竜神に転生失敗されて女体化して不死身にされた件

一 葵

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パーティ結成

エリシアの試験・魔法の弱点

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 小さな窓が幾つか設置されただけの石造りの広い部屋。その部屋の中心に向かい合う様にして二人の女性が立っていた。

 一人はアルガーンのギルドの教官の制服である黒地に白のラインの入った衣服の、黒い髪を後ろで短くまとめたヒューマンの女性。もう一人は緑のローブを羽織った金髪のエルフ――エリシアだった。

「エリシアさん、ね。私は教官のセリア。武器はその木の剣かしら、珍しいわね。それとやっぱり魔法かしら?」
「ええ。それで、試験というのは戦闘試験ですの?」
「そうね。私に負けたら失格なんて厳しいものじゃないから安心してね? ああでも、私も魔法主体なのよね。ただの試験だから勿論危険なものは禁止だけど、エルフの貴女相手にどこまで行けるかしら。ふふ」

 冗談めかした口調で笑うセリアに、エリシアはムッとした表情を浮かべる。声音こそ優しいものだったが、暗にこちらは手加減するが、そっちは本気で来ていいと言われているのだ。

「勝つに越したことはなさそうですわね。もう始めても?」
「ええ。いつでも」

 木刀を構えるエリシアに対し、にこりと笑みを浮かべ軽く手を広げるセリア。その瞬間エリシアが動いた。
 羽織っていたローブを勢いよく投げつけ死角を作り、その下から這うように走り斬りかかる。

「っ……!?」

 しかしその斬撃はセリアの足を捕らえられなかった。

(躱された……? いえ、そんな素振りは……)
「速いわね。じゃあ次はこちらから」

 セリアがエリシアの足元を指さした瞬間、魔力が高まるのを感じエリシアが素早く飛びのくとその場所が小さく爆ぜた。

(魔弾? いえ、何かが発せられたようには見えなかった。何の魔法ですの?)
「ほらほら。どんどん行くわよ!」

 セリアが空をなぞるように指先を逃げるエリシアに向けると、見えない何かが追ってくるように小さな爆発は床に小さな亀裂を作りながらエリシアに迫ってきた。

「くっ……!」

 エリシアは辛うじて逃げながら、思考を加速させていた。

(あの爆発は指さした先で発生している。先ほどから足元ばかり狙っているのは意図的? それともそういう魔法……ああもう! こんな走りながらまともに考えられるわけ!)
風刃エアリアルカット!」

 なんとか隙を作ろうと木刀に魔力を乗せ放った風刃エアリアルカットだったが、刃はセリアの前で見えない壁に阻まれ消失した。

「……当然魔障壁マジックシールドで防がれますわよね」
(落ち着きなさいエリシア。一度にあれこれ考える隙なんて贅沢なもの求めてはいけません。一つずつ試していくのです)

 エリシアは冷静になるよう自分に言い聞かせ、次の策を練る。

「逃げ回るだけ? 私ちょっと飽きてきて来ちゃった」
「言われなくても! 豪炎衝波フレイストーム!」

 魔力を乗せ突きだたれた木刀の先から現れた巨大な火球はセリアに向かって真っすぐ襲い掛かったが、再びその手前で止まってしまった。

「さっきと同じ? 駄目よそんなんじゃ」
「いいえ、こちらが本命です!」

 火球が焼失した次の瞬間、その陰から木刀を構えたエリシアが飛び出してきた。

「せい!」

 完全に虚を突いた振り下ろし。しかしそれすらもセリアは片手で受け止めてしまった。

「ざーんねん」
「まだまだ!」

 先ほどの指さしの爆発を至近距離で受けないための連撃。しかしその全ての斬撃をセリアはいとも容易く受け止め、受け流す。

「後衛の魔法職なら近接で倒せると思った? 確かに近寄られたら不利になるけれど、だからこそ自衛の術は誰よりも持ってるべきなのよ」

 木刀を防ぎながらも余裕そうに言うセリアに、エリシアは一つの疑念を抱いていた。

(おかしい。明らかに余裕すぎます。確かにこの方の自衛の術は本物ですが、こんなに打ち込んでいるのに集中が乱れるどころか受け止めた痛みすら感じていない?)

 その時、エリシアは木刀を受け止めた手を注視してようやく気付いた。受け止める寸前、掌に何か小さな障壁が展開されていることに。

魔障壁マジックシールド!?)

 魔障壁マジックシールドは魔力で構成された魔法を防ぐことが出来る魔法であり、物理攻撃を防ぐなどエリシアは聞いたことがなかった。

(……仮にあれが物理攻撃を防ぐ魔障壁マジックシールドの亜種魔法として、なぜそんなものを張る必要が? 彼女の動作は完璧に私の太刀筋を捕らえている。そもそもそんな動作をせずともただ立って障壁を張ればいいだけ。なぜこのようにあたかも手で受け止めている様に騙す必要が……騙す?)

