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10話 月に抱かれる(1)

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 ふっと目を開けると、体が妙に重だるい感じがした。そこで、アンリとついに繋がってしまったことを思い出す。
(私、アンリの全てを受け入れたんだ……)
 シャワーを浴びた記憶はないけれど、私は綺麗な体で下着を身につけていた。
 何度交わったのかは覚えていない。
 でも、アンリが『こんなに何度も注ぎ入れたのは初めてかな』とつぶやいていた声は思い出せる。
(あれって、もう子どもができてしまうくらいって意味だった?)
 自分がされたことを考えると顔から火が出そうなほど恥ずかしい。でも、後悔とか悲しみのようなものはなく、かすかな充実すら感じているのが不思議だ。
「……アンリ」
 名を口にしてみても、隣に彼はもう眠っていない。
 窓の外は真っ暗で、夜になっているのがわかる。二つの月が、以前見た時よりずっと近くなっているのが気になった。
「ジュリがここへ来てから、月は少しずつ近づいている……この世界の終わりを示唆してるのかもな」
「リュカ!」
 声のした方を向き、下着姿を隠すために毛布を体にまとう。
 リュカは全て知っているような表情でベッドの端に腰を下ろした。スプリングの弾む音が少しして、私の体も軽く跳ねる。
「準備……とやらは、どういう経緯で整ったんだ」
「え、準備?」
 唐突に言われた言葉に、一瞬きょとんとなる。
「あんたが言ったんだろ。受け入れるには、準備が必要だって」
「あ……」
 リュカと初めて過ごした夜、そんなことを言ったのを思い出した。
 確かに私は体を重ねるなら心を通わせるなどして……相手を受け入れていいと思えるよう準備が必要だと言った。
(覚えていてくれたんだ)
「どうして急にそんなことを?」
 私の質問に、リュカは軽くため息をついて笑った。
「エリオからあんたの情報は全部筒抜けだ。あっちの世界と決別してきたことも、こっちに戻ってからアンリを受け入れたことも」
「……っ」
 改めてそれを別の人から聞くのは猛烈に恥ずかしい。エリオはどうして何もかも知ってるんだろう。アンリが逐一それを報告してるってことだろうか。
(にしても、受け入れたことの詳細は語らないでほしいよ……)
 顔を赤くしていると、リュカはそこに指でそっと触れた。その冷たさに一瞬びくりと肩が震える。
「惹かれ合っている……とは、そういうことなのか」
「誰と、誰の話?」
「もちろん、アンリとあんたが……だ」
 特に嬉しそうでもなく、悲しそうでもない目で私を見つめるリュカの瞳に、私はどう答えていいか迷う。
(アンリに強要されたとはいえ、愛してるとも言ってしまった。彼に求められるのは嫌じゃなかった……それは確か)
 私はベッドの上で自分の膝を抱える腕に力を込める。
「惹かれ合ってるのかは分からないけど、私……アンリは嫌いじゃない」
「そりゃそうだろうな。アンリがあっちで選んできたってことは、あんたが無意識にアンリを求めてたってことだからな」
「……え?」
 初めて聞く『どうして私が選ばれたのか』の理由。私は胸の奥がドクドクと脈打つのを感じながらリュカを見た。
「どうして……ってずっと思ってた。どうして私が連れてこられたのかなって。それに、アンリが私に執着する理由も分からない」
 理屈めいたものは何もわからないまま、私はこの世界で生かされ、誘惑され、結局あちらの思惑通り落ちてきている。
「教えてくれる?その理由を」
 その理由が納得するものであれば、私は受け入れてここで生きていこうと思えるんだろうか。
「……子を産むだけなら知る必要はないと思っていたが、今のあんたには話した方がよさそうだな」
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