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異世界で定住しよう
冒険者就任(仮)
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テストが終わってケーデたちのところに戻って、無事終えたことを褒められご褒美のジュースを飲んでいると、ギルドの職員の女性が呼びに来た。
彼女について行って階段を上り、上って更に上って、最上階の奥にある明らかに一つだけ作りの違う扉の前についた。
ここ……あれだよな。絶対あのギルドマスターの部屋だよな……俺こういう面接みたいなの苦手なんだよなぁ……。
職員さんがノックし、奥から返事があると扉を開け入るように促してきた。
「し、失礼しますっ」
昔の就職面接を思い出しながら部屋に入ると、やはりギルドマスターのラウドが中で待っていた。
「ああ。テストお疲れ様。疲れたろう? さあ、かけなさい」
ラウドに促されソファーに座ると、職員さんはラウドにお茶、俺にジュースを置いて部屋から出て行った。
……ケーデ達もだけど完全に子ども扱いだよな。いや子供なんだけどさ。
「それにしても大変だっただろう。ダルナは少々やりすぎてしまう気が合ってね。いつも怪我人を出してしまう。首を少し切った程度で済んだのはかなり運がいい方だ」
「あはは……そうなんですね」
俺は首元を撫でながら苦笑いを浮かべた。
やっぱりそうか。ケーデ達から簡単な模擬戦って聞いてたから、あれがこの世界の簡単レベルなのかとビビってたけど、どうやら違ったようだ。
そこで俺はある違和感に気づいてしまった。つい触った首元に傷の感触がなかったのだ。そういえばケーデ達も何も触れてなかった。彼女の性格からして首から流血レベルのケガだったら大騒ぎしそうなものだが……。
まあ怪我の治癒自体は問題ではない。ドラグニールが治癒魔法でも使ったのだ。それよりも……。
「なぜ既に治した傷について知っているのかという顔だね。当然さ。私もあそこで見ていたからね」
その言葉に自分のものと錯覚するほどのドラグニールの動揺が伝わってきた。
「実は彼は正規の職員ではなくてね。私直属の部下で所謂裏向きの仕事を任せているんだ。そして彼のさっきの任務は君を、正確には君の中の者を見極めることだった。より正確に言えば私が見極める手伝いでもあるが。それにしても驚いたよ。まさか憑依体がそんなものだったとは」
その口ぶりに流石の俺も動揺していた。ここまで話すということは隠蔽……殺す算段もあるっていう事だろう。不死者のスキルのおかげですぐは死なないだろうが……こんな世界だ、不死者に対する術もあると考えるのが自然だ。
どうするドラグニール?
――……やむをえまい。ここで貴様を失うのは不本意だ。少し借りるぞ
借りるって……っ!
ドラグニールがそう言うと意識が一瞬揺れ、視界は変わらないがどこかテレビを見ているような感覚になった。
「ハハッ。まんまと謀られてしまったわ。それで? 我の正体を知ってこのような場を設けて何のつもりだ? 回りくどいことをせず総力を挙げ殺せばよかろう」
俺の体は勝手に足を組み偉そうにふんぞり返ると、尊大な口調で話し出した。
まさかこれ、ドラグニールが話してんのか!? 乗っ取られたってことか!?
――騒ぐな。ここを乗り切ったらすぐに戻す。
あまりに急な俺の変化にラウドの反応は混乱でも恐怖でもなく、大きな笑いだった。
「ははははは! いや、すまん。まさかこんな簡単な手に引っかかるとは思わなくてな……ははは!」
「……は?」
え?
俺とドラグニールが呆然としていると、ラウドは笑いすぎて出た涙を拭いながら説明を始めた。
「いや、戦闘を間近で見させてもらいかなり高位もものとまではわかったが、残念ながら正体までは見通せぬでな。ちょっとした罠を張らせてもらったが、まさかこうも……見事にかかってくれるとは……はははははは!!」
もう大爆笑だった。
「……まあよい。ここまでコケにされて、普段なら決して許さぬ蛮行だが……今回は、今っ回はっ、特別に許してやろう……!」
ドラグニールまさかの大人の対応。正直怒りのままに暴れまわりそうなものだったが。
――阿呆が。先ほど貴様も言っておっただろうが。こやつがここまで言うということは――。
「君を殺す算段は整っている、そう考えての判断か。思っていたより懸命なようだ。少なくとも宿主に害をなすものではないようだな。それが分かっただけでも十分ではあるが……良ければ名を教えてはくれないか」
「阿呆。先ほどの貴様の反応を受けて名を晒すものなどおるか」
「はは。ぐうの音も出ぬわ。まあいい。では狙いは? 君たちの関係性を見るに君から憑依したと考えるのが自然だが、それではメリットがない」
「……まあそれくらいは良いか。我らの潔白の証明にもなるしな。特に大それた理由があるわけではない。我は外の世界が見たかった。こやつは我が憑依出来うる希少な器だった。冒険者という職はあらゆる面で都合がよかった。それだけだ」
