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温室育ちの彼女の想い

始まりの焔

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 ……何が起こった……?

 無理な使い方して鞘が壊れて……体勢崩して取り押さえられて……っ、あつ……い……? そうだ、確か自爆されたんだ……。痛みは思ったよりねぇな……。

 ――痛みを感じる暇もないだけだ。しばらくすれば激痛に見舞われるだろうな。

 ドラグニール……今どうなってる?

 ――咄嗟に発動した身体硬化が幸いしたな。あれがなければ四肢が吹き飛んでおったわ。まあそれでも貴様は死なぬが。次からは熱防御か魔力防御の類の魔法を使え。あれはそれで防げる。

 感覚はないけど千切れてはないのな……。

 ――おい、何をしておる。さっさと動かぬか。奴らが近づいておるぞ。

 動こうにも全く力入んねぇんだよ……こうやって思考するのがやっとだ……lっ。

 何とか立ち上がろうと感覚のない手足に力を入れようとしていると、誰か、恐らくローブの奴に髪を掴んで無理矢理持ち上げられた。

「ふむ。あれだ……爆発で……度の……。しかしあ……を身に宿して……がらこの……とは。情報が間違……いたか」

 なんだ……よく聞き取れねぇ……。

「しか……可能……があるのは確か。いっそ首を刎ねれば分かるか?」

 よし、ようやく視覚と聴覚がはっきりして……って待て、今なんて。

 ぼやけた視覚と鈍い聴覚が捉えたのは、黒い、何かをモチーフにしたような模様の赤い仮面と刃物を鞘から抜いた金属音だった。

 まずいまずいまずい! くそ、思考はやっとはっきりしてきたのに体は全然動かねぇ!

 恐怖でとっさに目を強く閉じた瞬間、風切り音が目の前を通り過ぎ俺の体はどさりと地面に落ちた。

 ……あれ、まだ首くっついてる? 

「アリア、大丈夫ですか!?」

 何とか首だけ動かして前を見ると、ローブの集団から守るように俺の前にエリシアが立っていた。

「エリ……シア……?」
「良かった。意識はあるようですわね。もう大丈夫です」

 エリシアは俺の無事を確認すると優しく頬笑み、正面のローブの集団を睨み木の棒……いや、柄の部分に緑の宝玉が埋め込まれた木刀を突き付けた。

「貴方達、よくも私の大切な友人にこのような酷いことをしてくれましたわね。覚悟なさい!」

 そう叫び木刀を振り上げると宝玉が光り輝き、呪文と共に振り下ろした。

豪炎衝波フレイストーム!」

 最初にエリシアの護衛として一緒にいた時にも使っていた呪文。あの時は豆粒の様な火の玉が出ただけだったが、今回放たれたのは人ひとり容易に呑み込めそうな程の強大な火球だった。
 ローブの集団は散り散りになって躱し火球は誰もいない地面に叩き込まれたが、着弾の衝撃も前回のものからは比にならないものだった。

 もしかしてと思ったけど。まさかここまで上手くいくとはな。
 クラガから杖の話を聞いてもし杖の素材で木刀を作ったらどうなるのかと相談してみたが、そもそもこの世界には木刀の概念がなかったらしくかなり怪訝な顔をされてしまったが、どうやら大成功だったらしい。

 その後もエリシアはローブの集団にうまく立ち回っていた。そもそも使える魔法の種類自体は多くて、その上剣術も中々のエリシアだ。ちょっとやそっとではやられないだろう。

 ローブの集団はエリシアの周囲を取り囲むように動き火球を放つが、エリシアも上手く避けて……って避けた火球がこっちに来てる!

「しまっ!」

 エリシアがハッとした顔でこちらを振り水系の魔法を放とうとするが、それよりも早く大きな盾……いや、無骨な鉄の塊のようなものが火球を防いだ。

「おう、アリア。平気か?」

 顔を上げると、そこには鉄の塊を背負ったクラガがにかりと笑っていた。

「うん……まだ立てないけど……」

 俺は精一杯の笑みを作りぐっと親指を立てる。クラガも同じように親指を立て盾越しにエリシアに声をかける。

「こっちのことは気にすんな! とにかく暴れまわってやれ!」
「暴れまわるなんてはしたない……ですがお任せを!」

 遮られていて様子は見えないが音と振動から派手に魔法をぶっ放しているようだ。

「ひでぇ火傷だな。ほら、そこまで酷いとほとんど効果ないだろうが無いよかマシだろ」
 
 そう言うとクラガは火傷薬を俺に飲ませた。苦っげぇ。

「さてどうすっか。あいつもずっとあの調子でやれるかわかんねぇしな……立てるか?」
「まだちょっと無理っぽい……」

 さっきから徐々に襲ってきた火傷の痛みは若干マシになったが、痛みの進行がゆっくりになった程度だ。意識がはっきりしてきたのと引き換えに痛みも認識し始めたのかどんどん痛みが強まってくる。

