課長が私を好きなんて!

伊東悠香

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1巻

1-3

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 お店を出たのはちょうど十時くらいだった。
 電車も問題なく走っている時間で、このまま帰れば十時半にはアパートに着ける。
 でも、私はまだ帰りたくない。

(終電まで、どこかでお話しできませんか?)

 こんなこと、とても口に出して言えない。
 言ってしまったら、私が榎さんを意識しているのがあからさまにわかってしまう。
 ここまできて、私は何を格好つけようとしているのか。自分でもどうしていいかわからない。

「遅くなったので、中田さんのお宅まで送りますよ」

 オロオロしている私のことを知ってか知らずか……榎さんは、ごく自然にそう言った。

「え? でも……私のアパートによってしまったら、榎さんの終電がなくなるかもしれませんよ?」
「そういう心配はしなくていいですよ。タクシーがありますから」

 そう言って、彼は私をアパートまで送る意志を変える気配はなかった。
 もっと一緒にいたいという私の思いが通じたんだろうか……正直、すごく嬉しい。
 それにしても、お酒が入ったらもっと砕けた態度で接してくれるかと思ったのに、彼の礼儀正しい姿勢はまったく崩れない。足取りもしっかりしているし、顔も別に赤くなったりしていない。私の方が、酔いがまわっている感じだ。

「中田さん、大丈夫ですか?」

 私はまっすぐ歩いているつもりだったけど、どうやら少しふらついているらしい。
 榎さんと一緒にいるだけでもドキドキするのに、さらにワインを飲んだせいか、すごいスピードで心臓が脈打っている。

「ちょっと、ワインが効いてますね。普段はあれぐらいでは酔わないんですが」
「……嫌でなければ、体を支えますけど」

 そう言って、榎さんは歩く足をとめた。
 ドキリとして、私の足もとまる。
 榎さんに支えられる? おおげさかもしれないけれど、私にとって「体を支えられる」っていうのは「抱き合う」のと同じくらいのドキドキ感だ。

「嫌とかではないですけど……申し訳ないですから」

 触れたい気持ちと恥ずかしい気持ちから出た私の言葉を聞いて、彼は不思議そうに質問してきた。

「何が申し訳ないんですか?」
「え、だって。恋人でもないのに……」

 私が言いたかったのは、「恋人でもない自分が慣れなれしく榎さんの優しさに甘えるのは良くない」ということだった。
 本当は金曜日に告白されたシーンからやり直したい気持ちでいっぱいなのだ。
 うつむいて黙っている私を見て、榎さんは差し出しかけた手を下ろした。

「そうですね、恋人でもないのに出過ぎたことを言いました」

 私のセリフを、また断りの意味だと解釈したらしい。
 彼は寂しそうな表情を見せ、再びゆっくり歩き出した。その後ろ姿を見て、私は『違うんです!』と心の中で叫んでいた。
 また榎さんの好意を思わぬ形で傷付けてしまった。
『すぐ言い直しなさいよ、美羽!』自分で自分を叱咤する。
 でも、告白なんて自分からしたことのない私は、結局セリフのフォローもできず、泣きそうになりながら彼の後ろをヨロヨロと歩くだけだった。
 私……やっぱり榎さんが好きだ。
 しかも、今まで付き合った人に対する「好き」とは全然違う。
 うまく言葉が出ないなんて、今までなかった。
 まるで初恋の時みたいな胸の痛さだ。
 恋は苦しい。
 そうか……恋はこんなに苦しいものだったのね。
 一緒にいると楽で、のん気に楽しく過ごせる人がいいと思っていたのに。
 今、私が好きだと思っている人に対する気持ちは、「痛いほど苦しい」という感情だった。



  5 伝えたい、伝わらない


 榎さんは宣言してくれた通り、私をアパートまで送ってくれた。
 彼の住んでいるマンションを聞いたら、どう考えてもここから一時間以上はかかる場所だった。終電はなくなるに違いない。

「ごめんなさい。こんなに遅くなるなんて、逆に迷惑かけてしまいました」

 私はアパート前でしょんぼりうつむいた。
 気にしなくていいと言われたけど、自分が誘っておきながら、ご馳走になってしまった上に、家まで送ってもらい、随分迷惑をかけてしまっている感じがした。

