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こんにちは異世界
初めての出会い
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深い森の中、その三人は身動きが取れなくなっていた。
ギルドで受けたのは簡単な素材採取のクエスト。四時間もあれば採取品を納品してそのまま軽く一杯飲めるはずだった。
しかし不意に現れた強大な魔物の気配。その気配を国からほど近いこの森に放置して帰るほど、彼らは臆病ではなかった。……が。
「お、おい……やっぱ気のせいだったんじゃねぇのか? それにもし本当にいても、俺らでどうこうできるのかよ」
「だからって確かめないで放置はできないだろ!」
「けれどこのまま遭遇して戦うより、一度ギルドに戻って報告した方がいいんじゃないかしら……」
大剣を構えている大柄な男のその見た目に似合わない弱気な発言を前に立つ引き締まった体格の男が一蹴するも、ローブの女が一度撤退の案を打ち出した。
彼らは臆病ではなかった。しかしそれはギルドに正式に冒険者と認められ、採取任務とはいえ初めてのクエストで舞い上がっていた高揚感からくる愚かさから来た勇気に支えられたものだった。冷静になった彼の臆病を隠すハリポテの勇気は既に崩れかかっていた。
「……っ! 来たぞ!」
しばらくして前に立つ男が叫んだ。先ほ急に消えた魔物の気配が再び正面に現れ、みるみる距離を縮めている。大きな茂みに阻まれ先は見えないが、確かに重い足音が徐々に大きくなっていた。
緊張した面持ちで各々の武器を構え攻撃の準備をする三人。
やがてそれは茂みを突きやぶり現れた。
全高はゆうに成人男性の伸長を超えるほどの大きさを誇る、凶悪な牙を携えた黒い猪のような魔物――巨大魔猪が速度を落とすことなく彼らに向かって突進してきた。
存在は知ってはいてもこんな近くで、しかも自身を殺そうと向かってくる初めての魔物。それを目の当たりにし、ギリギリで保たれていた彼らの勇気は音を立てて崩れ落ちた。
しかし自分がここまで連れてきてしまった責任からか、先頭の男は震える体を必死で抑え刺し違えてでもと剣を突き出す。
巨大魔猪が目前まで迫り恐怖で目を固くつぶる。しかし、襲い掛かるはずの衝撃が来ないことに困惑しながら目を開けると、そこにいたのは凶悪な魔物ではなく、一人の少女だった。
「大丈夫?」
振り返り心配そうに問う少女。その背には体を横に切り裂かれた死体が無残に転がっていた。
***
――今だ!
ドラグニールの合図に合わせて、俺は木から飛び降りた。かなりの高さだったが、着地の衝撃は驚くほどに軽かった。そして目線を上げるとそこにいたのはこちらへ向かって突進してくるでかい猪。元の世界で見たら卒倒ものだが、襲われても死ぬほど痛いだけで死ぬことはない安心と、何よりも初めてドラグニールを見た衝撃に比べると、どうしてもマシに思えてしまう。
「ふっ!」
俺はそのまま左足を軸に猪に向かって回し蹴りをした。まだ少し距離があって足は猪に届いてすらいないが、蹴りに合わせ足から風の刃のようなものが出てそのまま猪を両断してしまった。
エグい……。
――ふむ。うまくいったようだ。アリアよ、ここからが重要だ。
重要?
――ああ。貴様は人間だ。人間というのは住処がいる。ここから近くにそれなりの国があるが、正体不明の小娘が易々と入れるかと言えば難しいやもしれん。
確かに。怪しさ凄いしな。
――だからまずこやつ等に取り入る。恐らくこやつ等もその国から来た冒険者だろう。上手くいけば貴様も冒険者になり、一先ずの安定が手に入る。
なるほど。でも取り入るってどうすればいい?
――簡単なことよ。貴様は記憶を失って彷徨っている哀れな娘、そう演じればいい。
いや演じればってそう簡単に……。
まあもうこんな状況だとやるしかないだろう。ええい、ままよ!
