9 / 20
2章
1話 わかりにくい人2
しおりを挟む
「お仕事に私情は入れません。線引きはできるつもりです」
「そう、ならよかった。俺、恋愛はしない主義だから知っておいてね?」
「……」
(惚れたって無駄だよって意味なの? 自惚れ屋さんなのかな、この人)
どう答えていいかわからなくなって黙っていると、瑞樹さんはふっと真顔になって腕時計を見下ろした。
「っと、冗談はここまで。奥の部屋でオンライン会議してるから、この資料に目を通しておいて」
(急に仕事の話……振り回されて、既に目眩が……)
「何か言いたいことでも?」
「いえ……わかりました」
父から聞いた感じだと瑞樹さんは紳士的だっていう話しだったのに。
(随分と意地が悪いというか、捻くれているというか)
奥の部屋へと消えていく後ろ姿を見つめながら、渡された資料をぎゅっと握る。
(とはいえ、勝手に瑞樹さんに対して自分のイメージを押し付けようとしていた私も悪いのかも)
「初日からへこんでられない」
小さくそう呟くと、私は気持ちを入れ替えるように首を振って手にしていた鞄をデスクに置いた。
*
渡された資料は、日常私がやるべき仕事の内容が簡単に列挙されているだけだった。
これから担当するスケジュール管理や取引先などとのやりとりは全てネット経由でするため、あまり多く語る必要もないというようなことが最後に簡単に書かれている。
「え、これだけ?」
数枚の資料に厚みはなく、一通り目を通して内容を理解してしまったら、やることがなくなった。
(掃除しようかな? でも、勝手に部屋のものを触るのもなあ)
少し悩んだ後、私はひとまずお手洗いで深呼吸しようと思い部屋の外に出た。
廊下に出てお手洗いの場所を探していると、スタイルのいい長身の男性がゆっくり近づいてくるのが見えた。
(あの人って……)
会釈をしようと足を止めると同時に、その人も足を止めた。
「何か探してるのか?」
凛とした声は威厳があり、漂うオーラは王者そのもので、ちょっとビクッとしてしまう。
「は、はい。お手洗いを……」
「この廊下を10メートルほど行って右手だ」
「ありがとうございます」
お礼を言って通り過ぎようとすると、足止めするようにその人は言葉を足した。
「君か? 瑞樹がアシスタントに雇ったっていう女性は」
「あ、はい。そうです。久我陽毬といいます」
「へえ」
じっと私の顔を見下ろすと、興味深げに目を細める。
「あいつの新しいおもちゃってとこか」
「えっ」
「陽毬!」
先の言葉を遮るように飛んできた声は瑞樹さんのもので。
彼は急足で追いつくと、私の前へ進み出た。
「社内は後で案内するって言ったよね」
「すみません。お手洗いに行こうと……」
パーティーの日に庇ってくれた時と同じようなシチュエーションで、ちょっとしたデジャブみたいだ。
「まあ、いいけど……」
ふっと息を吐くと、瑞樹さんは目の前の男性に向き合った。
「社長、何か御用でしたか」
(社長さん? ってことは……)
この人は瑞樹さんのお兄さんでもある柏木春馬さんだ。
(うわ……またすごい人に会ってしまった)
「そう、ならよかった。俺、恋愛はしない主義だから知っておいてね?」
「……」
(惚れたって無駄だよって意味なの? 自惚れ屋さんなのかな、この人)
どう答えていいかわからなくなって黙っていると、瑞樹さんはふっと真顔になって腕時計を見下ろした。
「っと、冗談はここまで。奥の部屋でオンライン会議してるから、この資料に目を通しておいて」
(急に仕事の話……振り回されて、既に目眩が……)
「何か言いたいことでも?」
「いえ……わかりました」
父から聞いた感じだと瑞樹さんは紳士的だっていう話しだったのに。
(随分と意地が悪いというか、捻くれているというか)
奥の部屋へと消えていく後ろ姿を見つめながら、渡された資料をぎゅっと握る。
(とはいえ、勝手に瑞樹さんに対して自分のイメージを押し付けようとしていた私も悪いのかも)
「初日からへこんでられない」
小さくそう呟くと、私は気持ちを入れ替えるように首を振って手にしていた鞄をデスクに置いた。
*
渡された資料は、日常私がやるべき仕事の内容が簡単に列挙されているだけだった。
これから担当するスケジュール管理や取引先などとのやりとりは全てネット経由でするため、あまり多く語る必要もないというようなことが最後に簡単に書かれている。
「え、これだけ?」
数枚の資料に厚みはなく、一通り目を通して内容を理解してしまったら、やることがなくなった。
(掃除しようかな? でも、勝手に部屋のものを触るのもなあ)
少し悩んだ後、私はひとまずお手洗いで深呼吸しようと思い部屋の外に出た。
廊下に出てお手洗いの場所を探していると、スタイルのいい長身の男性がゆっくり近づいてくるのが見えた。
(あの人って……)
会釈をしようと足を止めると同時に、その人も足を止めた。
「何か探してるのか?」
凛とした声は威厳があり、漂うオーラは王者そのもので、ちょっとビクッとしてしまう。
「は、はい。お手洗いを……」
「この廊下を10メートルほど行って右手だ」
「ありがとうございます」
お礼を言って通り過ぎようとすると、足止めするようにその人は言葉を足した。
「君か? 瑞樹がアシスタントに雇ったっていう女性は」
「あ、はい。そうです。久我陽毬といいます」
「へえ」
じっと私の顔を見下ろすと、興味深げに目を細める。
「あいつの新しいおもちゃってとこか」
「えっ」
「陽毬!」
先の言葉を遮るように飛んできた声は瑞樹さんのもので。
彼は急足で追いつくと、私の前へ進み出た。
「社内は後で案内するって言ったよね」
「すみません。お手洗いに行こうと……」
パーティーの日に庇ってくれた時と同じようなシチュエーションで、ちょっとしたデジャブみたいだ。
「まあ、いいけど……」
ふっと息を吐くと、瑞樹さんは目の前の男性に向き合った。
「社長、何か御用でしたか」
(社長さん? ってことは……)
この人は瑞樹さんのお兄さんでもある柏木春馬さんだ。
(うわ……またすごい人に会ってしまった)
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
異常性癖者たちー三人で交わる愛のカタチー
フジトサクラ
恋愛
「あぁぁッ…しゃちょ、おねがっ、まって…」
特注サイズの大きなベッドに四つん這いになった女は、息も絶え絶えに後ろを振り返り、目に涙を浮かべて懇願する。
「ほら、自分ばかり感じていないで、ちゃんと松本のことも気持ちよくしなさい」
凛の泣き顔に己の昂りを感じながらも、律動を少し緩め、凛が先程からしがみついている男への奉仕を命じる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
バイセクシャルの東條を慕い身をも捧げる松本と凛だが、次第に惹かれあっていく二人。
異常な三角関係だと自覚しつつも、三人で交わる快楽から誰も抜け出すことはできない。
複雑な想いを抱えながらも、それぞれの愛のカタチを築いていく…
ーーーーーーーーーーーーーーー
強引で俺様気質の東條立城(38歳)
紳士で優しい松本隼輝(35歳)
天真爛漫で甘えんぼな堂坂凛(27歳)
ドSなオトナの男2人にひたすら愛されるエロキュン要素多めです♡
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。
しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。
そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。
渋々といった風に了承した杏珠。
そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。
挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。
しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。
後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。
▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる