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2章
3話 ひょんなことからお持ち帰りされました5
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「おはよ」
「瑞樹さん? え……ここって」
「ここは俺のマンション」
「ええっ」
「慌てなくていいよ。まだ6時だから仕事に出るまでには十分時間がある」
時計を指差されて視線を向けると、確かにまだ朝6時のようだった。
(時間はいいけど。どうして、私瑞樹さんのマンションに? ……ここに来た記憶が全然ない!)
自分の置かれた状況が見えない。
(だって昨日は私、ワインを飲んでいないはず)
「覚えてない? 美香が勧めたワインを飲んで潰れちゃったんだけど」
「つぶれた!?」
白いTシャツにルームウェア用パンツ姿のラフな瑞樹さんは、目を見開く私を面白そうに見ている。
「俺も止めればよかったんだけど、一杯くらいなら大丈夫かなと思ったのが甘かったみたいだ」
「まさか、そんな……」
目をぎゅっと閉じて思考を巡らせる。
すると、一杯だけとグラスを手に取ったところだけボンヤリ断片として思い浮かんだ。
(仕事始め初日で緊張しすぎて、一気に酔っ払っちゃったのか)
たった一杯で記憶まで無くしちゃうなんて初めてだ。
恥ずかしい。
「瑞樹さんにまたご迷惑かけちゃったんですね」
「まあ、俺は役得だったけど?」
「役得?」
(まさか)
そろりと自分の着ているものを確認すると、ダボッとした大きめのトレーナーを羽織っている。
下着は着けているようだけど、足はむき出しだ。
「一応伺いますが」
「うん」
「変なこと……なかった、ですよね?」
全身から血の気が引いていって、モゾモゾと毛布を引き寄せる。
「変なことって?」
瑞樹さんは真顔のまま私に質問を返した。
「ですから。まさか、私……瑞樹さんと……」
「……何もかも覚えてないの?」
(あ、呆れてる)
「すみません。ワイングラスを手に取ったところくらいしか記憶がなくて」
こんなことは初めてで、どうしていいかわからない。
仕事初日から酔いつぶれ、上司の部屋に泊まるなんて……あってはならない失態だ。
もう即刻クビを言い渡されても文句は言えない。
瑞樹さんはベッドに腰掛け、私の顔を覗き込んだ。
端正な顔が近づいて、息が触れそうな距離まで近づいてくる。
と、突然耳元で囁いた。
「陽毬は耳が弱いよね」
「っ」
彼は揶揄うように、私の耳にふっと息を吹きかけた。
ビクッと肩が跳ね上がり、全身が粟立つような感覚になる。
「や……」
「ほら弱い。結構いじめられるのも好きだし、焦らすと我慢できなくなっちゃうタイプだ」
指先で耳の縁をなぞられると、それだけで求めたいような甘い気分になる。
まるで魔法。
瑞樹さんの声とムードに操られて、とても抗えない。
(こんな感じに迫られたなら、昨夜何かあってもおかしくないかも……どうしよう)
固まる私の顎に手をかけると、瑞樹さんは自分の方を向かせて意味深に微笑んだ。
「信じた?」
「え?」
「俺が陽毬に手を出した。そういう事実が昨夜あった、って」
「……記憶がないので。否定しようがない……です」
自分でも情けないと思いながらもそう答えると、瑞樹さんは顎から手を離して髪を撫でた。
その仕草が妙に優しくて、ドキッとなる。
「陽毬は馬鹿だね」
「馬鹿……」
「お持ち帰りしたのが俺じゃなかったら、当たり前に好き放題されてたと思うよ」
(ってことは、瑞樹さんは何もしなかったってこと?)
