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強者の祭典
集結
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「お、もう皆揃っていたか。すまない」
扉を開け中の十二人が座る円卓を見渡すと、軽く手を上げ言葉だけの謝罪をしたラウドが空いている二席の片方に座った。
「なぁに、構わんさ。ところでレイはどうした? 一緒ではないのか?」
「ああ、今回は別行動だ。何も無ければ確か今日着の運行馬車で着くはずだ」
「そうか。報告によれば最近魔物の活動が活発になっているそうだ。何事も無ければ良いが」
「ケッ。あいつが死んだらそれこそ大問題じゃねえか。俺がお迎えに行ってやろうか?」
上座に座る老人――ユリウスが長い髭を撫でながら問いラウドが答えていると、ユリウスの隣でふんぞり返り机に脚を乗せている銀髪の青年が軽薄な笑みを浮かべ口を挟んだ。
「黙っとれガルシオ。……それで、ラウドよ。この報告は誠か?」
ユリウスはガルシオを叱ると、咳払いをし一枚の紙を取り出した。
「アルガーンの冒険者アリア。記憶喪失で森を彷徨っていたところを保護。見た目にそぐわぬ強さを持ち間もなくAランクへ。要因としてあの鬼神と二戦、ゴーレムマスターと一戦交え全て生還。またその身に高位の存在を憑依させている」
「ええ。間違いありません」
「そしてあくまで推測の域を出ないが、その存在とはかの邪竜、ドラグニールである、と」
ユリウスの言葉に、部屋中に動揺が広がる。
「馬鹿な! あれは勇者によって封印されている筈でしょう!?」
悲鳴にも近い老婆の声に、ラウドは静かに頷いた。
「はい。あの封印は範囲内の生物の命を原動力に発動する最上位魔法。それが解けるのはあの邪竜が死ぬときのみ。更にあの洞窟自体にも細工がされており、外からはあらゆる生物が入れず、中からは人間のみ出られるという代物です」
「でしたら!」
「以前その森周辺で魔物の強化種の異常発生という現象がありました。原因は封印の解放。封印内の邪竜の魔力が洞窟外に漏れ出していたことです」
「聞いておる。その後貴様の私兵に調査に行かせたのだろう?」
「ええ。ダルナの報告によれば中はもぬけの殻。漏れ出した魔力は残滓すら残っておりませんでした。そしてその問題を解決したのがアリアです」
ラウドの言葉を聞き、ユリウスは目を細める。
「確かに。そのアリアに憑いているのが邪竜であれば自身の魔力を戻すだけ、容易いだろう。しかしそれだけではちと弱いな」
「それともう一つ。竜の目、奴らが彼女に目をつけているようです」
「奴らが……なるほどな。確定ではないが可能性としては最有力、という辺りか。で? 貴様のことだ。ここからが本題なのだろう?」
薄く笑う老人に、ラウドをにやりと頬を釣り上げる。
「彼女を祭典に参加させてます。結果次第でしょうが、ここに参加させても良いかと」
ラウドの言葉に、再び部屋中に動揺が広がる。しかしそれは部屋にいる者の四人――ラウドとユリウスを除く各地のギルドのギルドマスターだけだった。
「……ケッ、くだらねえ。俺ぁ先に戻るぜ」
「私も失礼しよう。議題はこれ以上無いようだし、あったとしても私がいる意味は無いでしょう」
「我も同意だ」
「え、あっ、えっと……わっ、私も、しし失礼します!」