「ふむ……。では君は、高位の力を持ってかなりの年月封印されていた。その子は痛覚無効、不死、それに準ずるスキルを持っている……はは。私の方が上手のようなだ」
「…………チッ」
ドラグニールは最後に精一杯の抵抗としての舌打ちをすると、内側に引っ込んだ。
負け惜しみにも程があるぞ……。
「お、アリア君に戻ったかい? いやはや、君の憑依体はなかなか愉快だね。それに君を大事にしていることが分かった。あれほど高位の力を持っていてそういう反応をしてくれるのはかなり珍しいよ。仲良くするといい」
「は、はい。わかりました」
「それにすまなかった。さっきも言っただダルナは少々やりすぎるやつでな。俺もいたから死なせることはなかっただろうが、最悪両足を失わせるところだった。改めて謝罪しよう」
ダルナはそういい、深く頭を下げた。
「い、いえっ! 結果的に大丈夫だったんですし……顔を上げてください」
どうにも自分より遥かに偉い人が頭を下げているという図は優越感を感じる暇もなく苦手なのだ。
「ありがとう。君は記憶喪失と聞いていたがしっかりしているな。きっと良い環境で育っていたのだろう」
「ありがとうございます……」
いいえ。中身は立派な大人なんです……。
「謝罪代わりと言ってなんだが、君に戦闘と魔法の訓練を付けさせよう。戦いを見させてもらったが、体使いは身体能力にものを言わせた素人のそれ、魔法は憑依体が放っていたのだろう? 冒険者として生きていくにはあまりに危なっかしい」
「本当ですか? ありがとうございます!」
これは幸先がいい。正直そのあたりどうしようか迷っていたところだ。ケーデ達に教わろうとも思ってたけど、彼女たちも冒険者成り立てらしいし……ん?
「というか、私合格なんですか?」
「ん? ああ、そういえば合否を言っていなかったな。取り合えず仮合格ということで、訓練が終わり次第本合格、という形でどうだろう。もちろん仮とはいえ合格だ。このギルドの宿舎は使ってくれて構わないし……そうだな、簡単な任務ならロイ達と同行してもいいだろう。冒険者仲間というものは大事だからな」
「はい、ありがとうございます!」
これは願ったり叶ったりの展開だ。少なくとも今後の不安はすべて解消されたレベル。罰が当たらないか不安になってしまうほどだ。
「よし、そうと決まればさっそく訓練……といいたいが、さすがに疲れたろう。今日は紹介だけにして、明日から始めるということにしようか」
「はい!」
「うむ。良い返事だ。おい、入っていいぞ!」
ラウドが呼び込むと一人の男がゆっくりと入ってきた。
見覚えのあるゆったりしたローブのような黒い服装の、未だ不健康そうな相貌の男だった。
「こぉんにぃちわぁ……こんなかわいい子の専属教師なんて役得だねぇ……」
……罰が当たるのがあまりに早すぎる!
彼女について行って階段を上り、上って更に上って、最上階の奥にある明らかに一つだけ作りの違う扉の前についた。
ここ……あれだよな。絶対あのギルドマスターの部屋だよな……俺こういう面接みたいなの苦手なんだよなぁ……。
職員さんがノックし、奥から返事があると扉を開け入るように促してきた。
「し、失礼しますっ」
昔の就職面接を思い出しながら部屋に入ると、やはりギルドマスターのラウドが中で待っていた。
「ああ。テストお疲れ様。疲れたろう? さあ、かけなさい」
ラウドに促されソファーに座ると、職員さんはラウドにお茶、俺にジュースを置いて部屋から出て行った。
……ケーデ達もだけど完全に子ども扱いだよな。いや子供なんだけどさ。
「それにしても大変だっただろう。ダルナは少々やりすぎてしまう気が合ってね。いつも怪我人を出してしまう。首を少し切った程度で済んだのはかなり運がいい方だ」
「あはは……そうなんですね」
俺は首元を撫でながら苦笑いを浮かべた。
やっぱりそうか。ケーデ達から簡単な模擬戦って聞いてたから、あれがこの世界の簡単レベルなのかとビビってたけど、どうやら違ったようだ。
そこで俺はある違和感に気づいてしまった。つい触った首元に傷の感触がなかったのだ。そういえばケーデ達も何も触れてなかった。彼女の性格からして首から流血レベルのケガだったら大騒ぎしそうなものだが……。
まあ怪我の治癒自体は問題ではない。ドラグニールが治癒魔法でも使ったのだ。それよりも……。
「なぜ既に治した傷について知っているのかという顔だね。当然さ。私もあそこで見ていたからね」
その言葉に自分のものと錯覚するほどのドラグニールの動揺が伝わってきた。
「実は彼は正規の職員ではなくてね。私直属の部下で所謂裏向きの仕事を任せているんだ。そして彼のさっきの任務は君を、正確には君の中の者を見極めることだった。より正確に言えば私が見極める手伝いでもあるが。それにしても驚いたよ。まさか憑依体がそんなものだったとは」
その口ぶりに流石の俺も動揺していた。ここまで話すということは隠蔽……殺す算段もあるっていう事だろう。不死者のスキルのおかげですぐは死なないだろうが……こんな世界だ、不死者に対する術もあると考えるのが自然だ。
どうするドラグニール?