「中田さん、もしかして僕にすごく気を遣って疲れてるんじゃないですか?」
「え?」
「仕事を離れれば、職場の上司だということは忘れていただいて良かったんですが。きっと、あなたのことだから、気疲れしているのかもしれませんね」

 私の思いがすべて裏目に出ている。
 いつもの私ならもう少し甘え上手なんだけれど、さすがに榎さんの前では気軽に甘えられない。
 上司だから……っていう条件を除いても、今の私には最も緊張してしまう相手だ。
 この心理状態が恋のせいだ……ということには、当然気付いてはもらえないだろうけれど。

「明日の仕事にさしつかえないよう、ちゃんと寝てくださいね。今日はありがとう、おやすみなさい」

 最後まで私を気遣う言葉を残して、榎さんは今歩いてきた道を戻って行く。
 しばらく黙って彼の後ろ姿を見ていた私だけれど、気が付くとに彼を追いかけて走り出していた。

「榎さん! 待ってください」

 暗闇に消えそうだった彼の姿がぴたりととまる。

「中田さん?」

 振り返った榎さんの表情は哀愁あいしゅうを帯びていて、私はたまらなくなった。
 彼の目の前まで走りより、少し呼吸を整える。

「私……、榎さんのことが気になってるんです」

 思っている言葉をそのまま口にした。
 榎さんは黙って私の言うことを聞いている。

「先週失礼なことを言ってしまったのを後悔してまして……それで、今日はちゃんとお詫びがしたいなって思ってたんですけど。なかなかうまく言葉にならなくて」

 言い訳じみた言葉をいろいろ並べたけれど、うまく思いを伝えられない。
 緊張で頭に血がのぼった状態で、私は榎さんの前で立ち尽くしていた。
 そんな私の頭に大きな手をポンポンと乗せて、榎さんはニコッと微笑んだ。

「すみません。先週僕が言った言葉で、中田さんを混乱させてしまったみたいですね。あなたはまだまだ若いし、素敵な相手がいるだろうと思ったんですが……数年抱えていた気持ちでしたから……」

 榎さんが、私のことを長い間思ってくれていた……?
 信じられない思いで彼の顔を見上げる。
 やっぱりいつもの真面目な榎さんの顔だ。冗談は言っていない。そんな長い間、思いを黙っていられるなんて、どれだけ気の長い人なんだろう。
 私はそれほど気が長くないから、好きだと思えばすぐにアプローチしてしまうだろう。
 榎さんは、女性を自分のものにしようとか……そういう独占欲が薄い人なのかな。
 毎日蕎麦そばを食べても飽きないと言っていたから、人間に対しても一度好感を持つと長いとか……そういう感じなんだろうか。
 ほんの数秒の間に私はいろいろなことを考えていた。そんな私を見ながら、榎さんはさらに言葉を付け足した。

「上司だからとか、告白されたから応えなければとか、そういうことは思わなくていいんですよ。僕は自然体の中田さんがいいなと思っているのですから」

 この言葉を聞いて、私はすごく悲しくなった。

「榎さん……違いますよ。そういうことじゃないんです」

 何と言っていいのかわからなくて、涙が出そうだ。
 自分で、自分の心をどう表現していいのかわからない。
 確かに告白されたから気になったというのは間違いない。それに、上司だから余計意識してしまったというのも否定できない。
 でも……じゃあ、今私が抱えている、このドキドキする感情は恋ではないのだろうか。
 恋は、理屈ではないわよね。
 お見合いしたからってうまくいくわけでもないし、結婚相談所ですべての条件をクリアしている人を紹介されたからといって好きになれるかどうかわからないし。
 人間の心ってすごく複雑に見えるけれど、恋愛感情を抱くかどうかというのは、すごく直感的でシンプルなことで……それを私は今実感しているのだ。
 きっかけは単純なこと。
 本当に、すべての恋愛が千差万別せんさばんべつの色を持っているように、好きになる瞬間というのも様々だ。
 私は榎さんに告白をされたのがきっかけで、その存在と魅力に改めて気付いた。
 心の中でははっきりわかっているのに、結局私は榎さんに好意があるということを伝えることができなかった。
 もっと一緒にいたい、ただそれだけなのに。
 今、私が榎さんに求めているのは、「面白い話」でもないし「甘いささやき」でもない。
 できるだけ長く彼のそばにいたい。彼の存在を隣で感じているだけでいい。
 私は感極まって泣きそうになっていた。
 すると榎さんは、なだめるように私の頭を優しく撫でてくれた。

