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しおりを挟む1 無職の風と出会い
「あなたサイテーですよ!」
私の声がフロアに響きわたったこの瞬間……私の未来に嫌な雲が見えた。
「何だその言いぐさは!」
年齢を重ねてもわりとイケメン……と、自ら豪語している上司は顔を赤くして怒っている。でも私は一歩も引かない。
「もう我慢できません。あなたがしている事は女性を侮辱するものですよ。セクハラです! それをサイテーと言って何が悪いんですか」
「このっ……!」
上司と睨みあって対峙する私を、同僚はオロオロして見ているばかり。
(あーあ……、やっちゃった)
こんな思いが無かったわけじゃないけれど、もう自分の我慢も限界だった。
そもそも……ここまで私が耐えたのは奇跡だったかもしれない。上司にたてついた事を正当化するつもりはないし、それなりの制裁を受けるのは覚悟の上だ。
最近の会社はセクハラが随分減ったと聞く。でも、私の勤める会社ではそれはまだ健在で……以前からそれとなく反撃はしていたものの、うちの課長は全くそれに気づいている気配がなかった。
数日前までの私は、そりゃあもう修行僧のように心を滅却して彼のセクハラに耐えていた。仕事を失ったら給料がもらえなくなる。今の私には何よりお金が必要だ。
だから……ものすごい我慢をして仕事を続けていたんだけれど……
「やあ、倉田くん。調子はどうだい」
そう言って、なめるような目つきで、私のつま先から頭の先までを見る。
「おつかれさまです。特に問題ありません」
一応上司だ。失礼な態度は良くないだろう……そう思って、「その目つき止めてください」と言いたいのを我慢する。
「君はその、あれだね。足が非常に綺麗だね」
「そうですか?」
自分の足がジッと凝視されるのを感じつつ、平然としてるのは結構つらい。
「制服のスカートがもう少し短いといいのだがね」
「やだ、課長! それってセクハラですよ~?」
「はっはっはっ。冗談だよ、冗談! ま、頑張ってくれたまえ」
怒りの握りこぶしが机の下に隠れているなど思いもつかない様子の課長は、毎日こんな調子で言葉によるセクハラを繰り返していた。
嫌だったけれど、ここで彼を怒らせても仕方ない……そう思って、私は耐えていた。我慢すればいいだけだと思っていたからだ。
でも、冒頭のように私はとうとう爆発してしまった。何故なら、今年入社したばかりの後輩が彼に身体的にもひどいセクハラを受けた事を知ってしまったからだ。
誰もいない更衣室で泣いていた後輩を見つけ、私は彼女から事情を聞いて驚愕した。
歓迎会の帰りに、送ると言われてタクシーで彼女の部屋まで行き、そのまま抱きしめられたりキスされそうになったりしたというのだ。
「何でその場で助けを呼ばなかったの!?」
「怖くて……声が出ませんでした」
肩を震わせる後輩を見て、私の中で何かがブチン! と切れる音がした。
自分の事なら耐えられた。でも、後輩の話を聞いて、我慢も限界に達した。
(私の可愛い後輩に何て事すんのよ!!)
怒りの炎がメラメラと燃え上がった。
それで……「あなたサイテーですよ! 云々……」の事態になったというわけ。
課長はぶすっとした顔をしながらフロアを出ていった。あの様子だと私に何か復讐してくるに違いない……そう確信した。
そして、次の日。私の予想は見事に当たった。
部長から呼び出され、私の仕事ぶりが怠慢に見えるという事を言われたのだ。
「怠慢ですか?」
課長が何を言ったのか分からないけれど、私は「職務怠慢」のレッテルを貼られていた。
「ああ、そうだ。課長から昨日報告があってね。仕事中に私語が多すぎるとか、上司の言う事を聞かないとか……まあ、色々ね」
部長は私の仕事ぶりを買ってくれていると思っていた。課長の言葉なんかで私の仕事を疑ったりするような人じゃないと思いたかった。だから、最初から課長の言い分を信じてしまっている彼を見てガックリきた。
「査定に響く報告なんでね。態度を改めてもらわないと困るな」
「私が、態度を……ですか」
私が毎日サービス残業してるの知ってますか。
私が課長のミスをさり気なくフォローしてるの知ってますか。
具合が悪くたって接客では笑顔を絶やさないし、キャパオーバーな仕事を断った事もありませんよ?
