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2章

突然の告白

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 次の日から私はスカートを履くのをやめた。
 ”女性をやめた”というわけではないけれど、職場で女を意識することをやめたかった。
 パンツスーツに実を包むと、どこかほっとする。
 特に佐伯さんの前でこの姿でいることが、私には意味があった。

『男がなくちゃ歩けないような足なら、ずっと支えててあげるけど』

 彼の投げてきた言葉の矢は、しっかり私の胸に刺さっていてまだ痛みがあるくらいだ。

(もうあんなこと言わせない。私は別に佐伯さんのお情けが欲しいわけじゃない)

 そう思って、会社ではOLとしての責務だけを遂行するように意識を集中した。
 もちろん彼氏が要らないと言えるほどに強くなったわけじゃないけれど、せめて会社では一段成長した自分を演じていたかった。

 とはいえ簡単に恋人ができるわけでもなく。
 あんなに一人で過ごすのが嫌だと思っていた誕生日も、どうってことなく過ぎ去った。

(30歳になったら何かどーんと落ち込んだりするのかと思ったけど、まるっきり変わらない日常が続くだけなんだな)

 気が抜けた感じがしながらも、その日はケーキも買わずに普通の食事を済ませて11時にはベッドに入った。
 去年圭吾と過ごしたホテルでの一夜は、もう遠い昔のようだ。

『栞がおばあちゃんになるまで愛するから』

 あんなことを言っておいて、次の年には飽きてしまうというのは甚だ笑わせる。

(だいたい、おばあちゃんになるまでのプロセスをすっ飛ばすのも問題だよね)

 年齢というのはグラデーションで過ぎていくもので、きっとこの感覚は40歳になっても50歳になっても同じなんだろう。

 会社での意識を変えたせいなのかわからないけど、圭吾からはあれ以来特に接触してくる様子がない。
 佐伯さんが恋人のフリをしてくれたのが効果を発揮しているのかと思うと、ちょっと複雑な気分だ。

(結局、間接的に佐伯さんにお世話になっちゃってるんだよね)

 とはいえ、佐伯さんとの関係で何か変化があったかというとそれは一切ない。
 以前と同じように仕事関係の話はするけれど、プライベートなことは一切話さない状態に戻っている。
 時々、例の非常階段で出くわすことはあるけれど、ペコリと頭を下げるだけで言葉は交わさない。
 そんなだから、最近では佐伯さんと過ごした時間が本当だったのかどうか確証が持てないほどになっている。

(避けられてるってほどじゃないけど、ちょっと以前よりも距離を取られてる感じ)

 そう思われても私にはどうすることもできない。
 今の私は社内では仕事一筋の女に見えることだろう。
 むしろ、そう見えてくれることを私は願っている。
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