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2章

2話 恋なんて知らない ( SIDE瑞樹 )

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 何を言い出したのかと自分で自分に驚く。
 久我先生からいくら娘を頼むと言われたからといって、この距離の縮め方は普通じゃない。
 それくらい自分でもわかっている。

 社長でもある兄の春馬に意外にも本気になる相手ができたのは最近のことで。
 ずっと兄弟で仕事に人生を捧げるものと思っていた。
 だからどこか兄には裏切られたような思いがあった。

(甘い気持ちでいたら隙ができる。だから恋愛はしない、そう決めて今の仕事に全力で打ち込んできたのに)

 兄に頼まれたわけじゃない。
 この生き方を選んだのは自分だし、それくらいしないと完璧である兄には追いつけない。
 だからこんなふうに兄に嫉妬するのは勝手だともわかっている。
 
(でも……兄が幸せそうにしているのを見ていたら、俺には何が残るんだろうって疑問が湧いてしまったんだよな)

 そう。
 仕事だけが俺の恋人なのだと思って、本気の恋愛なんかしたことがない。
 大抵の女性が俺の表面的なものだけ見て夢中になってくる。
 数回デートしたら白けた気分になって、仕事を理由に別れる……を繰り返してきた。

 それでいいと思っていたのに。
 兄に「瑞樹の新しいおもちゃ」と言われている陽毬を見た瞬間、「彼女は違う」
という思いでいっぱいになった。

 偶然会ってからまだ一緒に過ごした時間は短いのに、俺の中で陽毬はどこか今まで接してきた女性とはまるっきり違うジャンルの人間だと感じていた。
 ただ、それが恋心かと言われると微妙だ。
 なぜなら俺は恋をしたことがないから。
 胸の奥がほんのりあったかくて、守ってやらないと、っていうのはただの保護者意識なのかとも思う。
 
(にしても、恋愛には縁遠いだろうなんて勝手に思ってた俺が浅かった)

 彼女の首に付けられたキスマークを見たとたん、自分の体に流れる血液が逆流するような感覚になる。

(は? 俺のものに何マーキングしてるわけ)

 瞬間的に沸いた思いに突き上げられ、勢いで別れろなんて口にしていた。

(俺に何の権利があって? おまけに自分と付き合ってみるか……なんて。普通にセクハラだろ)

 そうは思ったものの、
 内心かなり動揺していたが、陽毬にはその焦りは伝わっていなかったようで、彼女はただただ驚いているばかりだ。

(断ってくれていい。むしろ断ってもらわないと、今後の対応に困る)

「……考えさせてください」

 思いがけず、陽毬は断らずに考えると答えた。
 その表情からは今の恋人に残る“情“が滲んでいる。

 陽毬も理解してるんだろう。
 表面上の優しさで繋いでくる恋人が本当に自分を“愛しているのか“くらい。

(もし彼女が彼氏と別れたいから俺と付き合ってみたいと言ったら、それは受け入れるべきなんだろうな)

 正直、本気になられたら迷惑だと思う気持ちもある。
 おもちゃだとは思っていないが、陽毬はまだ異性としての魅力が開花していない。どれだけ接近してもセクシーな気分にはならない。
 だからこそ安心して側に置いて置けるし、どんな自分でもさらける事ができる感じがしている。

(まあ……付き合ったら、俺が女にしてやればいいか)

 こんな半分やけくそ気味な判断に落ち着き、俺は頭を切り替え、午後からの商談に向けての準備に取り掛かった。
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