(そんな私に、職務怠慢って……)
男性社会はまだまだ健在で、私が必死に頑張っている事など誰も見てくれていなくて。若いとか、可愛いとか、お茶入れが上手いとか。そういうレベルでしか女性を見ていない。
「……」
やるせない気持ちでいっぱいになった私は、思わずその場で「お仕事を辞めさせていただきます」なんて口にしていた。
(あわわ! 何言ってんのよ、私。仕事辞めて、これからどうやって生きていくのよ!)
第二の私がそう言って慌てているというのに、第一の私は頑として譲らなかった。だから、部長が一度引き止めるような事を言ってくれたのに、私はあくまでも「退職します」という意志を貫いた。
こんなわけで、私は思いがけない展開で仕事を失う事になった。
「とりあず、落ち着こう。今月いっぱいは一応仕事できるわけだし」
自分のデスクに戻り、落ち着きなく手をくにゃくにゃ揉んだりして深呼吸をする。
家に帰って苦労のし通しの父に仕事を失う事を打ち明けると考えると、身体全体が重だるくなってくる。お腹をすかせて、受験勉強に精を出す高校生の弟はまだまだ育ちざかり。お金は多ければ多いほどいい……そんな状態を私は嫌というほど分かっている。
そう……私は母を早くに亡くし、父子家庭で育っている。貧しいながらも愛が溢れる素敵な家庭で育ったと思っている。それでも、真面目過ぎるがゆえに万年平社員を貫く父の給料だけでは大変で……私も家計の半分近くを支えている。
だから、会社には内緒でメイド喫茶の店員のアルバイトもこっそりやっていたりする。ここでアルバイトをするようになったのは本当に偶然の事だった。
あれは一年ほど前。
その年はボーナスカットとかで、いつにも増して家計が苦しかった。ある日、疲れて休める喫茶店を探していた。すると、目に入ってきたのは……喫茶は喫茶なんだけど特別なお客様が入りそうなメイド喫茶だった。
「メイド喫茶かぁ。私が入る場所じゃないかぁ……」
そうつぶやきながら、メイドのアルバイト募集のチラシをぼんやり見た。年齢制限が若干気になったけど、やってやれない事もないかな……なんて思った。
(アルバイトをして、年末年始はもう少し明るく迎えたいなぁ)
こんな思いで、私はメイド喫茶に足を踏み入れた。
店内はなんとなくもやっとした空気が漂っていて、メイドの恰好をした可愛い女性と会話している男性もいるし、もくもくと雑誌を読みながらフルーツパフェを食べている男性もいる。パッと見たところ女性客はいない。
「お帰りなさいませ! お嬢様!」
どう見てもまだ二十歳くらいの女の子に声をかけられた。
「あ、あの~……外に出ていたアルバイト募集のチラシ見たんですけど」
「え! アルバイト希望ですか?」
「は、はい」
私が頷くと、彼女はパアッと顔を晴れやかにして店の奥に走っていった。
「店長~! 新人さんです~!!」
その大きな声に、客も私の方をざっと見る。
やがて、店の奥から黒いドレスをまとった迫力ある女性が出てきた。何だかどこぞの姐さんみたいな風格がある。
「あんた、うちで働きたいの?」
「えっと……外にアルバイト募集って書いてあったんで」
「履歴書持ってんの?」
「あ、コピーでよろしければ」
私はこういうときのために履歴書をコピーして持ち歩いていた。書く必要がある事態になったら、ただちにそれを清書できるように……それくらい副業に関しては本気でやる気になっていたのだ。
タバコの煙をフーッと吐いて、履歴書を手にした店長らしき女性は軽くそれに目を通した。
「ふ~ん。それで? あなたOLやってるみたいだけど、バイトなんてやっていいの?」
「言いづらいですけど……お給料が低いんで。隠れてバイトしたいんです」
「なるほどねぇ。せちがらい世の中だものね」
私の境遇にやや同情を示しつつ、店長は履歴書から目を上げた。
「年齢がギリギリって感じだけど、メイド服は似合いそうな顔してるし……いいわよ。早速今日から働いてちょうだい。マリちゃん、この子に色々教えてやって」
「はい、店長!」
私を最初に出迎えてくれた〝マリちゃん〟がいかにも先輩らしく店内を案内してくれた。
アラサーの私が着るにはちょっと恥ずかしいフリフリのミニスカート。何故か脳波を察知すると耳が動くという猫耳なんかもつけられた。
「カワイー! ユラさん可愛いですよ~」
「そ、そうかな?」
「うん。これなら絶対顧客つきますよ」
私よりずっと可愛くて若そうなマリちゃんに励ましてもらうと、余計自信が無くなるのは私の心が弱っていたせいだろうか。
こんないきさつで、私は仕事が終わってからの数時間をメイド喫茶で働いている。
稼げているお金は月額五万円程度で……まぁ、大金とは言えないけど。ここまで働いて、やっと弟を大学まで上げてやれるかどうかという家庭の経済事情。
(だから本業を失うわけにはいかなかったのに!!)
