い溜息を漏らしている。
……多分、前に言ってたエリシアの木刀の調達費だろうなあ。それにこの様子だとエリシアには結局言ってないみたいだし、今俺達に頼まない辺り、クラガの根の良さが見えるよなぁ。
仕方ない。俺も賞金はクラガに譲ってあげよう。
「所で、君たちは皆違う相手と戦っていたな。どうだった?」
いつの間にか注文していた麦酒を呷ると、機嫌が良さそうにラウドが問いかけてきた。
「俺ぁエルフの女だったな。弓使いだったから全員距離を空けず詰めたんだが、どの方向からも一定以上詰められなかった。矢切れを狙ってもみたが、あれは自分の魔力を矢に変換してるんだろうな。一切の隙が無かった」
「ふむ。エリシアはどうだった?」
「私はドワーフの男性でした。身の丈ほどの斧を振り回していたのですが、こちらも衝撃波でまともに近づくことも出来ませんでした」
「ははっ、なるほどな。アリアはどうだ?」
「こっちはヒューマンの男の人でした。格闘主体だったんですが、全員が全く歯が立たず、私も全く太刀打ちできませんでした」
「ほう、君がか。具体的にどう思った?」
ラウドの興味深そうな問いに、俺は少し考えた。
「えっと……相手は武器無しの格闘、私は刀に魔法と相手の間合いにさえ入らなければ有利に戦える状況でした。でも結果はずっと相手の間合いで、それになんというか、攻撃と攻撃の間隔が殆ど無くて、一度防御に回ると中々反撃に転じられない……って感じでした」
「そうかそうか」
俺の感想を聞いて、ラウドは何故か楽しげな表情を浮かべていた。
「結構結構。確かに彼らは私の知る中でもトップクラスの実力者だからな。それに最初に言っていたとおり、あれは確かに本戦の出場者を選別するものだったが、それでも残ったということは自信に持って良いぞ」
その言葉に俺達はどこか歯がゆい気持ちになってしまった。
「そ、そういえばギルドマスターは何故こちらに?」
「ああ、そうだった。すっかり忘れていた」
恥ずかしさを誤魔化そうとしたエリシアの問いに、ラウドは一枚の紙をテーブルに出した。
「昨夜は余程豪遊したようだな。いやなに、それとこれとは特に関係ないのだがね。皆気合いを入れて本戦頑張ってくれたまえ」
「「「……………………はい」」」
三人の本戦出場が決定した瞬間だった。
「同じくです……」
夜。
大通りにある酒場でクラガは肉の塊に食らいつきながらやけくそ気味に、エリシアはサラダを少しずつつまみながら溜息を漏らしていた。
「で、でも二人とも最後まで残ったんですよね?」
「まあな。でもありゃあ、残ったと言うよりは残らされたって感じだな」
「えぇ。最後まで残れば本戦出場。つまり多すぎれば間延びし、少なければ盛り上がりに欠ける。一定以上の強さを持つものを丁度いい人数選別するためのものだったのでしょう」
え、俺のとこたしか三人くらいしか残って無かったんだけど。なんなら全滅もあったんだけど。
「残った人数は確か……四十人くらいでしたっけ? 三日のトーナメントって考えたらちょっと多くないですか?」
「いや……下手したら少ないくらいだろうよ」
「ええ。何人本当に出るか分かりませんもの」
「あー……確かに」
今回それぞれが戦った相手は、トーナメントで勝ち進めばいずれ相対する相手でもある。予選みたいな一対多や、直接戦わない形式であれば別だが、今回は何のひねりもない一対一。全く勝てるビジョンが浮かばない。
要するに出るだけ無駄なのである。
「一勝するごとに何かあるっていうなら別だけどよ、優勝しなきゃってなるとなぁ。元々腕試しで来てんだからこんなこというのもなんだけどよ」
「ん? 何だお前等、聞いてなかったのか? あるぞ、一勝ごとの得点」
