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冒険者と鍛冶師

武具街に行こう

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「ねぇ……そういえばいつまでそれ使ってるのぉ……?」

 オーガとの戦闘から一週間が過ぎたある日。久々に手が空いたということでダルナさんに訓練をつけてもらっていると、突然こちらを指さしてそんなことを言い出した。

「それって……どれです?」
「その刀と装備だよぉ……それ最初にあげたやつでしょぉ……? ギルドに有り余ってる支給品だからぶっちゃけ安物だよぉ……」

 そう言って身に着けている刀と革の装備を指さし、不思議そうに言ってきた。

「そういえば……なんででしょうか?」

 まああれからしばらく動けなかったり、リハビリがてら簡単な任務幾つかこなしてたから暇もなかったってのはあるなぁ。

「僕に聞かれてもねぇ……いい機会だから一式買い替えちゃえばぁ……? ここ最近任務ちょっとこなしてたんでしょお……報酬金もそんな使ってないみたいだしぃ……」
「そうですね……ところで、そういうのってどこで買えるんですか?」
「まあギルド内にも売ってはいるけどぉ……せっかくだから……武具街行ってみようかぁ……」
「武具街?」



          ***



「おおおおおおおおおおお!!」

 それを見て、俺は思わず目を輝かせ声を上げた。

 作り自体はよく見る商店街。まっずぐ幅のある通路があって左右に店が並んでいる。そして路地裏のようにその大通りから細い通路が脇に伸びてそこにも店が並んでいる。

 しかしその店は決して元の世界ではありえないものだ。一つの大きな樽に乱雑に入れられたものから丁重にガラスケースに収められた武具の数々。自慢の商品を声高らかに宣伝するドワーフの姿。

「ここがこのアルガーンの全ての武具屋の集まる密集地……通称武具街だよぉ……主にドワーフ系の人族が出店してるんだぁ……まあ鍛冶させたら他種族じゃかなわないからねぇ……」
「へぇ……」

 やっぱドワーフは鍛冶専門なのか。確かにギルドの冒険者でも普通の人とエルフは比較的見かけるけどドワーフの冒険者ってあんま見かけない気がするな。

「じゃあ後は好きに見て行ってよぉ……僕は用事あるからねぇ……」
「え!? 一緒に見てくれないんですか!?」

 選ぶ時にアドバイスもらおうと思ってたのに。

「デートしたいのは山々なんだけどねぇ……それに僕基本魔法糸しか使わないからぁ……武器に関してはそんなにアドバイスもできないしねぇ」

 デートではないけど、それなら仕方ないか。

 ダルナさんはじゃぁねぇと気だるげに言うとふらふらと去っていった。……あの人が元気になる日って来るのだろうか。

「……とりあえず行くか」

 ――安心しろ。武具の鑑定に関しては我は自信があるぞ?

 え、お前竜じゃん。ダルナさんより絶対武器使わないじゃん。

 ――簡単なことよ。我に届きうる武器、我の爪を受け止められる防具が良いものだ。

 ……それの選定基準は?

 ――直観よ。

 ……ロイについてきてもらえばよかったな。

 ぎゃーぎゃーと文句を言うドラグニールを無視しながら行き交う人々の間を抜けながら、店頭から見える武具を見て回る。どうやら大通りに面してるのがそこそこ大きい店。脇に伸びる通路に面する店は小さい規模の店のようだ。

 しばらく見て回り、俺はあることに気づいた。

「刀……置いてなくない?」

 正確に言えば、他の武器に比べて圧倒的に少ない。

 ――それはそうだろう。それは他の剣の類と比べると少々作りが厄介のようだ。

 そうなのか?

 ――普通の両刃のものは通常その重量を利用し叩き斬るものだ。言ってしまえば多少雑なつくりでも一定以上の効果は発揮するし、腕が良いものが作ればより良いものになる。しかし刀は斬ることに特化し、軽量でありながら重量級の大剣以上の威力を時に発揮する。しかしそれゆえに職人の技量と使用者の技量も問われる。せっかくいいモノを作っても生半可な使用者に買われては作り損もいいところだがな。

 なるほどなぁ。お前意外とわかってるんだな。

 ――初めから自信があると言っておろうが!

 はいはい分ったよ……にしてもあれだな。少ないながらにあっても、どの刀も馬鹿みたいに高いな……。

 ――まあさっきと同じ理由だろうな。作る手間と使用者の選別を考えればそうなるだろうよ。

 うぅむ……。買えなくはないけど……防具までは回らないな。

 ――必要なかろう。どうせお主死なんのだし。

 痛いのは嫌なんだよ! どうせ買うなら失敗はしたくないしなぁ……。

 ――なら鑑定眼を使えばよかろう。まだ教えてなかったか?

