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プロローグ
軽くソファの上に押し倒され、私は目を丸くしていた。
上に覆い被さってくる橘さんは、ゾクっとするほど冷たい瞳で私を見下ろしている。
「な……にを──」
言葉を遮るように指で口を封じると、そのままするりと胸元に手が滑りこんでくる。
「ぁ……」
ヒヤリとした感触に体がビクリと跳ねた。
その反応に彼は意地悪く微笑む。
「感度いいね。なんだ……ずっとこれ期待してた?」
「し、してないです」
「嘘。欲しいって顔してるよ」
「違いますっ」
言葉通りに抵抗をしているつもりでも、遠慮なく触れられていく肌の心地よさに甘い痺れが止まらない。
(私、どうしちゃったの……もっと触れてほしいなんて)
両足の先を焦れったく擦り合わせると、その仕草を見て彼は嬉しそうに笑う。
「なにか足りない?」
「なにもない、です」
「じゃあ望み通りやめようか」
「えっ」
触れていた手が止まり、彼は一旦私から離れた。私を包んでいた温もりが消えたことに寂しくなり、“やめないで"と口にしそうになる。
慌てて口をつぐむけれど、公輝さんは私の反応を見逃さなかった。
「続けてほしいんだよね?」
「ちが……」
「違わない」
再び落とされたキスに言葉が飲みこまれ、スカートの中へ手が忍びこんだ。
「……っ」
「濡れてる。これでも否定するの?」
(恥ずかしいっ)
心を見透かすような、そんな言葉を口にしながら長い指先が熱を帯び始めた秘部をなぞる。
「ぁ……ん」
たまらず声がもれ、さらなる恥ずかしさに首を左右に振った。
(私じゃない、こんなの……違う)
すると彼は手を止めて、涙目になる私をまじまじと見つめてくる。
「三国さんって嘘つきだよね。体は嫌がってないのに口では嫌だって言うんだ」
「嘘なんて……」
(私にもわからないよ。なんで……こんな突然のアプローチが心地いいのか)
従順になりたいわけじゃない。
そう思うのに、ゆるゆると刺激される体の感覚は決して嫌悪するようなものではなかった。むしろその反対で……
「まだ欲しいなら素直に言ってみて」
「……無理です」
「無理ってなに」
押し当てられた唇から甘いセリフと共に吐息がかかる。
そこは私のたまらなく弱いところだ。
(耳はだめ……抵抗できなくなる)
両手で耳を塞ごうとするけれど、彼は強引に手首を捉えてシーツに押しつけた。
「抵抗が弱いな。ほんと……君って結構なM気質だよね」
くすくす笑いながら、彼の指はブラウスのボタンを器用に外していく。
同時に首筋に痛いくらいのキスが落とされ、心とは裏腹に体が心地よさで震えた。
「ふ……ぁ」
「素直になってきた。もっと欲しがらせてあげる」
唇へのキスをしながら、さらに欲するよう誘導する。
(このままじゃ、言葉通り流されちゃう。なんで……どうしてこんなことに……?)
第一章
遡ること一ヶ月前、それは弟の電話から始まった。
「えっ、借金?」
久しぶりに私のアパートを訪ねてきた純也は痩せ細って顔色も悪くなっていた。
ゲーム仲間の友人と一緒に立ち上げたゲーム会社のことは前から聞いていて、とても生き生きと準備を進めていたのがつい二ヶ月ほど前の話だ。
だから、どうしてこんな状態になっているのかと驚く。
「太い出資をしてくれるはずだった資本家が急に心変わりして……払えるはずだった金が、まるっきり当てがなくなったんだ」
「それって、少しずつ払うわけにいかないの?」
私の質問に純也は、力なく首を横に振った。
「額が大きすぎる。月割で払っていくにしても、生活が成り立たないくらいの額になるんだ」
「いくらなの?」
「……とりあえず……二千万円 くらいかな」
(とりあえずってことは、まだプラスアルファがあるんだ)
確かにアルバイト程度では追いつかないような数字だ。
沈没しないように活動する資金として取り急ぎ数百万円は必要らしい。
とはいえ、弟がそれを用意できるはずもなく、このままだと会社をたたむだけでなく借金を背負って酷い生活になるのが目に見えた。
(私もそんな額は持ってないし。今勤めてる会社じゃ、給料が上がる様子はないし……)
「作品はもうできてるんだ。リリースして、利益が出るまで待ってほしかったんだけど……今は似たようなゲームをバンバン出してる会社があるし。個性がないって言われて」
「そんな。一度は目をかけて出資を約束してくれたのに?」
「なに言ったって無駄だよ。俺たちもすっかり相手を信頼しちゃってさ……世間知らずだったんだよ」
この一件で、純也はすっかり人間不信になってしまったようで、私以外の人間に同じ相談をするつもりはないと言っている。
一緒に開発に携わっている友人もショックで引きこもってしまい、今は全く希望が持てない状態みたいだ。
(酷いな……こんなに頑張ってきたのに)
純也は勉強よりゲームが好きで、親に怒られてもゲームへの熱は冷めることがなかった。