 自身の思考に引っかかりを感じ、エリシアは一度後ろへ飛び距離を取った。そんな彼女を見て何か感じ取ったと気づいたのか、セリアが口を開いた。

「特別にサービスしておこうかしら。魔法を使う人の多くが魔法名を口に出すじゃない。どうしてか知っている?」
「……えぇ。私自身がしてますもの。スイッチのようなものでしょう?」
「そう。魔法の原理は体内の魔力を発動したい魔法に合うように練り、形にし、放出する。口で言うのは簡単だけど、結構この工程って複雑なのよね。だからこその魔法名」
「その工程を魔法名の発声と共に体に沁み込ませ、発声をスイッチとして反射的に魔法を発動する。それがどうかしましたの?」
「私ね、それってとっても無意味だと思うの。だってそうでしょう? 魔法名の発声は相手にとってもメリットが多いじゃない。貴女だって、その剣では出来てるのに魔法ではしないのが当たり前みたいに思ってるし」
「……一体何のことですの?」
「ふふ。サービスはここまで。それじゃ、再開ね」

 にこりと笑みを浮かべると、セリアは再びエリシアの足元を指さし、エリシアも駆け出した。

(魔法名発声の相手へのメリット……剣ではやっていて魔法ではやっていないこと……まさか!)

 エリシアは一つの予感に辿り着き、セリアに気づかれないようほんの一瞬右手の人差し指をセリアに向け、魔力を練っただけの単純な塊をセリアに向け射出した。

「当たり」

 放たれた魔力弾はやはりセリアに当たることなく手前で止まり消失した。しかしその位置は先ほどまでの魔法の攻撃に比べセリアに近づいていた。

「そうそう。発声って今から魔法使いますよ、その魔法はこういう魔法ですよってご丁寧に教えちゃってるのよね。相手が言葉の通じない低級の魔物なら別にいいんだけど、上級の魔物や、それこそ人間だったら親切にもほどがあるわよね」

 やれやれといった風にため息をつくセリア。エリシア自分の予感が当たったことを確信し、次の疑問を考えていた。

(発声なしの魔法の発動。そして勝ち負けでなく見極める試験。つまり教官はこの見えない魔弾と障壁のほかにも何かを使っている可能性があって、それを見つけることが鍵)

 そこまでは分かったが、その鍵が何なのかまだエリシアは辿り着けていなかった。しかしそのきっかけになるかもしれない疑問を、彼女は試験の初めから抱いていた。

(最初のローブの目くらましからの初太刀。その後の豪炎衝波フレイストームを陰からの振り下ろし。教官はまるで見えていたように防いだ。そこにヒントが……まさか! いえ、けれどそれしか考えられない!)

 自身の中で一つの回答に行きつき、それを確かめるためにエリシアは木刀を腰に収め、両手の指先に魔力をこめ左右に広げ、放出。更に魔力をこめ、放出。計二十の魔力弾を狙いもつけず放った。

「何をしてくれるかと期待してたんだけど、やけになっちゃった?」

 セリアは呆れたように言い、当然のように障壁を展開し、いくつか向かってきた魔力弾を受け止める。しかしその魔力弾は消失することなく、ボールのように跳ね返った。

「なっ……まさか!」

 セリアに向かってきたものだけではない。エリシアが放った二十……いや、更に続けて放った四十の弾丸が部屋の中を縦横無人に跳ね回っていた。

「先ほどのアドバイスを参考にさせてもらいましたわ。最初の魔力弾と同じ動きで何かにぶつかると跳ね返るという特性を付与させた魔力跳弾を放ってみました。こうすると魔法名の発声が如何に無駄かわかりますわね」

 エリシアも自身の周囲に障壁を展開し自身の放った魔力跳弾を防ぎ、なおも追ってくる破裂の追跡から逃げながら、その目は部屋中を忙しなく捉えようと動き回っていた。

「それに魔法の発生のタイミングも撹乱できる。攻撃魔法ではすぐに目に見える形で現れますから別ですが、他の魔法なら効果は高まりますわね。例えば……姿を消す魔法とか」

 そして捉えた。部屋の端で、魔力跳弾が何もない空中で跳ねたのを。セリアが何も来ていない頭上へ手をやったのを。

 その瞬間、エリシアが跳ねた。
 身体強化魔法で脚力を限界まで引き上げ、部屋の端の何もないところへ跳躍し、居合切りのように抜き振り下ろした木刀を、その途中、丁度セリアの肩ほどの高さで止めた。

「……お見事。合格よ」

 何もない空間から声がしたと思えば、部屋の中央のセリアの姿が霧のように消え、代わりにエリシアの目の前にセリアの姿が現れた。

「驚いちゃったわ。私の試験、結構難しいって評判なのに」
「……そうでしょうね」

 おどけたように言うセリアにエリシアはぐったりとした様子で返した。

「今まで戦っていたのは自分と同じ動きをする偽物を作る魔法。自分は姿を消す魔法で見えないようにし、あたかも偽物が本物のように錯覚するよう動いていたなんて……ご丁寧に障壁で剣を受け止めてるようにしてまで……当然死角もないですわよね……」
「あれ凄いでしょ? かなり練習したのよねー。でもちょっと違うわね。あれは発動者と同じ動きをする偽物じゃなくて、考えた通りに動く偽物。だから反射的に動いちゃうと最後みたいに偽物を動いちゃうのよね」
「……ちょっと待ってください。教官はロビーからずっと一緒でしたわよね。もしかして」
「そうそう。その時から当然偽物よ。最も――」
「最も? 教官?」

 不自然に言葉を切ってにこにこと笑うセリアにエリシアが首をかしげ、突然後ろから肩を叩かれ振り返ると方におかれた手の伸ばされた人差し指がエリシアの頬をつついた。

「それも偽物だけどね」
「……えぇ」

 にこにこと背後で笑うセリアを見て、エリシアはため息をつくしかなかった。
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