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強者の祭典
小休止・たき火の側で
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夜。運行馬車の補給所に着いた俺達は、荷物を宿泊部屋に置き思い思いに過ごしていた。
周囲を木製の柵で囲われたここには何頭も馬を休ませられそうな大きな馬小屋と倉庫。関係者用の宿泊小屋とそれよりも少し大きい乗客用の宿泊小屋があった。道中のように魔物に襲われたらと思うと心許ない設備ではあるが、各地の補給所には国から派遣された兵士が常駐しているし、そもそも魔物の住処から離れた場所に作られているから、襲われることは滅多に無いそうだ。
……まあ最も、今回に限っては例え襲われたとしても安心だろうけど。
そんなことを思いながら、隣に座って一緒にたき火を眺めているレイに話しかけた。
「それにしれも、レイさんや園の皆が一緒にいたなんて驚きましたよ。やっぱりアルプロンタのお祭りですか?」
「うん。あんなことがあったから、皆にも気分転換が必要だと思って」
レイはそう言い、たき火から目線を外す。エリシアと楽しそうに話す女の子やクラガと遊ぶ男の子達を見て、彼女は安心したような笑みを浮かべた。
「ちゃんと楽しめるか不安だったんだけど、これなら大丈夫みたい」
「子供って私達が思ってるよりずっと強いですよね」
「うん。……?」
しまった。俺も全然子供じゃん。レイが同意したものの微妙な違和感に首を傾げてしまっている。
「あっ、そうだ! 私達統合武道祭典に出るんですけど、レイさんも出るんですか?」
なんとか誤魔化そうと、統合武道祭典についてレイに聞いてみた。
なんだかんだまだ詳しくは知らないし、レイなら出たこともあるだろう。
「どうしようかな。出たいって訳じゃないし、何より今回は皆と一緒にいたいから」
正直ちょっとほっとした。目的は腕試しで試合形式も知らないけど、レイさんが相手だともう負けが確定したようなもんだからな。
「そうなんですね。良かったらどんな内容か教えてくれませんか?」
「どんな……。結構毎年違うんだよね」
「そうなんですか?」
「うん。実戦で戦うっていうことは変わらないんだけどね。一対一のトーナメントだったり即席のチーム戦だったり、調教師の手なずけた魔物と戦ったり。いつも開会式と同時に形式を知らされるの」
「なるほど……どんな形式であっても順応出来る能力が必要って感じですかね」
「そうだね。でも君なら良いところまで行けると思うよ」
「そっ、そうですかね?」
俺の中ではレイは師匠的な立ち位置になっていて、しかも美人ってことも相まってこう正面から褒められるとどうにも恥ずかしくなってしまう。
「えへへ……っと、ニーア?」
恥ずかしさに頭をかいているといきなり後ろから抱きつかれ、振り向くと相変わらず無表情のニーアがいた。
「久しぶり。どうしたの?」
「…………」
「えっと……」
「…………」
「レイさんも何両手広げてるんですか」
「抱きつかれ待ち」
正直か。
「前から思ってたけど、ニーアがこんなに懐いてるなんて珍しいね。他の女の子とは一緒にいることもあるけど、それ以外の人とは全然だもん」
「そうなの?」
無表情というか仏頂面とも言えそうな顔を俺の肩に乗せてぼうっとたき火を眺めているニーアに問いかけると、きょとんとした顔に変わって首を傾げた。
いや可愛いな。
それからまた他愛の無い話をしたり他の子供達と混じって遊んだりと、楽しい声を夜に響かせて過ごした。
周囲を木製の柵で囲われたここには何頭も馬を休ませられそうな大きな馬小屋と倉庫。関係者用の宿泊小屋とそれよりも少し大きい乗客用の宿泊小屋があった。道中のように魔物に襲われたらと思うと心許ない設備ではあるが、各地の補給所には国から派遣された兵士が常駐しているし、そもそも魔物の住処から離れた場所に作られているから、襲われることは滅多に無いそうだ。
……まあ最も、今回に限っては例え襲われたとしても安心だろうけど。
そんなことを思いながら、隣に座って一緒にたき火を眺めているレイに話しかけた。
「それにしれも、レイさんや園の皆が一緒にいたなんて驚きましたよ。やっぱりアルプロンタのお祭りですか?」
「うん。あんなことがあったから、皆にも気分転換が必要だと思って」
レイはそう言い、たき火から目線を外す。エリシアと楽しそうに話す女の子やクラガと遊ぶ男の子達を見て、彼女は安心したような笑みを浮かべた。
「ちゃんと楽しめるか不安だったんだけど、これなら大丈夫みたい」
「子供って私達が思ってるよりずっと強いですよね」
「うん。……?」
しまった。俺も全然子供じゃん。レイが同意したものの微妙な違和感に首を傾げてしまっている。
「あっ、そうだ! 私達統合武道祭典に出るんですけど、レイさんも出るんですか?」
なんとか誤魔化そうと、統合武道祭典についてレイに聞いてみた。
なんだかんだまだ詳しくは知らないし、レイなら出たこともあるだろう。
「どうしようかな。出たいって訳じゃないし、何より今回は皆と一緒にいたいから」
正直ちょっとほっとした。目的は腕試しで試合形式も知らないけど、レイさんが相手だともう負けが確定したようなもんだからな。
「そうなんですね。良かったらどんな内容か教えてくれませんか?」
「どんな……。結構毎年違うんだよね」
「そうなんですか?」
「うん。実戦で戦うっていうことは変わらないんだけどね。一対一のトーナメントだったり即席のチーム戦だったり、調教師の手なずけた魔物と戦ったり。いつも開会式と同時に形式を知らされるの」
「なるほど……どんな形式であっても順応出来る能力が必要って感じですかね」
「そうだね。でも君なら良いところまで行けると思うよ」
「そっ、そうですかね?」
俺の中ではレイは師匠的な立ち位置になっていて、しかも美人ってことも相まってこう正面から褒められるとどうにも恥ずかしくなってしまう。
「えへへ……っと、ニーア?」
恥ずかしさに頭をかいているといきなり後ろから抱きつかれ、振り向くと相変わらず無表情のニーアがいた。
「久しぶり。どうしたの?」
「…………」
「えっと……」
「…………」
「レイさんも何両手広げてるんですか」
「抱きつかれ待ち」
正直か。
「前から思ってたけど、ニーアがこんなに懐いてるなんて珍しいね。他の女の子とは一緒にいることもあるけど、それ以外の人とは全然だもん」
「そうなの?」
無表情というか仏頂面とも言えそうな顔を俺の肩に乗せてぼうっとたき火を眺めているニーアに問いかけると、きょとんとした顔に変わって首を傾げた。
いや可愛いな。
それからまた他愛の無い話をしたり他の子供達と混じって遊んだりと、楽しい声を夜に響かせて過ごした。
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