五感王国勇者物語

あふ

文字の大きさ
上 下
2 / 4
第1章 アレク村からタタンタルク

長老様と剣

しおりを挟む

「長老様っっ!」

俺は村の集会所で長老様を探した。

「わしはここじゃぞ」

にこやかな笑みを浮かべて奥から長老様が出てきた。

「して、カルロスよ。何か用かのう?」
「長老様、お願いです!俺に力を与えてください!」
「きちんと、最初から話すのじゃカルロス。」
「…父が、見つかったんです。」
「ほお、グルモアが」
「はい…、父が見つかったのは昔廃国となったシグリアス。」
「シグリアスとな、それはまた随分と…」
「父は、戻ってこないつもりらしいけど…。でも、俺は納得いきません!!」
「なぜ、納得いかぬのだ?」

長老様は心底不思議そうな顔をした。

「グルモアが戻らぬと言ったのであろう?なぜそれで納得がいかぬ?」
「それは確かにそうですが…」

俺は、息を吸い込んだ。

「もし父が帰ってこないなら、それでいいんです。でも、一度きちんと話したい。…このまま話さずにずっと家で待ち続けるなんて俺には耐えられません。」
「…なるほどな。そこまで考えていたとは、わしはどうやらお前をみくびっていたようじゃ。…よかろう。お前に力を授けよう。」
「長老様…!!あ、ありがとうございます!!」

長老様は一旦奥に行き、またすぐ戻ってきた。

「これはこの村に大昔から伝わる剣じゃ。これを持てカルロス。」
「はい…い゛っ!?」

その剣はとても重く、まるで俺を拒むかのように光り輝いていた。

「その剣も持てぬくらいなら、旅になど出ないほうがよい。村の外はそれほど危険なのだ。」

俺は目を閉じる。

剣が重いんじゃない。俺の覚悟が足りないんだ。俺を拒んでいるんじゃない。心のどこかで俺が拒んでいるんだ。

さあ、覚悟を決めろカルロス。

俺はもう一度剣を握りしめた。

「よっ…と!」

一度目とは比べ物にならないくらいその剣は軽かった。

「持てたのじゃな。ふふ、お前ならきっと持ち上げると思うておったわ。」
「長老様。俺、行ってきます…」
「ああ、気をつけてな。」

俺は長老様に背を向け、集会場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...