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冒険者と鍛冶師

微睡の密会

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 目を覚ますと、目に映ったのは見覚えのありすぎるギルド内の医務室の天井だった。

「えぇ……またこれ……?」

 どうやら魔王との戦闘後は医務室へ強制移動のイベントが発生するらしい。

 確か洞窟で変態マスク魔王とゴーレムと戦って……ドラグニールの魔法で戦って……えーっと、どうなったんだっけか?

 朧げな記憶を呼び覚まそうとしながら怠さの残る体を起こしていると、カーテンで仕切られた向こうから男の声が聞こえてきた。

「おや、目を覚ましましたか。気分はどうですか? まだ怠さ等は残っているとは思いますが」
「あ、はい。ちょっとまだ残ってますけど、そこまでしんどさはないです」

 優しい声音をで近づいてくる陰に俺はそう返答する。

 ……いや待て。

「それは何より。それでは」

 男の影はカーテンの目の前で立ち止まり手をかける。

 医務室にいるのは女医さんだったはず……っていうかこの声……。

「私とお喋りリハビリしまショーネッ!!」
「うわ、うっせ」

 変態マスク野郎がこれでもかとテンション上げてカーテンを開けてきた。

「そう露骨にウザそうにされてしまうと流石の私でも傷つきますネ……まあ気にしませんガッ!」

 変態男は勢い良く手を広げ愉快そうに笑いだした。

 ほんと何なんだこの変態……あれ、こいつの名前なんだっけ。……変態仮面でいいか。間違ってないし。

「いや間違ってますからネ!? グリムワール、グリムワールです! せめてゴーレムマスターの方でもいいですかラ!」
「……ナチュラルに心読まないでくださいよ。そういう魔法でもあるんですか?」

 俺は出来るだけ自然に会話をしながら周囲を見渡す。ギルドの医務室には違いないけど……人の気配がなさすぎる。それに魔王がギルドの中に来たらもっと……。

「大騒ぎになってる、ですかネェ?」
「…………」

 出来るだけ平然な顔を装おうとはしてるけど、内心焦ってるのももうバレてるんだろうな。理由はわからないけど、助けは期待できない。戦おうにもまだ思うように体は動かない。万事休すか……。

「そう警戒しないでください。言ったでしょう? お喋りリハビリって。お話しに来ただけですよ。心を読んだのも人の気配がないのも簡単です。この空間はギルドの医務室の空間をコピーして、それに貴女と私の意識を置いただけデス。この場は私の支配下ですからネ、貴女の思考程度は読み取れますヨ」
「だけって……」

 魔法……ではあるんだろう。だが意味が分からない。そんなことが可能なのか?

「ええ。私だからこそ、というものではありますけどネェ。人の枠に収まらない、逸脱している。そのくらいしないと魔王とは名乗れませんからネェ。それに――」

 グリムワールは途中で言葉を切ると身を折って俺を見下ろし、静かな口調で言った。

「貴女もこちら側でしょう?」
「何を……」
「その身に宿すは最悪の邪竜。その身の力は不死。貴女……いえ貴方はそれを人の枠に収まると思いますか?」

 お前の全てを見通しているぞと言わんばかりの仮面の下の冷たい目。しかし、その目にはどこか憐みのようなものも見て取れた。

「……それは貴方の枠でしょう。生憎と私の枠は貴方のより随分と小さくて、けれど曖昧なんです。私からすればこの世界の人は私の枠に収まらなくて、だけどはみ出していない。それは貴方もですよ」
「……なるほど。随分と順応性が高い……いえ、懐が深いといいましょうか。貴女のような人がもっと多くいればよかったんですがね」

 グリムワールは寂しそうに、けれどどこか嬉しそうに小さくそういうと再び先ほどのように馬鹿みたいなテンションに戻った。

「サテ! そろそろいい時間でしょう。想定以上に実のある話もできましたしネ!」
「え、ほんとに話しに来ただけなんですか?」
「そういったでしょう? 私は魔王随一の掴みどころのないキャラで通ってますからネ! それでは!」

 グリムワールは両手を広げマントを無駄に大きくたなびかせジャンプすると、ポンッとコミカルな音と煙と共に消え去った。

「ちょ、まっ」


          ***


「待てってばぁぁあああああ!!」
「きゃっ」

 勢いよくベットから飛び起きると、いつもの医務室の女医さんが驚いて小さな悲鳴を上げた。可愛い。

「あ……あはは、すいません」
「びっくりしたわもう……。そんなに元気に起きれるなら大丈夫そうね。長い間ベット占領してくれちゃってもう。ほら、元気になったらすぐ出ていく。……あ、そうそう。これ、貴女の依頼人から預かってるわよ」

 女医さんが差し出した紙切れを受け取ると、そこには簡単な地図が書かれていた。

 依頼人って……クラガだよな? だいぶ大雑把な地図だけどまあ分からなくは……はっ。

「あっ、ありがとうございましたー!」

 地図片手に考え込んでいると背後から無言のプレッシャーを感じ、俺は急いで医務室を後にした。
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