神経の図太い私だけれど、さすがに動揺している。やりかけの仕事をやってみようとしても、何だか画面がよく見えない。
「倉田さん、具合悪いの?」
隣の席の社員が、私の様子がおかしいのを見て声をかけてくれた。この人にはいつも仕事をフォローしてもらったりして、大変お世話になっている。
でも、今の私の悩みを話すわけにはいかない。
〝会社に絶望して退職します〟なんて言えるはずもない。
「いえ、なんでもありませんよ。ちょっと仕事に行き詰まってるっていうか……気持ちを切り替えたいんで、外の空気吸ってきますね」
戻ったばかりのデスクを離れ、ベランダに出てため息をつく。
放心状態から軽い苛立ちに気持ちがシフトしてゆき、イライラをどこにぶつけていいか分からない。
課長のいない隙に彼のデスクを蹴ってみたけど、足が痛いだけだった……
二十八歳にして、まさかの無職。ため息をつくと幸せが逃げるというけど、今の私からこれ以上どんな幸せを奪うっていうのよ!
「あ、コーヒーでも買ってくればよかったな」
喫煙の習慣でもあれば、ここで一服して気持ちを切り替えるんだろうけど、私にはそういう習慣がない。そうやって切り替えて次に進むなんてできないし、正直〝器用〟とは対極にいるような人間なのだ。これは両親の教育のたまもの……
我が家の家訓三か条〝不器用でも正直であれ〟〝一宿一飯の恩を忘るべからず〟〝貧しくても愛のある生活を〟。心優しい両親は、確かに貧しくても愛のある素敵な家庭を築いていた。だから私はこの家訓を深く胸に刻んで生きている。
ここでの仕事だって、アルバイトから入って、ようやく三年前に正社員にしてもらったばかりなのに。努力を認めてもらって嬉しかったし、多少きつくても好きな仕事だからって思って頑張っていた。なのに……
(あぁ……心が折れそうだぁぁぁ)
私はさしずめ飢えた捨て猫みたいな状態だ。次の飼い主を探してさまよい歩かなくてはならない。
「うんにゃ!」
パシパシと自分の頬を叩き、気を引き締める。
「くよくよしてもしょうがない。腰を据えて次の仕事探すぞ!」
落ち込みそうになる気持ちを正して、帰路につく。
私の長所はこのポジティブシンキングだ。何かガッカリする事が起きても簡単に折れっぱなしにはならない。へこむ日もないではないけど、ネガティブからは何も生まれないっていう信念が自分の中にある。
だから、この逆境をバネにして、さらなる飛躍を狙うのだ。
そうは言っても、この事実を告げるのが心苦しい人もいる……父だ。
「お父さんが聞いたら、驚くだろうなぁ」
失職した事は今のところ父に内緒だ。ただでさえ真面目で心優しい父。私が仕事を失ったと知ったら倒れてしまうかもしれない。そんな親不孝はしたくない。
今のところ新しい仕事が決まったら知らせようと思っている。
「姉ちゃん、家事は心配しなくていいから。仕事頑張って見つけてくれよ」
事情を知った弟からの言葉。
「健太……」
いつの間にか頼もしくなった彼の言葉に涙が出そうになる。
健太は私が仕事を探している間、家事全般を引き受けると言ってくれた。健太の頑張りにも応えなくてはならない。
「姉ちゃん頑張るからね!」
こうして私は通常出勤とアルバイトにプラスアルファで新しい職探しというハードな日々を過ごす事になった。
家族との時間が少なくなっていくのは寂しかったけれど……これが大人になるという事なのかもしれない。
私が職探しの手始めにやった事。それは普通の人が当然やるだろうハローワークの門を叩く事だった。
実のところ、次の仕事はそんなに苦労せずに見つかると思っていた。働く事に対する情熱には自信があったし、体力もあるし……そんなに高い条件は望んでいない。
でも……
「募集定員一名ですが、今のところ応募者四十三名になっております」
「は?」
私が吟味に吟味を重ねた企業への応募者数が天文学的数字(少々オーバーか)で、私は目を丸くした。
