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異世界で定住しよう
悪夢の予感
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目の前に張り巡らされた極細の糸に向かって走り出す。
構えた刀は振りかぶらず最小限の動きだけで構えなおし、走る勢いだけで糸を切断していく。部屋の半ばほどに着くと、その糸の強度は増し、走る勢いだけでは斬れなくなる。
俺は勢いを弱め一瞬だけブレーキをかけると刀を斬り下ろし糸を切断。さらに踏み込み斬り上げ、横斬り。やがて目の前から糸が消えると、正面、部屋の奥に立つ黒い人に向かって加速する。
「――ッ!」
右上から僅かな魔力を感じ、刀を振り上げ迫っていた糸を弾く。続いて足元に迫っていた糸を横にステップし躱し着地を足ではなく地面に刀を差し側転の要領で回り、着地先を狙っていた糸を刀に身代わりにさせ躱す。着地と同時に刀を振りぬき糸を切断、しかしその隙は全方位から糸が襲い来るには十分なものだった。
「風刃全方位版!」
その場で勢いよく回転切りし、切っ先から風の刃を打ち出す。その風は当たらずとも糸の勢いを弱め、刃は糸の主に襲い掛かる。
刃が当たる寸前、男の姿が掻き消える。俺は冷静に魔力の反応を調べ、すぐさま刀を背負うように構える。
「はぁい……ここまでぇ……」
蹴り下ろした足を刀の数センチ上で止めた――ダルナはいつもと変わらない気だるげな声で訓練の終了を告げた。
「ありがとう……ござい……ました……」
緊張の糸が途切れ、一気に疲労が襲い掛かった俺は息も絶え絶えになりながら礼を言った。
「まあなかなかよくはなってきたけど……今回は魔法を使わずに俺に攻撃を当てるだからねぇ……あそこで風刃使わなかったらぁ……合格点あげれたねぇ……」
「本当ですか!?」
ここ最近はもう少し頑張れたら及第点というものばっかりだったが、少なくとも今日初めて及第点は超えたということだ。
「ほんとぉだよぉ……今日は午後からいつもの子たちと任務だっけぇ……?」
「はい。巨大魔猪の牙の納品任務です」
「巨大魔猪かぁ……じゃあ今度は魔法だけで行ってみようかぁ……」
そう言って俺の刀を取り上げると、久々の休みを満喫するぞぉ……とふらふらと部屋から出て行った。
あれから毎日訓練をつけてもらってる身からすると申し訳なさしかない……。
しかし魔法だけか……まあ特に問題はないだろう。どうせならケーデ達と連携も考えてみて……。
午後の任務をどうやってやろうか考えながら歩いていると、突然体が宙に浮いた。
「うわっ」
「アリアちゃーん! 訓練お疲れ様ー!」
「ちょっ、ケーデさん! 下して!」
「えー、いいじゃなーいい。このまま一緒に行きましょ」
ケーデはそのまま抱きしめ食堂に向かう。
以前ロイ達に聞いた話だが、ケーデの家族は男所帯で近くに住んでた子供もロイとダイモくらいで同年代の同性には縁がなかったらしい。だから俺はまるで妹と友達が一緒になったようなものですごく嬉しいらしい。
中身が男なのは申し訳ないが、喜んでもらえるのは嫌な気はしない。まあ最近過剰気味な気はしないでもないけど。
「そういえばロイ達は?」
「先に行って席取ってるって。私は任務の確認しながらアリアちゃん待ってたの。訓練どうだった?」
「今日初めて及第点もらえたんだ!」
「凄いじゃない! あの人って凄く厳しいんでしょ? 流石アリアちゃん!」
にこにこと笑って俺の頭を撫でるケーデ。さすがにちょっと……。
「ケーデさん……そろそろ下ろして。恥ずかしい……」
「しょうがないなぁ。はい、じゃあ手つないでいこ?」
「うん」
抱きしめられたままならこの方がずっといい。というかケーデと歩いてるときはほとんど手を繋いでるから最早これに関しては何も感じない。
聞くとことによるとこのあまりにほほえましい光景に心打たれた人が多数いるのか、俺とケーデのファンクラブなるものが発足しているらしい。冒険者とギルド職員って意外と暇なのかもしれない。