 何その便利そうな魔法。

 ――目を閉じ、物の本質を見ることに意識を切り替えて開けば、その価値に応じ光が伴って見えるようになるのだ。

 物の本質を見るねぇ……。

 俺は取り合えず目を閉じ、言われた通りに意識し目を開くと、思わずその眩しさに目が眩みそうななった。

「おお……これ便利だな……」

 眩しさになれるのに少し時間がかかったが、普通に見られるようになるとその便利さを実感できた。武具の一つ一つが大小様々な光を放っている。多分より光っているのがいいものってことなんだろう。

 さて、じゃあ見つけた刀を見て回って……あれ?

「……ほぼ光ってなくない?」
 ――形だけのなまくらだったな。

 これまで見つけた刀はどれも光は弱く、碌なものはなかった。しかしその店の職人の腕が悪いというわけではないのだろう。他の武器は滅茶苦茶光ってるし、何より今まで使ってた支給品の刀はもはや光ってすらなかった。

「これはよっぽど根気強く探さないとなぁ……」

 俺は一店一店ゆっくり見回りながら刀を探して回った。いっそ違うものにしてもいいかとも考えたけど、いろんな武器を試した結果の刀だったから、少なくともしばらくはこのままの方がいいだろう。

 しかし鑑定眼使いながらだと、やっぱりドワーフの腕の高さがわかるな。ドワーフの店の武具は多種族のものと比べてどれも強い光を放っている。

「ドワーフの店の買っとけばはずれはない感じだなぁ……けどやっぱり刀少ない……そもそも使ってる人が少ないから品ぞろえも少ないのか……」

 ぶつぶつとダルナの様に独り言を呟きながら歩いていると、一瞬視界の端で眩い光が見えた気がした。

「何か今凄いのがあったような……んな!?」

 少し戻って細い路地の方を覗き見ると、今までで一番強い光があった。

 てっきり大通りにいいものが集中してるのかと思ったけど、掘り出し物も路地の方にはあるのか。いやでもこの光様は掘り出し物ってレベルじゃないけど……。

 俺はその光を放つものを置いてある店の位置を確認すると、いったん鑑定眼を切って路地に入っていった。

 大通りのしっかりとした店とは違い小さな店や簡易的なテントなどの移動式の店が多い印象だった。

 そんな路地の店を通り抜けて俺は目当ての店に着いた。そこは店と呼ぶにはあまりに規模が小さい……というかシートを敷いていくつか武器を置いているだけだった。

 ここ……だったよな……?

 俺は若干の不安を覚えながら確認のため鑑定眼を使い、そして確信した。目を開けないほどの、神々しさすら感じる光。しかもそれは、いくつか置かれた剣の中の一振りの刀から特に強く放たれていた。

「見つけた!」

 俺はつい声を上げてしまい、眠っていたのかずっと俯いていた店主らしき男がびくりと肩を震わせこちらを見た。

 鍛え抜かれた鍛冶師の筋肉、赤髪の短髪で年は恐らく20代前後くらい。イケメンよりも男前、兄貴という言葉が似合いそうな男だった。

「……んだよガキか。ここにはおもちゃなんざ置いてねぇぞ。邪魔だからさっさとママのとこにでも帰りな」

 ……口悪。

 男は鬱陶しそうに手を払い大きく欠伸をした。

 ……いや、まあいい。俺は買えさえすればいいんだ。

 俺は一瞬沸いた怒りを深呼吸して落ち着け、置かれた刀を指さした。

「これ、ください」
「……あ? ガキがこんなもん買ってどーすんだよ」
「ガキじゃないです冒険者です」
「ガキには違いねぇじゃねぇか。しかも冒険者だぁ……? ハッ。まだまだ嘘つくのは下手みてぇだな」
「嘘じゃないもん!」
「……まっ、嘘じゃなかったとしても、俺の自信作がテメェみてぇなガキに使われるなんざ気に入らねぇ。帰りな」

 男は取り付く島もなく、売ってやればいいじゃねぇかとからかう様に言う周りの店の人たちに怒鳴ると、まだ前に立ってる俺のことを無視して再び俯いた。

 ――どうする? いっそ盗んでいくか?

 いや流石にそれはしねぇよ。……とりあえず今日は一旦引き上げよう。こんなものを見て他ので妥協はしたくない。

「また来ますから!」

 俺はそう言い残すとその場を後にした。
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