隣で狼狽えるギルドマスターをよそに、ガルシオ、鈍色の髪のエルフの女性、ドワーフの男、小柄な女性が各々退室すると、老人が深い溜息をついた。
「全く。相変わらずあいつらは自由が過ぎる。自身の強さを免罪符か何かと勘違いしよって」
「ハハッ。実際皆少なからずそう思ってますよ」
ユリウスの言葉に隣に座る金髪の青年が苦笑いを浮かべる。
「エクシア。纏めろとはいわんが、ある程度はだな」
「無茶言わないで下さいよ。それに皆、あれでどうしたら良いか分かってますよ。要は見極めれば良いんですよね。その少女が僕たちと並び立てる存在か。ただの人間か。それとも――討伐対象か」
好青年という印象が似合うエクシアから発せられたと思えないほど、その言葉にはその場にいる者を僅かながら萎縮させるほどの何かが含まれていた。
「では僕もこれで。僕一人だったらむしろ居ない方が話も進むでしょう」
ニコリと笑みを浮かエクシアが部屋を出ると、やや張り詰めた部屋がようやく弛緩した。
「いやはや。彼には時々してやられますな。流石は”英雄”」
「全くですな。今日もうちのが失礼を」
「いやいや。”牙狼”の名に相応しいではないですか」
「自由でつかみ所が無いという点で言えば、貴様の”神速”もその通りじゃな」
「ハハ。全くユリウス様は手厳しい」
まだ納得し切れていない者もいる中、ラウドとユリウス、ガルシオの隣に座っていた頼りなさげな男だけが冗談を言い合う余裕を持っていた。
***
「へくちっ」
「冷えた? ……くしゅん」
馬車の幌の上にレイと座っていると、ずっと風に当たって冷えたのか二人そろってくしゃみをしてしまった。
馬車の旅は初日こそ魔物に襲われたが、それ以降は平和な者だった。念のため俺とレイ、クラガとエリシアが交代で辺りを見張っていたが、遭遇どころか魔物を見かけることすら無かった。
「日差しも丁度良くって暖かい位なんですけどね。誰か噂でもしてるんですかね?」
「噂? なんで?」
……こっちにはそういう通説は無いのか。
ガタガタと揺れていた馬車がやや穏やかになり、踏み固められただけの道が舗装された石造りの道に変わっていると気づいたとき、目的地に近づいている実感を持った。
「距離はもうちょっとあるけど、この丘を登り切ったら一望できたと思うよ」
「え、本当ですか!?」
レイの言葉を受けて荷馬車の先頭へ移動し今か今かと丘の向こう側を待ち望んでいると、やがて見えた光景に俺は思わず声を漏らした。
アルガーンもそれなりに発展している国ではあるが、赤いレンガ造りの建物が多い、イメージしやすい中世ファンタジーの世界だった。
しかし丘の頂上に着いた俺の目に最初に入ったのは、円状の国の中心にそびえ立つ白亜の塔だ。形状は恐らく円形。周囲の建物とは比べものにならない程高く伸びている。
その塔を中心に大通りが放射状に広がり、多くの屋台や行き交う人々の数を見ると、恐らくあの大通りがメインストリートに当たるのだろう。
城門の内外にも多くの馬車や人の姿が確認でき、それだけでこの国の賑わいが想像できる。
「あれがアルプロンタ。たくさんの人や物、情報が一日で駆け巡る、ギルド加盟国で最も勢いのある国。通常貿易国家」
「貿易国家……」
あまりの興奮に繰り返す事しかできないでいると、言いようのない何かを感じて塔の中程を見た。
「どうしたの?」
「いえ……」
何か……見られてる?