それどころか高校を卒業したと同時にプログラミングを勉強し始め、独学でエンジニアになり、ゲーム会社で下積みを重ねていた。
そんな中で出会った同じゲーム仲間と、今回ようやくオリジナルのゲームで独立しようとしていた矢先だった。
(約束一つ守れない人間の犠牲になるなんて我慢できない)
フツフツと湧いてくる怒りが抑えきれず、私は思わず叫んでいた。
「お姉ちゃんに任せて!」
「え……任せるって? やだよ俺、姉ちゃんが身を売ったりするのは」
「バカ! 誰が身を売るのよ。給料のいいところに転職して、お金を作るから」
「……嬉しいけど、姉ちゃんこの前実家の外壁工事費も出したばっかりじゃん」
「まぁ……ね」
自営業者の両親は元々借金を重ねながら生活しており、家の修繕費なんかとても出せる様子ではなかった。
でも家は限界になっていて、私がその時持っていた貯金をすべてはたいてリフォームしたのだ。
「でも、親は親。純也は純也。大切な家族のためなら力になるのは当然と思ってるから」
「姉ちゃん……」
純也は目を潤ませながら、こくりと頷いた。
「姉ちゃんが協力してくれるのは心強いよ。でもホント、可能な限りでいいよ。俺も自力でできることはどうにかするから」
「どうにかって?」
「プログラマーのバイトをする。お世話になってる人が仕事をくれるって言ってくれてるんだ。だからそこで頑張れば、少しは金になると思うから」
純也は私にだけ苦労はさせられないと自分もギリギリまで頑張るつもりだと言った。そんな彼だからますます私は力になりたいと思ってしまう。
「じゃあお姉ちゃんは早く借金を返せるように少し応援するよ」
(せめて借金の半分はどうにかしてあげたい)
「うん。ありがとう。友達もきっと喜ぶ」
純也は少し希望が見えたように表情を和らげると、私が用意したご飯を少しずつ食べ始めたのだった。
それから私はすぐに行動を起こした。
元々働いていたブラック気味の職場を退職し、以前より最低二倍のお給料が出るところを探して毎日転職活動をした。
とはいえ、華やかな経歴があるわけでもない私がそんな条件のいい仕事に就くのは簡単ではなく、届くのは不採用通知ばかりの現状だ。
(やっぱりすぐにたくさんのお金を得るっていうのは簡単じゃない……か)
秘書検定を持っていること、多少英語ができることを活かしたかったのだけれど、今どきこれくらいの能力を持っている人は多い。
もっと能力のある人じゃないと、いいお給料は望めないのか。そう絶望しかけた時、秘書という職種に驚きの金額が提示されている求人が目に入った。
「タチバナ法律事務所……所長秘書、月給……え、本当に?」
目を疑ったけれど、本当に私が望んだ通り以前の二倍の給料が約束されている。
恐ろしく大変な仕事なのかもしれないと思いつつも、ここ以外に同じような条件を出している会社は見当たらない。
(大手企業も驚くようなお給料で、おまけにボーナスも年に三回出る。これだけの条件ならきっと競争率も高いよね……それでも可能性がゼロじゃないなら……いちかばちか、ここに賭けてみよう)
そう思い立ち、私はその事務所向けに履歴書を作成し始めた。
なんとか電子履歴書をアップロードするところまで終えたものの、返信が来るまでどうにも気持ちが落ち着かない。
(この事務所がどんな雰囲気なのか見てみたいな……偵察がてら出かけよう)
私は善は急げとばかりに着替えると、最寄り駅まで自転車を走らせた。
四月半ばの風はまだ肌寒さが残っていたけれど、そんなのは今の私にはさほどこたえなかった。
いくつか駅を経由して、都心の街にたどりついた。
少し迷ったものの、事務所が入っているビルはとても目立つのですぐにわかった。
「これがタチバナ法律事務所の入っているビル……」
都心に建ちながらもそれなりの面積を保有したビルで、ピカピカの窓ガラスからは綺麗でお洒落な待合室が見える。
全体的に新しくてモダンなデザインで、一見すると高級マンションかなと思ってしまう。
(ここに事務所を構えられるだけでも、相当に繁盛しているのがわかるなぁ)
事務所の悪い噂は特になく、とにかく経営者である弁護士が優秀だという評価が多い。小さな仕事から大きな仕事まで、スピーディーに確実に勝利へと導くのがモットーだとか。
(頭の切れる弁護士ってなんか冷たくて怖いイメージあるけど、大丈夫かな)
二十階以上ありそうなそのビルを見上げていると、入り口のドアから一人の男性が出てきた。
その人はスラッと背が高く、身につけたスーツから体型が整っているのが遠目にもわかる。
色素の薄い髪が風になびくと光が反射するように煌めき、通りかかった人は思わず二度見してしまうような目立つ容姿の人だ。
(芸能人なのかな)
そう思って何気なく視線を向けていると、その人は私のほうを見て嬉しそうに手を上げた。誰に振っているのだろうと後ろを振り返るけれど、私の他には誰もいない。
(まさか私?)
