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13話 パーティー(5)

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 順調にステップを踏み、私は他愛のない会話をしながら体を揺らしていた。
(案外ダンスって気軽なものだったんだな。こうやって社交場ではそれとなく会話を楽しんで親交を深めてるのか)
 そんな真面目なことを考えながら踊っていると、相手の男性が艶のある声色で私に囁く。
「どんな方が次期王妃になられるのかと思っていましたが、可愛らしい方で驚きました」
「いえ……そんなことは」
 生まれてこのかた言われたことのない賛辞に、思わず頬が熱くなった。
(これは社交辞令、本気にしたら馬鹿みたいだよ)
 そう自分に言い聞かせるものの、やはり褒められるというのは嫌なものではない。
「常に、このきめ細かな肌に触れられるアンリ王子が羨ましいです」
 握っていた手にそっと唇を触れられ、驚いて立ち止まる。
「あ、あの」
 こういうのも社交界では普通なんだろうか。大げさに反応したら逆に誤解されてしまうのかもしれない。
「僕の許可なしに、ジュリに触れるとはどういうことだ」
「アンリ……っ」
 踊っていた私たちの腕を引き離し、アンリは鋭い視線を男性に向ける。
(どこから見てたんだろう)
「これは失礼しました、アンリ様もフローラ様と踊っていらしたので特に問題はないのかと……」
 男性は特に悪びれず、やや口元を緩めながらそう言う。
「黙れ。僕は初対面のレディーにキスなどしない」
「手に軽くしただけですよ」
 男性は私から離れてやれやれというふうに肩をすくめると、仕方なしに頭を下げた。
「では、次回からはアンリ様に許可をいただいてからにしますね」
「悪いが、ジュリに触れる許可は出さない」
 そう言い捨てると、アンリは私の手を引いて会場を出た。ざわめく客人の声を聞きながら、私は焦ってしまう。
「アンリ、お客様にあんな態度をとって大丈夫なの?」
「構わないよ。ジュリに触れるやつは誰だろうと許さない」
「……アンリ」
(そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど、王様になろうっていう人がそんな態度……やっぱりよくないよ)
 アンリは私を部屋に戻すと、自分はパーティーの締めをしてくると言った。
「もうお披露目は終わったし、パーティーの趣旨は伝わっただろうからね」
「私はもう行かなくていいの?」
 そう尋ねる私の顎を軽く掴むと、アンリは深いキスを落とした。突然のキスに驚いて私は目を開いたままそれを受ける。
「ん……っ、何するの……っ」
 唇を離すと、アンリは熱のある瞳で私を見つめ、意地悪な笑みを浮かべた。
「他の男に触れた汚れを落とさないと。戻ったら綺麗に洗ってあげるから……ドレスを脱いで待ってて」
 その声色の艶っぽさに、こんな状況にもかかわらずぞくりと体が疼いた。アンリの声は私の深い部分をくすぐる効果を持っている。無邪気に甘えたかと思うと、男っぽく翻弄してくるところもあって、振り回されつつもどこかそれを期待している自分もいる。
(私ってM体質だったのかな)
 そう思ってしまうほど、アンリの少し異常な執着に対して喜んでいる部分があるのを否定できない。
「わかった……待ってる」
「ん、いい子だね。愛してるよ」
 抵抗なく愛してるという言葉を使い、アンリは私にもう一度キスをしてからドアの向こうへ消えた。

(パーティーは、あれで本当に成功だったのかな。私が男性と踊ったせいで、アンリの評判が落ちるようなことがあったら嫌だな)

 ドレスを脱ぎながら、私の心配は消えない。
 無事に全てが終わり、アンリと平和なカリーナ王国で幸せになれたらどんなにいいだろう。
 諦めていた女としての幸せが、目の前にある。
 なのに、それは簡単に達成できないような予感がするのはどうしてだろう。元々楽観的な方ではないけれど、この予感はもっと別のものだ。

(この国には謎が多すぎるし、エリオやリュカについてもまだよくわからないことがたくさんある。それにあの王妃の声……夢であってほしいけど)

 ふつふつと浮かんでは消える疑問や問題を考えながら、私はアンリが戻るのを大人しく待っていた。

 それから2時間も経っただろうか。
 アンリがようやく疲れた表情で戻ってきた。
「お帰りなさい、遅かったね。パーティーは終わったの?」
「え、ああ……変なことを言い出すやつらがいて、少し揉めたけど大丈夫だよ」
 憔悴した様子のアンリを見て、不安になる。
「変なことを言い出すやつらって……何があったの?」
 アンリは椅子に腰掛けると、一つ息を吐いた。よほど嫌なことがあったようで、眉間にしわが寄っている。
「君が国の人間じゃないことを噂している奴がいてね。ちょっとした騒ぎになったんだ」
「え、大丈夫だったの?」
(一体どこから話が漏れたんだろう)
 私が異世界から来た人間だと知っているのはお城の中でもほんの一握りのはず。
「うん。ジュリは紛れもなくカリーナの人間だと納得するように説明してきたから、大丈夫」
「そう……」
(私がこの国の人間じゃないって、もう噂されてるんだ)
 不安になっていると、アンリは自分で出したお茶を飲んで一呼吸置くと、椅子から立ち上がった。
「家来の誰かが漏らしたに違いないけど、完全に口を封印するのも難しい……ある程度疑われるのは想定内だよ」
 落ち着いた声でそう言うと、アンリは私の側まで歩み寄って首に垂れた髪を触った。
「ジュリは何も心配しなくていい……君は僕だけを見ていればいい。他の男に揺れるなんて許さないからね」
「な……っ」
 呆れて言葉を失っていると、アンリは頬を撫でながら甘い声で囁いた。
「僕は君を信じてる。ジュリは僕の味方……だよね?」
「もちろん」
「うん……そっか」
 にこりと微笑むと、彼は私をすっと抱き上げて歩き出す。
「え、何?どこへ行くの」
「バスルーム。洗ってあげるって約束してたでしょ」
「あ……一人で入れるよ。ちゃんと洗うし」
 改めて洗ってあげると言われると、どうにも恥ずかしい。それでもアンリは私を離さずにバスルームへ入った。
「今日はお疲れ様。隅々まで丁寧に洗ってあげる」
 熱いお湯が頭から落ちてきて、全身を滝のように流れていく。その温かさは心をほっとさせたけれど、アンリの瞳にまだ怒りのようなものが残っているのが気になる。
(そんなに怒ることないのに……)
「やっぱり恋って面倒だよ。いちいちこんなイライラに付き合わなきゃいけないの?」
「え……あっ」
 勢いよく裸になったアンリが、私の濡れた服もやや乱暴に脱がせた。私の露わになった胸元に痛いほどのキスをして、ソープのついた手でゆっくりと体じゅうを撫でていった。
(あ…)
 今までになく優しい手つきに、思いがけず声が漏れそうになる。
「アンリ……普通に洗って欲しい」
 恥ずかしくて身をよじっても、アンリはくすりと耳元で笑うだけで手を止めない。それどころか胸の先端をくるくると弄ぶように刺激してくる。
「だ……め」
「どうして、ここ気持ちいいでしょ。ジュリは耳と胸を刺激しながらあそこを触ると、驚くほど濡れるって知ってるんだから」
(そうかもしれないけど、今は洗ってくれるだけの時間じゃないの?)
 アンリは最初から洗うだけでなく、そのまま愛し合おうという気持ちだったようで、体をさすりながら食むような激しいキスで唇をふさいだ。
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