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温室育ちの彼女の想い

彼と彼女の決意

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「おお、あれこそ正しく我等が王の焔! やはりお告げは間違っていなかった!」

 ローブの集団は俺の焔を見ると歓喜の声を上げ、俺を捕らえようと向かってくる。

「しつこ……っ!?」

 返り討ちにしようと刀を構えなおしたが、限界を迎えたのか操作念糸マリオネットリールが解除されその場に倒れ込んでしまう。

「「アリア!」」

 クラガとエリシアが後ろから走ってくるのが音で分かるが、多分ローブの集団の方が早い。仮に二人の方が早くてもその後どうすれば……!

「――鋼糸・縛」

 その瞬間、ローブの集団の動きが不自然に止まった。まるで見えない何かに縛られているような……。

「危なかったねぇ……思ったよりギリギリだったみたいだねぇ……」
「ダルナさん……? なんで……」

 ローブの集団の後ろからふらりとダルナがこちらへ歩いてきた。

「そりゃあ……街中でどうどう攻撃魔法が使われてて……それに加えて異常な魔力がここから発せられてたからねぇぶっ」
「アリアちゃん!」

 ダルナがゆらゆらとゆっくり近づいてくると思ったら、突然跳ね飛ばされて後ろからケーデが駆け寄ってきた。

「酷い怪我……待っててね、私が綺麗に治してあげるから」

 そう言ってケーデは俺を抱き抱え回復魔法を発動する。ああ……柔らかい……何がとは言わないけど柔らかい……。

「痛い……とてもぞんざいに扱われた気がする……」

 ダルナは拗ねたような口調で立ち上がると、一番近くのローブの男に近づいた。

「この仮面……やっぱ例の胡散臭い教団の一味なのかなぁ……」
「胡散臭いとは無礼な! あのお方こそこの世界を統べるに相応しいお方! 我等はあのお方を崇める崇高な教だ――」

 男は最後まで言い終わる前に、細切れの肉塊へと崩れ落ちた。

「そういうのはいいんだよねぇ……君らのアジトとかぁ……潜伏先とかぁ……後はぁ……まあ……聞きたいことはいっぱいあるんだけどぉ……どうせ教えてはくれないんだろうねぇ……」
「当たり前だ! 貴様等なんぞに我等の目的を邪魔されてなるものか!」
「だよねぇ……どうせ君らなんて使い捨ての先兵程度なんだろうしねぇ……じゃあ、いいか」

 ダルナは最後に酷く冷たい声で呟くと、両腕を勢い良く左右へと広げた。

「鋼糸・千片万華」

 その瞬間、二十を超える白いローブの集団が紅く弾けた。文字通り千の欠片に崩れ、万の華のように飛沫を上げながら、白いローブの集団は紅い塊に成り果てた。

「うぷっ……」
「きゃ、アリアちゃん大丈夫? ちょっと、ダルナ教官! やるならもっと綺麗にしてくださいよ!」
「だって元々全身縛ってたしぃ……わざわざ縛りなおすのも面倒だしぃ……」
「そういう問題じゃ……はぁ……」

 諦めたようにため息をつくケーデ。
 ……ダルナの面倒くさがりはもう誰かがどうこう出来るようなものではないしなぁ。

「ダルナさん。あのローブの集団って……」
「こいつらは”竜の目”っていう……宗教団体……みたいな? あの邪竜を崇拝してるっていう集まりでねぇ……団体自体は昔からあったんだけど……最近急に活発になってきてねぇ……時期的にもあの邪竜の気配が消えた時と一致してるんだよねぇ……」

 ……明らかにお前のことだよな。何お前、そんな団体従えてたの?

 ――知らぬわ。可笑しな人間どもが勝手に集まっとるだけだろう。

 まあそんな気はしてたけど。

「ところで……」

 不意にダルナは俺の方をちらりと見た。

「僕もさっき来たところだからぁ……一部始終見聞きしてたわけじゃないから……教えてほしいんだけど、なんであいつ等に襲われてたの?」
「……っ」

 そうだ。最初俺はあいつ等をアルガーンのエルフ族の要人であるエリシアを狙った集団だと思っていたが、正体を聞くに俺……俺の中のドラグニールを狙って来ていた。なんで俺の中にドラグニールがいるのか分かったのかは分からないけど、それは間違いないだろう。

 そして俺の知っているドラグニールからはあまりそんな気はしないが、こいつはかつて世界を滅ぼして、封印された邪竜だ。俺はそのことを知らないが、恐らくそれは事実なのだろう。そんな存在が俺の中にいると知られれば、穏便な雰囲気にはまずならないだろう。どう切り抜ける……?

