誘惑系御曹司がかかった恋の病

伊東悠香

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2章

3話 ひょんなことからお持ち帰りされました3

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 恥ずかしくなって俯くと、瑞樹さんはククッと笑ってからふと手元のスマホを見た。

「と……緊急の連絡だ。話の途中で失礼ですが、少し席を外しても?」
「どうぞ。もうお話はほぼ決まりましたし」
「ありがとうございます。じゃ、陽毬。少し待ってて」
「はい」

 部屋から出ていく彼を見送ると、急に心細くなってくる。

(どうしよう、今のうちにトイレに行っておこうかな)

 そう考えたものの、失礼にならないだろうかと心配になる。

(でも、私がここにいても商談の役に立つでもないしなぁ)

 すると男性が身を乗り出して私に尋ねた。

「失礼ですが、あなた……瑞樹さんの新しい恋人ですか?」
「えっ、違いますけど」
「へえ? あの方が隣に女性を置くなんて、それくらいしか理由が思い当たらないですけど」

 心底不思議そうに彼はそう言い、瑞樹さんは完璧で、今まで小さな雑用であれ自分のことは自分でこなすタイプだったのだという。

「お兄さんの結婚が効いてるんですかねえ」
「はぁ……」

(お兄さん……昼間廊下で会った春馬さんのことだ)

 兄の春馬さんはとても優秀だと聞くし、弟である瑞樹さんが彼の影響を受けることは大いにありうるとは思う。

(だからって私をそういう対象として見てるなんてあり得ないと思うな)

「お待たせしました」

 そこへちょうどよく戻ってきた瑞樹さんと目が合う。
 彼はふっと笑うと、私の隣に座って腕を組んだ。

「失礼しました。それで、契約はいつからにします?」
「そうですね、来月早々にはお願いできればと思っておりますが、いかがでしょう?」
「結構ですよ。それまでには準備は整えておきます」

 トントン拍子に話は進み、あっという間に終わった。

「ありがとうございました。それでは次回はサンプルをお持ちいたします」
「よろしくお願いします」

 頭を下げて出て行く男性を見送り、ふうっと息をつく。
 ずっと座っていたせいかお尻が痛い気がする。

(さて、これで今日のお仕事は終わったのかな?)

 腕時計を見るとまだ5時半になったばかりなので、このまま直帰してもいいものかと思っていると、瑞樹さんが私を見下ろして言った。

「お疲れ様。よかったら夕飯食べていかない?」
「え? いいんですか?」

 思いがけない提案に嬉しくなって頷く。

「何が食べたい?」

 そう言われて真っ先に頭に浮かんだのはタカちゃんの顔だ。

(あ……仕事上の人とはいえ、異性と二人きりで食事なんて。怒るだろうな) 

「あの、やっぱり辞めておきます」
「……それって、俺に遠慮してるの?」
「いえ、そうじゃなくて……」

 どう説明したらいいのか迷っていると、瑞樹さんは何かを察したようにため息をついた。

「もしかして彼氏のこと気にしてるの? それなら問題ないから安心していいよ。もう一人くらい誰か呼んで食事をしよう」
「そ、そうですか? ならお言葉に甘えて……」

 結局、デザイナーの美香さんを呼んで食事をすることになったのだが、それがまさかあんなことになるなんて……この時の私は知る由もなかった。
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