――そのようだ。よく気づいたな。
やっぱり? にしてもこの感じ……何か嫌な感じだな。
――殺気……とはいかんが、それに近しいものだな。
何だってそんな。多分俺のこと知ってる奴いないだろ。
――……どうだろうな。
それきりドラグニールは黙り込んでしまった。
一抹の不安を覚えたまま、俺はアルプロンタへ向かうのだった。
***
「おい、あれか?」
「そうでしょう」
アルプロンタの中央の塔――通称アークス――の中層で、ガルシオと鈍色の髪のエルフが窓から国外を見ていた。
肉眼では国外の丘を下る馬車らしきものがようやく見える程度だが、彼らにはその先頭の荷馬車の幌の上に座る二人の姿もはっきり認識できていた。
「ふん。ただのガキじゃねぇか」
「さっきそう言っていただろう」
「うっせーぞシーナ。……お、気づいた。クソ魔王とやり合ったってのはマジみてぇだな。で、どう思うよ?」
「どうもこうも。一度戦えばわかることです」
興味なさそうに呟くと、シーナはその場を後にした。
「……相変わらずつまんねぇ女だ。あの竜に一番思うところがあんのはテメェだろうに」
くだらないとばかりに言うと、ガルシオは再び視線を外に移し、アリアの姿を見た。
「……ケッ、ウザってぇな」
誰に言うでもなく漏らしたその言葉には、僅かな、しかし確かな憎しみが込められていた。
扉を開け中の十二人が座る円卓を見渡すと、軽く手を上げ言葉だけの謝罪をしたラウドが空いている二席の片方に座った。
「なぁに、構わんさ。ところでレイはどうした? 一緒ではないのか?」
「ああ、今回は別行動だ。何も無ければ確か今日着の運行馬車で着くはずだ」
「そうか。報告によれば最近魔物の活動が活発になっているそうだ。何事も無ければ良いが」
「ケッ。あいつが死んだらそれこそ大問題じゃねえか。俺がお迎えに行ってやろうか?」
上座に座る老人――ユリウスが長い髭を撫でながら問いラウドが答えていると、ユリウスの隣でふんぞり返り机に脚を乗せている銀髪の青年が軽薄な笑みを浮かべ口を挟んだ。
「黙っとれガルシオ。……それで、ラウドよ。この報告は誠か?」
ユリウスはガルシオを叱ると、咳払いをし一枚の紙を取り出した。
「アルガーンの冒険者アリア。記憶喪失で森を彷徨っていたところを保護。見た目にそぐわぬ強さを持ち間もなくAランクへ。要因としてあの鬼神と二戦、ゴーレムマスターと一戦交え全て生還。またその身に高位の存在を憑依させている」
「ええ。間違いありません」
「そしてあくまで推測の域を出ないが、その存在とはかの邪竜、ドラグニールである、と」
ユリウスの言葉に、部屋中に動揺が広がる。
「馬鹿な! あれは勇者によって封印されている筈でしょう!?」
悲鳴にも近い老婆の声に、ラウドは静かに頷いた。
「はい。あの封印は範囲内の生物の命を原動力に発動する最上位魔法。それが解けるのはあの邪竜が死ぬときのみ。更にあの洞窟自体にも細工がされており、外からはあらゆる生物が入れず、中からは人間のみ出られるという代物です」
「でしたら!」
「以前その森周辺で魔物の強化種の異常発生という現象がありました。原因は封印の解放。封印内の邪竜の魔力が洞窟外に漏れ出していたことです」
「聞いておる。その後貴様の私兵に調査に行かせたのだろう?」
「ええ。ダルナの報告によれば中はもぬけの殻。漏れ出した魔力は残滓すら残っておりませんでした。そしてその問題を解決したのがアリアです」
ラウドの言葉を聞き、ユリウスは目を細める。
「確かに。そのアリアに憑いているのが邪竜であれば自身の魔力を戻すだけ、容易いだろう。しかしそれだけではちと弱いな」
「それともう一つ。竜の目、奴らが彼女に目をつけているようです」
「奴らが……なるほどな。確定ではないが可能性としては最有力、という辺りか。で? 貴様のことだ。ここからが本題なのだろう?」
薄く笑う老人に、ラウドをにやりと頬を釣り上げる。
「彼女を祭典に参加させてます。結果次第でしょうが、ここに参加させても良いかと」
ラウドの言葉に、再び部屋中に動揺が広がる。しかしそれは部屋にいる者の四人――ラウドとユリウスを除く各地のギルドのギルドマスターだけだった。
「……ケッ、くだらねえ。俺ぁ先に戻るぜ」
「私も失礼しよう。議題はこれ以上無いようだし、あったとしても私がいる意味は無いでしょう」
「我も同意だ」
「え、あっ、えっと……わっ、私も、しし失礼します!」
隣で狼狽えるギルドマスターをよそに、ガルシオ、鈍色の髪のエルフの女性、ドワーフの男、小柄な女性が各々退室すると、老人が深い溜息をついた。
