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温室育ちの彼女の想い

杖とエルフ

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「それで? そのお嬢サマに散々連れまわされてぐったりってか? はは」
「笑い事じゃないですって……」

 日も沈みかけた頃。エリシアも満足したのかようやく目的の薬草を採取してアルガーンに戻り、エリシアはそのまま従者の馬車に乗り、俺はクラガの工房に来ていた。

「にしても魔法の使えないエルフねぇ。珍しい奴もいたもんだ……そら、これでどんなもんだ?」

 クラガはそう言うと白を基調とした軽防具一式を渡す。

「まあ使えないっていうか威力が極端に低いみたいな感じでしたけど……ちょっと右の腕当てずれてません?」
「ふーん。お前右利きだろ? 左腕のは防ぎやすいようにちょっと大きめにしてるけど右のは可動域を阻害しないようにちょっとつけ方が違ぇんだよ。ここを……こうだな」
「あ、ほんとだ。全然違和感ないですね」

 装備一式を身に着け、軽く体を動かしたりジャンプしたりして着心地を確かめる。

「どんなもんだ?」
「今のとこは問題ないですね」
「そうか。まあ折角なら実戦でのテストもしてから仕上げしてぇが……明日暇だったら試してきてくれねぇか?」

 明日……まあエリシアの件も今日だけだろうし、なにかいい感じの任務か、なければ適当に教官捕まえて訓練場で試せばいいか。

「良いですよ。そういえば刀の方は出来ました?」
「取り敢えずな。ついでだし九割九分で来てるからこっちも明日試してきてくれ。残りの作業はすぐ終わるやつだし、防具とは違って今更調整は出来ねぇけどな。ただまあ刀一本分のオリハルコンはまだ残ってるし、完全に完成させて使いづらいなんてお笑い種だしな」
「持った感じ重さも長さもいい感じですけど……分かりました」
「おう。……そういやさっきの話だけどよ」
「さっきの?」
「魔法の使えねぇ……あいや、弱ぇエルフだったか? ほら」

 クラガはコーヒーの入ったマグカップを差し出しながら椅子に座る。

「ああ、はい、そうで……」

 コーヒーに口をつけて返事を途中で切った俺をクラガが怪訝な目で見る。

「どうした? 砂糖かミルクか足りなかったか?」
「あ、いえ。何でもないです」

 甘い。むしろめっちゃ甘い。……あれ、散々エリシアのこと甘やかされてるって言ってたけど、俺も人のこと言えないのでは……?

「まあいいか。エルフで魔法が極端に低威力ってのは、単に杖があってないんじゃねぇか?」
「杖? 魔法って武器で影響されるんですか?」
「殆どエルフ限定だがな。俺らドワーフが武具製造に長けてるのと同じで、エルフは魔法に長けてるんだ。あいつらは体内の魔力の純度が他の種族と比べもんにならねぇくらい高くてな。ぶっちゃけ俺もその辺りは専門外だから詳しくは知らねぇけど、魔法の威力ってのは魔力の質に比例するんだが、質が良すぎる魔力は自分の体やそこらの武器じゃあ上手く魔力を外に放出できねぇんだと」
「へぇ。じゃあレイピアじゃあ仕方なかったのかもですね。でも貴族なんだし良いレイピアだと思うんだけど……」
「はあ、レイピア!? エルフが? 馬鹿じゃねぇのかそいつ!」

 俺の言葉を聞いて、クラガが驚きの声を上げた。

「えっと……質のいい武器なら魔力を通すんじゃ?」
「誰がんなこと言ったよ。最初に言ったろ、杖だって。杖ってのは刃物ほど攻撃力もなければ棍棒ほど丈夫でもねぇ。ただ魔力を何よりも通しやすい、エルフ専用の武器って言ってもいいくらいだ。その素材が何かによってどれくらい高い質の魔力を通すか差が出るんだが……んなことエルフじゃ常識のはずだぞ。それにそいつ貴族のお嬢様なんだろ? 俺みたいな奴ならまだしも教育は行き届いてんだろうに」

 なるほど……もし仮にエリシア本人が知らなくても周りの奴が知ってるだろうしなぁ。じゃあ魔法が使えないようにレイピアを……いや、確かそれは本人の意志だっけか。ってことは……うーん……。

「まっ、あんまり深く考えても仕方ないか。どうせ関わるのも今日限りだろうし。じゃあこれ明日試してきますね」

 俺は深く考えることをやめて、甘ったるいコーヒーを飲み干して席を立った。

「おう。あんまボロボロにすんなよ? あくまで調整だし刀も装備もまだ未完成ってこと忘れんなよ」
「はーい」
 
 返事をして俺は足早に帰路に就く。その途中、自分がスキップ交じりで機嫌がいいことに気づいた。この感覚はあれだ、新しいおもちゃ買ってもらった子供みたいな……随分物騒なおおもちゃだなおい。
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