「大丈夫?」
俺は振り返り彼らに声をかけた。彼等は少し呆然として、やがてハッとして先頭の男が声をかけてきた。
「そ、それは君がやったのか?」
「うん」
「そうか。助かった。俺はロイ。後ろの大きいのがダイモで、ローブがケーデだ。君は?」
「アリア」
「アリアか。アリアはどうしてここに?」
「……分らない。なにも覚えてないの」
ロイの質問に俺はやや悩むような間を開けて答えた。
なにこれなんか恥ずかしい。背中がむずむずする。
「記憶がないの? 可哀想に……」
ケーデはそういって屈んで目線を俺に合わせると、優しく抱きしめ頭を撫でた。
うっは役得。ローブで上からじゃよく見えなかったけどケーデさん超美人。最高。
「どうするロイ? 流石においては帰れねぇぞ」
「そりゃそうだが、連れて帰ってもどうしたら……」
ロイとダイモが悩んでいると、ケーデが声を上げた。
「ねぇ、あの巨大魔猪はあなたが倒したのよね?」
「う、うん」
ジャイアントボア……そういう名前なのか。
「なら十分強いじゃない。そういう事なら私たちみたいに冒険者にならない? ちょっと恥ずかしいけど、貴女私たちより強いからきっとなれるわよ! ね? いい考えじゃない?」
にっこりと笑って俺に提案し、仲間に問いかけるケーデ。さっきも撤退の案を出してたし、リーダーはロイというよりケーデなのかな。
「そうだな。よし、そうと決まればさっさと帰ろう。また魔物に襲われても嫌だしな!」
ロイの言葉に二人は笑って賛同し、俺はケーデに手を繋がれて彼らと一緒に歩き始めた。
なんか、驚くほど都合よく進んでるな。
――ハハッ。我の考えに不備があるわけがなかろう。
考えっていう割には結構ざっくりだったけどな。
――抜かしおる。まあ良い。……どうだ? 半ば手違いで呼ばれてしまったようなものだが、この世界は。
そうだな……。まああんな怖い魔物とか、ちょっと抜けてそうな竜とかいておっかないところはあるけど、本来あの時死んで終わってたはずの命だ。手違いでも、感謝してるよ。
――そうか……おい待て。その抜けてそうな竜というのは我のことか?
さあ? どうだろうな?
ギルドで受けたのは簡単な素材採取のクエスト。四時間もあれば採取品を納品してそのまま軽く一杯飲めるはずだった。
しかし不意に現れた強大な魔物の気配。その気配を国からほど近いこの森に放置して帰るほど、彼らは臆病ではなかった。……が。
「お、おい……やっぱ気のせいだったんじゃねぇのか? それにもし本当にいても、俺らでどうこうできるのかよ」
「だからって確かめないで放置はできないだろ!」
「けれどこのまま遭遇して戦うより、一度ギルドに戻って報告した方がいいんじゃないかしら……」
大剣を構えている大柄な男のその見た目に似合わない弱気な発言を前に立つ引き締まった体格の男が一蹴するも、ローブの女が一度撤退の案を打ち出した。
彼らは臆病ではなかった。しかしそれはギルドに正式に冒険者と認められ、採取任務とはいえ初めてのクエストで舞い上がっていた高揚感からくる愚かさから来た勇気に支えられたものだった。冷静になった彼の臆病を隠すハリポテの勇気は既に崩れかかっていた。
「……っ! 来たぞ!」
しばらくして前に立つ男が叫んだ。先ほ急に消えた魔物の気配が再び正面に現れ、みるみる距離を縮めている。大きな茂みに阻まれ先は見えないが、確かに重い足音が徐々に大きくなっていた。
緊張した面持ちで各々の武器を構え攻撃の準備をする三人。
やがてそれは茂みを突きやぶり現れた。
全高はゆうに成人男性の伸長を超えるほどの大きさを誇る、凶悪な牙を携えた黒い猪のような魔物――巨大魔猪が速度を落とすことなく彼らに向かって突進してきた。
存在は知ってはいてもこんな近くで、しかも自身を殺そうと向かってくる初めての魔物。それを目の当たりにし、ギリギリで保たれていた彼らの勇気は音を立てて崩れ落ちた。
しかし自分がここまで連れてきてしまった責任からか、先頭の男は震える体を必死で抑え刺し違えてでもと剣を突き出す。
巨大魔猪が目前まで迫り恐怖で目を固くつぶる。しかし、襲い掛かるはずの衝撃が来ないことに困惑しながら目を開けると、そこにいたのは凶悪な魔物ではなく、一人の少女だった。
「大丈夫?」
振り返り心配そうに問う少女。その背には体を横に切り裂かれた死体が無残に転がっていた。
***
――今だ!
