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パーティ結成
クラガの試験・意地
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エリシアとセリアが試験を行っている隣の部屋では、同じように二人の男が向き合っていた。
一人はギルドの教官の男。かなり大柄なヒューマンの男で、鍛え抜かれた筋肉を見せつけるかのように上半身は裸だった。もう一人はハイ・ドワーフのクラガ。背負っていた大きな荷袋を脇に下ろし軽くストレッチを行っていた。
「俺がお前の試験を担当するグロームだ。試験内容は知っているか?」
「ああ、戦闘試験だっけか? 基準までは知らねぇけどな」
「おう。まあ基準なんてのは担当する奴によって違ぇが、運がいいなお前。俺のは飛び切りシンプル、何なら今教えてやるよ」
グロームはゴキリと首を鳴らすと、不敵な笑みを浮かべた。
「俺に膝をつかせる、たったそれだけだ」
「……見た目通りの脳筋かよ」
クラガは苦笑し、荷袋を開いた。
「そういやお前、鍛冶師なんだってな。得物も自分製か? 剣でも斧でもなんでもいいぜ」
「いんや。残念ながら俺はその手のものを作れはすれど扱うのは苦手みたいでな」
両腕を袋の中に突っ込みながらグロームの問いに答える。
「んじゃハンマーとかか? 毎日振ってんだろ?」
「ハンマーって、まあ似たようなもんか。生憎とそれは商売道具で、造るものであって殺すものじゃねぇよ。俺にあるのは技術と、まあそのハンマーを毎日振ってきたこの腕だけだ」
袋から引き抜いたクラガの腕を見て、グロームが興味深げな声を上げた。
その両腕には鈍色の籠手。否、籠手というにはそれはあまりに大きすぎた。
拳をすっぽりと覆い肩近くまで伸びるそれは、大きい籠手というよりは一回り大きな鉄の腕を装備しているようだった。手の甲に当たる部分には赤、青、緑、黄色の楕円形の鉱石がはめ込まれている。
「随分と面白れぇもん作ってきたな。長物使うのが普通のご時世に殴って戦おうってのが俺以外にもいるとはな」
「やっぱアンタも……って見た目通りか」
「おうよ! 俺はこの鍛えぬいた体だけで勝負してんだ! どれ、珍しい殴り屋同士のよしみだ。先手はくれてやる。打ち込んできな」
グロームは心地打ち込めという様に自身の腹を指さす。
「へぇ。いいのかよ」
「おう。防ぎもしねぇ。真っ向から受け止めてやらぁ」
自信満々のグロームに、クラガは腰を低く落とし右足と右腕を後ろに下げる。
(まずは様子見……いや、こんな好条件で打ち込める機会なんざまともにやったらあるわけねぇ。始めっから全力で!)
一瞬の思考の末、クラガは短く息を吸い右腕に力を込める。それに呼応するように右の籠手の赤い鉱石が輝きだした。
「オラァァ!!」
右腕を繰り出した瞬間、籠手からブースターのように炎が吐き出され加速。驚異的な速度を得た鉄の塊がグロームの腹を捕らえ、殴り飛ばした。
「……っつう。やっぱ反動がとんでもねぇな。あ、おい! 大丈夫か!?」
クラガは痛みを取ろうと軽く右腕を動かしながら、グロームへと声をかける。吹き飛ばされた巨体は壁に激突し、その姿を隠すほどの粉塵がクラガの一撃を証明していた。