フレックスタイムを使って朝一番でハローワークに駆け付けた私を待っていたのは、そりゃあもう北極グマすら驚くほどの凍てつく就職事情だった。
「どうしますか? まだ募集は打ち切りになってないようですから……〝一応〟履歴書を送ってみますか?」
ハローワーク職員の眼鏡の奥がキラリと光り、〝どうせ無理だろうけど〟と思われているような気がした。
「はい。そうですね……〝一応〟紹介状お願いします」
ややうなだれつつ、その不可能と思われる仕事へ応募してみることにした。
他にも数件ピックアップしてあったけど、もう決まってしまったと電話で断られたり、新卒を優先的にとってるから難しいとか……まあ、色々な事情で応募するにも至らなかった。
(うぉぉぉ! 何なのこの大氷河期は。私が学校を出た頃より悪くなってるんじゃない?)
発行してもらった紹介状を見つめながら、自分が考えていたよりずぅーっと再就職が厳しい事を実感した。
まあ、結論を言うと、この紹介状を出してもらった企業は書類選考で落ちた。理由は分からない。〝今後のご活躍をお祈りしております〟の文句にはブチ切れそうになった。
「お祈りしてもらわなくて結構です!」
封書を自室の机に叩きつけ、肩で息をする私……相当格好悪い図だ。
「ああ……お母さん、ごめん。お父さんにまた負担かけちゃうかもしれない」
天国にいる母に、私は時々泣き言を言う。
母は私が中学の時に他界している。それ以来母がやっていた家事は私の仕事になった。部活もやってたし、まあ……普通に考えると結構ハードだったのかもしれないけど、それをつらいなんて思った事はない。
もともと世話好きな性格だから、不器用ながら父や弟のために料理するのも掃除するのも苦じゃなかった。
それでもこの世は努力をした人が必ず報われるとは限らない世界で。真面目に働いていた父の会社が倒産し、仕方なく私たちは都会に出る事になった。不景気とはいえ、仕事の数は都会の方が圧倒的に多いからだ。
〝不器用でも正直であれ〟
これを貫く父は、都会でサラリーマンをやっても万年平社員で給料はほとんど上がらない。それで自然に私が家計を助ける事になったのだけど……今回、自分の短気でとんでもない状態になってしまった。
(いくら正直であれ……とは言っても喧嘩までしろとはお父さん、言ってないよね)
かなり痛い事をしてしまった自分を再度責めてみるけど、そんな事をしても空しいばかり。
「あぁ……ハローワークは駄目だ」
五社目の企業からお断りの手紙をいただいた時、私は本気で未来が真っ暗になるのを感じた。
もう会社では私が退社するのは知られており、事情を知らない人は寿退社だと思っている。「おめでとう! お幸せにね」なんて言葉をいただいた日には、力なく笑って見せるだけで精いっぱいで。それを「違うんです」と言う気力は残っていなかった。
部長も課長も私が啖呵を切って辞める事になった事情は伏せているようだ。気遣いなのか何なのか分からないけれど、今の私にはどうでもいい事だ。
(どっちにしろ無職になることは変わらないんですけど……まぁ、皆さんお気遣いありがとう)
ありがたいようなそうでもないような、不思議な感覚だ。
(ややこしいこと考えずに生きていた昔が懐かしい)
フラッシュバックのように、小学生だった頃の自分が頭の中によぎる。川は澄んでいてキラキラ光っている……空はため息をつくほど高くて青い。
あの世界で私は確かに幸せだった。愛があって笑顔があって……のびのびしていた。
(何が違うんだろう。田舎暮らしの方が苦労は多かったはずなのに)
きっと……今、生きづらいと思っているのは愛がないからではなく、お金がないからだ。その事に思い至り、ガッカリした。
(貧乏で苦労するのは別にかまわないんだけど、健太が進学したがっているのを諦めさせるような事はしたくない。何とかしなくちゃ)
弱気になって何もかも嫌になってくるけど……家族のためだと思えば満身創痍の私でも再び立ち上がる力が出てくる。
(私がへこたれたら家族全員共倒れだわ!)