スーツの襟元には存在感ある弁護士バッジが光っていた。
(この人、もしかしてタチバナ法律事務所の人?)
「お待たせ」
「え?」
「いやあ、ミーティングが思ったより長引いちゃって」
目の前まで歩いてきた彼は、当然のように私の肩を抱いて歩き出す。
「ちょ……っ」
顔を上げると、ぐんと近づいたその人の顔は遠目に見るよりもっと整っていて驚く。それになにより──
(声がすごくいい)
体の芯をくすぐるような、抑えめな低音がゾクリと響く。
(顔が整ってる上に声までいいなんて、本当に俳優とかじゃないのかなあ)
そんな感想を抱いていると、突然後ろから女性の高い声が響いた。
「……っ! ……待って!」
「あの。あの人、あなたを呼んでるんじゃ……」
「黙って」
彼は私の声を封じると、そのまま強引に進んでいく。
「歩調を合わせて。嬉しそうにしてて」
(なにこの人……強引すぎ!)
「離してください」
「だめ」
肩に置かれた手を払おうとするも、がっしりホールドされていて離れられない。
「もう少し我慢して」
「ええっ」
歩調はますます速くなり、後ろの声は小さくなっていく。
「私──諦めない──っ!」
(諦めない? こじれたカップル? なんなの~~!)
さながら恋人同士のように密着しながら数百メートルほど歩いただろうか。
男性は路地裏を通った先にあるレストランのドアを開け、私をぐいっと押しこんだ。
「う、わっ!」
カランッと音が響いて、ドアがパタリと閉まった。
「いらっしゃいませ」
中に客はほとんどおらず、柔和な表情をした男性店員が一人いるだけだ。
アンティークのスタンドが間接照明となり、店内をムーディーに照らしている。
「……諦めたか」
男性はそう呟きながら、窓から外の様子を窺っている。
「あの。私、もう行っていいですか」
恐る恐る質問すると、男性はこちらを振り返って改めて私をまじまじと見た。
そしてクスリと笑うと、私の肩から手を離した。
「協力ありがとう、助かったよ。付き合ってくれたお礼に、この店のものをご馳走しよう。今日の予約はもうないだろうから」
「え、ご馳走って?」
(どうしよう。こんな訳のわからない展開でご馳走になっていいんだろうか)
戸惑う私の背に軽く手を当て、奥のテーブル席へと案内される。
椅子を引いてニコリと微笑む姿は、高級料理店のウエイターみたいだ。
「どうぞお姫様。おかけください」
「あ、ありがとうございます」
(ご馳走になるってまだ言ってないんだけどな)
今さら断れない雰囲気になり、仕方なく椅子に座る。
すると目の前には美味しそうなプレートランチの写真が並べられた。
「美味しそう」
「うちのメニューはどれも好評だから。味は保証するよ」
(食べるつもりなかったけど、こんなの見せられたらお腹が鳴ってしまう)
結局私はパスタとグラタンのセットをお願いして、食前に出てきたフルーツジュースも遠慮なくいただいた。
「美味しい! これ、手作りジュースですね」
私がすっかりご機嫌になったのを見計らい、男性はふっと嬉しそうに目を細めた。
「料理はもっと美味しいよ」
「そうなんですか? 期待しちゃいます」
「期待には存分に応えられると思う。じゃあ五島、会計はいつも通り事務所に請求して」
「かしこまりました」
五島と呼ばれた男性は、丁寧に頭を下げてスーツの男性を見送った。
(なんだったんだろう……変な人)
唐突すぎる彼の振る舞いに、首を傾げていると、五島さんが申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません。公輝様はあのようなことが日常茶飯事でして」
「日常、なんですか。大変そうですね」
(あの人“まさき"っていうんだ……思いがけず名前を知ってしまった)
「ふふ、まあどうぞせっかくですからお召し上がりください」
出来立てのパスタとグラタンを見て、急に気持ちが和らぐ。
ツヤッとしたキャベツとアンチョビのパスタに、エビをふんだんに使った表面がカリカリのグラタンは見てるだけでヨダレが出そうなほど美味しそうだ。
当然味も美味しくて、私はそのランチをペロリとたいらげてしまった。
(これは……大抵の失礼は許せてしまうなあ)
五島さんは慣れた手つきでコーヒーを淹れてくれ、美しいカップと共に差し出してくれた。
「お嫌いでなければケーキもお出ししましょうか」