「きゃあ!」

 悲鳴と共に何かが盾にぶつかり、見るとエリシアがぐったりと盾にもたれ掛かっていた。

「おいエリシア、大丈夫か!」
「ふ、不覚ですわ……」

 エリシアの体はあちこちに傷があり服も少し焼け焦げている。
 そうだ。エリシアはこの前の護衛の時が初めての実践……とも言えないくらいだったんだ。つまりこれが本当の初実践。しかも頼れる仲間の居ない、けれど自分を殺そうとしてくる相手は大勢。いくら実力があってもそんな状態で本調子で戦えるわけがないのだ。

「ちょ、ちょっと! あれなんですの!?」
「おいおいなんだありゃあ……」

 エリシアとクラガが恐怖の混じった驚きの声を上げ、俺もなんとか体を転がして盾の向こうの様子を見た。

「んなぁ!」

 俺はその光景に変な声を上げてしまった。

 俺が気絶させたローブの集団も意識を取り戻したのだろう。二十人を超えるローブの集団全員が杖を掲げ、あまりに巨大な火球……もはや小さな太陽と呼ぶ方が合っているものを形成していた。

「目的は済んだ。奴らはもう必要ない」

 おいおい冗談じゃないぞ。あんなの盾で防げるわけがない。逃げて……いや、どれほどの威力かもわからない。逃げたところで……。どうする……どうする!

「「「疑似焔竜息吹ドラニカルフレア」」」

 ローブの集団の呪文が発せられ、焔の塊がこちらへ迫ってくる。
 何か方法は……そうだ!

 おいドラグニール、調整は任せたぞ。

 ――……随分とんでもない方法を思いつきよる。頭が回っておるのかおらぬのか。だが面白い。任せよ!

「……操作念糸マリオネットリール

 操作念糸マリオネットリール。触れた対象を任意に操る魔法。俺はその魔法を自分自身に使い、無理矢理自分の体を動かし立ち上がり、ぎこちなく走り出す。

「エリシアさん、クラガさん! 盾の後ろから出ないで!」

 そう言って俺は何もない右肩に、何かを掴むように手をやる。

次元格納ディメンロック解除」

 その魔法を唱えた瞬間、何もなかった背中に紅の刀が現れた。

邪竜黒獄刀ドラゴソード・ヘルフレイム!」

 刀を抜いた瞬間刀と俺の体が炎に包まれ、ドラグニールの調整により刀の炎が強まりそのまま焔の塊にぶつける。

「……っ、だぁぁぁあああああああああ!!!!」

 俺にはあれを消せるほどの水魔法は使えない。使えるのかもしれないが、少なくとも今はわからない。だったらあの炎より、更に強い炎で切り伏せる!

「これ……なら……っ!?」

 このまま行けそうと感じた瞬間、操作念糸マリオネットリールの効果が切れかかっているのか急に足の踏ん張りがきかなくなってきた。まずい……!

身体回復ヒリシア!」

 突如俺の体が淡い光を放ち、僅かではあるが足の踏ん張りが戻ってきた。

「……すいません。今はこれくらいしか助力が出来ませんが……」

 後ろから弱々しい声が聞こえる。これくらいだって?

「十分!」

 俺は限界まで火力を上げ、炎の刀はその大きさを、熱を、輝きを増す。

 ――クハッ、クハハハハハハ!! 素晴らしい! 先ほどのは我の炎を刀に宿しただけだが、今は違う! 正真正銘、貴様の焔、貴様の斬撃だ! 貴様の名で持って切り伏せよ!

 俺の名って、そんな急に……。

 そう思ったが、不思議と頭に一つの単語が思い浮かんだ。
 アリア……独唱曲。炎……俺にとってのこの世界の始まり

 ああ、そうだ。俺のこの世界は、ドラグニールとの出会いから始まったんだ。
 さあ、唱えよう。俺にとっての、始まりの焔を。

開闢の焔フラム・プレリュード!!」

 その瞬間、紅黒い炎はどこか神々しさを感じる白い炎に変わった。

 両断。

 白炎の斬撃は焔の塊を切り伏せ、更にはその焔すら白炎は覆い、呑み込んだ。
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