「全く。相変わらずあいつらは自由が過ぎる。自身の強さを免罪符か何かと勘違いしよって」
「ハハッ。実際皆少なからずそう思ってますよ」
ユリウスの言葉に隣に座る金髪の青年が苦笑いを浮かべる。
「エクシア。纏めろとはいわんが、ある程度はだな」
「無茶言わないで下さいよ。それに皆、あれでどうしたら良いか分かってますよ。要は見極めれば良いんですよね。その少女が僕たちと並び立てる存在か。ただの人間か。それとも――討伐対象か」
好青年という印象が似合うエクシアから発せられたと思えないほど、その言葉にはその場にいる者を僅かながら萎縮させるほどの何かが含まれていた。
「では僕もこれで。僕一人だったらむしろ居ない方が話も進むでしょう」
ニコリと笑みを浮かエクシアが部屋を出ると、やや張り詰めた部屋がようやく弛緩した。
「いやはや。彼には時々してやられますな。流石は”英雄”」
「全くですな。今日もうちのが失礼を」
「いやいや。”牙狼”の名に相応しいではないですか」
「自由でつかみ所が無いという点で言えば、貴様の”神速”もその通りじゃな」
「ハハ。全くユリウス様は手厳しい」
まだ納得し切れていない者もいる中、ラウドとユリウス、ガルシオの隣に座っていた頼りなさげな男だけが冗談を言い合う余裕を持っていた。
***
「へくちっ」
「冷えた? ……くしゅん」
馬車の幌の上にレイと座っていると、ずっと風に当たって冷えたのか二人そろってくしゃみをしてしまった。
馬車の旅は初日こそ魔物に襲われたが、それ以降は平和な者だった。念のため俺とレイ、クラガとエリシアが交代で辺りを見張っていたが、遭遇どころか魔物を見かけることすら無かった。
「日差しも丁度良くって暖かい位なんですけどね。誰か噂でもしてるんですかね?」
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「え、本当ですか!?」
レイの言葉を受けて荷馬車の先頭へ移動し今か今かと丘の向こう側を待ち望んでいると、やがて見えた光景に俺は思わず声を漏らした。
アルガーンもそれなりに発展している国ではあるが、赤いレンガ造りの建物が多い、イメージしやすい中世ファンタジーの世界だった。
しかし丘の頂上に着いた俺の目に最初に入ったのは、円状の国の中心にそびえ立つ白亜の塔だ。形状は恐らく円形。周囲の建物とは比べものにならない程高く伸びている。
その塔を中心に大通りが放射状に広がり、多くの屋台や行き交う人々の数を見ると、恐らくあの大通りがメインストリートに当たるのだろう。
城門の内外にも多くの馬車や人の姿が確認でき、それだけでこの国の賑わいが想像できる。
「あれがアルプロンタ。たくさんの人や物、情報が一日で駆け巡る、ギルド加盟国で最も勢いのある国。通常貿易国家」
「貿易国家……」
あまりの興奮に繰り返す事しかできないでいると、言いようのない何かを感じて塔の中程を見た。
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「いえ……」
何か……見られてる?
――そのようだ。よく気づいたな。
やっぱり? にしてもこの感じ……何か嫌な感じだな。
――殺気……とはいかんが、それに近しいものだな。
何だってそんな。多分俺のこと知ってる奴いないだろ。
――……どうだろうな。
それきりドラグニールは黙り込んでしまった。
一抹の不安を覚えたまま、俺はアルプロンタへ向かうのだった。
***
「おい、あれか?」
「そうでしょう」
アルプロンタの中央の塔――通称アークス――の中層で、ガルシオと鈍色の髪のエルフが窓から国外を見ていた。
肉眼では国外の丘を下る馬車らしきものがようやく見える程度だが、彼らにはその先頭の荷馬車の幌の上に座る二人の姿もはっきり認識できていた。
「ふん。ただのガキじゃねぇか」
「さっきそう言っていただろう」
「うっせーぞシーナ。……お、気づいた。クソ魔王とやり合ったってのはマジみてぇだな。で、どう思うよ?」
「どうもこうも。一度戦えばわかることです」
興味なさそうに呟くと、シーナはその場を後にした。
「……相変わらずつまんねぇ女だ。あの竜に一番思うところがあんのはテメェだろうに」
くだらないとばかりに言うと、ガルシオは再び視線を外に移し、アリアの姿を見た。
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