「おう。遅いぞ二人とも。冷めるから先食べてるぜ」
食堂に着くと、ロイとダイモは既に食べ始めており、俺とケーデも料理を受け取ると席について食べ始めた。
「それで、今日はどうするよ。いつも通りダイモが盾もっておびき寄せて、俺とアリアで攻撃、ケーデが後方支援にするか?」
「あ、実は今日武器を使わず魔法だけでやってくるように言われてて、中距離くらいのサポートがちょうどいいかなって」
「じゃあ俺とダイモで近接、アリアは中距離で状況に合わせて行動……って感じだな」
「そうね。それでいいと思うわ」
うんうんとうなずくダイモ。
しばらく三人と一緒にいると、その関係性が見えてきた。
ロイは生粋の近接剣士。事前の判断はしっかりしてるけど不測の事態に弱い。
ダイモは大きな盾を持つ所謂タンク職で根っからの職人気質。役割はしっかり果たすが自分から意見を出すことはあまりない。
ケーデは魔術師で遠距離魔法、サポート魔法専門。ロイとは違い不測の事態にも機転の利く判断ができるタイプ。
故郷が同じで一緒に出てきて冒険者になったって聞いたけど、うまくバランスの取れてるパーティだよなぁ……。
それから少し作戦を考え一通りの確認作業を終えると、食器を戻し任務に出るためギルドを出る。
『いやぁぁぁあああああ!! ロイ! ダイモ!』
『くそ! なんなんだよお前ぇ!』
「――っ!?」
突然頭に流れ込んできたイメージ。森の中、先決に染まる地面、悲鳴を上げる女性、叫ぶ剣士の男、血を流し倒れる二人の男、悠然と立つ黒い影。
「どうしたの?」
ケーデが突然座りこんだ俺の顔を不安そうにのぞき込む。
「う、ううん。何でもない……」
俺は首を振って笑顔を作って答えて、再び歩き始める。
今のは一体……何もないといいけど……。
――どうした?
えっと……何でもない。多分気のせいだ。
――ふん。日頃の訓練とやらでまいったか? 脆弱よの。
うっせ。
まあ疲れがあるのは本当だし、そのせいだろう。
そう自分に言い聞かせ、さっきの嫌なイメージを忘れようとした。
構えた刀は振りかぶらず最小限の動きだけで構えなおし、走る勢いだけで糸を切断していく。部屋の半ばほどに着くと、その糸の強度は増し、走る勢いだけでは斬れなくなる。
俺は勢いを弱め一瞬だけブレーキをかけると刀を斬り下ろし糸を切断。さらに踏み込み斬り上げ、横斬り。やがて目の前から糸が消えると、正面、部屋の奥に立つ黒い人に向かって加速する。
「――ッ!」
右上から僅かな魔力を感じ、刀を振り上げ迫っていた糸を弾く。続いて足元に迫っていた糸を横にステップし躱し着地を足ではなく地面に刀を差し側転の要領で回り、着地先を狙っていた糸を刀に身代わりにさせ躱す。着地と同時に刀を振りぬき糸を切断、しかしその隙は全方位から糸が襲い来るには十分なものだった。
「風刃全方位版!」
その場で勢いよく回転切りし、切っ先から風の刃を打ち出す。その風は当たらずとも糸の勢いを弱め、刃は糸の主に襲い掛かる。
刃が当たる寸前、男の姿が掻き消える。俺は冷静に魔力の反応を調べ、すぐさま刀を背負うように構える。
「はぁい……ここまでぇ……」
蹴り下ろした足を刀の数センチ上で止めた――ダルナはいつもと変わらない気だるげな声で訓練の終了を告げた。
「ありがとう……ござい……ました……」
緊張の糸が途切れ、一気に疲労が襲い掛かった俺は息も絶え絶えになりながら礼を言った。
「まあなかなかよくはなってきたけど……今回は魔法を使わずに俺に攻撃を当てるだからねぇ……あそこで風刃使わなかったらぁ……合格点あげれたねぇ……」
「本当ですか!?」
ここ最近はもう少し頑張れたら及第点というものばっかりだったが、少なくとも今日初めて及第点は超えたということだ。
「ほんとぉだよぉ……今日は午後からいつもの子たちと任務だっけぇ……?」
「はい。巨大魔猪の牙の納品任務です」
「巨大魔猪かぁ……じゃあ今度は魔法だけで行ってみようかぁ……」
