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強者の祭典

統合武道祭典・予選終了

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「近くで見てもただのガキじゃねぇか。ほんとにこの中にあの竜がいるんだろうな?」
「え?」

 一瞬の動揺。その僅かな時間は、ガルシオの蹴りがアリアの腹部を捉えるには十分な時間だった。

「――――ッ!」

 フィールド中央の壁に叩き付けられ、体の前後から襲い掛かる痛みに苦しむアリアをガルシオは冷めた目で見下ろしていた。

「……あ? んだよ。景気よく吹っ飛んだなぁおい。おっさん連中の読み外れてたんじゃねぇか?」

 気怠げに頭をかきながら背を向け、次の瞬間背後からの斬撃を回し蹴りで受け止めた。

「ハッ、後ろから斬りかかるなんざ怖ぇなおい!」
「じゃあ笑って受け止めないでください、よ!」

 攻撃が防がれたと判断すると、素早く後ろに下がり再び前へ蹴り出して斬りかかるアリア。レイから教わった刀術を駆使し、流れるような絶え間ない斬撃を浴びせ続ける。

 端から見ればそれはアリアが優勢に映っていただろう。実際ガルシオは手足につけた薄いプレートでアリアの刀を防ぎ続ける事だけを強いられていた。
 しかし、アリアは人間相手に全力で刀を向けることに抵抗があったのかもしれない。今この場面においてもそうかは定かではないが、少なくとも普段は訓練以外ではあまり良しとしてはいなかった。それが関係したのか、それとも単純な実力差か、一方的に攻撃を続けていたアリアは徐々に押され始め、気づけば防御を強いられ始めていた。

「おいおい、この速さでもう追いつけないのかよ! もっと上げてやろうかぁ!?」
「このっ……!」

 圧倒的な速さで繰り出される徒手空拳に長物の刀で対抗するのは不利と判断し一旦距離を置こうと後ろに下がるが、それすら逃さず間隔を空けることなくガルシオも踏み込み絶え間なく蹴りと拳を浴びせ続ける。

 速く動く敵との戦いに関してはレイとの特訓でかなり慣れているはずだった。だがレイの速さはいわば移動の速さ。その場に留まっての斬り合いならばアリアでも何とか同等に食らいつけていた。しかしガルシオの速さはレイとは逆のその場で繰り出す速さ。アリアは防御に徹する事でなんとか凌いでいる状態だった。
 
「つうかよぉ、なんで刀しか使ってこねぇんだよ。とっくにタネは割れてんだ。あの竜の力でもなんでも使ってこいよ」
「何のことですか!」
「しらばっくれんのか……しゃあねぇ」

 そう呟くとガルシオは一瞬攻撃の手を止めた。防御に徹し反撃の機会を伺っていたアリアはその隙を見逃さなかった。あからさまに誘い込むように作られた隙に反射的に飛び込んでしまった。
 左下からの斬撃を体を逸らして躱し、そのままアリアの手首を左手で掴みがら空きとなった腹部に右手を突き出す。

「――全く。こいつはどれだけ言っても甘い。貴様もそう思うだろう?」

 手首を掴まれていることなど全く関係ないように、肘と膝でガルシアの右拳を挟んで受け止めたアリア――ドラグニールは不適な笑みを浮かべた。

「ッハ、ようやくお出ましか、化物が」
「……我としたことが、まんまとおびき出されてしまったか」

 右手を引き抜き笑みを浮かべるガルシオに、ドラグニールは悪態をつき刀を納める。

「……あ? おいおい、何仕舞ってんだよ。面白ぇのはここからだろうが」
「貴様こそ何を言っている。我はルールに従ってやっているだけだぞ」
「なに言って――」

 ガルシオがドラグニールの言葉に眉をひそめると、甲高いラッパ音が会場に響き渡った。

『そこまでぇぇぇいっ! テメェ等手を止めな!』

 ドルガンの威勢の良い声が響き渡り、予選の終了を告げた。

「あァ? くっだらねぇ。気にすんな、遠慮無くやり合おうぃダァ!?」

 ルールなど関係ないと構えるガルシオだったが、背後から後頭部を殴られてしまう。

「ッテェなユリーン、邪魔すんじゃねぇ!」
「そりゃ勝手なことしたら殴りますよ」

 ユリーンと呼ばれたどこか頼りなさげな印象を覚える男が、ガルシオを殴った木製のボードを抱えて溜息をついていた。

「すみませんねアリアさん。うちのが無茶させちゃって。ともかく本戦出場おめでとう。挨拶はまたの機会に。ほら、帰るよ」
「……チッ」

 ユリーンは手早く挨拶を済ませると出口へ向かって歩き出し、ガルシオも一度だけドラグニールを睨み付けると、ユリーンの後ろをついて行った。

「……あの男、見た目の割に肝が据わっておるの」
 ――なあドラグニール、なんで急に出てきたんだよ。
「気づかなかったのか阿呆。あの小僧の最後の一撃。まともに食らえば風穴が空いておったぞ」
 ――げ、マジかよ。
「まあこの体はそれでも死なんがな。既に一度空いとるし」

 珍しく軽口を言いながら、ドラグニールは去って行くガルシオの右拳を見ていた。

 最後の一撃。あれは確かにこやつを殺す気だった。しかし受け止める寸前、明らかに威力を弱めよった。それに、奴の右拳、確かに骨を砕いたはずだ。感触はあった。目でも捉えた。しかし――何故既に治っている?

「――やはり、まんまとおびき出されただけだったか」
 ――さっきも言ってたけど、それってどういう意味だ?
「なんでもないわ間抜けめ」
 ――ひっで。
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