「は、はい。ありがとうございます!」
素直に喜ぶと、五島さんは優しげに目を細めた。
話しやすそうな空気を醸し出す五島さんに、私は思わずさっきまでの経緯を愚痴まじりに話した。
「──というわけで、かなりビックリしました」
「そうですか」
五島さんは同情するようにこくりと頷いた。
「災難でしたね」
「本当ですよ」
コーヒーを一口すすり、ふと不思議に思って顔を上げる。
「あの、ここって……普通のレストランじゃないんですか?」
(今日はもう誰も来ないだろうからって言ってたよね)
「ここはタチバナ法律事務所の秘密基地のようなものでして。ご予約された方しか入れないレストランでございます」
「秘密……ってことは、事務所で話せないことを相談する場所、ってことですか?」
「まあ、そのようなところです」
五島さんは困ったような笑みを浮かべた。
(後ろ暗い事情でもあるのかな。これ以上は聞かないほうがよさそう)
そう思い、私は口をつぐんだ。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
コーヒーをいただいたあと、私は五島さんにお礼を言ってレストランをあとにした。
数日後、書類選考が通ったという連絡が来て私は歓喜の声をあげた。
「よかった! 絶対無理だと思ってたのに。可能性が出てきた」
(事故みたいな出会いだったけど、あの日事務所の弁護士さんと顔を合わせたのも、なにかの縁だったのかも)
「採用されますように」
願いをこめて髪を整え、スーツをまとい。
「いざ!」
と、気合を入れて事務所のあるビルへと向かった。
一度外観は見ていたものの、中に入るのは初めて。緊張しながらエレベーターで最上階まで行く。
このビルの最上階は特別らしく、フロアの真ん中には庭園が広がっていた。
(空が見えて解放感があるなぁ)
窓越しに見える空を見上げ、ここで働く自分を想像した。
(うん、いい感じ)
しっかりイメトレをすると、面接時間に合わせてインターホンを鳴らす。すると、落ち着いた男性の声が返ってくる。
「本日面接予定の三国様ですね。ドアは開いてますので、どうぞ中へお進みください」
「ありがとうございます」
恐る恐るドアを開けて中に入ると、五十代くらいの物腰柔らかな紳士が出迎えてくれた。落ち着いた雰囲気ながら、目の奥にはすべてを見抜くような鋭さが宿っているように見える。
(厳しそうな人だな)
「はじめまして。三国と申します。本日はよろしくお願いいたします」
第一印象はなにより大事と思い、丁寧なお辞儀をして笑顔を浮かべる。
すると男性も目を細め、最初より少しだけ優しい表情になった。
「こちらこそ。私は橘の秘書、柴崎と申します。では所長と対面していただく前にまず私と面接していただきます、どうぞ応接室へ」
「はい」
私は柴崎さんの丁寧なエスコートに従い、ガラス張りの立派な応接室へと足を踏み入れた。
応接室に置かれたソファに腰掛け、私はまず柴崎さんからヒアリングと称して主に私自身のことに関する質問を受けた。その内容は驚くほどシンプルで、面接というには気が抜けるほどのものだった。
「──だいたいわかりました」
タブレット端末に入力し終えると、柴崎さんはそれをテーブルに置いて私を見た。
「当方に応募されたのは主に給与面に魅力があったからということですね」
「そうですね」
「他の会社などよりも高めに設定をしていることには理由があるのですが、それもご承知いただいていると思ってよろしいですか?」
「内容によりますが……」
(お給料を弾まないと見つからない人材なのだとすれば、ちょっと予想のつかない仕事なのかな)
一抹の不安はよぎるけれど、ここで怯むわけにはいかない。
「私ができることでしたら、お給金以上のお仕事をするよう頑張るつもりです。いい加減な気持ちでは来ていませんので。よろしくお願いします」
「……いいでしょう。では、こちらの要求する仕事を伝えます。よろしいでしょうか」
「はい」
いよいよ本格的な仕事内容を聞くこととなった。
姿勢を正して改めて話を聞く体勢になると、柴崎さんは厳しめの口調で言う。
「所長秘書としての事務的な仕事は主に私がやっており、特に不便はありません。なので、第二秘書にお任せしたい仕事はもっと目に見えづらいものとなります」
「見えづらいもの?