「んなの俺らが知りてぇよ。まあ俺は巻き込まれた様なもんだが」
「全くですわ。私もアリアと楽しくお買い物をしていただけですのに」

 どういい返すか考えていると、後ろからクラガとエリシアが悪態をつきながら近づいてきた。

「そうなんだ……通りでアリアちゃん可愛い服着てると思ったぁ……」
「本当。でも残念ね、こんなボロボロになっちゃって……」

 ケーデが俺の着ているドレスを撫でながら残念そうに呟く。

 さっきまで必死で全く気にしてなかったけど、そういえば俺エリシアが買ってくれたドレス着たままだったな。爆発とか炎とかで最早ドレスっぽい布を羽織っているというほうが近いけど……これ確かかなりいい値段いってたような……。

「構いませんわ。お友達にまた新しいプレゼントが送れると考えれば楽しみが増えるというものです」

 そう言ってエリシアはにこりと微笑む。ほんと初対面の印象とは真逆すぎる本性だよなぁ。

「貴女……もしかしてエリシア様!?」

 エリシアの姿を見て、ケーデが思わず耳を塞ぎたくなるほどの驚きの声を上げ、エリシアも面食らったような表情を浮かべながら頷いた。

「え、ええ。私はアルガーン国エルフ族代表ノクトアール家第三皇女のエリシアですが……」
「あ、すっ、すいません! 私ったら驚いてしまって……つい……」
「いえ、お気になさらず……あら、貴女ハーフエルフなのね?」

 ケーデの何かを感じ取ったのか、エリシアはケーデをジッと見るとそう言った。

 ていうかケーデさんってハーフエルフなの? そういわれれば耳がちょっと尖っているような……ないような? 
 ……そういえばギルドの冒険者のエルフが言ってたけど、エルフは純血至上主義な人が多くて混血のハーフエルフを嫌う人も多いって……これは不味いか?

 ケーデもそう思ったのかとっさに耳を手で隠して顔をそむけた。しかしエリシアはその手を掴みケーデの耳を露わにさせると、ケーデの目を真っ直ぐ見た。

「なぜ隠すのです。貴女は貴女の母君と父君が種族を超え愛を成した、その結晶なのです。誇りこそすれ、隠す必要がどこにあるのです。確かに今は貴女の様な存在をよく思わないエルフがいることは確かです。ですが貴女の存在はそうでないエルフがいる証拠でもあるのです。それに――」

 エリシアは一度言葉を切ると、俺を抱きしめ花のような笑顔を浮かべた。

「私自身がヒューマンであるアリアとこんなに仲良しなんですもの! きっと直ぐにそんな偏見無くして見せますわ! ……けれどもそれは簡単なことでないの。貴女も協力してくださる?」
「――はい!」

 優しく微笑み差し出した手を、ケーデは涙を浮かべながら握った。

 ……ほんと、いい人だよな。いつもは我儘お姫様演じてるのがもう信じられない……ん?

「私、エリシア様のこと誤解してたみたいで……とても我儘なお姫様って聞いてたから、てっきりハーフエルフの私をよく思わないかなって……」
「え? ……あっ! あー……いやですわね! 私はちゃんと我儘な……ね!?」

 ようやく気付いたのかしどろもどろに言い訳をひねり出そうとして、最後に助けを求めるようにこちらに視線を向けるエリシア。

 残念だが流石に無理だ。

 黙って目をつぶって首を振る俺に、エリシアはがくりと肩を落とす。

 まあエリシアのあの演技は家の人をだますものであって、一冒険者のケーデにばれたところでどうってことはないだろう。

「……ねぇ、そろそろいいかなぁ……? 一応今回のことギルドに報告しないとだからぁ……アリアちゃんにも来て欲しいんだけどぉ……」
「あ、はい。分かりました」

 地面にのの字を書く作業に飽きたのか、ダルナが立ち上がってそう言った。

 ……この人なんか今日散々だな。

 ケーデの魔法でかなり体力も回復したのか、快調ではないが普通に歩けるほどには回復しており、俺は立ち上がると刀を持ってクラガさんの方へ歩いた。

「すいません。まだ未完成なのに無茶な使い方して鞘壊してしまって……」
「気にすんな。俺が完成を先延ばしにしてたのにも責任があるんだ。あんときのオリハルコンはまだ余ってるしな。今度はもっと気合入れて作ってやらぁ」

 ニカリと笑って乱雑に俺の頭を乱暴に撫でるクラガ。こうやって俺が落ち込まないよう励ましてくれているのだろう。

「ありがとうございます! エリシアさんも、今日は遊んでくれてありがとうございました。また今度遊びに行きましょうね!」
「ええ、きっと」

 俺は手を振って二人に別れを言うとケーデとダルナに合流した。

「あ、ダルナ教官はここの掃除してからギルドに来てくださいね」
「えっ……」
「当たり前じゃないですか。ここはギルドの私有地でもなければ国外でもないんですよ。人の家の軒先です。そんな場所にあんなもの置きっぱなしで帰るつもりですか?」
「……はぁい」

 ダルナ……ほんと今日良いところねぇなぁ。というかケーデ、最近あまり見なかったけど随分しっかりしたような?

 そうして俺とケーデはダルナを置いて一足先にギルドに戻ったのだった。



          ***



「……なあ、話があるんだが」
「奇遇ですわね。私もです」

 アリアから受け取った刀……未完成とはいえ僅かにヒビの入ったオリハルコン製の刀を見ながら呟くクラガに、エリシアも木刀を強く握りそう返した。

「あの……ダルナ、さん」
「お話がありますの」

 そうして二人は、死体の処理に本気で困っているダルナに話しかけた。
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