「中田さんが部屋に入るのを見届けますよ。さあ、もう遅いからお帰りなさい」

 彼は年上らしい言葉で私に、アパートへ帰るように言った。

「はい。おやすみなさい……」

 頭でごちゃごちゃ考えたことを何一つ告げられず、私はアパートの方向へと歩き出した。

「おやすみ」

 後ろで榎さんの低く優しい声が聞こえた。

(これでいいの、美羽?)

 心の中で自分に問いかける。
 このままだと、榎さんの存在は今までよりもっと遠くになってしまうかもしれない。私をあきらめて別の恋人を作るかもしれない。

「あの!」

 私は榎さんの方を振り返り、思い切って一言だけ言った。

「榎さん、またお誘いしていいですか?」

 今の私に言える、精一杯の積極的な言葉だった。
 次につなげる橋を、彼の心に架けておきたかった。
 榎さんは私の言葉を聞いて、大きく一つうなずいた。
 その反応を見て、私は思わず涙が出そうになり……慌てて表情が判別できない場所まで移動した。
 恋人同士になるには、私たちは年齢も心も離れた場所にあり過ぎる。
 でもこれから少しずつお互いを知ることで、もしかしたら私は榎さんの隣にいるのに相応しい女性になれるかもしれない。
 もう一度。もう一度、彼の口から告白の言葉を聞きたい。その時こそ、私は迷いなく彼の心を受けとめられるはずだ。

(今度は一緒に休日を過ごしませんか?)

 私は次の誘い文句を考えながら、最後にもう一度だけ榎さんに向かって頭を下げた。



   6 約束


 坂本くんから何度かメールがきている。
 最初に会った日からずいぶん日にちが経つけど、あまり私が重いと思わないように、二、三日空けて短いメールがくる。
 それを見ると……やっぱり悪い人じゃないんだけどなあという気持ちになる。でも今の私の頭の中は榎さん一色だ。
 長く気を持たせたままにするのは申し訳ないから、私はある日思い切って電話をかけた。

「もしもし、中田さん?」

 彼が家にいるのかとかわからなかったけど、すぐ電話に出てくれたから忙しい訳ではないみたいだ。

「こんばんは、突然ごめんね」
「いいよ。どうしたの?」

 次の約束をどうしようかっていう話を期待されてるんだろうな……と思うと、本当に心が苦しい。
 でも、ここで曖昧な態度はいけないよね。

「あのね、その……いろいろ誘ってもらってるのに、曖昧な返事しかできなくて……ごめん」

 私の声のトーンで、何となく坂本くんもその先を察してくれているようだ。

「何となくね、わかってた。最初に会った日も、時々別のこと考えてる感じだったし」

 とくにショックを受けた様子も見せず、彼はすんなりそう答えた。

「ごめんなさい!」

 携帯を握ったままぺこんと頭を下げる。上の空だったのも、やっぱりバレていたのね。

「好きな人いるの?」
「本当はね、坂本くんと会う直前までは誰もいなかったの。でも、急に意識しちゃう人ができてしまって……ちゃんと自分の気持ちに気付くまで時間がかかって……」

 どんな言い訳をしたって、坂本くんが納得できるわけない。
 でも、坂本くんは私を責めたりしなかった。

「そうかー。君に好かれてる人がうらやましいな……。俺って結局、嫌われもしないけど好かれもしないっていうパターンが多いんだよ。これってキャラクターだから仕方ないのかな」