「はい。橘のモチベーション維持が主な仕事になります」
「メンタルケア、的なことですか? 私、心理学などは学んでいないのですが」
「そういう学術的な知識は必要ありません。重要なのは相性でして」
「相性」
「ええ。これが……なかなか適した人がおらず」
本当に苦労しているようで、柴崎さんは眉根を寄せて小さくため息をついた。
話によると、所長である橘さんは相当な切れ者だけれど気難しい一面があるらしい。
文句なしに頭のいい方で、海外の大学を出たあとは日本に戻ってきて司法試験に一発合格。大手事務所に入り名を上げたあとは独立して今の事務所を一人で設立したという。
軽くソファの上に押し倒され、私は目を丸くしていた。
上に覆い被さってくる橘さんは、ゾクっとするほど冷たい瞳で私を見下ろしている。
「な……にを──」
言葉を遮るように指で口を封じると、そのままするりと胸元に手が滑りこんでくる。
「ぁ……」
ヒヤリとした感触に体がビクリと跳ねた。
その反応に彼は意地悪く微笑む。
「感度いいね。なんだ……ずっとこれ期待してた?」
「し、してないです」
「嘘。欲しいって顔してるよ」
「違いますっ」
言葉通りに抵抗をしているつもりでも、遠慮なく触れられていく肌の心地よさに甘い痺れが止まらない。
(私、どうしちゃったの……もっと触れてほしいなんて)
両足の先を焦れったく擦り合わせると、その仕草を見て彼は嬉しそうに笑う。
「なにか足りない?」
「なにもない、です」
「じゃあ望み通りやめようか」
「えっ」
触れていた手が止まり、彼は一旦私から離れた。私を包んでいた温もりが消えたことに寂しくなり、“やめないで"と口にしそうになる。
慌てて口をつぐむけれど、公輝さんは私の反応を見逃さなかった。
「続けてほしいんだよね?」
「ちが……」
「違わない」
再び落とされたキスに言葉が飲みこまれ、スカートの中へ手が忍びこんだ。
「……っ」
「濡れてる。これでも否定するの?」
(恥ずかしいっ)
心を見透かすような、そんな言葉を口にしながら長い指先が熱を帯び始めた秘部をなぞる。
「ぁ……ん」
たまらず声がもれ、さらなる恥ずかしさに首を左右に振った。
(私じゃない、こんなの……違う)
すると彼は手を止めて、涙目になる私をまじまじと見つめてくる。
「三国さんって嘘つきだよね。体は嫌がってないのに口では嫌だって言うんだ」
「嘘なんて……」
(私にもわからないよ。なんで……こんな突然のアプローチが心地いいのか)
従順になりたいわけじゃない。
そう思うのに、ゆるゆると刺激される体の感覚は決して嫌悪するようなものではなかった。むしろその反対で……
「まだ欲しいなら素直に言ってみて」
「……無理です」
「無理ってなに」
押し当てられた唇から甘いセリフと共に吐息がかかる。
そこは私のたまらなく弱いところだ。
(耳はだめ……抵抗できなくなる)
両手で耳を塞ごうとするけれど、彼は強引に手首を捉えてシーツに押しつけた。
「抵抗が弱いな。ほんと……君って結構なM気質だよね」
くすくす笑いながら、彼の指はブラウスのボタンを器用に外していく。
同時に首筋に痛いくらいのキスが落とされ、心とは裏腹に体が心地よさで震えた。
「ふ……ぁ」
「素直になってきた。もっと欲しがらせてあげる」
唇へのキスをしながら、さらに欲するよう誘導する。
(このままじゃ、言葉通り流されちゃう。なんで……どうしてこんなことに……?)
第一章
遡ること一ヶ月前、それは弟の電話から始まった。
「えっ、借金?」
久しぶりに私のアパートを訪ねてきた純也は痩せ細って顔色も悪くなっていた。
ゲーム仲間の友人と一緒に立ち上げたゲーム会社のことは前から聞いていて、とても生き生きと準備を進めていたのがつい二ヶ月ほど前の話だ。
だから、どうしてこんな状態になっているのかと驚く。
「太い出資をしてくれるはずだった資本家が急に心変わりして……払えるはずだった金が、まるっきり当てがなくなったんだ」
「それって、少しずつ払うわけにいかないの?」
私の質問に純也は、力なく首を横に振った。
「額が大きすぎる。月割で払っていくにしても、生活が成り立たないくらいの額になるんだ」
「いくらなの?」
「……とりあえず……二千万円 くらいかな」
(とりあえずってことは、まだプラスアルファがあるんだ)
確かにアルバイト程度では追いつかないような数字だ。
沈没しないように活動する資金として取り急ぎ数百万円は必要らしい。
とはいえ、弟がそれを用意できるはずもなく、このままだと会社をたたむだけでなく借金を背負って酷い生活になるのが目に見えた。
(私もそんな額は持ってないし。今勤めてる会社じゃ、給料が上がる様子はないし……)
「作品はもうできてるんだ。リリースして、利益が出るまで待ってほしかったんだけど……今は似たようなゲームをバンバン出してる会社があるし。個性がないって言われて」
「そんな。一度は目をかけて出資を約束してくれたのに?」
「なに言ったって無駄だよ。俺たちもすっかり相手を信頼しちゃってさ……世間知らずだったんだよ」
この一件で、純也はすっかり人間不信になってしまったようで、私以外の人間に同じ相談をするつもりはないと言っている。