そう言って俺の刀を取り上げると、久々の休みを満喫するぞぉ……とふらふらと部屋から出て行った。
あれから毎日訓練をつけてもらってる身からすると申し訳なさしかない……。
しかし魔法だけか……まあ特に問題はないだろう。どうせならケーデ達と連携も考えてみて……。
午後の任務をどうやってやろうか考えながら歩いていると、突然体が宙に浮いた。
「うわっ」
「アリアちゃーん! 訓練お疲れ様ー!」
「ちょっ、ケーデさん! 下して!」
「えー、いいじゃなーいい。このまま一緒に行きましょ」
ケーデはそのまま抱きしめ食堂に向かう。
以前ロイ達に聞いた話だが、ケーデの家族は男所帯で近くに住んでた子供もロイとダイモくらいで同年代の同性には縁がなかったらしい。だから俺はまるで妹と友達が一緒になったようなものですごく嬉しいらしい。
中身が男なのは申し訳ないが、喜んでもらえるのは嫌な気はしない。まあ最近過剰気味な気はしないでもないけど。
「そういえばロイ達は?」
「先に行って席取ってるって。私は任務の確認しながらアリアちゃん待ってたの。訓練どうだった?」
「今日初めて及第点もらえたんだ!」
「凄いじゃない! あの人って凄く厳しいんでしょ? 流石アリアちゃん!」
にこにこと笑って俺の頭を撫でるケーデ。さすがにちょっと……。
「ケーデさん……そろそろ下ろして。恥ずかしい……」
「しょうがないなぁ。はい、じゃあ手つないでいこ?」
「うん」
抱きしめられたままならこの方がずっといい。というかケーデと歩いてるときはほとんど手を繋いでるから最早これに関しては何も感じない。
聞くとことによるとこのあまりにほほえましい光景に心打たれた人が多数いるのか、俺とケーデのファンクラブなるものが発足しているらしい。冒険者とギルド職員って意外と暇なのかもしれない。
「おう。遅いぞ二人とも。冷めるから先食べてるぜ」
食堂に着くと、ロイとダイモは既に食べ始めており、俺とケーデも料理を受け取ると席について食べ始めた。
「それで、今日はどうするよ。いつも通りダイモが盾もっておびき寄せて、俺とアリアで攻撃、ケーデが後方支援にするか?」
「あ、実は今日武器を使わず魔法だけでやってくるように言われてて、中距離くらいのサポートがちょうどいいかなって」
「じゃあ俺とダイモで近接、アリアは中距離で状況に合わせて行動……って感じだな」
「そうね。それでいいと思うわ」
うんうんとうなずくダイモ。
しばらく三人と一緒にいると、その関係性が見えてきた。
ロイは生粋の近接剣士。事前の判断はしっかりしてるけど不測の事態に弱い。
ダイモは大きな盾を持つ所謂タンク職で根っからの職人気質。役割はしっかり果たすが自分から意見を出すことはあまりない。
ケーデは魔術師で遠距離魔法、サポート魔法専門。ロイとは違い不測の事態にも機転の利く判断ができるタイプ。
故郷が同じで一緒に出てきて冒険者になったって聞いたけど、うまくバランスの取れてるパーティだよなぁ……。
それから少し作戦を考え一通りの確認作業を終えると、食器を戻し任務に出るためギルドを出る。
『いやぁぁぁあああああ!! ロイ! ダイモ!』
『くそ! なんなんだよお前ぇ!』
「――っ!?」
突然頭に流れ込んできたイメージ。森の中、先決に染まる地面、悲鳴を上げる女性、叫ぶ剣士の男、血を流し倒れる二人の男、悠然と立つ黒い影。
「どうしたの?」
ケーデが突然座りこんだ俺の顔を不安そうにのぞき込む。
「う、ううん。何でもない……」
俺は首を振って笑顔を作って答えて、再び歩き始める。
今のは一体……何もないといいけど……。
――どうした?
えっと……何でもない。多分気のせいだ。
――ふん。日頃の訓練とやらでまいったか? 脆弱よの。
うっせ。
まあ疲れがあるのは本当だし、そのせいだろう。
そう自分に言い聞かせ、さっきの嫌なイメージを忘れようとした。
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