「――構えな」
粉塵の奥から響く低い声。その声にとっさにクラガは先ほどと同じ構えをとった。しかしそれは間違いだったと次の瞬間思い知った。
「……っ!?」
瞬きほどの刹那。否、実際クラガは瞬きもせずじっと前を見据えていたのだが、それでも無意識のうちにしていたのでは。そう思うほど、グロームの拳がクラガの胸を捕らえるのは早かった。
「がっ……は……!」
クラガは床を無様に転がりながら、既に肺に残っていない空気を押し出すようにせき込んだ。
「いやぁ驚いたぜ。まさかあんな仕組みがあるとはな。思わず開始一秒で膝ついちまうとこだったぜ。にしても構えなって言ったじゃねぇか。なんで防御してねぇんだよ」
「んなもん……分かるかよ……!」
豪快に笑うグロームにクラガは悪態をつきながらゆっくり立ち上がる。
「ほーう。俺の一撃をまともに食らって立てるか。根性あるじゃねぇか。じゃ、次行くぜぇ!」
笑みが豪快から獰猛に変わり、グロームはクラガに向けて突進する。クラガはとっさに両腕の籠手を盾の様にしグロームの一撃を受けるが、衝撃までは受け止められずそのまま吹き飛ばされてしまう。
「こんの……!」
クラガは素早く両腕に力を込め後ろへやると、緑の鉱石が光り強風が吹きだされブレーキとなりクラガの体が壁にぶつかる事はなかった。
「とんでもねぇな。あの巨体であのスピード。威力は見た目通り……悪夢かよ」
「おいおい、威勢がいいのは最初だけか? おら、来いよ」
明らかな挑発と分かりながら、しかしクラガは正面から乗った。
右の籠手の青い鉱石が発光し、クラガが空を殴ろうとするとそこに氷塊が現れ、クラガに殴り飛ばされた氷塊はグロームに向かって襲い掛かる。
「ぬぅん!」
グロームは氷塊を正面から殴り壊し、そのままクラガへ向かって突進する。
クラガは横に飛び退いてグロームの拳を躱すが、続けざまに放たれた二撃目はその風圧だけでクラガを吹き飛ばした。
「とんでもないにも程があんだろ。化物かよ」
「……チッ。おい白けさせんなよ。逃げてばっかでよぉ、やる気あんのか? テメェ冒険者になりに来たんだろうが。なんで冒険者になろうとしてんだ、よっ!」
グロームは落胆した表情を浮かべ、終わらせようとその巨体に力を込め弾かれたように飛び出す。
――どうする? 防ぐにしても吹っ飛ばされるし、真後ろは壁だ。それはマズい。ならさっきみたいに横に躱し……。
そこまで考えたところで、ふとクラガの思考に先ほどのグロームの言葉が入り込む。
――俺は何でこんなことを、冒険者になろうとしている? あいつに……アリアに守られっぱなしなのが、あんな小せぇ、無茶ばっかするガキに守られっぱなしなのが嫌で、そんな俺が気にくわなくて、守るとまでは行かなくても、横で支えるくらいはしようと思ったからだろ?
正面から迫るグロームをまっすぐ見据え、クラガは右腕と右足を後ろに引き腰を落とす。
――あいつは力を持ってるくせに、使い方が下手で、いつもボロボロになっても向かっていく。そんなあいつの横になるんなら、あいつよりも弱い俺はもっと……無茶しねぇと行けねぇよなぁ!