 そんなことを言って、少し笑っているのがわかった。
 切ないよ。坂本くんの気持ちがわかるから、すごく私もつらい。
 自分の恋愛だって決してうまくいってるわけじゃないし、これから先どうなるのか見当もつかない。榎さんとのことは、雷に打たれたみたいに突然だったから。

「坂本くんは優し過ぎるよ」

 私を「お前なんか!」って言ってくれた方が楽なのに……彼は逆に自分の魅力が足りないせいだとでもいうような言葉を使う。

「ああ……恋愛に、こういう優しさってあんまり意味ないよね。乱暴な性格の奴がモテてたりするし。まあ、要するに恋に理由はないってことだよ。俺が中田さんをいいなって思ったのも、インスピレーションていうか……そういう単純な心の動きだったし」

 坂本くんも、恋に対する考え方は私と一緒のようだ。
 恋に理由はない。相手がいいと思ってくれても、それに応えられないこともある。
 それでも、私は榎さんに反応してしまった。
 何年も同じ職場で過ごしてきた人なのに、まるでつい先日知り合った人のように、私の中で彼は新鮮に輝いている。

「やっぱり俺、中田さん好きだな」

 こんなにもお断りの言葉を並べたのに、坂本くんは改めて私にそう言った。

「どうして? 私、すごく坂本くんに失礼なこと言ってるんじゃないかなって思ってるんだけど」

 驚いてそう言うと、彼は予想もしてなかったことを言った。

「直接俺に電話してくれたでしょ。佐々木さんを通して断ってくれても良かったのに、ちゃんと気持ちを電話で伝えてくれた。それって誠実な人じゃないとできないよ。だから、俺は君を気に入った自分の目に間違いはなかったんだって思えて、少し嬉しいよ」
「……」

 ものすごくいい人だ。
 この人となら、きっと穏やかで幸せな未来が待っているはずだ。
 坂本くんは頑張らなくても、そのままできっと素敵な女性が現れるに違いない。
 こんなこと、私が言うことではないから黙っていたけれど、心の底からそう思った。


 坂本くんとの電話を切って、ため息をつく。何だか……すごく榎さんの声が聞きたい気分だ。
 一緒に飲んだ日以来、彼とは二人きりで会ったり電話したりしていない。
 一応、携帯の番号だけは教えてもらっていたけど、私からかけなければ榎さんに私の携帯番号は伝わらない。
 もう仕事は終わっただろうか。食事は済ませただろうか。
 メールで様子をうかがっても良かったけど、そういうまわりくどいことをするより電話してしまった方がいいような気がした。
 心臓が跳ね上がっている中、私は記憶させてあった榎さんの携帯番号を表示させた。

「迷惑な時間だと思われませんように」

 そう祈りながら通話ボタンを押す。
 数秒の静寂の後、とうとう呼び出し音が鳴った。
 ああ、どうしよう! ドキドキする。
 私は心臓のあたりをギュウと手で押さえた。
 でも……五回ほどコールした後、留守番電話サービスにつながってしまった。ホッとしたような、ガッカリしたような……伝言は残さずにそのまま携帯を切る。
 多分、携帯には出られない状況なんだろう。

「ふう……残念だけど、ちょっとホッとしたかも」

 独り言を言いながら、私はソファにドサッと倒れた。
 クッションを頭にあてて、うつぶせになる。
 坂本くんとの通話だけでも結構緊張したのに、さらに緊張する榎さんに電話をして私は何を話そうとしていたんだろうか。
 何も考えてなかった。ただ、声が聞きたい……それだけだった。
 私……職場であなたを見ているだけで息が苦しくなるんです。
 出張の日になると、姿が見えないことで胸が痛くなるし。
 どうすればいいんでしょうか。年下の私が生意気にアプローチしていいんでしょうか。
 榎さんと親しげに仕事をしている飯塚さんを見るだけでも、軽い胸の痛みを感じる。
 あの人は英語が堪能で仕事もできる、自立した大人の女性という雰囲気がある。女の私から見ても魅力的な体型をしているし、くっきりした目鼻立ちはどこか異国の人を連想させるような美人だ。
 もし飯塚さんが、本気で榎さんにアプローチをしたらどうなるんだろう。
 榎さんは簡単に心が揺れる人ではないように見えるけど、私がこんなだから……いつ誰に奪われてもおかしくない感じがする。
 ぐずぐずと自分の情けなさを考えて反省していると、携帯の着信音が鳴った。