人間案外ピンチになったらなったで何とかするものだ……少なくとも私には今のところ健康という宝がある。
(身体を張ってでも何か職を見つけてやる!)
悲愴な思いを胸に秘め、ギリギリまで就職活動をしたけど。……結局いい職は見つからなかった。
そして、ついに……ついに退職の日がやってきてしまった。
「みなさん、今まで大変お世話になりました」
ペコリと頭を下げた私に、みんなにこやかに手を叩いてくれている。
「おめでと! たまには遊びに来いよ」
「いいなぁ。私も早く結婚した~い」
こんな見当違いなセリフがいくつか飛び交った。それをポーカーフェイスで聞いていた部長が、「まぁ、倉田さんならどこでも歓迎してもらえるだろう」なんて適当な励ましをくれた。
もうため息も出ない。
笑うしかない。
「ありがとうございます。これからも元気に私らしく頑張ります!」
自分でもよくできたなと思うほど最高のスマイルを見せて、十年間お世話になった会社にお別れを告げた。
父にも嘘をつき通せず、職を失った事を告げ……全力で再就職に向けて動いている事を報告した。
「まぁ……ユラはまだ若いんだし。そう焦らなくても見つかるだろう」
「そうだね」
楽観できない事は父も分かっていたはずだけど、こう言って私の気持ちを軽くしてくれようとしたんだろう。何だか……逆に猛烈な罪悪感とプレッシャーが!
「はぁ。ダメもとでネットサーフィンでもしますか」
無職一日目にやったのは、ネットサーフィン。ハローワークを諦めた今、頼れるのはインターネット情報だけだ。
それでもなかなか自分に合った仕事は見つからない。
「気分転換しよう」
職探しに疲れたら、お気に入りのブログが更新しているかどうかをチェックする。そして最後にやるのが占い。これを見ると結構その日の自分の行動が決まったりするから、やっている。
「ええと、なになに……いて座のあなたは……」
〝いて座のあなたは、残念ながら今日は大凶です。行動する時は熟慮してくださいね〟
この占いで、私の頭痛はいっそうひどくなった。
(これ以上どんな不幸が襲ってくるっていうのよ~!)
悲鳴に近い心の叫び。
ただでさえ不安に押しつぶされそうなのに、自分で不安をあおるようなことをしてしまった……こういうのを墓穴っていうんだろうか。
でも、大凶が出たからといって、一日寝てるわけにもいかないし……とにかくあまりいい日じゃないことを意識して動くことにしよう。
気持ちをとりなおして、私は職探しの旅に出た。
ハローワークでは応募者が多すぎて振り落とされてばかり。インターネットで探しても怪しげなものばかり。こうなったら自分の足で歩いて、募集広告を出しているところはないか探すことにしよう。
これはまさに〝旅〟だ。
あてどもなく、自分の生活を支える仕事を探す旅。結構シビアなこの状況。書き溜めたたった数枚の履歴書がやけに重い。
いくつかお店に飛び込みで自分を売り込んだけど、どこも〝間に合ってます〟と断られた。薬局での店員募集は比較的多かったけど、やはり薬剤師免許を持ってないとダメみたいだ。
(うう……お金がないからって大学には行かなかったけど。お父さんが言った通り、資格くらいは何かとっておけばよかったかなぁ)
父は将来の事もあるし、青春を謳歌するのもいいし、金の事は気にしないで大学に行けと言ってくれたけど……私は父に負担をかけるのが嫌ですぐ就職した。
だから、大学に行かなかった事を今更嘆いても仕方ない。
「仕事……見つかるのかなぁ」
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