「……ああ、いいさ。冒険者になるんだもんな」
小さく呟く。右の籠手の赤い鉱石が強く輝く。籠手が徐々に熱を帯び始める。
「冒険してやらぁぁあああ!!!」
籠手が炎を吹き出し、繰り出す腕が加速する。グロームの拳もクラガの拳に迫る速さで繰り出され、両者の拳が正面からぶつかり合った。
「ハッハァ! いいじゃねぇか!」
「うっせぇぞ肉達磨!」
両者の拳は拮抗し、やがて弾かれ合った。そして、その後の行動も同じだった。
クラガは左の籠手を加速させ、グロームは左の拳を強く握り、再びぶつけ合い、弾かれ合う。そして右を繰り出し、弾かれ、左を繰り出し。何度も繰り返されたぶつかり合いは、しかしすぐに終わりを迎えた。
何度目かの右のぶつかり合い。そして弾かれた瞬間、再び右の籠手は炎を吐き出した。
「んなっ!?」
グロームにとって想定外の一撃。殴り合いの序盤でならまだしも、何度も続いた乱打は、そのリズムを体に覚えさせてしまっていた。
なんとか出した左腕の防御も間に合わず、クラガの右籠手はグロームの顎を捉えた。
一人はギルドの教官の男。かなり大柄なヒューマンの男で、鍛え抜かれた筋肉を見せつけるかのように上半身は裸だった。もう一人はハイ・ドワーフのクラガ。背負っていた大きな荷袋を脇に下ろし軽くストレッチを行っていた。
「俺がお前の試験を担当するグロームだ。試験内容は知っているか?」
「ああ、戦闘試験だっけか? 基準までは知らねぇけどな」
「おう。まあ基準なんてのは担当する奴によって違ぇが、運がいいなお前。俺のは飛び切りシンプル、何なら今教えてやるよ」
グロームはゴキリと首を鳴らすと、不敵な笑みを浮かべた。
「俺に膝をつかせる、たったそれだけだ」
「……見た目通りの脳筋かよ」
クラガは苦笑し、荷袋を開いた。
「そういやお前、鍛冶師なんだってな。得物も自分製か? 剣でも斧でもなんでもいいぜ」
「いんや。残念ながら俺はその手のものを作れはすれど扱うのは苦手みたいでな」
両腕を袋の中に突っ込みながらグロームの問いに答える。
「んじゃハンマーとかか? 毎日振ってんだろ?」
「ハンマーって、まあ似たようなもんか。生憎とそれは商売道具で、造るものであって殺すものじゃねぇよ。俺にあるのは技術と、まあそのハンマーを毎日振ってきたこの腕だけだ」
袋から引き抜いたクラガの腕を見て、グロームが興味深げな声を上げた。
その両腕には鈍色の籠手。否、籠手というにはそれはあまりに大きすぎた。
拳をすっぽりと覆い肩近くまで伸びるそれは、大きい籠手というよりは一回り大きな鉄の腕を装備しているようだった。手の甲に当たる部分には赤、青、緑、黄色の楕円形の鉱石がはめ込まれている。
「随分と面白れぇもん作ってきたな。長物使うのが普通のご時世に殴って戦おうってのが俺以外にもいるとはな」
「やっぱアンタも……って見た目通りか」
「おうよ! 俺はこの鍛えぬいた体だけで勝負してんだ! どれ、珍しい殴り屋同士のよしみだ。先手はくれてやる。打ち込んできな」
グロームは心地打ち込めという様に自身の腹を指さす。
「へぇ。いいのかよ」
「おう。防ぎもしねぇ。真っ向から受け止めてやらぁ」
自信満々のグロームに、クラガは腰を低く落とし右足と右腕を後ろに下げる。
(まずは様子見……いや、こんな好条件で打ち込める機会なんざまともにやったらあるわけねぇ。始めっから全力で!)
一瞬の思考の末、クラガは短く息を吸い右腕に力を込める。それに呼応するように右の籠手の赤い鉱石が輝きだした。
「オラァァ!!」
右腕を繰り出した瞬間、籠手からブースターのように炎が吐き出され加速。驚異的な速度を得た鉄の塊がグロームの腹を捕らえ、殴り飛ばした。
「……っつう。やっぱ反動がとんでもねぇな。あ、おい! 大丈夫か!?」
クラガは痛みを取ろうと軽く右腕を動かしながら、グロームへと声をかける。吹き飛ばされた巨体は壁に激突し、その姿を隠すほどの粉塵がクラガの一撃を証明していた。
「――構えな」
粉塵の奥から響く低い声。その声にとっさにクラガは先ほどと同じ構えをとった。しかしそれは間違いだったと次の瞬間思い知った。
