あなたの隣を独り占めしたい

伊東悠香

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1章

アクシデントと接近

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 その日の夜から食事を頑張ってとってみようと試みたけれど、やっぱり喉を通ったのはコンソメスープくらいだった。

(固形物を食べようとすると、おえってなっちゃうんだよね)
「このままじゃ、また佐伯さんに迷惑かけちゃうなぁ」

 なんとなくガラスに映った自分の顔を見てみるけれど、艶がなくて本当に魅力のない女だなと感じる。

(そりゃあ、愛想もつかされるわけだ)

 これまでは相手を責める気持ちばかりが大きくて、今まで自分がどうだったかを振り返る時間がなかった。思いがけず佐伯さんと話す機会があったおかげで、少しだけ客観的になれている。

「仮とはいえ、佐伯さんが恋人になってくれたら……少しは元気になれるのかな」

 と、そこまで口にしてはっと我に返る。

「な、何考えてんの、私!」
(いくら心配してもらったからって、ワンナイトの帝王なんて……また傷つくだけだよ。ダメ!)

 私は頭を振って、勢いよくソファから立ち上がった。

「よしっ、今夜は外食にしよう。お酒と一緒なら食欲も出るかもしれないし」

 手早く化粧を直して支度を整えると、私は駅前の繁華街まで出た。
 圭吾と思い出の多いお店は避け、お酒も出す地味めな定食屋に入る。
 そこは比較的一人で食べにくる客がく、店内も静かだ。

(ここなら落ち着いて食事もできそう)

 私は奥の席に腰を下ろすと、一番食べたいと思っていた塩鮭定食とビールを注文した。
 注文を終えてほっとしていると、カウンターの端っこに、見覚えのある男性を見つける。

(え……佐伯さん!?)

 彼は私に気づいてないようで、もくもくと下を向いて私と同じ塩鮭定食を食べている。

(意外だな。ホテルのレストランとかで食事してるのが似合うのに)

 綺麗に口元へ運ばれていく箸先を自然に目で追ってしまう。
 魚を食べる姿にすら色気が漂う人なんて、この人くらいなんじゃないだろうか。

「お待たせ!」

 張りのある店員の声が響き、目の前に焼きたての塩鮭がのった定食が運ばれてきた。

(美味しそう……)
「いただきます」

 私はひとまず何も考えずに鮭の身とご飯を少しずつ口に入れた。
 自分の部屋で感じる寂しさが緩和されているせいか、思ったよりするりと喉を通っていく。

(うん、外食にして正解だった)

 そのままビールもグッと飲み、久しぶりに感じる開放感に浸る。

「はぁ……美味しい。幸せ」

 気分が良くなり、定食を平らげた上にビールのお代わりまでしてしまった。

(最初から外食にしてたらよかった。満足満足)
「さて、お会計を……」

 バッグを手に立ち上がろうとした瞬間、目の前の風景がぐにゃりと歪んだ。

(えっ、何?)

 立っていられなくなって、ガタンとテーブルに手をつく。

「お客様? どうかされましたか?」

 お店の人の驚いて声をかけてくれるけれど、答えを返せない。

(どうしよう……気分悪い)

 その時、誰かが私のそばに駆け寄ってくるのがわかった。
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