椅子ごと後ろに傾いて愚痴を溢すクラガを覆うように、ラウドが顔を出した。
「ぅおわっ!」
「っと、危ない。驚きすぎだろう」
流石に予想外すぎる人物の不意の登場にバランスを崩したクラガを、ラウドが椅子を掴み支えた。
「い、いやいや。驚きますって……」
「ギルドマスター、さっきの得点というのは?」
「ん? ああ、辞退を申し込んできた者達に説明していたのだがな、今回は一戦ごとに観客達に賭けをさせる予定でな。運営に入る金額の半額をその試合の勝者に送る予定だ。……あまり褒められたものではないがな」
豪快に笑うラウドに、一番食いついたのはクラガだった。
「……なあ、大体賭け金ってどのくらい入るんだ?」
「ん? そうだな……。試合の組み合わせや観客の気前の良さ、大番狂わせなどの要素の組み合わせ次第だが……一戦当たり五十万は堅いんじゃないか?」
「ごじゅうまっ!?」
その数字にクラガは勢いよく立ち上がりラウドの両肩を掴んだ。
「ちょっ、ギルマス、それマジか!?」
「う、うむ。多少の前後はあるだろうが、大きく外れていることはないだろう」
「よし、出るぞ! 俺は出るぞ二人とも!」
賞金の金額が間違いでないと確信すると、さっきとはうって変わってやる気に満ちあふれてるクラガ。エリシアはそんなクラガに深い溜息を漏らしている。
……多分、前に言ってたエリシアの木刀の調達費だろうなあ。それにこの様子だとエリシアには結局言ってないみたいだし、今俺達に頼まない辺り、クラガの根の良さが見えるよなぁ。
仕方ない。俺も賞金はクラガに譲ってあげよう。
「所で、君たちは皆違う相手と戦っていたな。どうだった?」
いつの間にか注文していた麦酒を呷ると、機嫌が良さそうにラウドが問いかけてきた。
「俺ぁエルフの女だったな。弓使いだったから全員距離を空けず詰めたんだが、どの方向からも一定以上詰められなかった。矢切れを狙ってもみたが、あれは自分の魔力を矢に変換してるんだろうな。一切の隙が無かった」
「ふむ。エリシアはどうだった?」
「私はドワーフの男性でした。身の丈ほどの斧を振り回していたのですが、こちらも衝撃波でまともに近づくことも出来ませんでした」
「ははっ、なるほどな。アリアはどうだ?」
「こっちはヒューマンの男の人でした。格闘主体だったんですが、全員が全く歯が立たず、私も全く太刀打ちできませんでした」
「ほう、君がか。具体的にどう思った?」
ラウドの興味深そうな問いに、俺は少し考えた。
「えっと……相手は武器無しの格闘、私は刀に魔法と相手の間合いにさえ入らなければ有利に戦える状況でした。でも結果はずっと相手の間合いで、それになんというか、攻撃と攻撃の間隔が殆ど無くて、一度防御に回ると中々反撃に転じられない……って感じでした」
「そうかそうか」
俺の感想を聞いて、ラウドは何故か楽しげな表情を浮かべていた。
「結構結構。確かに彼らは私の知る中でもトップクラスの実力者だからな。それに最初に言っていたとおり、あれは確かに本戦の出場者を選別するものだったが、それでも残ったということは自信に持って良いぞ」
その言葉に俺達はどこか歯がゆい気持ちになってしまった。
「そ、そういえばギルドマスターは何故こちらに?」
「ああ、そうだった。すっかり忘れていた」
恥ずかしさを誤魔化そうとしたエリシアの問いに、ラウドは一枚の紙をテーブルに出した。
「昨夜は余程豪遊したようだな。いやなに、それとこれとは特に関係ないのだがね。皆気合いを入れて本戦頑張ってくれたまえ」
「「「……………………はい」」」
三人の本戦出場が決定した瞬間だった。
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