「……っ!?」
瞬きほどの刹那。否、実際クラガは瞬きもせずじっと前を見据えていたのだが、それでも無意識のうちにしていたのでは。そう思うほど、グロームの拳がクラガの胸を捕らえるのは早かった。
「がっ……は……!」
クラガは床を無様に転がりながら、既に肺に残っていない空気を押し出すようにせき込んだ。
「いやぁ驚いたぜ。まさかあんな仕組みがあるとはな。思わず開始一秒で膝ついちまうとこだったぜ。にしても構えなって言ったじゃねぇか。なんで防御してねぇんだよ」
「んなもん……分かるかよ……!」
豪快に笑うグロームにクラガは悪態をつきながらゆっくり立ち上がる。
「ほーう。俺の一撃をまともに食らって立てるか。根性あるじゃねぇか。じゃ、次行くぜぇ!」
笑みが豪快から獰猛に変わり、グロームはクラガに向けて突進する。クラガはとっさに両腕の籠手を盾の様にしグロームの一撃を受けるが、衝撃までは受け止められずそのまま吹き飛ばされてしまう。
「こんの……!」
クラガは素早く両腕に力を込め後ろへやると、緑の鉱石が光り強風が吹きだされブレーキとなりクラガの体が壁にぶつかる事はなかった。
「とんでもねぇな。あの巨体であのスピード。威力は見た目通り……悪夢かよ」
「おいおい、威勢がいいのは最初だけか? おら、来いよ」
明らかな挑発と分かりながら、しかしクラガは正面から乗った。
右の籠手の青い鉱石が発光し、クラガが空を殴ろうとするとそこに氷塊が現れ、クラガに殴り飛ばされた氷塊はグロームに向かって襲い掛かる。
「ぬぅん!」
グロームは氷塊を正面から殴り壊し、そのままクラガへ向かって突進する。
クラガは横に飛び退いてグロームの拳を躱すが、続けざまに放たれた二撃目はその風圧だけでクラガを吹き飛ばした。
「とんでもないにも程があんだろ。化物かよ」
「……チッ。おい白けさせんなよ。逃げてばっかでよぉ、やる気あんのか? テメェ冒険者になりに来たんだろうが。なんで冒険者になろうとしてんだ、よっ!」
グロームは落胆した表情を浮かべ、終わらせようとその巨体に力を込め弾かれたように飛び出す。
――どうする? 防ぐにしても吹っ飛ばされるし、真後ろは壁だ。それはマズい。ならさっきみたいに横に躱し……。
そこまで考えたところで、ふとクラガの思考に先ほどのグロームの言葉が入り込む。
――俺は何でこんなことを、冒険者になろうとしている? あいつに……アリアに守られっぱなしなのが、あんな小せぇ、無茶ばっかするガキに守られっぱなしなのが嫌で、そんな俺が気にくわなくて、守るとまでは行かなくても、横で支えるくらいはしようと思ったからだろ?
正面から迫るグロームをまっすぐ見据え、クラガは右腕と右足を後ろに引き腰を落とす。
――あいつは力を持ってるくせに、使い方が下手で、いつもボロボロになっても向かっていく。そんなあいつの横になるんなら、あいつよりも弱い俺はもっと……無茶しねぇと行けねぇよなぁ!
「……ああ、いいさ。冒険者になるんだもんな」
小さく呟く。右の籠手の赤い鉱石が強く輝く。籠手が徐々に熱を帯び始める。
「冒険してやらぁぁあああ!!!」
籠手が炎を吹き出し、繰り出す腕が加速する。グロームの拳もクラガの拳に迫る速さで繰り出され、両者の拳が正面からぶつかり合った。
「ハッハァ! いいじゃねぇか!」
「うっせぇぞ肉達磨!」
両者の拳は拮抗し、やがて弾かれ合った。そして、その後の行動も同じだった。
クラガは左の籠手を加速させ、グロームは左の拳を強く握り、再びぶつけ合い、弾かれ合う。そして右を繰り出し、弾かれ、左を繰り出し。何度も繰り返されたぶつかり合いは、しかしすぐに終わりを迎えた。
何度目かの右のぶつかり合い。そして弾かれた瞬間、再び右の籠手は炎を吐き出した。
「んなっ!?」
グロームにとって想定外の一撃。殴り合いの序盤でならまだしも、何度も続いた乱打は、そのリズムを体に覚えさせてしまっていた。
なんとか出した左腕の防御も間に合わず、クラガの右籠手はグロームの顎を捉えた。
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