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冒険者と鍛冶師
恩恵の呪い
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俺はひたすら走った。一分でも、一秒でも早くそれを作り、届けるために。
生憎と俺はアイツみたいに身体強化の便利な魔法は使えない。俺が使えるのは自分の身体と技術だけ。
その筈だった。
「よし、これだ」
俺は来る途中に休憩をしていたフレニウム鉱石を見つけると、急いで必要分を採取し、荷袋に入れ再び走り出した。
後天性覚醒スキル、というものらしい。
スキルという、魔法とは違う、所有者固有の能力。そもそも発動すること自体が稀なこのスキルってやつは、先天性所有スキルと後天性覚醒スキルの二つに別れるらしい。
生まれながらにして持つ能力と生の中で会得する能力。
どちらも所有者の特技、特性に合わせたもので、発動時期以外には明確な差異はないと言われている。
だが俺はそうとは思わなかった。
所有者の特技、特性による能力なら、何故生まれたばかりのガキにそれが備わるのか。成長すればスキルが無くともそれに沿った成長をするのかも知れない。
だがそれは可能性の中の一つだ。最初から存在するスキルなんてものは、他の可能性を選ばせない、ただの足枷に過ぎない。
後天性だって。最終的にスキルを得るなら、何故先天性の様に最初から持たない? そもそも覚醒条件はなんだ? その道を極めた時? スキルも持たないのに極められるのならスキルの意味はない。打ち込んだ年月? ならスキルは稀ではなくありふれたものになる。
結局、俺程度が考えるこんな疑問は誰でも思い付くらしく、長年偉い学者やらが考えた結果、神の気まぐれという、ただの運をそれらしく言い換えた答えになったらしい。
「っ……」
暗い洞窟の入り口付近から勢いそのままに飛び出したせいで、頭上から降り注ぐ日光に一瞬目が眩んでしまう。
「確かあのマスク野郎、近くに鍛治街があるとか言ってやがったよな。何処だ……」
俺はジッと耳を澄ませる。聴覚を強化なんてことは出来ないが、何千何万と毎日聞いてきた金属を打つ男、熱の塊を水に沈める音、この非日常の森の中で日常を探し出すだけだ。
「……こっちか!」
森の騒めきの中に聞き慣れた音を見つけ出し、俺はその方向に駆け出した。
明確な発動条件の無いスキルがもたらすものは、圧倒的に優位な力と羨望、そして嫉妬だ。
俺はこれまでの人生を鍛治に捧げた。だから発動したスキルも鍛治に関するものだった。
俺はその事に絶望した。
ただでさえハイ・ドワーフは魔具を作る事に長けている。それは不変の事実だ。だから俺は俺自身の技術を認めさせる為、魔具を作らず普通の武具を作り続けた。スキルは俺からそのプライドを奪っただけだ。
良い魔具を作ってもハイ・ドワーフだから。良い武具を作ってもそのスキルがあるから。
だからこそ、あの時は嬉しかったのだ。俺の事を知らない奴が、俺の打った刀をあれほど欲しいと言ってくれた事が。
ほんの数日しか知らないが、アリアはいい奴なのだろう。種族がどうとか、スキルがあるから出来て当然と捉えず、ちょっとした個性、それも含めてそいつの実力と捉える様な、贔屓目や偏見を持たない奴なのだろう。
だからこそ──。
「おい! 三十分でいい、この鍛冶場を俺に使わせてくれ!」
あいつの為に、俺の全力を使って貰いたい。そう思えてしまったのだろう。
生憎と俺はアイツみたいに身体強化の便利な魔法は使えない。俺が使えるのは自分の身体と技術だけ。
その筈だった。
「よし、これだ」
俺は来る途中に休憩をしていたフレニウム鉱石を見つけると、急いで必要分を採取し、荷袋に入れ再び走り出した。
後天性覚醒スキル、というものらしい。
スキルという、魔法とは違う、所有者固有の能力。そもそも発動すること自体が稀なこのスキルってやつは、先天性所有スキルと後天性覚醒スキルの二つに別れるらしい。
生まれながらにして持つ能力と生の中で会得する能力。
どちらも所有者の特技、特性に合わせたもので、発動時期以外には明確な差異はないと言われている。
だが俺はそうとは思わなかった。
所有者の特技、特性による能力なら、何故生まれたばかりのガキにそれが備わるのか。成長すればスキルが無くともそれに沿った成長をするのかも知れない。
だがそれは可能性の中の一つだ。最初から存在するスキルなんてものは、他の可能性を選ばせない、ただの足枷に過ぎない。
後天性だって。最終的にスキルを得るなら、何故先天性の様に最初から持たない? そもそも覚醒条件はなんだ? その道を極めた時? スキルも持たないのに極められるのならスキルの意味はない。打ち込んだ年月? ならスキルは稀ではなくありふれたものになる。
結局、俺程度が考えるこんな疑問は誰でも思い付くらしく、長年偉い学者やらが考えた結果、神の気まぐれという、ただの運をそれらしく言い換えた答えになったらしい。
「っ……」
暗い洞窟の入り口付近から勢いそのままに飛び出したせいで、頭上から降り注ぐ日光に一瞬目が眩んでしまう。
「確かあのマスク野郎、近くに鍛治街があるとか言ってやがったよな。何処だ……」
俺はジッと耳を澄ませる。聴覚を強化なんてことは出来ないが、何千何万と毎日聞いてきた金属を打つ男、熱の塊を水に沈める音、この非日常の森の中で日常を探し出すだけだ。
「……こっちか!」
森の騒めきの中に聞き慣れた音を見つけ出し、俺はその方向に駆け出した。
明確な発動条件の無いスキルがもたらすものは、圧倒的に優位な力と羨望、そして嫉妬だ。
俺はこれまでの人生を鍛治に捧げた。だから発動したスキルも鍛治に関するものだった。
俺はその事に絶望した。
ただでさえハイ・ドワーフは魔具を作る事に長けている。それは不変の事実だ。だから俺は俺自身の技術を認めさせる為、魔具を作らず普通の武具を作り続けた。スキルは俺からそのプライドを奪っただけだ。
良い魔具を作ってもハイ・ドワーフだから。良い武具を作ってもそのスキルがあるから。
だからこそ、あの時は嬉しかったのだ。俺の事を知らない奴が、俺の打った刀をあれほど欲しいと言ってくれた事が。
ほんの数日しか知らないが、アリアはいい奴なのだろう。種族がどうとか、スキルがあるから出来て当然と捉えず、ちょっとした個性、それも含めてそいつの実力と捉える様な、贔屓目や偏見を持たない奴なのだろう。
だからこそ──。
「おい! 三十分でいい、この鍛冶場を俺に使わせてくれ!」
あいつの為に、俺の全力を使って貰いたい。そう思えてしまったのだろう。
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