一緒に開発に携わっている友人もショックで引きこもってしまい、今は全く希望が持てない状態みたいだ。
(酷いな……こんなに頑張ってきたのに)
純也は勉強よりゲームが好きで、親に怒られてもゲームへの熱は冷めることがなかった。
それどころか高校を卒業したと同時にプログラミングを勉強し始め、独学でエンジニアになり、ゲーム会社で下積みを重ねていた。
そんな中で出会った同じゲーム仲間と、今回ようやくオリジナルのゲームで独立しようとしていた矢先だった。
(約束一つ守れない人間の犠牲になるなんて我慢できない)
フツフツと湧いてくる怒りが抑えきれず、私は思わず叫んでいた。
「お姉ちゃんに任せて!」
「え……任せるって? やだよ俺、姉ちゃんが身を売ったりするのは」
「バカ! 誰が身を売るのよ。給料のいいところに転職して、お金を作るから」
「……嬉しいけど、姉ちゃんこの前実家の外壁工事費も出したばっかりじゃん」
「まぁ……ね」
自営業者の両親は元々借金を重ねながら生活しており、家の修繕費なんかとても出せる様子ではなかった。
でも家は限界になっていて、私がその時持っていた貯金をすべてはたいてリフォームしたのだ。
「でも、親は親。純也は純也。大切な家族のためなら力になるのは当然と思ってるから」
「姉ちゃん……」
純也は目を潤ませながら、こくりと頷いた。
「姉ちゃんが協力してくれるのは心強いよ。でもホント、可能な限りでいいよ。俺も自力でできることはどうにかするから」
「どうにかって?」
「プログラマーのバイトをする。お世話になってる人が仕事をくれるって言ってくれてるんだ。だからそこで頑張れば、少しは金になると思うから」
純也は私にだけ苦労はさせられないと自分もギリギリまで頑張るつもりだと言った。そんな彼だからますます私は力になりたいと思ってしまう。
「じゃあお姉ちゃんは早く借金を返せるように少し応援するよ」
(せめて借金の半分はどうにかしてあげたい)
「うん。ありがとう。友達もきっと喜ぶ」
純也は少し希望が見えたように表情を和らげると、私が用意したご飯を少しずつ食べ始めたのだった。
それから私はすぐに行動を起こした。
元々働いていたブラック気味の職場を退職し、以前より最低二倍のお給料が出るところを探して毎日転職活動をした。
とはいえ、華やかな経歴があるわけでもない私がそんな条件のいい仕事に就くのは簡単ではなく、届くのは不採用通知ばかりの現状だ。
(やっぱりすぐにたくさんのお金を得るっていうのは簡単じゃない……か)
秘書検定を持っていること、多少英語ができることを活かしたかったのだけれど、今どきこれくらいの能力を持っている人は多い。
もっと能力のある人じゃないと、いいお給料は望めないのか。そう絶望しかけた時、秘書という職種に驚きの金額が提示されている求人が目に入った。
「タチバナ法律事務所……所長秘書、月給……え、本当に?」
目を疑ったけれど、本当に私が望んだ通り以前の二倍の給料が約束されている。
恐ろしく大変な仕事なのかもしれないと思いつつも、ここ以外に同じような条件を出している会社は見当たらない。
(大手企業も驚くようなお給料で、おまけにボーナスも年に三回出る。これだけの条件ならきっと競争率も高いよね……それでも可能性がゼロじゃないなら……いちかばちか、ここに賭けてみよう)
そう思い立ち、私はその事務所向けに履歴書を作成し始めた。
なんとか電子履歴書をアップロードするところまで終えたものの、返信が来るまでどうにも気持ちが落ち着かない。
(この事務所がどんな雰囲気なのか見てみたいな……偵察がてら出かけよう)
私は善は急げとばかりに着替えると、最寄り駅まで自転車を走らせた。
四月半ばの風はまだ肌寒さが残っていたけれど、そんなのは今の私にはさほどこたえなかった。
いくつか駅を経由して、都心の街にたどりついた。
少し迷ったものの、事務所が入っているビルはとても目立つのですぐにわかった。
「これがタチバナ法律事務所の入っているビル……」
都心に建ちながらもそれなりの面積を保有したビルで、ピカピカの窓ガラスからは綺麗でお洒落な待合室が見える。
全体的に新しくてモダンなデザインで、一見すると高級マンションかなと思ってしまう。
(ここに事務所を構えられるだけでも、相当に繁盛しているのがわかるなぁ)
事務所の悪い噂は特になく、とにかく経営者である弁護士が優秀だという評価が多い。小さな仕事から大きな仕事まで、スピーディーに確実に勝利へと導くのがモットーだとか。
(頭の切れる弁護士ってなんか冷たくて怖いイメージあるけど、大丈夫かな)
二十階以上ありそうなそのビルを見上げていると、入り口のドアから一人の男性が出てきた。
その人はスラッと背が高く、身につけたスーツから体型が整っているのが遠目にもわかる。
色素の薄い髪が風になびくと光が反射するように煌めき、通りかかった人は思わず二度見してしまうような目立つ容姿の人だ。
(芸能人なのかな)
そう思って何気なく視線を向けていると、その人は私のほうを見て嬉しそうに手を上げた。誰に振っているのだろうと後ろを振り返るけれど、私の他には誰もいない。
(まさか私?)