ホッとしたのは当然だけれど、それ以上にこの状態には戸惑いがありすぎる。
なのに瑞樹さんは私をクビにするような様子は見せず、それどころか私を心配する気持ちを伝えてきた。
「その調子だと、陽毬は永遠に幸せになれない」
「どういうことですか?」
「素直で優しい陽毬は可愛いし、それが君の長所でもあると思う。でも時に“従順すぎる“のは、女性を大切にするという男側の心を育てない」
(それは自覚がある。好きになった男性が少しずつ私をいい加減に扱うようになるのは……自分がノーを言わない性格だからだって。でも、好きな人にノーを言う勇気が持てない)
今だって、瑞樹さんと何かあったと言われても自分の責任だと思っている。
彼氏を裏切ったのだからフラれてしまっても仕方ないとも思う。
恋愛の中で悲しいことが起きるのは、結局私が悪いからなんだと思ってしまう。
心の癖みたいなものかもしれない。
辛い出来事を相手のせいにできないのだ。
(確かに、馬鹿なのかもしれないな)
記憶を無くすような酔い方をしたのは今回だけだし、私は簡単に男性の部屋に泊まったりはしない。
でも、瑞樹さんから見たら私は軽はずみで愚かな女に見えているのかもしれない。
「ごめんなさい。こんな人間をアシスタントになんかしておけないですよね」
「? 今、仕事の話はしてないけど」
「だって……」
(もう消えてしまいたい)
着替えて帰りたいと思って顔を上げると、不意に体を引き寄せられた。
(──っ?)
唇に柔らかいものがふれる。
花のような香りと共に、胸に熱いものが広がった。
一瞬ぼうっとなったものの、それが瑞樹さんからのキスだと分かった瞬間──
「やっ!」
私は瑞樹さんの胸を強く押し退けていた。
「何するんですか!」
(軽い女に見られてる?)
精一杯の拒絶をして睨むと、瑞樹さんは思いの外真面目な表情で私を見ていた。
「陽毬は今の人生で満足?」
「……私の人生です。つまらないかどうかは私が決めることです」
「反抗心が出てきたのはいい傾向だ」
意味深に笑うと、瑞樹さんはベッドから立ち上がって腕を組んだ。
「俺が選んだ女性には強くいてもらわないと」
「え?」
「昨夜久我先生に陽毬と結婚を前提として付き合いたいって伝えた。快諾をもらったよ」
「っ!!??」
「瑞樹さん? え……ここって」
「ここは俺のマンション」
「ええっ」
「慌てなくていいよ。まだ6時だから仕事に出るまでには十分時間がある」
時計を指差されて視線を向けると、確かにまだ朝6時のようだった。
(時間はいいけど。どうして、私瑞樹さんのマンションに? ……ここに来た記憶が全然ない!)
自分の置かれた状況が見えない。
(だって昨日は私、ワインを飲んでいないはず)
「覚えてない? 美香が勧めたワインを飲んで潰れちゃったんだけど」
「つぶれた!?」
白いTシャツにルームウェア用パンツ姿のラフな瑞樹さんは、目を見開く私を面白そうに見ている。
「俺も止めればよかったんだけど、一杯くらいなら大丈夫かなと思ったのが甘かったみたいだ」
「まさか、そんな……」
目をぎゅっと閉じて思考を巡らせる。
すると、一杯だけとグラスを手に取ったところだけボンヤリ断片として思い浮かんだ。
(仕事始め初日で緊張しすぎて、一気に酔っ払っちゃったのか)
たった一杯で記憶まで無くしちゃうなんて初めてだ。
恥ずかしい。
「瑞樹さんにまたご迷惑かけちゃったんですね」
「まあ、俺は役得だったけど?」
「役得?」
(まさか)
そろりと自分の着ているものを確認すると、ダボッとした大きめのトレーナーを羽織っている。
下着は着けているようだけど、足はむき出しだ。
「一応伺いますが」
「うん」
「変なこと……なかった、ですよね?」
全身から血の気が引いていって、モゾモゾと毛布を引き寄せる。
「変なことって?」
瑞樹さんは真顔のまま私に質問を返した。
「ですから。まさか、私……瑞樹さんと……」
「……何もかも覚えてないの?」
(あ、呆れてる)