――……やむをえまい。ここで貴様を失うのは不本意だ。少し借りるぞ
借りるって……っ!
ドラグニールがそう言うと意識が一瞬揺れ、視界は変わらないがどこかテレビを見ているような感覚になった。
「ハハッ。まんまと謀られてしまったわ。それで? 我の正体を知ってこのような場を設けて何のつもりだ? 回りくどいことをせず総力を挙げ殺せばよかろう」
俺の体は勝手に足を組み偉そうにふんぞり返ると、尊大な口調で話し出した。
まさかこれ、ドラグニールが話してんのか!? 乗っ取られたってことか!?
――騒ぐな。ここを乗り切ったらすぐに戻す。
あまりに急な俺の変化にラウドの反応は混乱でも恐怖でもなく、大きな笑いだった。
「ははははは! いや、すまん。まさかこんな簡単な手に引っかかるとは思わなくてな……ははは!」
「……は?」
え?
俺とドラグニールが呆然としていると、ラウドは笑いすぎて出た涙を拭いながら説明を始めた。
「いや、戦闘を間近で見させてもらいかなり高位もものとまではわかったが、残念ながら正体までは見通せぬでな。ちょっとした罠を張らせてもらったが、まさかこうも……見事にかかってくれるとは……はははははは!!」
もう大爆笑だった。
「……まあよい。ここまでコケにされて、普段なら決して許さぬ蛮行だが……今回は、今っ回はっ、特別に許してやろう……!」
ドラグニールまさかの大人の対応。正直怒りのままに暴れまわりそうなものだったが。
――阿呆が。先ほど貴様も言っておっただろうが。こやつがここまで言うということは――。
「君を殺す算段は整っている、そう考えての判断か。思っていたより懸命なようだ。少なくとも宿主に害をなすものではないようだな。それが分かっただけでも十分ではあるが……良ければ名を教えてはくれないか」
「阿呆。先ほどの貴様の反応を受けて名を晒すものなどおるか」
「はは。ぐうの音も出ぬわ。まあいい。では狙いは? 君たちの関係性を見るに君から憑依したと考えるのが自然だが、それではメリットがない」
「……まあそれくらいは良いか。我らの潔白の証明にもなるしな。特に大それた理由があるわけではない。我は外の世界が見たかった。こやつは我が憑依出来うる希少な器だった。冒険者という職はあらゆる面で都合がよかった。それだけだ」
「ふむ……。では君は、高位の力を持ってかなりの年月封印されていた。その子は痛覚無効、不死、それに準ずるスキルを持っている……はは。私の方が上手のようなだ」
「…………チッ」
ドラグニールは最後に精一杯の抵抗としての舌打ちをすると、内側に引っ込んだ。
負け惜しみにも程があるぞ……。
「お、アリア君に戻ったかい? いやはや、君の憑依体はなかなか愉快だね。それに君を大事にしていることが分かった。あれほど高位の力を持っていてそういう反応をしてくれるのはかなり珍しいよ。仲良くするといい」
「は、はい。わかりました」
「それにすまなかった。さっきも言っただダルナは少々やりすぎるやつでな。俺もいたから死なせることはなかっただろうが、最悪両足を失わせるところだった。改めて謝罪しよう」
ダルナはそういい、深く頭を下げた。
「い、いえっ! 結果的に大丈夫だったんですし……顔を上げてください」
どうにも自分より遥かに偉い人が頭を下げているという図は優越感を感じる暇もなく苦手なのだ。
「ありがとう。君は記憶喪失と聞いていたがしっかりしているな。きっと良い環境で育っていたのだろう」
「ありがとうございます……」
いいえ。中身は立派な大人なんです……。
「謝罪代わりと言ってなんだが、君に戦闘と魔法の訓練を付けさせよう。戦いを見させてもらったが、体使いは身体能力にものを言わせた素人のそれ、魔法は憑依体が放っていたのだろう? 冒険者として生きていくにはあまりに危なっかしい」
「本当ですか? ありがとうございます!」
これは幸先がいい。正直そのあたりどうしようか迷っていたところだ。ケーデ達に教わろうとも思ってたけど、彼女たちも冒険者成り立てらしいし……ん?
「というか、私合格なんですか?」
「ん? ああ、そういえば合否を言っていなかったな。取り合えず仮合格ということで、訓練が終わり次第本合格、という形でどうだろう。もちろん仮とはいえ合格だ。このギルドの宿舎は使ってくれて構わないし……そうだな、簡単な任務ならロイ達と同行してもいいだろう。冒険者仲間というものは大事だからな」
「はい、ありがとうございます!」
これは願ったり叶ったりの展開だ。少なくとも今後の不安はすべて解消されたレベル。罰が当たらないか不安になってしまうほどだ。
「よし、そうと決まればさっそく訓練……といいたいが、さすがに疲れたろう。今日は紹介だけにして、明日から始めるということにしようか」
「はい!」
「うむ。良い返事だ。おい、入っていいぞ!」
ラウドが呼び込むと一人の男がゆっくりと入ってきた。
見覚えのあるゆったりしたローブのような黒い服装の、未だ不健康そうな相貌の男だった。
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