スーツの襟元には存在感ある弁護士バッジが光っていた。
(この人、もしかしてタチバナ法律事務所の人?)
「お待たせ」
「え?」
「いやあ、ミーティングが思ったより長引いちゃって」
目の前まで歩いてきた彼は、当然のように私の肩を抱いて歩き出す。
「ちょ……っ」
顔を上げると、ぐんと近づいたその人の顔は遠目に見るよりもっと整っていて驚く。それになにより──
(声がすごくいい)
体の芯をくすぐるような、抑えめな低音がゾクリと響く。
(顔が整ってる上に声までいいなんて、本当に俳優とかじゃないのかなあ)
そんな感想を抱いていると、突然後ろから女性の高い声が響いた。
「……っ! ……待って!」
「あの。あの人、あなたを呼んでるんじゃ……」
「黙って」
彼は私の声を封じると、そのまま強引に進んでいく。
「歩調を合わせて。嬉しそうにしてて」
(なにこの人……強引すぎ!)
「離してください」
「だめ」
肩に置かれた手を払おうとするも、がっしりホールドされていて離れられない。
「もう少し我慢して」
「ええっ」
歩調はますます速くなり、後ろの声は小さくなっていく。
「私──諦めない──っ!」
(諦めない? こじれたカップル? なんなの~~!)
さながら恋人同士のように密着しながら数百メートルほど歩いただろうか。
男性は路地裏を通った先にあるレストランのドアを開け、私をぐいっと押しこんだ。
「う、わっ!」
カランッと音が響いて、ドアがパタリと閉まった。
「いらっしゃいませ」
中に客はほとんどおらず、柔和な表情をした男性店員が一人いるだけだ。
アンティークのスタンドが間接照明となり、店内をムーディーに照らしている。
「……諦めたか」
男性はそう呟きながら、窓から外の様子を窺っている。
「あの。私、もう行っていいですか」
恐る恐る質問すると、男性はこちらを振り返って改めて私をまじまじと見た。
そしてクスリと笑うと、私の肩から手を離した。
「協力ありがとう、助かったよ。付き合ってくれたお礼に、この店のものをご馳走しよう。今日の予約はもうないだろうから」
「え、ご馳走って?」
(どうしよう。こんな訳のわからない展開でご馳走になっていいんだろうか)
戸惑う私の背に軽く手を当て、奥のテーブル席へと案内される。
椅子を引いてニコリと微笑む姿は、高級料理店のウエイターみたいだ。
「どうぞお姫様。おかけください」
「あ、ありがとうございます」
(ご馳走になるってまだ言ってないんだけどな)
今さら断れない雰囲気になり、仕方なく椅子に座る。
すると目の前には美味しそうなプレートランチの写真が並べられた。
「美味しそう」
「うちのメニューはどれも好評だから。味は保証するよ」
(食べるつもりなかったけど、こんなの見せられたらお腹が鳴ってしまう)
結局私はパスタとグラタンのセットをお願いして、食前に出てきたフルーツジュースも遠慮なくいただいた。
「美味しい! これ、手作りジュースですね」
私がすっかりご機嫌になったのを見計らい、男性はふっと嬉しそうに目を細めた。
「料理はもっと美味しいよ」
「そうなんですか? 期待しちゃいます」
「期待には存分に応えられると思う。じゃあ五島、会計はいつも通り事務所に請求して」
「かしこまりました」
五島と呼ばれた男性は、丁寧に頭を下げてスーツの男性を見送った。
(なんだったんだろう……変な人)
唐突すぎる彼の振る舞いに、首を傾げていると、五島さんが申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません。公輝様はあのようなことが日常茶飯事でして」
「日常、なんですか。大変そうですね」
(あの人“まさき"っていうんだ……思いがけず名前を知ってしまった)
「ふふ、まあどうぞせっかくですからお召し上がりください」
出来立てのパスタとグラタンを見て、急に気持ちが和らぐ。
ツヤッとしたキャベツとアンチョビのパスタに、エビをふんだんに使った表面がカリカリのグラタンは見てるだけでヨダレが出そうなほど美味しそうだ。
当然味も美味しくて、私はそのランチをペロリとたいらげてしまった。
(これは……大抵の失礼は許せてしまうなあ)
五島さんは慣れた手つきでコーヒーを淹れてくれ、美しいカップと共に差し出してくれた。
「お嫌いでなければケーキもお出ししましょうか」
「は、はい。ありがとうございます!」
素直に喜ぶと、五島さんは優しげに目を細めた。
話しやすそうな空気を醸し出す五島さんに、私は思わずさっきまでの経緯を愚痴まじりに話した。
「──というわけで、かなりビックリしました」
「そうですか」
五島さんは同情するようにこくりと頷いた。
「災難でしたね」
「本当ですよ」