ドラグニールの合図に合わせて、俺は木から飛び降りた。かなりの高さだったが、着地の衝撃は驚くほどに軽かった。そして目線を上げるとそこにいたのはこちらへ向かって突進してくるでかい猪。元の世界で見たら卒倒ものだが、襲われても死ぬほど痛いだけで死ぬことはない安心と、何よりも初めてドラグニールを見た衝撃に比べると、どうしてもマシに思えてしまう。
「ふっ!」
俺はそのまま左足を軸に猪に向かって回し蹴りをした。まだ少し距離があって足は猪に届いてすらいないが、蹴りに合わせ足から風の刃のようなものが出てそのまま猪を両断してしまった。
エグい……。
――ふむ。うまくいったようだ。アリアよ、ここからが重要だ。
重要?
――ああ。貴様は人間だ。人間というのは住処がいる。ここから近くにそれなりの国があるが、正体不明の小娘が易々と入れるかと言えば難しいやもしれん。
確かに。怪しさ凄いしな。
――だからまずこやつ等に取り入る。恐らくこやつ等もその国から来た冒険者だろう。上手くいけば貴様も冒険者になり、一先ずの安定が手に入る。
なるほど。でも取り入るってどうすればいい?
――簡単なことよ。貴様は記憶を失って彷徨っている哀れな娘、そう演じればいい。
いや演じればってそう簡単に……。
まあもうこんな状況だとやるしかないだろう。ええい、ままよ!
「大丈夫?」
俺は振り返り彼らに声をかけた。彼等は少し呆然として、やがてハッとして先頭の男が声をかけてきた。
「そ、それは君がやったのか?」
「うん」
「そうか。助かった。俺はロイ。後ろの大きいのがダイモで、ローブがケーデだ。君は?」
「アリア」
「アリアか。アリアはどうしてここに?」
「……分らない。なにも覚えてないの」
ロイの質問に俺はやや悩むような間を開けて答えた。
なにこれなんか恥ずかしい。背中がむずむずする。
「記憶がないの? 可哀想に……」
ケーデはそういって屈んで目線を俺に合わせると、優しく抱きしめ頭を撫でた。
うっは役得。ローブで上からじゃよく見えなかったけどケーデさん超美人。最高。
「どうするロイ? 流石においては帰れねぇぞ」
「そりゃそうだが、連れて帰ってもどうしたら……」
ロイとダイモが悩んでいると、ケーデが声を上げた。
「ねぇ、あの巨大魔猪はあなたが倒したのよね?」
「う、うん」
ジャイアントボア……そういう名前なのか。
「なら十分強いじゃない。そういう事なら私たちみたいに冒険者にならない? ちょっと恥ずかしいけど、貴女私たちより強いからきっとなれるわよ! ね? いい考えじゃない?」
にっこりと笑って俺に提案し、仲間に問いかけるケーデ。さっきも撤退の案を出してたし、リーダーはロイというよりケーデなのかな。
「そうだな。よし、そうと決まればさっさと帰ろう。また魔物に襲われても嫌だしな!」
ロイの言葉に二人は笑って賛同し、俺はケーデに手を繋がれて彼らと一緒に歩き始めた。
なんか、驚くほど都合よく進んでるな。
――ハハッ。我の考えに不備があるわけがなかろう。
考えっていう割には結構ざっくりだったけどな。
――抜かしおる。まあ良い。……どうだ? 半ば手違いで呼ばれてしまったようなものだが、この世界は。
そうだな……。まああんな怖い魔物とか、ちょっと抜けてそうな竜とかいておっかないところはあるけど、本来あの時死んで終わってたはずの命だ。手違いでも、感謝してるよ。
――そうか……おい待て。その抜けてそうな竜というのは我のことか?
さあ? どうだろうな?
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