「榎さん!」

 発信者の名前を見て、すぐ電話に出る。

「はい、中田です!」
「榎です。やっぱりさっきコールしてくれたのは中田さんだったんですね」

 私の携帯番号は教えてなかったから、彼の携帯には未登録の番号が表示されたのだろう。それでも、私からの電話かもしれないと思ってかけてくれたのがわかって、にわかに元気になる。

「はい、私です。夜遅くにすみません」
「こちらこそ、すぐに出られなくて。ちょうど今帰ったところなんです。カバンに携帯を入れっぱなしだったので……着信があったのに気付きませんでした」

 二週間ぶりくらいのプライベートな会話。やっぱり、どこか照れが入ってしまう。

「何か用事がありましたか?」

 当然電話をかけるとなると、何か用事があったのかと思われるだろう。
 でも、用事はなかった。

「すみません、用事はないんです」
「中田さん……?」

 じれったくなって、私は本心をそのまま言った。

「声が……榎さんの声が聞きたかっただけなんです!」

 こんなこと言ってしまって、榎さんは私の言葉をどう捉えただろう。
 私はドキドキして、心臓のドクンドクンという音が耳のあたりでもわかるぐらいだったんだけど、榎さんの声は落ち着いていた。

「それは嬉しいですね。ありがとう」

 もうどっちが片思いしているのかわからない状態だ。
 榎さんは気が長いし、恋愛が成就しなくても自分をしっかり保っていられる人みたいだから、今の状況では私の方が苦しい思いをしているのかもしれない。

「携帯の番号を伝えておいて良かった。職場では親しく話せる機会が少ないですしね……。こうやって時々、中田さんの声が聞けたら僕も嬉しいですよ」

 どうやら電話をしても大丈夫だったようで、とりあえずホッとする。
 それでも相手の顔が見えないから、次の言葉をどうしようかな……と悩んでいると、変な間ができてしまった。

「中田さん」

 静寂を破るように、榎さんが私の名前を呼んだ。

「はい」
「もしよろしければ……今週の週末、土曜日か日曜日、どこかへ出かけませんか?」

 デ……デートの誘い?
 海外出張が近くて、その準備で忙しそうなのに……私のために時間を割いてくれるの? 
 私は一気に舞い上がり、即座にOKした。

「土曜日でも日曜日でも、どちらでも大丈夫です!」
「そうですか。では、土曜のお昼頃に中田さんのアパートへお誘いに行きます。行きたい場所とか……ありますか?」

 私には、大好きな人ができたら是非一緒に行きたいと思っていた場所があった。

「あの……夜景の綺麗なところに行きたいです」
「夜景ですか」
「はい」

 東京の夜景は、昼のごちゃごちゃした景色を一変させる。
 好きな人とあの夜景を見たら、きっとものすごくロマンチックだろうなあと思っていた。場所はどこでも構わない。東京タワーでもいいいし、サンシャインシティでも都庁でも。

「わかりました。では、場所を探しておきますね」
「はい、よろしくお願いします」

 何だかムードのない会話になってしまったけれど、とりあえず初デートらしき約束はできた。
 嬉しくて、一人で部屋にいるというのに、自然と笑顔になってしまう。
 さすがに夜景が見たいなんて言われたら、榎さんだって私が自分に好意を持っていることぐらい察知してくれたに違いない。
 でも、そうかといってとくに甘い言葉を言うわけでもない彼が、何とも渋いなと思う。一緒に夜景を見ても、もしかしたら手もつないでこない可能性がある。
 これは……私が積極的に動くべきなのかな。
 いやいや、やっぱり年上の榎さんのリードを待った方が女らしいだろう。
 もしかしていいムードになったら、抱き合ってしまったりして……!

「いや、それはないよ。ナイナイ!」

 一人でデート当日の様子を想像して、何だか勝手に熱くなる私だった。

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