コーヒーを一口すすり、ふと不思議に思って顔を上げる。
「あの、ここって……普通のレストランじゃないんですか?」
(今日はもう誰も来ないだろうからって言ってたよね)
「ここはタチバナ法律事務所の秘密基地のようなものでして。ご予約された方しか入れないレストランでございます」
「秘密……ってことは、事務所で話せないことを相談する場所、ってことですか?」
「まあ、そのようなところです」
五島さんは困ったような笑みを浮かべた。
(後ろ暗い事情でもあるのかな。これ以上は聞かないほうがよさそう)
そう思い、私は口をつぐんだ。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
コーヒーをいただいたあと、私は五島さんにお礼を言ってレストランをあとにした。
数日後、書類選考が通ったという連絡が来て私は歓喜の声をあげた。
「よかった! 絶対無理だと思ってたのに。可能性が出てきた」
(事故みたいな出会いだったけど、あの日事務所の弁護士さんと顔を合わせたのも、なにかの縁だったのかも)
「採用されますように」
願いをこめて髪を整え、スーツをまとい。
「いざ!」
と、気合を入れて事務所のあるビルへと向かった。
一度外観は見ていたものの、中に入るのは初めて。緊張しながらエレベーターで最上階まで行く。
このビルの最上階は特別らしく、フロアの真ん中には庭園が広がっていた。
(空が見えて解放感があるなぁ)
窓越しに見える空を見上げ、ここで働く自分を想像した。
(うん、いい感じ)
しっかりイメトレをすると、面接時間に合わせてインターホンを鳴らす。すると、落ち着いた男性の声が返ってくる。
「本日面接予定の三国様ですね。ドアは開いてますので、どうぞ中へお進みください」
「ありがとうございます」
恐る恐るドアを開けて中に入ると、五十代くらいの物腰柔らかな紳士が出迎えてくれた。落ち着いた雰囲気ながら、目の奥にはすべてを見抜くような鋭さが宿っているように見える。
(厳しそうな人だな)
「はじめまして。三国と申します。本日はよろしくお願いいたします」
第一印象はなにより大事と思い、丁寧なお辞儀をして笑顔を浮かべる。
すると男性も目を細め、最初より少しだけ優しい表情になった。
「こちらこそ。私は橘の秘書、柴崎と申します。では所長と対面していただく前にまず私と面接していただきます、どうぞ応接室へ」
「はい」
私は柴崎さんの丁寧なエスコートに従い、ガラス張りの立派な応接室へと足を踏み入れた。
応接室に置かれたソファに腰掛け、私はまず柴崎さんからヒアリングと称して主に私自身のことに関する質問を受けた。その内容は驚くほどシンプルで、面接というには気が抜けるほどのものだった。
「──だいたいわかりました」
タブレット端末に入力し終えると、柴崎さんはそれをテーブルに置いて私を見た。
「当方に応募されたのは主に給与面に魅力があったからということですね」
「そうですね」
「他の会社などよりも高めに設定をしていることには理由があるのですが、それもご承知いただいていると思ってよろしいですか?」
「内容によりますが……」
(お給料を弾まないと見つからない人材なのだとすれば、ちょっと予想のつかない仕事なのかな)
一抹の不安はよぎるけれど、ここで怯むわけにはいかない。
「私ができることでしたら、お給金以上のお仕事をするよう頑張るつもりです。いい加減な気持ちでは来ていませんので。よろしくお願いします」
「……いいでしょう。では、こちらの要求する仕事を伝えます。よろしいでしょうか」
「はい」
いよいよ本格的な仕事内容を聞くこととなった。
姿勢を正して改めて話を聞く体勢になると、柴崎さんは厳しめの口調で言う。
「所長秘書としての事務的な仕事は主に私がやっており、特に不便はありません。なので、第二秘書にお任せしたい仕事はもっと目に見えづらいものとなります」
「見えづらいもの?
「はい。橘のモチベーション維持が主な仕事になります」
「メンタルケア、的なことですか? 私、心理学などは学んでいないのですが」
「そういう学術的な知識は必要ありません。重要なのは相性でして」
「相性」
「ええ。これが……なかなか適した人がおらず」
本当に苦労しているようで、柴崎さんは眉根を寄せて小さくため息をついた。
話によると、所長である橘さんは相当な切れ者だけれど気難しい一面があるらしい。
文句なしに頭のいい方で、海外の大学を出たあとは日本に戻ってきて司法試験に一発合格。大手事務所に入り名を上げたあとは独立して今の事務所を一人で設立したという。
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