「すみません。ワイングラスを手に取ったところくらいしか記憶がなくて」
こんなことは初めてで、どうしていいかわからない。
仕事初日から酔いつぶれ、上司の部屋に泊まるなんて……あってはならない失態だ。
もう即刻クビを言い渡されても文句は言えない。
瑞樹さんはベッドに腰掛け、私の顔を覗き込んだ。
端正な顔が近づいて、息が触れそうな距離まで近づいてくる。
と、突然耳元で囁いた。
「陽毬は耳が弱いよね」
「っ」
彼は揶揄うように、私の耳にふっと息を吹きかけた。
ビクッと肩が跳ね上がり、全身が粟立つような感覚になる。
「や……」
「ほら弱い。結構いじめられるのも好きだし、焦らすと我慢できなくなっちゃうタイプだ」
指先で耳の縁をなぞられると、それだけで求めたいような甘い気分になる。
まるで魔法。
瑞樹さんの声とムードに操られて、とても抗えない。
(こんな感じに迫られたなら、昨夜何かあってもおかしくないかも……どうしよう)
固まる私の顎に手をかけると、瑞樹さんは自分の方を向かせて意味深に微笑んだ。
「信じた?」
「え?」
「俺が陽毬に手を出した。そういう事実が昨夜あった、って」
「……記憶がないので。否定しようがない……です」
自分でも情けないと思いながらもそう答えると、瑞樹さんは顎から手を離して髪を撫でた。
その仕草が妙に優しくて、ドキッとなる。
「陽毬は馬鹿だね」
「馬鹿……」
「お持ち帰りしたのが俺じゃなかったら、当たり前に好き放題されてたと思うよ」
(ってことは、瑞樹さんは何もしなかったってこと?)
ホッとしたのは当然だけれど、それ以上にこの状態には戸惑いがありすぎる。
なのに瑞樹さんは私をクビにするような様子は見せず、それどころか私を心配する気持ちを伝えてきた。
「その調子だと、陽毬は永遠に幸せになれない」
「どういうことですか?」
「素直で優しい陽毬は可愛いし、それが君の長所でもあると思う。でも時に“従順すぎる“のは、女性を大切にするという男側の心を育てない」
(それは自覚がある。好きになった男性が少しずつ私をいい加減に扱うようになるのは……自分がノーを言わない性格だからだって。でも、好きな人にノーを言う勇気が持てない)
今だって、瑞樹さんと何かあったと言われても自分の責任だと思っている。
彼氏を裏切ったのだからフラれてしまっても仕方ないとも思う。
恋愛の中で悲しいことが起きるのは、結局私が悪いからなんだと思ってしまう。
心の癖みたいなものかもしれない。
辛い出来事を相手のせいにできないのだ。
(確かに、馬鹿なのかもしれないな)
記憶を無くすような酔い方をしたのは今回だけだし、私は簡単に男性の部屋に泊まったりはしない。
でも、瑞樹さんから見たら私は軽はずみで愚かな女に見えているのかもしれない。
「ごめんなさい。こんな人間をアシスタントになんかしておけないですよね」
「? 今、仕事の話はしてないけど」
「だって……」
(もう消えてしまいたい)
着替えて帰りたいと思って顔を上げると、不意に体を引き寄せられた。
(──っ?)
唇に柔らかいものがふれる。
花のような香りと共に、胸に熱いものが広がった。
一瞬ぼうっとなったものの、それが瑞樹さんからのキスだと分かった瞬間──
「やっ!」
私は瑞樹さんの胸を強く押し退けていた。
「何するんですか!」
(軽い女に見られてる?)
精一杯の拒絶をして睨むと、瑞樹さんは思いの外真面目な表情で私を見ていた。
「陽毬は今の人生で満足?」
「……私の人生です。つまらないかどうかは私が決めることです」
「反抗心が出てきたのはいい傾向だ」
意味深に笑うと、瑞樹さんはベッドから立ち上がって腕を組んだ。
「俺が選んだ女性には強くいてもらわないと」
「え?」
「昨夜久我先生に陽毬と結婚を前提として付き合いたいって伝えた。快諾をもらったよ」
「っ!!??」
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